*22話 ピンク*

 朝日が昇る中、海辺を歩いていると鳥の鳴き声が聞こえてくる。


 クァクァ


「カモメかな」

「とりゃ!」

 真人がほのぼの見ていると、ミントが飛びつき捕まえた。

『調整!』

 真人は慌てて調整を使う。

「真人ぬるいよ」

「すいません……」


 クァ! クァ!


「なんだろ。カモメにも怒られている気がするんだけど、言わんとすることがわからないな」

 真人は、仕方ないかと造形のスキルも使う。

 カモメのくちばしは僅かに変形し体は二割ほど大きくなるが、今度は赤くはならなかった。

「どうしてくれるんだ。彼らがいなくなったら魚を奪えないじゃないか!」

 どうやらカモメは、漁師から魚を恵んでもらっていたらしい。

「何だ、この生意気な鳥は。串刺しにしてくれるぞ!」

 副長リザードマンがカモメを威嚇すると、ミントが偉そうに副長をたしなめる。

「まあまあ、副長。真人のスキルから、彼は逃れることはできんのですよ」

「でもまあ、そういうことかな。てなわけで、お友だち連れてきてよ?」

 真人がからかうように続けると、カモメは答えた。

「おいらに友達はいません。一匹オオカミなんです」

「ふーん」

 野犬や狐をオオカミと勘違いしたことはあったが、こんなところにいたのかと真人は冷めた目で見た。

 一方ミントは、相手にもせず付近にいたカモメ二匹を捕まえると真人のもとに連れてくる。二匹は思いっきり首を掴まれ、今にも折れるんじゃないかと思った真人が焦ってスキルを使う。

『調整!』『調整!』『造形!』『造形!』

「殺す気クァ」「殺す気クァ」

「真人。まだ、カモメいる?」

「もういいや。俺、徹夜で疲れたし。それじゃあ、出発前に休憩と朝ご飯ね。カモメたちは順番に周辺の見回りをお願い」

 真人は、カモメを偵察要員とするために喋れるようにすると指示を出し、比較的裕福そうな家のベッドで寝てしまうのであった。


 仮眠程度のつもりだったけど、もうお昼が近いみたいだ。

 真人は、寝すぎたのではないかと不安になりながら村の広場へ出向いていた。

「真人、もうみんなご飯済んでるよ。真人も早く食べて、出発の準備しなよ」

 ミントに急かされ、食事をとりながらリザードマンたちの持ち物を真人は確認していた。

 それぞれが食材や缶詰を持っているだけでなく、鍋やテントなどを分担して持っている。誰かに教わったようにしか思えない。

 しかし、不思議だとは思わなかった。何故なら、あれだけ腹を空かせていたリザードマンたちが倒した村人を食べなかったからだ。

 どういう形であれ、人が創造したに違いない。

 真人は、準備が終わると北西へ進むと告げた。


「クァクァ。周辺に異常はないよ」

 偵察に飛ばしているカモメは、ずっとこの調子である。

「真人、大丈夫?」

 真人は、女の子に心配されているのがちょっと恥ずかしかった。だが、リザードマンたちと会った南とは違い、道のりは木々がうっそうと茂り高低差が激しく疲労が溜まりやすい状況ではあった。

「湧き水とかはありそうだけど、この勾配はきついな」

 真人は、商工会のアルバートから豊かだと聞いたヨルダ村を目指していた。モンスター探しをするだけでなく、食料が補給できる場所をつなぐ必要があったからだ。

「戦えそうな動物とか、前世代のモンスターとかいないかな」

 ぼやく真人にミントが答える。

「期待できないんじゃないかな? シビルの町の様子だと、よっぽどいないんだよ。リザードマンたちに会えたのも彼らが逃げ惑っていたからだし」

「でも、どこかにゴーレムもいるはずなんだ」

 そんな話をしている二人のもとに、戻ってきたカモメの一体が報告をする。

「向こうに、石で出来た建物が見えるよ」

「よし、行こう!」

 真人は威勢良く声を出すが、カモメの言う方向が尾根の向こうであったため登らないといけないのかと本心では嘆いていた。


 山頂まで登ると、カモメの報告どおり見渡す限りの森の中に遺跡が見える。

「クァクァ。追伸、遺跡周辺に人影なし」

「襲われたりする心配はなさそうだけど、今度は降りないといけないのか」

「もう、真人ったら。でも、あそこならゴーレムがいるかも知れないよ」

 ピラミッドのように石を積んで建てられた様子は、ゴーレムがいるには最高のシチュエーションだと真人も思った。


 いくらもせず遺跡に辿り着くと、真人たちは低木の裏に隠れ建物の様子を伺っていた。

「正面中央に入り口があるけど、罠があるかも知れないから迂闊に近寄れないな」

「待って真人、誰か出てくるよ」

 白いローブに杖と、誰が見ても魔法使いだよなと真人が思っていると、


『ファイアーボール!』


 その者は、真人たちの隠れていた草むらに突然火の玉を放った。

「うお! た、退避」

 いきなりの攻撃に二人は、草むらを飛び出しその者の前に姿を現してしまう。

「あら? 人間」

「いきなり何をするんですか!」

「オオカミか何かかと思ったのよ。でも、そんなところに隠れて見ていたあなたたちが悪いわ」

 真人は、「おめえも人間だったのか」と言い返したかったが、それよりも「白いローブのくせにファイアーボールなんて使うんじゃないよ」と言いたかった。

「隠れていたのは、こちらもモンスターなどを警戒していたからです。俺は、利根真人といって旅をしている者です」

「ミントです」

「私は、新発田しばた桜子さくらこよ」

 真人は、名前から桜子も転移者かと思ったが、ボブショートの髪も目もピンク色なのがわからない。

「新発田さんは、魔法が使えるんですね」

「だって、あなたと同じで転移者だもの」

「やっぱり、俺が転移者だってわかりますか?」

「そりゃ、この世界の人たちは、リザードマンなんて連れて歩かないですからね」

 草むらから、リザードマンたちがこちらを見ている。

「なるほど。俺のスキルは造形と調整って言って、動物を改造したりモンスターを配下にしたりできるんです」

「へぇ、便利ね。私のスキルは攻撃魔法と補助魔法よ」

「補助魔法?」

「防御力アップとかね」

 真人は、ミントと大して体格が変わらない桜子が、森の中に一人でいたことに納得すると同時に考えた。


 彼女がリザードマンを恐れない理由はわかったけど、スキルを持つ者は全員転移者ってことなのかな? シビルの薬屋で買った本に買い手がつかなかったのは、求める技術がスキル由来だったからだとしたら利用できないのだから売れないのもわかる。

 大切に抱えているミントも、簡単な部分しかわからないみたいだし……。

 あれ? エレクトラは、ミントの力を見てスキル持ちだって言ってたよな? ミントも転移者なのか? それともその力は転移スキルではなく、ゾンビというモンスターだから持っているものなのか?

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