第7話 純恋の過去 前編

 時間の経過がこんなに早いと感じたのは久しぶりかも知れない。昨日の夜、鬼条さんから集合場所の相談があった。最初は彼女が学校の最寄り駅まで迎えに行こうか?と言って来たが、さすがにそれは悪いような気がした。なので俺が鬼条さんの家の最寄り駅まで行くことを提案した。彼女もそれでいいならと俺に最寄り駅を教えてくれた。そのあと集合時間を決めてやり取りを終えた。


 今日は学校に行く時間と同じ時間に起きたが、集合時間は午後1時なのでそれまでこれまで勉強した範囲を少し見直した。来週末からテスト期間に入る。再来週にはテストが待っている。中間テストは散々で下の上だった。勉強をするのは好きではない。むしろしたくない。でもさすがにやらないといけないし、せめて中間ぐらいの順位にはいたい。


 そう思いながら教科書やノートを見直していると11時を過ぎていた。家には両親がいなかったので手早くカップラーメンにした。今から人に会うからさすがに臭いを気にして塩ラーメンにした。豚骨などもあったが匂いが口に残りそうだったのでやめた。


 食事後は歯を磨き、今日二度目の顔を洗ってから玄関に置いていた藍色のボディーバックを持って今電車に揺られている。

 車内は同じようにどこかに出かける女子グループや車内でも堂々とイチャツクカップル、服は少し透け、額の汗をハンドタオルで拭いて立っているサラリーマンなどがいる。


 車内はクーラーが効いていて外気との差が極端になっている。だから車内に入って来る人たちは皆が口々に涼しいと言っている。その逆に出て行く人たちは熱いを言っている。今日の最高気温は27度と高いので仕方がない。家を出たときは行きたくね~、なんて思ったし。


 鬼条さんに言われた駅は俺の町から二つ離れていた。といってもいつもの通学路の一つ隣の駅なので遠いとは思わなかった。


 最寄駅に着くと車内を出てすぐに言葉が漏れる。


「あっついな~」


 そう言いながら後ろの人の邪魔にならないようにスタスタと歩く。俺たちの住んでいる町は東京や京都などのように駅に機械が置かれているわけではない。駅員が一人ひとりの定期券などを確認する。人が多いわけではないので列はとても短い。


 ホームを抜けて通路を見渡す。さすがに人がいるのですぐには見つからない。俺はスマホをポケットから取り出し鬼条さんにメッセージを送った。


(どこにいる?)


 すると鬼条さんもちょうどスマホを使っていたのは既読はすぐについた。


(出口の階段のところにいます)


 出口と言われて俺は左右を見渡した。駅の出口は二つある。建物が多く見える方と工場が見える方。さすがに工場の見える方ではないと思い、建物の見える方に足を向けた。


 駅を出るといろんな店が周囲を囲むように展開していた。見える範囲だけでも花屋やカレー専門店、和菓子の店もある。中央にはよくわからないアートが置かれている。普段来ない駅に来るとこういった店に寄ってみたくなるが、今日はあくまで鬼条さんの家に行くんのが目的。時間に余裕があれば帰りに回ってみようかな。


 そんなことを思いながら駅の入り口に立っていると横から声がした。


「宮岡さん」


 声のする方を見ると髪を束ねた鬼条さんがこちらに向かって来ていた。いつも見る制服と違って白のノースリーブに黄色のフレアスカート、底厚のサンダルにおしゃれなバックを持った彼女はこれまで見てきた女の子の中でとても魅力的に見えた。


「ごめん、遅れた?」


「ううん、私が速くきすぎただけだから」


 そこで会話が終わってしまった。ここは服の感想を言うべきなのだろうか?でも付き合っているわけでもないし、そういった感想は言われて困るかもしれないし・・・。


 この次の言葉を必死で考えていると彼女が駅とは反対の方向を指さした。


「行きましょうか」


「そ、そうだね」


 彼女が先に階段を下りるなか、俺は自分の不甲斐無さにため息をついた。服の感想を言えばよかったかなと後悔が残る。次はちゃんと言おう。あるかわからない次の時のために心に誓った。



 鬼条さんの家に行く間には多くの店が並んでいた。駅前とは違ってレトロな喫茶店やくたびれた駄菓子屋があった。その道には一際ひときわ目立つ大きな白い家があった。ほかの家の二倍ほどの大きな家。


「あの家すごいね」


 その家を見ながら彼女に言ってみた。しかし彼女は「そう?」と首を傾げる。


「ただ大きいだけだよ」


「でもそんな家に住んでいるんだから、それだけですごいよ。俺ん家なんてここら辺の家と何ら変わらないんだから」


 そんな会話をしながらその家の方に近付いていく。


「鬼条さんの家ってここからどれぐらいで着くの?」


「すぐだよ。もう見えているし」


「へ~、どれだろう」


 周りの家を見ながらこれかな?それともこっち?なんて予想しながら歩いていると彼女は急に止まった。


「着いたよ」


 そう言われて彼女の向ている方向を向く。彼女の視線の先にはさっき話した白い大きな家が建っていた。


 俺はその家を下から上に視線を動かす。遠くからは大きいとしか思わなかったが、いざ近くで見るとその大きさに圧倒させる。


 横は一般民家の二倍程度、高さは二階建てぐらいだろうか。庭にはいろんな花が咲いている。それも庭園のように手入れされている。


 家の前で唖然としていると彼女は何げない顔で玄関の前で立ち止まっていた。


「宮岡くん、どうかした?」


「なんでもない」


 そう答えながら玄関の方に向かう。ここに来て緊張で手が震え始める。心の準備をしてこようがこの大きな家に入ると思うと意味をなさなそうだ。震えるてを別の手で押さえながら家の中に入った。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る