第40話 文化祭 5

 クレープを食べ終えると休憩所を出て、そのまま出店を一周した。道中にたこ焼きやポテトなどを買いながら歩いた。


「三時から体育館にてビンゴ大会を行います、気になる方は是非来てください」


 外に設置されたスピーカーからこの後の体育館での発表の案内が流れる。


「ビンゴかー」


「どうかしたの?」


「いや、ビンゴカード買わなかったなって」


「私も買わなかったよ。景品が分からないってから」


 うちの学校ではビンゴ大会を文化祭で行っているらしい。ビンゴカードは当日も販売するが、学生には文化祭一週間前から生徒会の人たちがカードを売りに各クラスを回っていた。カードは一枚50円と高いのか安いのかわからない。というのも景品が一部しか教えてくれないのだから。お菓子の詰め合わせ、人生ゲーム、といった王道ものからマッサージ機や蒸し器などの家庭的物まである。しかし目玉となるものは全然教えてはくれなかった。目玉が分からない以上買う気にはならなかった。


「おい、聞いたか」


「ビンゴの目玉だろう、あれ本当かよ」


「本当にらしいぜ、USJのペアチケット」


「なら早く買いに行こうぜ!カードがなくなったら終わりらしいからな」


「ああ!」


 そう言って男子生徒二人が俺たちの横を走って行った。


「USJのペアチケット・・・」


 姿が見えなくなった男子生徒の方を見ながら彼女はポツリと呟いた。


 確かに魅力的な商品だと思う。一人行くのに入場料だけで8000円ぐらい、二人ならその二倍はかかる。多分交通費は自腹だろうが、それでもチケット代が浮くのはとても嬉しい。


「買うだけ買ってみる?当たるかはわからないけど、買わないと確率は0パーだし」


「うん!」


 当たってもいないのに彼女嬉しそうに返事をした。次の目的が決まった俺たちはビンゴカードを買うために体育館に向かった。



 体育館入り口に近付くと生徒やOB、先生すら並んだ長蛇の列が出来ていた。俺は彼女を置いて先頭を見に行くと間違いなくビンゴカードの列だった。


「この列で間違いないのにみたい」


「すごいね、多分みんなチケット狙いだよね、当たるかな?」


「とりあえず並ぼう」


 俺たちが会話をしている間も何人もの人が列に並んん行くのでこれ以上後にならないように並ぶことにした。


 列はお化け屋敷や飲食店に比べると待ち時間がほとんどないので列もすぐに前に進んでいく。ビンゴが売られている長机が遠目に見えるようになった頃に生徒会メンバーがビンゴ売りの手伝いに入ったことでより効率よく列が進んでいった。そしてようやく俺たちの番が来た。


「何枚でしょうか」


「じゃあ、四枚で」


「四枚ですね、200円になります」


 俺はポケットから財布を取り出すと200円を渡した。生徒会の人は箱の中からて前のカードを四枚取るとそれをそのまま俺に差し出した。


「ありがとうございました」


 後ろの邪魔にならないようにすぐに横に避けた。


 ビンゴカードの裏には本校の印鑑が中央に押されていた。他で買ったビンゴカードを持ち込ませないためだろう。手に持ったビンゴを手前から二枚抜くと彼女に渡した。


「はい、二枚」


「そんなに買わなくてよかったのに」


 そう言いながらも二枚のビンゴカードを受け取った。


「当たるといいね」


「それは運次第だな。体育館に入ろうか」


「うん」


 俺たちはビンゴカードを手に体育館内に入った。



 体育館内はかなり混んでいた。演劇やバンド、カラオケ大会などの催し物を見るために設置された大量のパイプ椅子は既に埋まり、後方ではビンゴカードを持って始まるのを待っている人も見られる。


「鬼条さーん!」


 ざわざわといろんな人の声が聞こえる中、彼女を呼ぶ声が聞こえた。彼女はその声に周りをキョロキョロすると声の主を見つけたようで後ろを向いて手を挙げた。


秋村あきむらさん!」


 彼女はその子のところに行こうとしたがすぐに足を止めて俺の顔を見た。


「裕二くんも行こう、まだ紹介したことなかったよね」


「そういえば俺、純恋の友達の名前を一人も知らないな」


 彼女のシフトを教えてくれた子の顔は憶えていたが名前までは知らない。しかし俺の名前を彼女らは知っている。純恋が俺との事を話題にでも出しているのだろう。


「うん、わかった」


 友達の元に向かう彼女の後ろに付いて体育館の右隅に向かった。


「鬼条さんいいな〜、彼氏と楽しそうで」


「ほんと〜」


「もう、二人ともからかわないで」


 二人が純恋をからかっている中、シフトを教えてくれた彼女が俺の横に来た。


「そういえば私、まだ宮岡くんに名前名乗ってなかったよね?一年三組、藤原ふじはら 莉華りかだよ。今後もよろしくね」


 藤原さんは名を名乗ると手を出した。握手をしようということのようだ。


「一年一組、宮岡裕二、こちらこそよろしく」


 俺たちが握手を交わしていると純恋が残りの二人と近付いて来た。


「私は秋村 美也子みやこよろしく」


「私は和堂わどう 鈴音すずね。和堂って苗字が嫌いだから鈴音って呼んで、よろしく」


「宮村裕二です、純恋の彼氏です」


 藤原さんの時とは違う自己紹介をすると秋村さんと鈴音さんは二人揃って奇声を上げながら二人の真ん中にいる純恋を肘で突き始めた。


「このこの!」


「見せつけてくれるね、ほんと羨まだよ」


 突かれている純恋は嫌がる素振りは全くなく、照れ臭そうに笑っている。


 三人と俺のメイクについて話していると明るかった体育館内の照明が落ちた。室内が真っ暗になるとステージに立っている人にスポットライトが当たった。


 全身黄色い服に同じく黄色いシルクハットを被った生徒はステージに置かれたマイクをスタンドごと手に持つとマイクを近付けた。


「これよりみんなお待ちかね、ビンゴ大会を開催しまーす!」


 みんな待ちかねていたようで開催を知らされるとパイプ椅子に座っていた人も立ち上がったり、座ったまま両手を挙げて喜びを表現していた。


「チケット当たったらさ、一緒に行こうね」


 横に来た純恋は声を張り上げて言った。それぐらい周りは賑やかになっている。俺も同じように彼女に聞こえる声を出した。


「一緒にな」


 再び前を見ると大きなスクリーンが投影されていた。


「今からこの機械を使って出た目を出します。出たら穴を開けて下さい。ビンゴの方が出たら大きな声で叫んで下さい。手を挙げてもらっても構いません。我々に分かるようにお願いします」


 ステージに机ごとビンゴでお馴染みの抽選機が登場すると全身黄色い司会は早速ハンドルを握った。


「それでは〜、一投目!」


 ここからだと白い玉が回っているところすら見えない。しかし白い球は無事出てきたようで司会はそれを手に取るとマイクを近付けた。


「一投目は・・・16!」


 スピーカーから司会者の声が聞こえるとスクリーンにもデカデカと16の数字が投影される。


「16か・・・」


 手に持っているビンゴカードを見るが16の数字はない。代わりに15と17が右から二番目の列に並んでいる。


「あった」


 彼女の方は二枚ともあったようでビンゴカードに穴を開けていく。


「私もあった」


「いいな〜」


「私はない」


 秋村さんは数字があったようでカードに穴を開ける。その様子を羨ましそうに鈴音さんと藤原さんが覗き込んでいる。


「二投目いっくぞ〜」


 そんな感じでスムーズにビンゴ大会は進んでいった。

























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