*21話 決断*
「俺たちにも、食事を分けてくれないか?」
隊長リザードマンの言葉を聞いて真人は考え込む。
今まで捕らえた動物やモンスターに食事を与えたことなどない。ハルモニアに渡すまで、何日かログハウスの軒先で待機させたことはあったが考えたこともなかった。
人間ほど定期的に食べないとしても食事は確かに必要だ。モンスターだと魔力とかでもよさそうだが、そもそも俺は魔力なんて持ってはいない。いや、魔力が宿っていたとしても、俺一人でみんなに分け与えることなんてできるのか?
「えっと、みんなは何を食べるの?」
「昆虫や草などでもよいのだが、この体を支えるためにはそれだけでは大変なのだ」
「そっか、人ぐらいあるもんね。それで雑食ってことだね」
だが、真人は不思議に思う。いま捕らえたばかりなのに、差し迫った感じが伝ってきたからだ。
「普段はどうしてるの? 蓄えとかはしていないの?」
「俺たちも蓄えたり、分け与えたりする習慣はある。だが、この辺りはあまり食べ物がない」
どうも話が変であると思った真人は、隊長リザードマンにさらに説明を求めた。
「俺たちは谷で暮らし、森や川で食料を集めている。そして不作のときは、村を襲い盗んだりしていた」
真人は、馬車が襲われたという話を思い出す。
「ずっとそうしてきたのだがモンスターと呼ばれるものは減り、人と言われるものが謳歌する時代が続き我々も駆逐の対象になってしまったのだ」
「つまり、人に追われていて食料の確保ができていないってこと?」
「そうだ。もうほとんどない」
真人は困った。二人の食料を分け与えたら、いくらも持たないからだ。
「真人、どうするの?」
ミントが作業を止め、どれぐらいご飯を作るのかを聞いている。
「ひとりあたりの量は少なくなるけど分けよう」
「いいの?」
「俺たちの目的は、モンスターを確保することだ。彼らを連れて帰れなければ来た意味がない」
「そっか、じゃあ作ろう」
リザードマンたちは薪集めなどを手伝うだけでなく、持っていた食材や器なども拠出する。
「お前たちの持ち物はこれだけだったのか」
驚いた真人とリザードマンたちは、料理が完成すると分け合いながら食べるのであった。
いつもの半分しかないご飯が終わってしまうと、真人は隊長リザードマンに話しかけた。
「武器は竹槍しか持ってないの?」
「襲撃が多く武器も減り、食料もこれでなくなった」
襲撃が多く? 襲撃する方じゃないのか?
真人は、最初に会ったリザードマンが見張りのために立っていたことを思い出す。
「ちょっと待って。襲撃に備えている見張りって、他にいるのかな?」
「いや。真人殿の指示により、仲間は全員集合させてある」
気がつくのが遅かった。
シャーシャーシャー
リザードマンたちが騒ぎはじめたのだ。
「真人殿いけません。漁村の連中の襲撃です」
「漁村? ヒタ村なら、一日じゃ着かない距離だと思うけど」
「あいつらは過去の襲撃で、俺たちリザードマンを恨んでいます」
遠征で夜襲とは、ヒタ村の人たちの執念がわかる。だが真人は、どうしていいかわからない。
「隊長、戦うのか?」
「真人殿次第ですが、相手には弓もあり被害は大きく出るかと」
逃げたいが、食料がないのに村から離れるわけにはいかない。しかし、戦えば村人が死ぬだけでなく、連れ帰るべきリザードマンたちも失ってしまう。
「真人、私も戦うよ」
「ミント……」
「真人が平和な世界から来たのは何となくわかるよ。でも生きてれば、やるかやられるかって場面はあるんだよ。言ったでしょ、私は死にたかったわけじゃない。でも、殺さないってことじゃないんだよ」
真人は、持っていた着替えなどの服を集め、造形を使ってフード付きの外套を作る。
そしてそれをミントに被せると、抱きしめて耳元で囁いた。
「ミントは見た目完全な女の子だし足も速い。戦闘が始まったら走って誰にも見つからないように逃げるんだ」
ミントは、抱きしめた真人を両手で押し返しこう言った。
「私は戦う運命なの。だから、真人のために戦うわ」
続けてミントは指揮を執る。
「隊長は部下を連れて、できるだけ木に隠れられる場所で敵を囲んで」
「副長は真人の護衛ね」
「私は敵の後方に回り込む形でかく乱するわ」
そして、戦闘が開始されるとミントの思惑通りになる。
リザードマンは正面を切って戦うことが普通であったため、ヒタ村の人たちは意表を突かれ何が起きているのかわからなかったのだ。
「撃て、撃て」
「撃てってどこにだよ」
弓の撃ちては、暗闇の木々に出入りするリザードマンに狙いが定まらない。
「後ろに影が! グァ」
後方の者は、バタバタ周りの者が倒れていく状況に恐怖を抱く。
「もうダメだー」
村人たちは混乱し、とうとう逃げ始める。
「シャー!」
隊長リザードマンの合図で、身を隠していたリザードマンたちは追撃を始める。そしてミントも、右往左往しながら剣を振る村民に串を投げ動きを止めた。
村人たちは次々と竹槍で刺され、その場で崩れるのであった。
リザードマンを失うことがなかった真人は、彼らと共にヒタ村に向かっていた。倒した村人たちから奪った食料や武器を持ってである。
「真人、もうすぐ着くね。本当に襲撃するの?」
「ああ、前の戦いでは全滅させたはずだ。やられたなんて知らせも来ていないだろうし、彼らはリザードマンが単純だと考え勝てると思っている」
「そうじゃなくて、今度はこちらから殺しに行くってことだよ?」
「わかってる。でも、『リザードマンの食べ物を分けてください』なんて言っても分けてくれないよね。それに、俺とミント二人で行ったところで、十八体分の食料を買う金なんてないよ」
「ごめん……覚悟はわかった」
「ううん。ミントも無理しなくていいからね。これは、俺が引き受けた仕事なんだから」
そして真人は、リザードマンたちに作戦を伝えると夜を待つのであった。
ガシャン! ゴロン! ガシャン! ガシャン! ガシャン! ゴロン!
夜の静けさの中、村の数か所で木が倒れたり転がったりするような音が響く。
「何の音だ?」
村人たちが家から出てくると、とめておいた荷車は壊され馬は逃げ出していた。
「どうゆうことなんだ」
そんな戸惑う村人が振り返った時、その者の前には剣や槍を構えたリザードマンがいた。
「っはぁ」
ザッ! グサ!
「キャアアアァーーー」
刺された男たちを見た女性が悲鳴を上げる。
すると何事かと、他の者たちも次々寝間着姿で家から出てくるのだが、リザードマンの姿におののき腰を抜かしてしまう。
シャ! スバ! グサ、グサ!
リザードマンの殺戮が続く中、叫ぶ者たちもいた。
「に、逃げろー。モンスターの集団が襲ってきたぞー!」
「キャー、こっちにもいるわ」
そして、小さな声でミントが真人に言う。
「こんなんで、逃げてくれる?」
効果はわからなかったが、二人は村人を煽る側に回っていたのだ。
村人は、普段馬鹿にしているモンスターとも気がつかず、闇夜に紛れた姿に怯え逃げ出していく。
「反撃する気になられても困るからね。少しでもモンスターを多く見せることと、逃げ道を示す必要があったんだよ」
「ふーん。ハルモニアに選ばれたのは伊達じゃないってことかな」
しばらくすると、村の中心部にいた真人のもとに隊長リザードマンがやってくる。
「村人は、殺すか村の外へ逃がすかしました」
「ごくろうさん」
「これからどうしますか?」
「まず、麻生地と革を集めて。それから、鍋とか鉄でできてるものもいるかな」
真人は、リザードマンたちにも麻生地でリュックを作り、革で水筒を作った。
「おお、これは便利ですな」
他にも、ミントに何人か部下を付け、魚で煮付けを作らせていた。
「真人、また缶詰でしょ」
「うん」
「汁をいっぱいまで入れて湯煎すればいいのね。でもさ、魚なら干せばいいんじゃないの?」
「完全に水分を飛ばせればいいんだけど、干した物だと一週間が限度じゃないかな」
「ふむ。それにしても、二人と十八体分の食料ってどれだけいるのよって感じだよね。馬車、全部壊しちゃったけどよかったの? 麦や米、重いじゃん」
「準備をする時間を稼ぎたかったし、逃げる人たちに馬車を使われたくなかったんだよ。それに、このあと街道を行くわけにはいかないからどっちにしても使えないよ」
食料などを集め終える頃には、水平線が赤く光っていた。
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