*14話 冒険の始まり*
後日、宇野はレンタルオフィスで翔と知佳と待ち合わせをする。そして、ハルモニアが神殿から開いたゲートへ案内すると、異世界へ行く二人を見送った。
宇野は、やっと終わったとゲートが閉じるのを確認するとため息をつく。
はぁ、面倒な仕事だったわ。
幼馴染も一緒でないとならないなんて聞いた時はこの女神、石にでも頭をぶつけたんじゃないかと思ったけど普通な話らしいわね。
異世界へ行きそうで、しかも幼馴染がいる人なんてそうそういるわけないでしょ。二人が話に乗ってこなかったらどうしようかと思ったわ。
あとは、失踪して驚いたと伝えるぐらいね。
二人を異世界へ送るにあたっては、留学という嘘も用意されていた。しかし、それではいくらも時間を稼げないと、宇野は二人と相談し失踪とすることに決めていたのである。
それは、若い男女なら揃って失踪とした方が、周りも必要以上に調べないと宇野が吹き込んだ結果であった。
――――――
転移後、旅を続ける翔と知佳は、いま、勇者と魔法使いとしてミソラ村に向かっていた。前の町で、村がモンスターに悩まされていると聞いたからである。
ハルモニアは、そんな二人を高台から見下ろしていた。
勇者様は背も高いですし、知佳さんもヒロインとして申し分ないスタイルです。そこにわたくしが与えた装備を着けているわけですから見栄えとしては完璧です。
転移の時は、勇者様が金髪となると知佳さんは喜んでいましたし、黙って知佳さんを銀髪にすれば勇者様が喜ぶので知佳さんも気を悪くしていませんでした。
ただ、チートに関してはよくありそうなことなのに困りました。
すべてのモンスターを一撃で倒す。地面を叩くと星が割れる。雲に乗らなくても空を飛べる。
……考えるだけでも、この世界にあってはならないことです。
宇野には、なに別々にリクエストをとっているのだと言いたいところなのですが、しかし同時にゴロゴロしていた者が急にモンスターと戦えるようにならないのも道理ではあります。
――――――
「見た目は完璧だね翔」
「うん、後は僕の頼んだチートがどうかだな」
転移し召喚の間で喜ぶ二人に、ハルモニアが告げる。
「それについてですが、ステータスには限界がありますので、それがリクエストに対するわたくしの答えだと承知していてください」
翔には、すぐに意味がわかった。
ゲームに例えれば、システム上の上限の数字までにしかならないということである。
これは最強には変わりないが、あり得ない力ではないのでチートと言えるのかと翔は悩む。
文句を言うべきか?
翔は、先にスキルのことを確認してみることにした。
「スキルですか? 勇者様は剣技と盾技、知佳さんは魔法使いということで攻撃魔法と回復魔法のようですね」
「ようですね?」
「リクエストはわたくしが答えておりますが、スキルは転移特典ですので結果的についてくるものなのです」
翔が、ジョブとスキルがあっているのだから問題ないのかもと考えていると、ハルモニアが女官を呼び装備やお金の入った袋を持ってこさせる。
「最初の装備と資金はこれをお使いください」
遠慮のない二人は、すぐに手に取り確認する。
「初期装備にしてはいいよな」
「でも翔、金貨小さくない?」
「これでどれぐらいの価値なのかな?」
ハルモニアは、そんな二人に一度町を見に行ってはどうかと提案した。
二人は装備を付けると、言われるまま外に出すぐにその街並みに感動する。
「へぇー、本当に中世西洋風だね」
「うん。でも町の人たちの言葉は聞き取れるし、異世界で間違いないようだね」
「じゃあ、神殿に戻ろうか?」
確認した二人は神殿に戻るが、ハルモニアがいない。
「あれ、翔。この部屋じゃなかったっけ?」
「ここで間違いないはずだけど、魔法陣もないよね」
二人は、通りかかった女官たちにハルモニアの居場所を尋ねる。
「まあ、若いのに信仰熱心だこと」
「いや違うんです。僕たちは、ハルモニアさんに呼ばれてきた勇者と魔法使いなんです」
「そうですか。他の国から来られたのですね。礼拝堂に掲げられているのがハルモニア様の像ですよ」
女官たちは小さく笑うと行ってしまった。
「か、ける?」
「うん。探さなきゃ」
二人は、神殿内をくまなく探すがハルモニアを見つけられな。それどころか、しつこく聞き回る姿に神殿の職員たちに呆れられ追い出されてしまう始末であった。
「翔、やばくない?」
町に出てから話す知佳の声には力ない。
「とりあえずお金はあるし、ご飯食べようか? あと、神殿には泊めてくれそうもないから宿も探さないとダメかな」
実際に二人はその道を辿り、日が落ちると宿の部屋で二人きりだ。
「どうしよう翔。私が異世界に行こうだなんて言ったばっかりに」
「いや、僕に付き合ってくれたんだろ。ごめんな」
「宇野さんは、衣食住の心配はないって言ってたけどお金あんまりないよね?」
「食事や宿代を考えると、三日ぐらいしか持たないかも」
「ゲームとかならお金が尽きても餓死とかしないけど、リアルじゃそうは行かないよね。足りなきゃ自分たちでなんとかしろってこと?」
「倹約するっていっても限界があるし、勇者をやれってことだろうね」
「でも、神殿の人たちの様子だと、勇者とか信じてないみたいだったけど」
翌日、翔と知佳は町で冒険者ギルドを探すことにした。
「それで翔、どこを探すの?」
「そりゃ、情報といえば酒場だろう」
しかし、酒場と思われる店は開いていなかった。
「こんな朝っぱらから開いてる方が問題だよね」
知佳の言う通りなのだが、これでは情報が手に入らない。
「なんだ、お前さんたちは」
二人は、黒い服を着た強面の髭を生やしたおじさんに話しかけられる。店の前をうろついていたのが怪しまれたのだ。
「えっと、冒険者ギルドの場所が知りたくて」
「冒険者ギルド?」
翔のいきなりの話は意味不明で、おじさんは聞いたもののどうしようかと思ってしまう。
「冒険者がギルドを作るのか?」
「だってほら、仕事を斡旋する人とか、報酬の支払いの手続きとかあるじゃないですか」
「ないですかって、そりゃそうだろうけどよ。いまどきモンスターなんてそうそういないし、狩る奴もそうそういないだろうから勝手に倒しゃいいんじゃねえか?」
「でもそれだと、どこにモンスターがいるかわかりませんし、報酬が手に入らないじゃないですか」
「ないですかって、それで酒場にきたの? お前ら」
二人は、おじさんの顔を見たまま止まっている。
「俺? 俺、知らないよ。うちに来る客だって、そんなこと聞かれても知らないだろ」
困っているおじさんに、今更ながら知佳が尋ねる。
「あの、あなたはここの店員さんですか?」
「ああ、マスターってやつだな」
「では、夜出直してくるのでお客さんから話を聞かせてもらっていいですか?」
「ええ、店内で話すの?」
「はい」
「ほんと、困ったな」
「お願いしますよ、マスターさんなんでしょ」
「そうだけどよ……じゃあ、こっそり入れてやるから、オーナーにバレないようにうまくやってくれよ」
「やった!」
二人は、困り果てたおじさんマスターと約束を取り付けるのであった。
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