第11話 テスト対策

 今日も同じ場所で待っている。どうやら担任の話が毎回長いようで今日も鬼条さんはまだ来ていない。


 昼休みは本当に疲れた。昨日の話を知っているからみんなで俺を囲んでどうだったかを徹底的に聞かれた。もちろんやましいことは何もないので真実を話した。


 だが、今日も会うことは黙っている。知られたら面倒だから。


「ごめん、今日も遅くなって」


「いいよ、行こう」


 彼女が来てから俺は昨日歩いた道のりを歩き出した。



 公園のところまでは昨日歩いたので迷うことなく行けた。そこからはスマホの案内に従いながら二人で歩いた。目的地には差ほど遠くなかったが入り組んだ場所にあったので見つけるには少し苦労した。


「着いたね」


 図書館は立派なもので二階建てになっていた。一階は絵本や図鑑といった子供向けコーナーになっていて、二階は論文や問題集が多く置かれている様子だった。入り口の横は階段になっていて左右両方から上がれる構造になっていた。


「二階に行こっか」


 彼女にそう提案して二階に上がる。二階には正方形の机が数個と長机が三つ置かれていた。すでに勉強に来ている生徒もちらほら見える。


「ここにしよう」


 階段に近い正方形の机にカバンを下ろすと彼女も向かいの席のカバンを下ろす。この席は四人ようになっているので空いた席にそれぞれ座った。


「よし、何からしようか?」


「出来れば数学から教えて欲しい。数学の点が一番悪いから」


「そうなんだ。じゃあ数学から。課題のワークは終わった?」


「まだ全然。終わっているのは数ページだけ」


「それなら都合がいいね。私も終わってないから一緒に解いていこう」


「俺が全部教えてもらう未来しか見えない」


「まぁまぁ、それはそれで私も授業の復讐になるからいいよ」


 そんな会話をしながら数学の課題に出されたワークの1ページ目を開く。ワークの内容は最初に解き方の例が書かれていて、その下に簡単な問題、次のページに応用問題が書かれている。


 もちろん最初は例に習って解けるから手が止まることはない。けど応用問題はそうもいかない。どんなに問題を見ても例の解き方だけでは解けない。


「鬼条さん、ここってどうやって解けばいい?」


 問題をスラスラと書いていた彼女は嫌な顔一つせず俺のワークに顔を覗ぞかせる。


「この式はXとそうじゃない数に分けて解くの」


「どゆこと?」


「え〜とね・・・ここに書いていい?」


 頷くと彼女はワークを自分の方に向けて書きながら説明を始めてくれた。


「ここの不等式は3(Xー1)<2(X+3)だから、最初に左の式を解いて3Xー3になるのはわかるよね。同じように右の式も解くと2X+6になるの。その二つの式をXのあるかどうかで分けると3Xー2X<6+3になる。この式を解くとX<9になる。ほら、出来た」


「なるほど。じゃあこっちは?」


「ここは・・・」


 そんな感じで時間はあっという間に過ぎていった。自分で解いて分からなかったら聞く。それの繰り返し。一方の彼女は俺より前の範囲から始めたのに俺が終わった頃には丸つけすらも終わらせて俺が問題を解くのを見ていた。


「今日はありがとう、だいぶ助けられた」


「いいよ、私も解いては復讐してを繰り返したからよく頭に入ったし」


「残りは一人で頑張ってみるよ」


「ダメだったら連絡して。メールでも電話でもいいから」


「ありがとう」


 お言葉に甘えたい気持ちもあるのだが、そうすると彼女の勉強時間をもっと割いてしまう。それでなくても今日は2時間も俺のために使ってくれたんだから。


「じゃあまた明日」


「うん、明日」


 お互いに小さく手を振りながらそれぞれのホームに向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る