*28話 秘宝*

「先輩、ご苦労様です」

「おお、どうしたマイケル」

 マイケルは、知佳とエレクトラを軟禁している部屋の前に来ていた。

「見張りを代わろうかと思いまして」

「ええ?」

「もとは自分がみんなに紹介したのが原因です。できるだけ僕がやりたいんです」

「まあ、俺は命令だから気にしてないけど、それで気が済むなら喜んで代わってやるよ」

「ありがとうございます」

 当番だった先輩騎士に代わると、マイケルは鍵を開けエレクトラを呼び出しまたドアの鍵を閉めた。

「何よ。私だけ呼び出して」

「いいから歩け」

 マイケルの後ろをエレクトラはついていく。

「あなた一人ってことは、取り調べや刑の執行じゃないわよね」

 マイケルは黙々と歩く。

「ここどこかしら? 随分と立派な絨毯が敷かれた廊下ね。悪さをするには向かない場所だと思うけど」

「ここだ。お前に話を聞きたいというお方がいる。いいか、くれぐれも失礼のないようにしてくれよ」

「はいはい。ですがお前呼ばわりとは、変わるものですね」


 コンコン


「マイケルです。お呼びの者を連れて参りました」

「入れ」

「失礼します!」

「失礼いたします」

 エレクトラは、マイケルに続いて部屋に入る。すると彼女はウイリアム5世を見て微笑み、片足を斜め後ろへ下げ両手でスカートの裾を摘まみ深くお辞儀をしたのである。

「ほぉ」

「どうかいたしましたか?」

 驚くウイリアム5世にエレクトラが尋ねる。

「燃えるような赤い髪じゃのう。いや、バラのように美しいというべきか」

「ありがとうございます。あの、わたくしは、エレクトラと申します」

「おお、挨拶が遅れたの。余はウイリアム5世、つまり王じゃ」

「まあ! ご冗談を」

「無礼であるぞ」

 驚いて見せるエレクトラに、マイケルが注意をした。

「ですが、急に王様と言われても信じられませんわ」

「そうじゃな、エレクトラの言う通りじゃ。よいよい、立場などどうでもよいのじゃ。少し話がしたかっただけなのでな」


 そして次の日も、エレクトラは呼ばれ王の部屋を訪ねていた。

「ええ? 庭園でございますか?」

「ああ、余は庭の手入れをすることが好きなのじゃ。いつも部屋にいては気が滅入るじゃろ」

「はい。ですが」

 エレクトラは、ついてきているマイケルの様子を伺う。

「王様、いけません。彼女はまだ、取り調べ中の身です」

「何を細かいことを申しておる。エレクトラ、行くぞ」

「え、ええ」

「お待ちください!」

 マイケルは、部屋を出ようとするウイリアム5世を止めようとする。

「くどいぞ! お前はもういい。ここで待っとれ」

「しかし……」


 バッタン!


 ウイリアム5世は、エレクトラと二人きりで自慢の庭に赴いた。

「どうじゃ」

「ほんと、素敵ですね。こんなに広いお庭なのに誰もいないなんてもったいないぐらいです」

「ファッファッファ。余とお主がいるではないか」

「しかしウイリアム様。マイケルさんも困っておりましたし、わたくしと一緒というのはよろしくないのでは?」

「いやいや、気にすることはない。マイケルのあれは慎重だからではない。まだ若いから肝が小さいだけよ」

 広すぎる庭を少し回ると、二人は部屋に戻る。

「ではな、エレクトラ」

「はい。ありがとうございました」

 エレクトラは王の部屋を出ると、再びマイケルの先導で自室へ向かう。

「随分と好かれているようだな」

「あら、マイケルさん。やきもちですか?」

「ふん、調子に乗るなよ」

「そうですね。マイケルさんもお気を付けた方がよろしいんじゃないかしら」

 マイケルの苛立ちは、誰が見てもわかるほどであった。


「またでありますか?」

「どうしたマイケル。何か問題でもあるのか?」

「い、いえ」

 ウイリアム5世はその後も何度もエレクトラを呼び寄せ、自慢話をしたり庭や工芸品を見せたりしていた。もちろん、宰相など王の周辺も気が付いてはいたが、見て見ぬ振りである。

 そしてある日。

「それは何でございますか?」

 王は、十センチ四方の革で出来た黒い箱を取り出した。

「エレクトラは勇者と旅をしておるのだろ?」

「はい。加わってからあまり長くはありませんが」

「これはのう、その昔、勇者を異界から招くときに使われたと伝わる秘宝なのじゃ」

 そう言うと王はパカッと箱を開け、その中身を見せた。

「まあ! 確かに一見では普通の水晶玉にも見えますけど、不思議な輝きを放っておりますね」

「そうじゃろ。いつから宝物庫にあるのかわからいほどの昔の物なのに、今でもこうして七色の輝きを放っておる。ダイヤなどとは違い、中からあふれ出てくるような光じゃ」

「本当にすごいですわ。手に取って見てもよろしいでしょうか?」

「女というのは輝くものに目がないのう。だがエレクトラ、申し訳ないがお主でも触らせるわけにはいかんのじゃ」

 エレクトラは、口角を落とし目を背けるという具合にがっかりとして見せる。

「まあそう落ち込むでない。これは国に災いが訪れた時、王家の者が使う最終手段とされている法具でたとえ宰相でも触らせてはいけないものなのじゃ」

 エレクトラは、見た目と話から求めていたものだと思い、どうしても手に入れたいと考えていた。しかし、無理に取り上げて逃げられるような場所ではない。

 うん? ……待ってよ。

「ウイリアム様、どうしてそんな貴重な物をわたくしに見せて下さるのでしょうか? わたくしは疑いをかけられ、軟禁までされている身でございます」

「だがらじゃな、正妻というわけにはいかないが、爺の戯れだと思って傍にいてくれないだろうか?」

「まあ! 考えるまでもありません。わたくしのような者で良ければお傍に置いてくださいまし」

 エレクトラが考えるまでもなかったことは、ウイリアム5世の戯れではなく秘宝の素晴らしさであった。

「ですがウイリアム様。わたくしは勇者と共に旅をしている途中でございます。勇者とその連れにも納得していただきたいのです」

「うむ、そうじゃの。焦らんでよい。そうじゃ、話せるようにはしてやろう」

「ありがとうございます」

 その日、エレクトラが王の部屋をあとにすると、翔や知佳も部屋のあいだに限り移動が許されるのであった。


             ******


 ヨルダ村を追われた兵士たちはシビルの町で休むと、防衛をせずに再び南下を始め港町ガレンへ向けて出発していた。

 そしていま、真人と萌MAXになっていたミントが桜子とモンスターたちを連れてシビルの町に到着しようとしていた。

「ちょっと真人さん。なんで私がモンスターたちみたいにおまけな扱い受けなきゃならないんですか?」

「え? だからさ。面が割れてない桜子にしかできないじゃん」

 真人は、町に兵士が残っていないという情報を掴んでいた。

 そのためモンスターたちを林に伏せ隠し、王国兵の襲来に備えては南門を桜子に見張ってもらうことにしていた。

「真人行こ」

「うん。じゃあ桜子頼んだね」

 真人とミントは、二人でシビルの町に入って行った。

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