*25話 MAX*

 約束の夜が来る。

「本当に開けてくれそうだった?」

 門の前で待機していると、ミントが桜子に尋ねた。

「財宝の受け渡しは前に半分、成功後に半分と伝えたわ」

「全部持って行ったのに?」

「ええ、そう言っておけばいいのよ。交渉に乗った時点で、どちらかに殺されるんだから」


 ギシギシギシギシ


「門の動く音、結構大きいね」

 時間もきっちりで、むしろ恐ろしいと真人は思う。

「真人、行くしかないよ」

 三人は外套をかぶり、リザードマンたちを引きつれ門に向かう。

「どうした? 何で門が動いているんだ?」

 兵士たちの声が聞こえるなか、開き終わりそうな門から真人たちは突撃した。

「モンスターが! グアー」

「兵士たちは知らないようだね。それじゃあ俺は、町中に散っている兵を倒すから」

「ええ、私とミントで門番と兵舎は片づけます」

 真人はリザードマン二体を連れ、個別に警戒している兵士を潰しに向かった。


 ボン! ボン!


 進む真人の後ろでは、門近くの兵舎が爆発音を立てながら付近の空を明るくしている。

 魔法はやっぱりすごいな。これで混乱した兵士たちは、ミントに次々やられるだろう。

 真人は二人の成功を確信すると、驚いて家から飛び出てくる住民などには目もくれない。

 兵士を倒せば降参するはずだ。

「真人殿あれを!」

 ついてきていた副長リザードマンが、兵士の集団を見つけ槍で指す。

「他にも兵舎があったのか?」

「あっちにモンスターがいるぞ!」

 気づいた兵士たちは門の支援には行かず、真人たちの方を目指し向きを変える。

「数が違います。有利な場所へ移動しましょう」

 副長リザードマンに言われ逃げるが、真人の足が一番遅い。

「真人殿、あの建物の間にお逃げください。この細さなら我ら二体で道を塞げます」

 槍を装備している二体のリザードマンが、盾になって時間を稼いでくれるというのだ。

 息の上がった真人は返事もできず、言われるまま路地に入る。

 どうしよう、この先に逃げ道なんてあるのかな? それにこのままじゃ、あの二体やられちゃうよ。

 フラフラな足取りで悩んでいた真人は、すぐ先にあった横長の大きな建物に注目した。


 フゴフゴ プギッー ブッブッ


「豚か。あまりやりたくないんだけど、これをオークにするのが王道か」

 真人は、調整と造形を繰り返す。

「何匹いるんだ。とりあえず、出来た分だけで」

 来た道を戻ると、まだ戦っているリザードマンたちに声をかけた。

「下がれ、こいつらを突撃させる」


 ブーブーブー!!


 オーク化し立ち上がった豚たちは、兵士たちに突進していく。

「何だこれは!」「モンスターなのか!」

 兵士たちは騒ぎながらも、武器も持たずにただ突っ込んでくるオークを容易たやすくあしらっている。

「こっちに」

 真人はその間にリザードマンを呼び寄せ、豚小屋に引き返した。

 これだけ残っていれば……。

 再び調整と造形を繰り返し、今度は作戦を与える。

「いいか、路地からこちらに抜けてきたところを包囲して戦う」

 そして、

「いまだ!」

 オークたちを倒した兵士たちは、追撃だと意気揚々に小屋の前まで出てきていた。

 そこへ、伏せていたリザードマンと新たに作られたオークが一斉攻撃を仕掛けたのである。

「こ、こんなにモンスターが!」「いったい、どこから?」

 兵士たちは飛びかかってくるオークを剣で切るが、それができたのは最初の一体だけであった。四方から次々くるオークに潰されると、リザードマンの槍に刺されていく。

「グワー!」「引け! 引け!」

 倒され、いくらも残っていない兵士たちは逃げ始める。

「追撃しますか?」

「いや、いいや。住民があの姿見てくれるといいけどね」

 リザードマンの問いに真人はそう答えた。


 落ち合う場所としていた宿屋に、真人は最後に到着した。

「二人とも怪我はなかった?」

「はい、真人さん。こちらに分けた十六体のリザードマンも失っていません。今は、半分のリザードマンを隊長に預けて門を見張らせています。逃げる兵士や住民は無視してよいとも伝えてあります」

「わかった、ありがとう桜子。それでミントも平気かな?」

「うん。それより、なんで連れてるモンスター増えてるの?」

「追い込まれて仕方なく……」

「ふーん。まあ、見込みより兵士多かったしね」

 桜子には別の疑問があるようだ。

「それ、豚ですよね? 家畜でいいなら、牛とかヤギとかいくらでもいるんじゃ?」

「そこなんだよね。俺たちはさ、食料を奪いに来てるんでしょ? それなのに食料を部下にしちゃったら何を食べるんだよって話だよね」

「まあ、そうですけど」

「強いモンスターを味方にして穀物や家畜を栄養にするつもりだったから、本当はこいつらにスキルを使いたくなかったんだけどさぁ」

「なるほど。でも、過去のモンスターにも会えないと」

「そういうこと。仲間にしたからには、ちゃんと編成しないとね」

 真人はこの後、オークの中にも隊長と副隊長を作る。

「二十四体も残ったのか」

 二足歩行ができるということでリザードマンたちと同様にリュックを作ると、武器は数が確保しやすい棍棒にした。

「真人さん、王道ですね」

「そうだろ桜子。このあとは、王道じゃない缶詰づくりとかあるから」

「はぁ」

 ヨルダ村は食料が豊富にあり、三人と四十二体のモンスターのリュックはすぐに一杯になる。そして真人はそれに加え、増えたモンスターを使いドアノブから釘まで回収させるとミントの装備も作ろうと考えた。

「鎖帷子に、あと、串の代わりに棒状の手裏剣かな。ねえねえミント。一刀と、短刀の二刀とどっちがいい?」

「え、わかんない。桜子はどう思う?」

「ええ! 戦っているところを見てミントが強いのはわかりましたけど、普通に鎧と剣じゃだめなんですかね?」

 これに真人が熱く語る。

「もちろんダメだよ! 黒髪ロングなんだから、くノ一ファッションじゃないと」

「はぁぁ」

「じゃあ俺が勝手に決めるね。普通に一刀でいくかな」

 真人は、集めた鉄でサクッと作り上げる。それは、想像力の高さがわかる速さであった。

「おお、これは強そうですね」

「だろ桜子」

「うーん。まあしょうがないから着るけど」

 ミントは、セーラー服の下に鎖帷子、プリーツの横に日本刀と手裏剣と、萌ステータスがMAXになるのであった。


             ******


 その頃、逃げ出した兵士たちはシビルの町を目指し南下していた。

「クッソー。あんなにモンスターがいるなんて聞いてねえぞ」

「各地でモンスターが暴れだしているって噂、本当だったんだな」

「まさか、魔王復活か?」

「何言ってるんだ。あんなのただの豚の集まりじゃねえか」

 兵士たちは恐怖ではなく、愚痴や怒りを口にしながら歩くのであった。

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