第四章

*34話 復興への道*

 翔が王になってから二か月が過ぎていた。

 しかし、復興事業はいくらも進んでいない。それは、城内でもたくさんの者が亡くなり実務ができる者が減っていたからだ。

 変わったところと言えば、反乱で主導的な立場にあった翔の前からのお供たちが政治に加わったことぐらいである。


 そんな状況の中、翔の部屋に知佳たちが集まっていた。

「やっと瓦礫の処理が終わって復興が始まるが、こんなに破壊行為が行われるとは」

 軍のトップになっていたトムが口を開くが、彼はこんなやり方でよかったのかと疑問を抱いていた。

「でも、トムさんが来てくれなければ私はずっとひとりぼっちでしたわ」

 剣士として、トムをサポートしているエレクトラが仕方がないとばかりに言う。

「私もあの時はMPを気にして回復に回らず攻め続けたけど、そこまでする必要があったかなって考えることはあるよ」

「知佳さんは優しいのですね。私も前は召喚術士でしたからわかります。術が続けて使えなくて困ったことも」

「うむ」

 二人の悩みに翔は、すっかり王のようなため息をついた。

「ねえ、翔。カルデ町の人々は疲れているようだけど、何か対策をした方がいいんじゃないの?」

 知佳の話に続き、トムも同じようなことを言う。

「この町だけではなく、翔王に手を貸した村人たちも利なく不満が募っているようです。王都の被害が大きすぎて物資の流通量が減ったことが問題かと」

「うむ」

 ため息をつくだけの翔に、エレクトラが提案をした。

「港町ガレンを奪還しましょ。北の大陸と交易が再開されれば、翔王ここにありって宣伝になりますよ」

 これにはさすがのトムも反対する。

「いや、エレクトラさん。予算や人員を考えると厳しいですよ」

「あら、でもトムさん。市民は盛り上がれるイベントを期待していますし、それに兵にはガレンから逃れてきた者もいるでしょ。奪還すれば、仲間をやったモンスターたちを倒してくれたと感激するはずよ」

 エレクトラの理屈にトムが困っていると、知佳も反対だと意見を表明する。

「一時的な盛り上がりはあるかも知れないけど、復興が遅れないかな? それに、もう人が死ぬのは嫌なんだけど」

「確かに、人手とお金がかかるので復興自体は遅れると思います。しかし今の問題は、もう精神的にやる気が失せてしまっていることなのです。人が死ぬことについてはあると思いますが、相手は少なくともモンスターです。ここを攻めたときとは違いますよ」

 三人が翔の方を見る。

「僕は……。文官たちにも聞いたらどうかな? 復興の実務とか予算管理とかも彼らの方が詳しいだろ?」

「翔さん! それはいけませんよ」

「えっ、どうしてですかエレクトラさん?」

「彼らは事なかれ主義なのです。予算を付けてやっておくようにと言うだけの仕事がしたいのです。『どうしよう?』などと相談をしたら、楽な方を選ぶに決まっています」

「う、うん」

「いいですか? 彼らに人と予算を用意させるのが王の仕事なのです。ほとんどの者は前の王に世話になったと思っていて、翔さんに力を貸そうとは思っていません。ここで王の威厳を見せて、時代が変わったと理解させるべきなんです」

 翔は、自信がなくなってきていた。

 まだ二か月なのに、人々はもう支持をしてくれない。

 そんなに早く町が直せるわけがない。村々の商品が急に売れるわけがない。

 なのに、反乱に加わった者たちは自分たちが何もやっていないと騒ぎ出している。

 そして、何をやるにも文官に相談しなくてはならない。

 周りにいた人たちは戦闘はできてもこの世界の政治を知らない。

 文官の彼らが言えばそうなのだと、戦った相手なのに従うしかない。

 翔は決断した。

「たまには戦わないと腕が鈍るよな」

 トムと知佳は目をむき驚き、エレクトラは頷く。

「チートの力、見せてやるぜ!」

 翔は意気揚々と玉座の間に向かうと、予定されていた報告会で宣言をする。

 もちろん、並ぶ文官たちは反対をしたが、これをあしらって途中で止めさせると自分の立場を確信し小さく頷くのであった。


 船団は穏やかな波に追い風を受け、まさに順風満帆であった。

「天気が良くて最高だな」

「何よ翔、能天気ね。それより、王自ら来てよかったの? トムさんに任せてもいいのに」

「肩身が狭いから居たくなかったんだよ。でも、これで大きな顔をして帰れるな」

「ええ? まだ戦ってもいないのに」

 二人のもとに、トムがやってくる。

「勇者様、見えてきました。あそこが港町ガレンです」

「よーし、待ってろよ。モンスターども」


             ******


「真人真人。大船団が見えるよ」

「ありゃ、これはカモメを偵察に出すまでもなく軍隊だな」

 丘に陣を敷いてから三か月。

 残っていた兵士たちも二か月前に引き上げていたので、真人たちは町の出入りも自由にでき何も困らず待ち構えていた。

 しかし、予想以上の数に丘で戦うことをやめる。

「あの数じゃ、上陸されたら厳しいな。包囲を避けるためには町で戦うしかないか。とりあえず、リザードマンとオークを前にして桜子は後ろから援護で」

「私は、前に出てかく乱するよ」

 ミントの言うようにかく乱は必要であった。それは数か違いすぎ、モンスターだけではどれぐらい戦えるか微妙であったからだ。

 しかし、丘を捨て市街地戦にした時点で勝利はできないという意味であったので、真人はミントを前に出したくなかった。

「ミント、無理するなよ」

「大丈夫。真人と違って戦闘能力があるから。それに、ちょっと前のこと思い出して、戦い方もわかってきたし。あとこれ。二人に渡しておく」

 ミントは、真人と桜子に回復薬の入った小瓶を渡す。

「町で手に入ったもので何とか作った。効果は高いけど一個ずつしかないから」

「ありがとうミント」

「ごめんねミント。私が回復魔法を使えないばっかりに」

「それじゃあ、移動しよう」

「待ってミント」

「何? 真人」

「持てない分の物資は燃やしておこう」

「そっか。わかったよ。彼らにまとめさせるからあとは桜子に任せる」

「わかりましたよー。全部焼いちゃいます!」

 ミントの指示でモンスターたちが物資を集めると、桜子は魔法で焼いてしまうのであった。


             ******


「翔王、見てください。丘の上から煙が上がっています」

「トム隊長あれは?」

「わかりませんが、町の人々がわざわざ煙を出す必要はないかと」

「じゃあ、モンスターたちがいるんだね」

「恐らく」

「では、戦闘の準備を」

「はい。翔王」

 その時、端の方を行く船が大きく鈍い音を立てた。


 ドーン


「どうした?」

「トム隊長、あの船です!」

 船員が指さすその船は、浸水したのか傾きだしている。


 ドカーン


「またか?」

 その隣の船も、音と共に大きく揺れ動く。

「魔法? 違う、クジラか!」

 クジラが、海面から少し背を出し潮を吹いている。


 ドーン ドカーン


「なんだ! 何匹いるんだ? いや、それよりも何故次々と船に当たってくるんだ?」

「落ち着いてトムさん」

 手の内を知っていたエレクトラは、わざとらしく説明をした。

「あれは敵の能力なの。旅をしていたときに聞いたことがあるわ。動物などをモンスター化し操る魔王の手先がいるって」

「なんと!」

「ヨルダ村で豚が消えたって話も聞いたでしょ? それを考えてもそいつがいるに違いないわ」

「では、」

「ええ、上陸するしかないわ。数ではこちらが上に決まっていますもの」

 私がいなければ数は確保できない。

 そう自信があったエレクトラは、心で笑った。

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