*38話 友達*
「それで最初の話に戻るけど、どうして俺たちに加わることがエレクトラの依頼達成になるんだ? 両陣営のバランスが取れるからか?」
「いいえ真人さん。話していたのは、これまでのことです。私は勇者である翔さんが王になる前、先代のウイリアム5世のもとにいたことがあるんです。そしてそこで、別の戻る方法を知りました」
「つまりそれに協力しろと?」
「はい。その方法とは、ハルモニアを倒してしまうことです。どうやら転移者は、ハルモニアの特別な力によって縛られているだけのようなのです」
「空間をつなげて移動させたのではなく、こちらの世界に引き留める力が働いていると?」
「詳しい仕組みはわからないのですが、私を剣士に変えた者がそう言うのです」
真人は、特別な存在のように思えるハルモニアを倒すことができるのか疑問であった。
何より根拠が不十分で、仮に倒せたとしても戻れるかわからない。
その勝負、やる意味があるのか?
しかし同時に、こうも思った。
終わりってなんだ? 誰も終わりなんて考えてから始めたりなんかしない。
俺の仕事に終わりがあるのか? 勇者だって魔王を倒したから終わりとは限らない。
考え込んでいた真人は、沈黙に包まれていたリビングで結論を溢す。
「なあ、この世界が物語を求めているなら、終わりなんてないんじゃないのか?」
桜子はこれを聞くと、鼻で笑って言った。
「なら、勇者にやられてあげない真人さんとミントを見て、ハルモニアは喜んでいたでしょうね」
そうだ。俺とミントがやられたら、勇者の勝ちで物語が終わってしまうのだから。
真人は決断し、ミントと桜子に尋ねた。
「ハルモニアと戦うというのなら、今しかないような気がする。でも先に、ミントと桜子が戦うことと、エレクトラが仲間に入りたがっていることについてどう思っているかを聞きたい」
桜子が、待機していた階段から降りてくる。
「私は、ハルモニアに真意を聞いてからがいいとは思いますが、倒すと言うのなら反対はしません。前の勇者パーティーで一緒だった他の仲間たちもまだ残っているはずです。でも、そろそろ彼らも帰りたいのではないかと思うんです」
「私も戦うならエレクトラは必要だと思う」
ミントはそう言った後、エレクトラに聞きたいことがあると続けた。
「なにかしら?」
「港町ガレンで戦った時、あなたをかばって死んだ大柄の男がいた」
「トムさんのことね」
「彼は、あなたを守るために死ぬとわかっていて私に突っ込んできた。それに対してあなたは何も思わないのか?」
エレクトラは視線を逸らし考える様子を見せるも、悲しみの表情を浮かべることはなかった。
「残念だとは思うわ。いつも私の味方でいてくれたから。だけど彼じゃ、私の願いをかなえることはできない。……心配しないで。それで恨んであなたを後ろから刺すなんてことはしないから」
「そっか。まあ、私は真人の判断に従うよ」
ミントは、エレクトラの答えに拍子抜けした。
騙そうとしているとは考えてなかったし、彼女もたぶんそこは理解していた。だが、質問の狙いがわからないから、適当に付け加えてその答えになったんだろうと思ったからだ。
どちらにしてもミントにはわかった。
エレクトラは元の世界に帰った方がいい。
エレクトラが仲間に加わると決まり、夕飯を四人でとっていた。
「エレクトラ。勇者と、お付きの魔法使いも転移者なんだろ?」
「ええ、真人さん」
「なら、彼らとハルモニアを倒しに行かなかったということは、反対されたの?」
「いいえ、話す機会がなかったのです」
「ずっと一緒にいたのに?」
「対抗できる力を付けるまで、ハルモニアに聞かれたくないと思って黙っていたのです。しかし、翔さんは前の王との戦い以降支持を得られず、動けない状態だったのです」
「それで俺たちに教えたわけか」
「本当は、港町ガレンを奪還し国を立て直してから話すつもりでした。ですが、真人さんたちが予想以上に強く消耗してしまい、それどころではなくなってしまったのです」
「それならさ、話せば協力してもらえる可能性があるってこと?」
「可能性はあると思います。喧嘩別れをしてしまった私の話は聞かないかも知れませんが、翔さんは王になってから悩んでばかりでした。それに、一緒にいる魔法使いの知佳さんも、王都での戦いのことを悔やんでいます」
「それなら会わない手はないな。早速明日、シビルの町へ出発しよう」
「シビルですか?」
「ああ、商工会に知り合いがいるんだ。そこから連絡をしてもらおう」
真人は、どのように翔という勇者と話す機会を持つかを考えていた。
喋れるカモメが一体いるとはいえ、明らかにモンスターであるそれを勇者のもとへ送り込んだら伝える前に切られてしまうかもしれない。
そこで、シビル商工会のアルバートに仲介を頼むことにしたのである。
「その前にグレイスに手紙を送っておくか」
「うん、彼女ならモンスターになったカモメを見ても驚かない」
ミントはそう言うと、カモメに指示を出す。
「いい? 宿屋の娘グレイスを見つけて、これを渡して真人と私が会いに行くことを伝えるのよ。私より背が低くて三つ編みをしているから」
カモメが飛び立つと、真人は桜子とエレクトラにも仕事を頼む。
「二人にはゴーレムを連れてきて欲しいんだ。俺とミントはシビルに先行するから、後ろから来て森で待機していて欲しい」
「わかりました。万が一に備えてですね」
「桜子が私とでいいって言うんならやるわよ」
役割分担が決まったところで、翌日に備えて休むのであった。
急いだ真人とミントは、シビルの町に到着していた。
「真人、あれ見て」
ミントが宿屋の屋根を指すので真人が見ると、そこには風見鶏のようにカモメがいた。
「デカすぎて不自然だろ! よく通報されないな」
そんなことを言いながら宿屋に入ると、受付にグレイスがいた。
「やあ、手紙読んでくれた?」
「ミント! それに真人さんもお久しぶりです」
二人が用意された一室で待っていると、商工会のアルバートがやってくる。
「手紙の方は、グレイスさんから受け取りました。ガレンにもすでに使いの者を出しており、今日のうちに着くはずです。向こう次第ですが早ければ明日にも回答があるかと」
商工会の裏切りもなく、王国兵も港町ガレンから動いていないと真人たちは教えられる。
「それでは、回答が来たらまた参ります」
アルバートは帰って行った。
「問題なさそうでよかったですね」
ニコニコ話すグレイスに、やはり聞かなければならないと真人は思う。
「あのさ、カモメ怖くなかったの?」
「カモメ? あの鳥ですか。九官鳥かオウムかと思いましたけど、カモメなんですか? そういえば白いですもんね」
「そこじゃなくてさー。大きさとか形とか違うんじゃない?」
「さぁ? よくわからないですけど。それじゃあ、使者が来るまでお二人ご宿泊と言うことでよろしいですかね?」
淡々と仕事を進めるグレイスは、たぶん肝が据わっているのではなく天然だ。
「ああ、あと二人いるからもう一部屋お願い」
「あの真人さん。人ですか?」
「そうだよ! なんで俺、人の友達いない設定になってるんだよ」
「あれ? 魔王やってませんでしたっけ? とりあえず、もう一部屋押さえておきますね」
悪びれる様子もなく、グレイスは部屋を出て行った。
その後、ゴーレムだけにしておくわけにもいかないと、見張りを交代しながら勇者の遣いを待つのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます