第4話 嘘と秘密
「鬼条さん、今日は外で食べない?」
お昼休みに入ると近くの席の子たちが弁当箱を持って私の席の前に並んだ。
「高校生になったら一度でいいからみんなで外の庭で食べてみたいねって話していたんだけど、どうかな?」
外でご飯か、確かにいいかもしれない。いつも教室で食べているから新鮮だろうし、今日は天気も良いし風もあるから心地良いだろう。
「うん、行く」
「良かった、じゃあ行こう」
私が席を立つと三人は教室を出ていくのでそれに付いて行く。
たわいない会話をしていると一階まではあっという間に着いてしまった。
中庭にはすでに多くの生徒が場所取りをしていた。ベンチに座る女子生徒や地面に胡座を組んで円を作っている男子生徒、すでに食べ終わったのか人が少ない方でサッカーボールで遊んでいる生徒もいる。
「どこ座ろうか」
私が周りを見回していると三人は困ったように唸っている。
「あそこは?」
一人の子が指を刺した先には木陰になっていた。周りには人が少なく、食べるには良い場所だった。
「あそこしかないから早く行こう」
そう言って一人が歩き出すとみんながそれに付いて行く。
気温がいつもより低いからか木陰は肌寒く感じる。みんなも同じようで「う〜、寒いね」と口々に言っている。けれど日向は人が多く私たちの座れるようなスペースの確保は難しい。だからその場に腰を下ろした。
「それじゃあいただきます」
みんなで合掌して弁当袋を開ける。中には弁当箱と紙パックの野菜ジュースが入っていた。
それらを取り出すとみんなが私のほうに目を向ける。私はなぜみんなが私の方を見ているのか分からず首を傾げる。
「鬼条さん、今日は野菜ジュースなんだ」
「うん、弁当だけだと栄養が偏るから」
その答えにみんながうわぁ〜、と声を上げる。
「やっぱりそれぐらい意識しないとそのスタイルにはなれないか〜」
「う〜ん、私には無理かな〜。いつも家に帰ったらおやつ摘んじゃうし、お肉類が出ると家族内で一番食べちゃうから」
「私も」
みんながそういった話をしていると少し罪悪感を感じてしまう。見た目は市販の野菜ジュースのパッケージなのだけど、中身は全くの別物。プロテインや薬とかではない。血、なのだから。
「私も今度から野菜ジュース飲もうかな?」
「でも私もいつもじゃないから時々でいいと思うよ」
「そういえば鬼条さん、昨日はお茶だったもんね」
「うん」
ようやく野菜ジュースの話が終わったことに心の底から安堵した。この話をし続けるといつか墓穴を掘ってしまいそうで怖かったから。
話が一段落するとみんなでようやく弁当の蓋を開けて食べ始めた。
「そういえばあれってどうなったの?」
「あれって?」
「ほら、この前隣のクラスの男子に呼び出されたでしょ」
「それ私も気になってた!告られたの?」
「鬼条さんならありそう。うちのクラスにも鬼条さん狙っている人多いし」
みんながキラキラとした目で私の方を見てくる。顔を近づけ期待の眼差しを向けてくるが違うのですぐに否定する。
「じゃあ何で呼ばれたの?」
「・・・その子がね、倒れているのを私が発見して保健室に伝えに行ったの。そのお礼を言われただけだよ」
三人は「え〜」と言いながら近づけた顔を離した。
「そっか〜、違うのか」
「誰だろうね、一番最初に鬼条さんに告白するの」
「無理なんじゃない?うちの学年チキンばっかりだし」
「確かに」
三人が笑っているのを見て私は苦笑いを浮かべる。また嘘をついてしまった。
私は紙パックを手に取って血を飲もうとした。しかしそれを遮るように急に男子生徒の大きな声が聞こえた。
「危ない!」
どこから聞こえたのだろうと辺りを見回していたせいで反応に遅れた。まさか自分のほうにボールが飛んで来るなんて。目の前の子の頭をすれすれで飛んできたボールは私の手に当たった。
「キャッ」
頭をかすめた子は声を上げたものの、当たった私は声を上げることが出来なかった。ただ宙を飛んでいってしまう紙パックだけを目で追っていた。
「すみませーん」
ボールで遊んでいたであろう男子生徒がこちら側にやって来ていた。その後ろでは一緒に遊んでいたであろう生徒がいる。
私は近くに落ちたボールを拾い上げる。ボールを持ってその場を立つと男子生徒は私達の前で立ち止まった。
「次は気をつけてください」
彼にボールを差し出す。彼はそれを受け取ると頭を下げた。
「すみません、次は気をつけます」
彼はボールを受け取るとみんなのもとに帰って行った。
「鬼条さん大丈夫?」
下を見るとみんなが心配そうに私を見上げていた。
「大丈夫、手に当たっただけだから」
そう言ってさっき座っていた場所に腰を下ろそうとしてやめた。さっき持っていた紙パックが飛んでいってしまったことを思い出したから。私が後ろの草むらに目を向けると紙パックはすぐに見つかった。それを手に取ると紙パックは軽くなっていた。
「中身が全く残ってない、どうしよう」
草むらの中で腰を下ろしていると後ろから声がした。
「ジュースどうだった?」
振り返ると女の子が私の後ろに中腰で立っていた。
「全部なくなっちゃった」
「そっか〜、残念だね」
「うん」
目を逸らして頷く。私に取ってこれは一大事なのだけど、それはみんなには関係のないこと。バレるのは困る。それに体が疼いて仕方がない。さっき飲もうとしていたのが急にできなくなったせいもあるだろう。このままではまずいかも。
「そうだ!先生に仕事任されているんだった」
私は三人に聞こえるように言うと弁当をまとめて「ごめん」と言ってその場を去った。
校内に入ると急いで人のいなさそうな場所を探した。音楽室や理科室、家庭科室も。だけどどこも鍵がかかっていて開かない。仕方なく屋上に行くことにした。
三階まで上がった頃には疼きが余計に強くなっていた。壁に体を預けながら屋上に上がる。
「早く、早く人気のないところに、行か、ないと・・・」
屋上に繋がる扉まで来るとドアノブに手をかける。扉は重く、なかなか開かない。だから体を扉に傾けて扉を開けた。
「やっと・・・え!?」
ようやく着いた誰もいないはずの場所にはすでに一人の生徒がいた。
「宮岡・・・くん」
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