第17話 水族館編 3
「イルカショーすごかったね、特にあのジャンプ!ビル二階なんて余裕だったよ」
「アシカもすごかったじゃん。ボールを鼻の上に載せてバランスとっているやつ。俺にはできね~よ」
イルカショーはこの夏にはうれしい水しぶきを上げてくれていたが、最前列にいた人たちはカッパをかぶっていてもびっしょりと濡れていた。
館内に戻ってからも彼女とショーのことを話ながら元のルートを進むことにした。矢印のルートは下に向かうエスカレーターを指していたので二階に向かった。
二階に降りるとすぐに左に行けと矢印が示している。左側には別の通路があるがトイレの標識があるので無視した。
矢印に従っていくとクラゲの水槽がいくつも見えてきた。それぞれの種類ごとにピンクや紫などの蛍光ライトに照らされていて、その光を反射させながら泳いでいるクラゲはとても綺麗だった。
「綺麗だね」
彼女も同じことを思っていたようで声をこぼす。俺はポケットからスマホを取り出すとクラゲを撮影した。
「綺麗に撮れた?」
写真を撮ったことに気付いた彼女が聞いてくる。俺は今撮った写真を彼女に見せる。
「その写真後で送ってもらってもいい?」
「いいよ、LINEで送っとく」
「ありがとう」
後ろからもお客さんが来たので次に向かうことにした。
次に見えてきたのはサンゴ礁の水槽だった。中にはチンアナゴをはじめとする小さい魚たちも一緒に入っていた。その水槽を見ると彼女が驚いた声を出した。
「どうした?」
「この中のサンゴって全部が本物じゃないんだって」
「マジで!?なんでわかったの?」
「説明文を読んでいたらそう書いてあって」
そう言われ俺も説明文を読む。魚やサンゴの詳しい説明が書かれる中、文の最後にカッコ内にそう書かれているものがあった。小さいころに来たときは全く気にしなかったが、そうとわかるとちょっとショックを受けた。
次にピラニアなどのアマゾンに住む生き物やカブトガニなどが展示されたエリアを過ぎると多くの人が集まっている水槽があった。
「なにがいるんだろうね」
人の集まる水槽に行くと二匹のゴマアザラシが水槽の前にいる子供たちの前をうろうろと行ったり来たりを繰り返していた。
「あの子ちっちゃいね」
子供たちの前を泳ぐゴマアザラシは家族のようで親が泳ぐのを必死で付いて行く子供の姿がかわいい。上のパネルには名前が書かれていて、その赤ちゃんは生まれて間もないことが分かった。
彼女は人の隙間からカメラを向けて撮影していた。よく動くアザラシを撮るのは難しかったらしく、ほとんどの写真が少しぶれていた。
何度もやり直しているとチャンスが来た。歩くのもおぼつかない女の子の前でアザラシは動きを止めた。アザラシは子供と少しの間見つめ合うと再び泳ぎ出した。
「撮れた?」
彼女のスマホを見ながら聞くと彼女は撮れた写真を見してくれた。ガラスに手をつく女の子とそれを見ているアザラシ。とてもいい写真だった。
「いい写真が撮れた」
「確かに」
彼女がスマホをしまうのを待ってから再び多くの人が集まっている隣の水槽に向かった。
「ここも混んでいるな」
「そうだね、何がいるんだろう?」
アザラシの水槽の2,3倍はある大きな水槽を自由に泳ぐ生き物がいた。白くて大きなイルカのようにも見える生き物。
「スナメリだな」
「スナメリ?」
「しらない?」
「うん、昔行った水族館にはそんな生き物はいなかったから」
そっか、スナメリってイルカと同じでどこにでもいるのもだと思っていたがそうではないらしい。
「スナメリはイルカの中までバブルリングを作ることで有名な生き物だよ」
「バブルリング?」
「え~と、名前の通り口から吐く息をリング状にして出すことができるんだよ」
「それってすごいね!私たちにもできるのかな?」
「それはわからないな。やったことないから」
スナメリの説明をしていると観客から声が上がった。気になって水槽の方に目を向けるとスナメリの目の前に泡の輪っかができていた。
「あれがバブルリングか。実際に見ると本当にすごいね」
彼女がバブルリングを撮ろうとスマホを取り出すとバブルリングはすでに消えていた。
「消えちゃった」
「まぁ、やってくれるのはスナメリの気まぐれだからね。見れただけでもよかったんじゃない」
「そうだね、見れない人もいるんだから」
「今日は運がよかったよ」
俺も目の前で見るのは初めてだった。スナメリは近くで見ることはできなさそうなのでその場を離れることにした。
少し歩くとさっき降りてきたエスカレーターのことろまで戻って来ていた。
「これで全部回ったのかな?」
彼女に聞かれて俺は首を振った。
「もう一つ行ってない場所があるからそっちに行こう」
「もう一つ?」
彼女は首を傾げる。
「着いたらわかるよ」
そう言うと入り口の方に向かうことにした。別に秘密にする必要はないのだが、俺は目的地を伝えずにただ歩いた。
人が入ってきている入り口を逆走して左に曲がる。すぐ目の前にあるL字の階段を下りると大きな水槽が現れる。その水槽には白色の陸と半分以上を占める水が張られている。
「ペンギンの水槽ってこんなことろにあるんだ」
「そうなんだよね。普通に進んだら一階のお土産売り場に行ってしまうんだよ」
彼女はすかさずスマホを取り出すと陸でくつろいでいるペンギンを写真に収めた。
「下に行けばよりいい写真が撮れるよ」
水の中を泳ぐペンギンを撮ろうとしている彼女に提案をする。彼女は首を傾げた。
「まぁ、付いて来て」
さらに俺たちは進む。通路は先に行くにつれて下に行くようになっている。さっき降りてきた場所とは対照的な場所に来るととても広い場所に出る。そこには水槽の下に丸く開けられた道ができている。
「ここにもトンネルがあるんだ」
「早速行こうか」
「うん」
彼女俺より少し小走りをしてトンネルの中に入っていった。俺も彼女に続いて中に入る。トンネル内からはペンギンの白いお腹や群れになって泳ぐ姿が見える。時々真横を通過して行くこともあった。彼女はそのたびにシャッターを押していた。そして写真を満足するまで撮ると俺の横まで来た。
「ペンギン可愛い」
「ペンギンはもういいの?」
「うん」
「じゃあお土産を見て帰りますか」
「そうだね」
俺たちはトンネルを抜けるとエレベーターに乗る。二階の入り口前に出るとさっき来た道を戻ることにした。
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