第2話 記憶の欠損
目を開けると白い天井が見えた。周りには金属のレールとそれに垂らされた水色の清潔なカーテン。
体を起こすと掛けられていた布団が落ちていく。
「なんで俺、保健室にいるんだっけ?」
ぽつりとつぶやいた言葉に反応したのか、カーテンがスライドしていく。その奥から白衣に身を纏った保健室の先生が顔を出した。
「気が付いた?」
保健室の先生はベットの横に来ると俺の顔を覗きみるように顔を近づける。とっさのことで反応が遅れたが後ろに距離を取る。
「・・・うん、顔色はよくなったね」
「顔色?ですか」
先生は背筋を伸ばして立つと腕を組んだ。
「そうよ。屋上で倒れてるって言われて、行ってみたら真っ青の顔で倒れているんだもの。一年生の男子に手伝ってもらってここまで運んで来たんだから」
先生はカーテンを開けながらこれまでの経緯を話してくれた。
「それにしてもなんで屋上で倒れたの?風邪でも引いている?何かしらの病気を持っているとは聞いていないけど」
「すいません、よく覚えていません。購買の帰りに屋上に行ってみようと思って行ったんですけど、そこからの記憶が・・・」
「・・・彼女が別の男に取られている現場を見たとか?」
「それはないです。そもそも彼女いませんし」
先生は「冗談よ冗談」といながら机に置いてあって体温計をもって戻って来た。それを受け取ると服のボタンを一つ外してから脇に挟む。
「先生、職員室行ってくるから。すぐ戻って来るから計り終ってら消さずに待ってて」
そう言うと保健室を出て行った。保健室は静かになった。唯一時計の秒針がチクタクと鳴っているだけ。
「三時か、もう授業終わってるだろうな」
六時間目の授業終了が三時五分と決まっているが、先生によっては早く終わる人もいる。
「二時間以上寝てたのか」
なぜそうなったのか思い出せない。顔色を悪くするほどの何かが起きたことには間違いはないだろう。現に先生が言っているのだから。怪我をしているわけでもないようだ。体に絆創膏や包帯をしているような場所は・・・ん?
頭を横に曲げると皮膚が引っ張られる感じがした。右の首筋に手を当てると絆創膏のようなものが貼られているようだった。
「首筋・・・?」
思い出しそうで思い出せないもやもやとした気持ちになった。首あたりで突っかかっている記憶を必死に思い出そうとするとそれを遮るようにピピピッと体温計がなった。
「正常だな」
36度5分、いつもの体温と変わらない。
体温計で自分の温度を見ていると保健室のドアが開いた。ドアの方を見るとさっき出て行った保健室の先生と担任が同時に入って来た。
「
「問題ないです」
「そうか。一応保護者には電話しておいた。迎えに来てもらうか?」
「いえ、歩いて帰ります」
「わかった」
担任は要件を済ませると保健室の先生に「あとはお願いします」と言って保健室を出て行った。
出て行く担任が見えなくなると先生は俺の方を向いた。
「カバンは教室だけど、どうする?」
「自分で取りに行きます」
「わかった。家に帰ったら今日は安静にしていた方がいいよ、念のためにね」
「わかりました」
俺はベットから降りて上履きを履くと何の違和感もなく歩き出す。
「そういえば、誰が保健室まで伝えに来てくれたんですか?」
保健室を出る前に振り返り聞いてみた。先生は顎に手を当てながら少し考えた。
「確か鬼条さんよ」
「鬼条さん、ですか。今度会ったら礼を言っておきます」
「そうね。お大事に」
先生に軽く頭を下げると近くの階段を上った。
教室に着くとほかの生徒の姿はなかった。みんな部活やカラオケ、ゲーセンに向かったのだろう。
自分の席に向かいカバンに荷物をまとめる。グランドの方では野球部のジョギングの掛け声やサッカー部のボールを蹴る音、吹奏楽部の音の調整音などが響いている。部活に入らなかった俺には関係ないが。
かばんを肩にかけると教室を後にした。
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