*36話 リザードマン*
三人の連携にミントは苦戦をしていた。
「いけない。これじゃあ持たない」
一方で、ミントの援護が得られないオークたちも次々に倒されていく。
近接の二人も強いけど、あの魔法使いがいるせいで距離が取れない……。
これじゃあ、下がるのも厳しいか。
『造形!』
声が響くと、付近の建物の壁が崩れその建物が道に倒れていく。破片や土煙で兵士たちの動きが止まと、ミントとエレクトラの声が重なった。
「「バカなの?!」」
「エレクトラ! 何故俺たちと戦う?」
大声で叫ぶ真人に、エレクトラは答えた。
「服がないだとか、本を買うだとか言って、本当に馬鹿じゃないの? あのね。その子ゾンビなんだよ。死んでるの? わかる?」
「なんでそんなこと言うんだ。力を合わせて一緒にやってきたじゃないか」
「報酬のためにやってただけでしょ!」
「なら、なんで嘘をつく必要がある? 雑誌とかゲームとかも知ってたんだろ? あの子が鬼じゃなくてロボットだって言うことも。報酬が目当ての転移者だって、最初から言えばよかったじゃないか?」
「笑わせないでよ。そんな弱みを握られて、あんたみたいなおっさんと二人きりでいられるわけないでしょ。それに、こっちの世界は不便だわ。暑いし寒いし、水道も電気もない。チン! なんてないんですよ。真人さん!」
二人が口で言い争ってるあいだも、ミントは攻撃をされていた。
「ミント!」
「真人さん、終わりですよ。モンスターは勇者に倒されるんです!」
「真人。あの魔法使いがいる限り、遠距離攻撃があるから逃げられないよ」
苦戦するミントは、続けて真人に言った。
「逃げて……」
「そんなこと!」
立ち尽くす真人に、エレクトラは笑ってから切りかかる。
「真人さん。異世界にもあの世があるなら、ミントとまた会えるといいですね」
『サンダーアロー!』
ジャキン!
「電撃魔法?」
「久しぶりね、エレクトラ」
「桜子!」
「あら、年上には“さん”を付けるべきよ。それから真人さん、動かないように言いましたよね?」
「ああ、すまない」
「ですが、ミントが助かったみたいなので、今回は多めに見てあげます」
二人の茶番に、さすがのエレクトラも怒りを露わにする。
「知佳さん、援護して。私が行くから」
「で、でも」
「何よ?」
「あの人たちも転移者ですよね?」
「トムの仇は討たなくていいわけ?」
「そうは言いませんけど、なんかおかしくありませんか?」
知佳の動きが止まり、翔とミントも睨み合ったままだ。
「あなたの言う通りよ」
迷う知佳に、桜子が話しかけた。
「私たちも転移者。そして私とエレクトラは、過去に同じ勇者のパーティーで戦った仲間だったのよ」
これに、知佳だけでなく翔も動揺する。
そして、すべてが止まったその時だった。
「退路を確保する。空撃せよ!」
真人の言葉に、トンビたちが飛来し石を落下させる。
頭を押さえる者、建物に逃げ込む者、兵士たちが右往左往する中、翔と知佳も石を避けようと後ろへ下がる。
「うぬぬぅ……」
悔しがるエレクトラを置いて、ミントと共に真人と桜子も退却した。
真人たちは、北上すべくガレンの出口へ向かっていた。
「クァクァ、トンビたちが弓で殺されちまったよ」
カモメの報告を聞くと、真人についていた副隊長リザードマンが進言をした。
「真人殿。相手は立て直したようです。この調子では、すぐに追っ手が来ます。ここは我々にお任せください」
「クァクァ、勘弁しろよな」
「うるさい、お前らも来るんだ」
真人は迷わなかった。
「わかったお願いする」
残されたモンスターたちは、街道へ続く門を塞ぐように仁王立ちした。
「モンスターたちが列になって道を塞いでいます!」
伝令兵が、異様な光景を小隊長に報告する。
「相手が動いていないなら簡単な話だ。こちらも隊列を組んでかかればよい」
横一列つに並んだ王国兵槍隊が、列を崩さず直進する。
グサ! グチャ! グチャグチャグチャ!
リザードマンたちは刺された槍を掴み、そのまま黙って兵士たちを睨みつけている。
「何をやっている! 早く退かせ。進めんだろ?」
小隊長が怒鳴りつけるが、兵士たちは動くことができなかった。
「クァ、全滅したよ。みんなやられたよ」
一体のカモメが、シビルの町に向かう真人のもとに戻ってくる。
「残ったのはお前だけか」
「クァ」
「追い付かれるでしょうか?」
心配そうに聞く桜子に、真人が尋ねる。
「桜子は、ここから北西の森にあるログハウスを知っているかな?」
「いえ、知りませんけど」
「もうシビルに行ったところで何もないし、そこに戻ろうと思うんだ」
「それは、どんなところなんですか?」
「俺が最初に転移された場所で、エレクトラもそこで紹介されたんだ。寝る場所とお風呂ぐらいしかないけど、他に雨風凌げる場所知らないしさ」
「わかりました。食べ物はありますし、とりあえず向かいましょう」
真人たちは街道を離れ、森を突っ切ることにした。
「私がちょっと前を歩くから、真人と桜子は離れてついてきて」
知らない場所だからと、ミントが先導を買って出る。
「真人さん、これで少しは兵を撒けますかね」
「国王軍にエレクトラがいる限り、いつかは来るだろうけどね」
「ところで今から向かうログハウスの話ですけど、ミントさんの召喚もそこで行われたんですか?」
「そうだよ。エレクトラが何も知らない振りをして、鬼を召喚するって言って」
「鬼、ですか? 本当に鬼じゃないですよね?」
「俺には人に見えるけど」
「ええ。私もそうとしか思えないのですが、だけどエレクトラが人を召喚すると言うのがわからないんです」
「そういえば遺跡で会った時、その話で驚いていたよね?」
「覚えてましたか? 実はその、やっぱり召喚ができれば、それで人を移動させればいいじゃないかと考えた者が過去にいたわけですよ」
「え! 嫌な予感しかしないんだけど」
「はい、そうなんです。召喚された人は死にました」
「ぐちょっとなったんだね」
「そうです。ミントもぐちょっとなったのですか?」
「いや、なりそうだったんで、慌てて造形を使って今の姿に」
「なるほど、手術するみたいに治せるんですかね?」
「いや、違うだろうね。それなら調整も人に使えるような気がするし」
「では、彼女は転移者ではなくモンスターですか?」
「正直、俺にはどっちでもいいよ。子供みたいなものだから」
「ひょっとして、あっちの世界にもお子さんがいたんですか?」
真人は苦笑いをし首を振った。
「いやいや、いないよ。ずっと一人だったし、それでいいと思ってた。今でも、それでいいと思ってるよ。でも、」
「でも?」
「こうなったからには、できるだけのことはやるよ。エレクトラにも事情があるとは思うけど、ミントを守るためなら譲るつもりはないから」
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