第41話 文化祭 6

「ビンゴダメだったな〜」


 体育館を出ると秋村さんが残念そうに声を上げた。


 ビンゴ大会はとても楽しかった。もちろん当たる人より当たらない人の方が多い。俺たち5人も後者だった。


「USJは知らない女性の手の中に〜」


 鈴音さんも同様にさっきまでのテンションはどこかにいってしまっている。


 そんな二人を藤村さんが「そうだね」と慰めに入っている。


「当たらなかったね」


 純恋も当たらなかったことがショックなのかテンションが少し低い。


「しょうがないさ、あんな人数の中から一名しか当たらないんだから」


 当たる事をはなから期待していなかった俺としてはそこまでではない。当たればいいな、そのぐらいの気持ちだった。


「それでこれからは二人はどうする?」


 二人を慰め終えた藤原さんが後ろにいる俺たちに問う。俺はポケットからスマホを取ると時間を確認した。4時半前、文化祭は5時までなのでもう時期終わりとなる。名残惜しい気持ちはあるがしょうがない。文化祭が終わればクラスの片付けが待っている。早めに帰って出来る片付けを先にしていてもいいと思った。


「そろそろ時間だし教室に戻ろうと思う。純恋もそれでいい?」


「もうそんな時間なんだ、今日一日早かったね」


 本当に今日は早いと感じた。いろいろあって充実していたからだろう。


「なら私たちも教室に戻ろっか」


「うん」


「片付けめんどいな〜」


 そんな会話をしながら俺たちは教室に戻った。


 教室に着くとすぐに文化祭の終わりを告げるアナウンスが響いた。その頃には多くの客がクラスから姿を消し、校門から帰路に着いていた。


 教室の片付けはとても呆気ないものだった。仮装組はメイクを衣装を脱いで制服に。迷路はすぐに元の段ボールに戻り、束で外のごみ箱に運ばれた。教室が元に戻るのに1時間しかかからなかった。



「みんなコップを持ったか?」


 教卓の前でクラスの実行委員長と小野鬼さんが紙コップを持って立っている。俺たちも同様に自分らの席の前で立ってコップを手にしている。


「それでは文化祭の成功を祝して・・・乾杯!」


「「「かんぱーい」」」


 全員でコップからジュースが溢れない程度に勢い良く突き上げた。うちのクラスは大盛況だったらしい。入場者は500人超えと偉業を成し遂げたらしい。それを祝して担任がジュースを買って来てくれた。


 ファンタにコーラ、クーといろんな種類のジュースから好きなものを選んで注いだ。


「実行委員、何か一言ないのか」


 盛り上がった男子が提案をすると実行委員長は教卓の前に再び立った。


「来年も頑張ろう!」


 その一言で終わった実行委員長にみんなからいろんな言葉が向けられる。


「そんだけか!」


「短い!」


「来年はもうこのメンバーじゃねーよ」


 みんなのツッコミにみんなが笑う。この階で多分一番うるさいだろう。


 そんな盛り上がりの中、次に小野鬼さんが交代で前に立つ。


「ひとまず皆さんお疲れ様でした」


 小野鬼さんが話し出すと男子が言葉を挟んだ。


「小野鬼さん硬いよ」


「リラックス、リラックス」


 そんな言葉を女子が静止させると彼女は再び話し出した。


「この学校に来てまだ一ヶ月しか経っていませんが、皆さんが真剣に準備をしてくれたお陰でとても良い文化祭になりました。ありがとうございました」


 彼女は頭を深々と下げると周りのみんなも「ありがとう」「楽しかったよ」と言葉を言っていた。


 そんな盛り上がりはもう少し続いた。




 祝宴会が終わると俺はみんなより早く昇降口に向かった。二段飛ばしをして駆け下りるのでバタンバタンと音がなる。


 一階に降りると靴を履き替えた純恋が一人昇降口で待っていた。


「ごめん遅くなった」


 靴を履き替えながら謝ると彼女は首を横に振った。


「いいよ、それより一組すごく盛り上がっていたね。私たちのクラスまで声が聞こえて来たよ」


「やっぱりうるさかったか」


 予想はしていたがやはりその通りだったらしい。三組まで聴こえていれば五組まで届いていそうだ。


「早く帰ろう、次の電車来ちゃうよ」


「そうだな」


 後ろの階段からは話し声が聞こえ始めたので俺たちは昇降口を出た。


 出てすぐ彼女は周りをキョロキョロし始めた。


「どうかした?」


「・・・さっきまで屋台が並んでいたのにな〜って」


 俺も彼女と同じようにキョロキョロと周りを見る。


 今歩いている道はさっきまで多くの人が行き交っていたのに、今は俺たち二人しかいない。あの時間がまるで嘘だったのでは、と思ってしまうぐらい綺麗に片付けられている。


「来年はさ、一緒に文化祭準備して、一緒に屋台回ろうね」


「同じクラスだったらいいな」


「来年はクレープやりたい!今日買ったクレープ美味しかったもん」


「そうか?俺はあの時食べたクレープの方が美味しかったけど」


「あれと比べたらダメ。あれはプロが作っているんだから。ああ、あのクレープの話したから食べに行きたくなったじゃん」


「もうないけどな」


「ああ、クレープ・・・」


 俺たちはあのときのクレープの味を思い出している。これから先もそういった思い出はいくつも出来るだろう。クリスマスに正月、イベントがある日だけじゃない。何気ない日でも俺たちの思い出は色濃く記憶に残る。


 明日はどんな思い出が出来るのだろう。そんな事を思いながら彼女と一緒に見慣れた帰路を帰った。
















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俺を襲ったのは優等生だった! 加藤 忍 @shimokawa8810

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