*30話 港町ガレン*
「真人さん、戻りました」
桜子が、草むらで待機していた真人とミントのもとに戻ってくる。
「どうだった?」
「兵士たちはすっかり戦意喪失のようです。それにシビルの町が攻撃されていないので、私たちが来ないと思っているようでした」
「それなら戦いの方は何とかなるかもな」
「はい。ですが、商会から聞いた船の入港が明日ということでした」
「早いな。取引先の振りをして近寄るつもりだったけど、これじゃあ襲撃のタイミングと一緒になりかねない」
「襲撃に気づかれたら逃げられちゃいますしね」
「そうだなー」
今からすぐに襲撃を行うか、船が接岸してから町とまとめて襲うか……。
真人は、考える。
「トンビを仲間にできないかな? 数いるんだろ?」
「クァクァ、トンビ何て仲間にしない方がいいクァ」
縄張り争いの過去があるカモメたちは手を組むのが嫌だというのだ。
しかし、ミントは丁度いいという。
「じゃあ、あんたたち仕掛けてトンビを釣ってきてよ。それで、あの高い木の間を飛んで」
「そして追ってきたトンビを捕まえるクァか?」
「そうそう、真人が調整を使えば縄張り争いはなくなるから」
狙い通り追ってきたトンビたちは、一網打尽にされると真人の能力で配下にされる。
「ピーヒョロロロロ。ピーヒョロロロロ」
「真人、造形も使わなくていいの?」
「カモメが偵察部隊なら、彼らは実戦部隊だから喋れなくても問題ないかな」
「そっか。鳴き声長いような気もするけど、じゃあいいか」
そして翌日、作戦を開始する。
「夜襲にしたかったんだけどな」
「クァ。真人、いわんこちゃない」
「あんたたちも鳥目でしょ。それに真人を呼び捨てにしないでよ」
ミントは、呼び捨てにしたカモメをはたく。
「なんだあれは!」「キャー」「モンスターが!」
「突撃! 逆らうものは容赦なく殺せ!!」
陽気な昼下がり真人の声が響くと、港町ガレンにリザードマンとオークの群れが一斉になだれ込んだ。
正面から進行したにも関わらず、門を閉める者もおらず町は大混乱に陥る。
「兵隊さん、モンスターが!」「逃げろ逃げろ! モンスターが入ってきたぞ!」
モンスターたちは、鎧も着ずに飛び出してきた兵士だけでなく、道にいる逃げ遅れた市民も次々に殺していく。
「そのまま倒しながら直進だ!」
真人が船着き場を目指しモンスターを進めていると、そこにバタバタとカモメが降りてくる。
「クァクァ! 船が出航の準備をしているよ!」
「わかった。予定通りトンビたちに出動命令を」
石を抱えたトンビたちが、船上で出航準備をしている船員たちにそれを落とす。
「ぐあ!」「鳥を見ないと思ったらそういうことなのか!」
頭に当たり倒れる者や、血を流し悶える者が船上を転がる。
「ピーヒョロロロロ!」
「あいつら結構やるクァ!」
そして、出航に手間取っていた船は真人たちに乗り込まれた。
「ミント。あったのか?」
「あったよ真人。運び出そう」
それは、町で加工される予定であった金属のインゴットであった。
「では、オークたちに東の丘に運ばせます」
リザードマンの護衛のもと、残っていたオークたちは積み荷のインゴットを運び出すのであった。
真人は、町外れにある東の丘に着くと陣の構築を命令する。
「思った通りここなら港が一望できるな」
「真人さん。今日はここで泊まりですか?」
桜子は、たぶんそうではないかと思いながら遠回しに聞いた。
「今日だけじゃなくて、ここが拠点だよ」
「ええー、ずっとですか? 宿屋に泊まれると思ったのに」
駄々をこねる桜子に、ミントが説明をした。
「正面からの襲撃でオークは半分になってるし、町は広すぎて管理ができない。それに、ここなら兵士の応援が送られてくる船が見える」
「むーう」
「直接の戦闘も丘の上で有利。それに、包囲されても水は缶詰がある」
ミントに続けて、真人が補足する。
「本来ならインゴットを加工できる施設を占領しないとダメなんだろうけど、そこは俺ができるからね。あと、兵士の援軍が来るまでは町に行ってもみんな逃げるだろうから平気だよ。用があるなら護衛を付けて行けばいい」
真人は東の丘で野営をしながら、残ったモンスターたちのために金属で装備を作るのであった。
******
「翔さん、お久しぶりですね。ウフフ」
「エレクトラさん。お一人ですか?」
「ええ。見張りの者たちは、三人を一緒にしたくないようです。きっと、勇者パワーで逃げると思っているのではないですか?」
「そんなのあったらとっくに……いや、チートだからできるだろうけど、逃げてもしょうがないよな」
「私もそう思います。ですけど、いつまでも部屋にいるわけにはいきませんよね」
「エレクトラさん。そのことで知佳から聞いたんだけど、こうして話せるもの王様とエレクトラさんが取引をしたからってホント?」
「翔さん、それはその……取引というか、男女のなかなので」
いつも能天気な翔の顔も、この時ばかりは曇る。
「そっか。やっぱりこのままここにいるのはよくないよね。エレクトラさんと会う前は、村を回って輸送の護衛をしたり、野犬退治をしたりとちゃんと勇者として旅をしてたんだよ」
「ええ、噂には聞いています」
エレクトラは下を向き、小さな声で答えた。
「きっと、三人でもやっていけるよ」
「翔さん、それって」
「脱出しよう。閉じ込められているのも死刑になるのも嫌だからね」
エレクトラはハッとし、翔を引き留めようとする。
「行けません翔さん。もし逃げられたとしても、逆賊のまま一生追い回されることになるんですよ」
「だけど僕、この部屋でじっとなんてしていられないよ。だって、だってその……」
「翔さん、私のことは気にしないでください。相手は王様ですので、それなりの扱いを受けていますから」
エレクトラは目に涙を溜めると、顔を押さえ崩れるように座り込んでしまう。
翔はそれを見ると慌て駆け寄り膝をつき体を支えた。
どうしたらいいんだ……。
悩む翔にエレクトラはつぶやく。
「ごめんなさい」
「いいんだ。エレクトラは悪くない」
「でも、でも、」
エレクトラは持たれる様に翔の胸に顔を付けると、軽く手を横に回し翔の服を掴む。
すると翔は、胸の前にある赤い髪を軽く撫で言った。
「君を救いたいんだ……」
「翔さん、でもそれは」
「いいんだ。たとえ王様に逆らうことになっても、間違っていることを放置しておくのは勇者じゃないだろ? な!」
「翔さん!」
エレクトラは抱きつき、溜めていた涙を流す。
翔は手を優しく回すことでそれを受け止め、天井を見上げると王との対峙を決意するのであった。
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