ダークファンタジーは萌と共に

＊10話 青い狐＊

　いきってる狐に、ミントは容赦なく飛びかかり間合いを詰めた。

　それに対し狐は、持った方と反対側の棒をしならせるように振り下ろし近づけさせまいとする。

　ミントは、右上半身を引きかわすと、左手の手の平を張り手のように突き出す。

　すると狐は、振り下ろした側の棒を反対側の手で受け止め持っていた方の棒を離し、反動を利用してその離した棒をミントの左手の下へ回り込ませる。

「痛っ！」

　下から回り込んだ棒が、突き出していたミントの左手に当たる。

　顔を歪めミントは、再び後ろに跳び距離を取り直した。

「ミント！」

　真人が、ミントより痛そうな顔をして心配する。

「大丈夫。ビックリしただけ。でも、許さない」

　タッタッタッタッタ

　ミントは、怯むことなく狐に向かって走り出す。

　狐はまた、上から振り下ろすようにヌンチャクを振る。

　パチン！

　振り下ろしてきた方をミントは手ではじくが、狐も体をしならせヌンチャクを引きコントロールを取り戻す。

　そして、先ほどとは反対側下方からヌンチャクを回し胴を狙う。

「あまい」

　ミントが体のラインと軌道を合わせ逸らすので、かわされたと思った狐はヌンチャクを引こうとする。しかし、ミントはその一瞬を逃すことなく脇を絞めた。

　このときの狐には、ヌンチャクを両手とも離すという考えは浮かばなかった。

　動きも止まり、距離も取れない。

　そんな狐に、容赦なくミントはパンチをした。

　ボン！

　ヌンチャクをつないでいた紐は切れ、狐は飛んで行く。

「ガァ！」

　……うん？

　ミントは不思議に思う。

　狐は目の前を転がって行ったのに、後ろから声が聞こえたからだ。

「わっ！」

　ミントが振り返ると、真人が倒れていた。

「もう、なんで盾持ってるのよ」

　ミントは、横で呆れるエレクトラと倒れている真人を交互に見る。

「あなたが持っていた方の棒が、切れたときこっちに飛んできたのよ」

「いてててて……」

「真人、平気？」

「うん、ミント。狐は倒せた？」

「あっちで転がってる」

　狐は、びくともしていない。

「屍になってしまっては、真人さんの造形も調整も使えませんね」

　エレクトラの言葉は厳しかったが、倒せばよいというものではないとわかったことは三人にとっていい経験だったと真人は思う。

「ちょっと早いけど、移動して野営できそうな場所を探そうか」

「そうですね。真人さんの手当てもしたいですし」

　狐の近くが嫌だった三人は、野営できそうな場所に移動することにした。

「私が治療する」

「そうですか？　それでは私は夕飯を作るので、真人さんのことは頼みましたよミント」

「うん」

　エレクトラが料理をする横で、ミントの治療が始まる。

「コネコネ」

「ミント、なにが入ってるの？」

「ビワの葉っぱとジャガイモと小麦粉」

　聞きながら真人は、服をめくり当たった左肩を見る。

「腫れあがってるな。ところでそれは、あの本に載ってたの？」

「うん……それより真人、服に付くと洗うの大変だからちゃんとめくって」

　ミントは空返事をすると、綿生地にできた薬を塗り腫れた場所に勢いよく貼った。

「ガァ。もうちょい優しく貼ってよ」

「だって、エレクトラの手伝いもやりたいし」

　ミントはさっさと片づけると、焚火の用意をしに行くのだった。

　日も落ち月が光る中、三人で鍋を囲む。

「ごめんね。肩がこれでまた迷惑かけて」

「本当ですよ。戦ったのはミントなのに、何で真人さんが怪我をしているんですか」

「いや、全く。それよりもミントは、野犬のときに続いてまた敵を吹っ飛ばしていたね。そんな小さな体のどこにパワーがあるのかと思っちゃうよ」

　ミントは胸を張るが、パワーを自慢しているのではなく小さくないと言いたいらしい。

「真人さん。ミントのそれ、スキルですよ」

「えっ！」

　エレクトラに言われ、真人はそういえばと思う。

　確かに、薪を運ぶもの井戸水を汲み上げるのも異常に早い。鍛えている男でも、あれだけやれば苦のひとつやふたつ表情に浮かぶはずだ。

「ミント。スキル、なの？」

　真人は直接聞く。

「うーん。たぶん」

　たぶん？　本人もわからないのか？

　パンチしたりヌンチャクをかわしたりしてたけど、それが戦闘スキルなら薪や水を運んだりするのは無理のような気がする。一体、どんなスキルなのだろうか。

　真人は、他の形で聞いてみることにした。

「野犬をパンチで倒したからグローブを作ってみたんだけど、剣とか弓がよかった？」

「問題ない」

　いろいろな武器を用意する余裕はない。

　だから真人は、具体的に言ってもらいたかったわけだが、そもそもスキルを知らないのだから無理かなと諦めようとしたときだった。

「真人さん。力があるなら石とか投げたらどうですかね？」

　得意か不得意かはともかく、うまく扱えれば離れて戦える。

　エレクトラの提案に、真人は食べるのを中断し準備を始めた。

「ちょっと待ってね。的を造形するから」

　薪から的を作り、離れた木の枝にぶら下げる。

「えい！」

　ヒュ！　コロコロ……

　可愛い、じゃなかった。

　真人は、ミントが手を振り下ろす姿を見て指導する。

「もう少し大きく振りかぶらないと勢いが乗らないかな」

「うーん」

　ミントは不満そうだ。

「手首で投げたにしては十分届いてましたし、こちらを投げさせてみたらどうでしょうか？」

　意外によく見ているエレクトラは串を取り出す。

　それは、魚を焼くためにと真人が作ったものであったが、アニメのように釣る場所などはなく余っていたものであった。

「えい！」

　ポン！

　串は、的の中央に当たった。

　真人はそれを見て、ミントが不満そうにしていた理由がわかる。

　肘を動かさないで手首で投げ、当てに行ってたのか。だけどこれ、ミントじゃなければ的まで届かない投法じゃないの？

「す、すごいけど、これでいいのかな」

「いいんじゃないですか真人さん。あんなの食らったら、モンスターでもただでは済みませんよ」

　エレクトラの言葉にミントも頷いている。

　間接攻撃ができるのはいいことだよな。

「そうだね。じゃあ、投げやすい串を考えなきゃね」

　真人はそう言うと、残りのご飯をかき込むのであった。

　真人たちはその後も、ログハウスから近い場所で冒険を繰り返していた。

「調整！」

　こうして、捕まえたモンスターを連れて帰りハルモニアに渡せることは、召喚役のエレクトラの負担を大幅に減らすことになった。

　そして、ミントも力の加減ができるようになっただけでなく、串を投げエレクトラが張った網に敵を誘導することも覚えたのである。

「調整も一度使うと解けないみたいだし、エレクトラも捕縛だけなら連戦でいけるよね？」

「そうですね。この連携ならサクサク捕まえられそうです」

　森、丘、川沿いなど、真人たちは次々にモンスターを捕まえていった。