*27話 貴族*
二人に噂をされていたエレクトラは、新米騎士のマイケルと会っていた。
「今日も来てくれたんですね」
「ええ。マイケルさんは、本当に騎士の姿が似合ってますよ」
「ありがとう。部隊のみんなからは、おぼっちゃんだって馬鹿にされてるからちょっと不安だったんです。でも、エレクトラさんに褒めてもらえて自信が湧いてきました」
二人の始まりは、建物を探っていたエレクトラが偶然廊下ですれ違ったマイケルを見て溢した言葉からであった。
青い瞳に金色の髪、物語に出てくる王子様のようだ。
そう思ったエレクトラは、見るや素敵と口にしたのである。
しかしそれは、彼の勘違いを誘うには十分なものであった。
「ええ? エレクトラさんは、モンスターを退治するために呼ばれたのですか?」
「はい。呼ばれたのは勇者様なんですけど、召喚術士としてお供しています」
「最近は、モンスターも力を付けてきているという話で、襲撃を受けて多数の死者が出た村や、豚小屋から豚が根こそぎいなくなった村などもあるそうです」
へぇ、真人さん。まだ頑張ってやってるのね。
「兵士たちも各地で奮戦していますが、退治が追いついていないとか」
「あら。それじゃあ私たちにもそろそろお声がかかるかしら?」
「それは当分ないと思います」
「ええ! どうしてです?」
「エレクトラさんは、勇者様とご一緒なんですよね」
「はい……」
「兵士はまだいますから、わざわざ外の人に頼んだりしませんよ」
「でも、退治が追いついていないと」
「最小限の兵士しか出さないので現場が苦労しているという話なだけです。偉い人たちは、自分の身が危なくなければ全力で動員なんてしません」
エレクトラは入城の時に見た町の繁栄と、このマイケルの話から王たちが本気で討伐する気がないとわかる。
「そろそろ部屋に戻りませんと。マイケルさん、訓練頑張ってくださいね」
「はい!」
エレクトラはマイケルと別れると、翔の部屋へ向かった。
「翔さん入りますよ?」
エレクトラが部屋に入ると、翔と知佳がゴロゴロしていた。
「あら、仲がよろしいことで。知佳さん、私とではなく、翔さんと一緒の部屋の方がよろしいんじゃないですか?」
「なんでそうなるのよ。そだ。いまさ、丁度あなたがいつもどこへ行ってるかって話してたの」
「そのことなんですけど……」
王たちが本気でないと聞き、知佳は黙っていられない。
「それじゃあさ、王様にも会えないし、モンスター討伐にも行かないってこと?」
「そうですね。飼い殺しってやつじゃないですか。とりあえず勇者を押さえておくという話のようです」
「ほら、翔も何か言いなさいよ」
「ええ、ここで言っててもしょうがないじゃん」
「じゃあどうするのよ」
「うーん。エレクトラさん、何かいい案ないかな?」
「はぁ、わかりました。もう少し聞いて回りますけど、時間がかかるかも知れません」
「オッケー。待ってるわ」
「ちょっと翔、あんたも何かしなさいよ」
エレクトラは、二人を見て呆れながら部屋を出て行くのであった。
はぁ、しょうがないわね。
「こんにちは、マイケルさん」
「やあ」
「お城には、マイケルさん以外にも騎士さんっていっぱいいるんですよね?」
「騎士の称号を持つ者は多くはないですけど、まあそれなりにいるかな」
「この前のマイケルさんとの話でちょっと不安になって、みなさんにもいろいろ聞いてみたいなと思って」
エレクトラに頼まれ、マイケルは渋々騎士たちを紹介していく。
そして、ある日のことであった。
「ねえ、エレクトラ。心配事はなくなった?」
「そうですね。ここが安全で、みなさんが優しい人たちだとはわかりました。でも、ずっとここにいてもいいものなのかなとも思いました」
「そっか、そうだよね。これじゃあ、閉じ込められているようなものだもんね」
マイケルは、一息つくとエレクトラの正面に回り真面目な顔をする。
「僕と、結婚してくれないか?」
「ええ!」
「いきなりで驚いたかも知れないけど、家のこともあるので結婚を前提で考えて欲しいというか……」
「でも」
「ずっとここにいるもの辛いだろ? たぶん、モンスター討伐の命令は出ないよ」
「どうしてですか?」
「僕も調べてみたんだ。そうしたら、ある貴族が王様に進言をして認められたから勇者たちを呼び寄せることになったっていうんだ。つまり、勇者を呼ぶということが貴族の目的なんだよ」
「えっと……」
「王様に会えないだろ?」
「はい」
「その貴族からすれば勇者を呼ぶことで王様との約束を果たしたことになるし、王様からしたら自分がやろうとしたことでもないので気にしていないってことなんだ」
「じゃあ、ずっとこのままなんですか?」
「勇者を城から出すことはできないだろうけど、君はただのお供だろ。僕の家にも称号があるんだ。だから君だけならきっと連れ出せる」
軟禁状態から解放するから結婚してくれだなんて、お前も変わらないじゃないか。
エレクトラにとって可愛いだけのおぼっちゃんだったマイケルが、嫌悪の対象になった瞬間であった。
エレクトラは、考えさせてくださいとやんわり断ったつもりであった。しかし、後日から騎士たちの反応が明らかに変わった。
そんな時だ。
「君か? エレクトラというのは」
エレクトラの前には、マイケルと違うどころか今まで紹介されたどの騎士よりも騎士らしい中年の男がいた。
ガッシリした体に短髪で、プロスポーツマンのようにも見える。
「マイケルから聞いている。騎士たちを次々と口説き、城のことを嗅ぎまわっているとな」
マイケルも、あの言葉で断られたということは理解しただろう。つまり、それに対する報復であった。
「これからは部屋の前に見張りを付ける。出入りは禁止だ。音沙汰あるまで大人しく待っているように」
これにより、部屋から出ることもできなくなってしまうのである。
「どうして私まで……」
「グルだったら困るからでしょ」
「まあでも、エレクトラさんが脅しに屈してクソ野郎の言うことを聞くよりはマシだけどね」
エレクトラを軟禁した中年のニコラスは、王に許可をもらおうと拝謁をしていた。
「王様、機会をいただきありがとうございます」
「うむ、騎士団長であるニコラスの話なら聞くに決まっておるじゃろ」
王の名は、ウイリアム5世。六十八歳と若くはなかったが、健康に問題はなかった。しかし、政治への関心が薄く宰相などに丸投げなやり方は、評判のよいものではなかった。
「先日、呼び寄せました勇者たち一行ですが、城内で不審な活動をしていたため軟禁中でございます。このままというわけにも参りませんので、こちらで対応させていただきたく存じます」
「対応のう。しかしニコラス、こちらから呼び出しておいてすぐにというのもどうかのう」
「では、引き続き監視を付け、調査をいたします」
「うむ」
貴族の進言に対して許可を与えたウイリアム5世は、幾らも経たず首を刎ねてはと言葉を濁す。結果ニコラスは、一層証拠を固めると答えたわけだが、もちろんほとぼりが冷めるまでの時間稼ぎにしか過ぎなかった。
ふむ。宰相によると、勇者ではなく連れの女が事を起こしたとか。やっかいじゃのう。勇者と呼ばれるものでもそれはそれか。
ウイリアム5世は、自室でそんなことを考えているともうひとつ思う。
しかしのう。勇者を惑わす女とは、ちょっと気になるのう。
ウイリアム5世は、貴族としての騎士マイケルを自室に呼び出した。
「おお、来たか」
「ははぁ」
「まあ、そうかしこまるな。実はな、余のわがままを聞いて欲しいのだ」
「何なりと」
「お前も騎士なら、勇者の一行が軟禁されておることは知っておろう? それでな、その中にいる問題の女という奴を連れてきて欲しいのじゃ」
マイケルは言葉に詰まり、冷や汗が出る。
「どうした?」
「いえ、何があるかわかりません。危険でございます」
「何を言っておるマイケル。危険だから面白いのであろう。な、お前にしか頼めんのじゃ。やってくれるな?」
「ははぁ」
王の命令と断れなかったマイケルは、頭を下げ部屋から出るのであった。
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