*29話 利益*
「まずはミント、薬屋のクリフの爺さんのところだな」
「売れてるといいね」
「こんにちは、お久しぶりです」
「おお、来おったな」
クリフの感じから、真人は儲かっていそうな空気を読み取る。
「どうですかね? 預けてる商品、売れました?」
「あいよ!」
クリフは、真人に金貨五枚を渡した。
「こんなに?」
「いや、お前さんたちから預かったのは幾らにもならんかったな。まあ、先渡しした薬代で相殺ってところじゃ」
「じゃあ何で?」
「それがじゃな、ヒタ村から逃げてきた奴らや兵士に薬が飛ぶように売れてな、いやー、久々に忙しかったぞい」
「いいんですか?」
「ああ、困ってるんじゃろ? もってけ。そうじゃ、それでな、宿屋のグレイスからお前さんたちに会ったら来るように伝えろと言われたぞ。なんじゃ、知り合いじゃったのか?」
「うん、友達」
ミントが頷いた。
「知ってたら売り物をもっと置いてやったのに」
「いえ、助かりました。今日は売る物を持ってきていませんので、またある時はお願いします」
「あいよ」
二人は薬屋を出ると、早速宿屋に向かった。
「いらっしゃーーーって、ミントに真人さんじゃないですか。ちょっと待っててくださいね」
受付にいたグレイスは、お父さんに代わってもらうと真人とミントを部屋まで案内する。
「今日はこの部屋を使ってくださいね。あと、会いたがってる人がいるんですよ。呼んでくるので、もっかい待っててください」
グレイスはまた、真人たちの返事も聞かずに出て行ってしまった。
「真人、グレイス慌ただしいね」
「うん、呼んでくるって、兵士とかじゃないよね?」
タッタッタッタッタ ガチャン!
「はぁはぁはぁ、呼んできました」
「そんなに急がなくても……」
「いえ、真人さん。いなくなられては困るので」
真人が嫌な予感しかしないフレーズだと思っていると、続いて入ってきたのは商工会のアルバートであった。
「旅は無事に続けられているようですね」
「はい、おかげさまで」
真人がテキトウに答えると、アルバートは真面目な顔で意味深そうなことを言い出す。
「遠回りな話はやめませんか」
「と、言いますと」
「真人さんたちは、ヒタ村、ヨルダ村と回って村を襲われたんでしょ? 大丈夫です。兵士たちは皆、港町ガレンへ行ってしまいましたから」
「何を言っているんですか? それに村が襲われたのなら、何故兵士たちはこの町を守らないでガレンへ行くんです?」
「それは我々シビルの商工会が、この町を戦場にしたくなかったからです。そして、ヨルダ村の戦いから逃げてきた彼らも戦いたくなかったのです」
町を守らないことが互いの利益だって?
逃げたい兵はともかく、それを確信している商工会は話し合いでモンスターが攻めてこないと考えているということなのか? つまり、話が通じる相手がいるとわかっている?
真人はそう受け取り、商工会は自分が襲撃したという証拠を何か掴んでいるのだと推測した。
「真人さん。ヒタ村では、缶詰なるものを作っているモンスターを見た者がいたそうです。正確に言えば、それが缶詰だという物とわかったのはグレイスから聞いたからです」
この世界で缶詰は、実用新案出願よりも特許を取っておくべきぐらい特別なものである。
真人は観念すると、グレイスの方を見た。
「何ですか! 私、悪くありませんよ。すごいなと思って商工会の人に話したら、そのあと真人さんが村を襲うからこんなことになるんじゃないですか」
「だから見たらダメだって言ったのに……」
「真人、今更言っても遅いよ」
みかんで釣られたミントが慰める。
「それで、アルバートさんはどうしろというのですか?」
真人が要求を尋ねる。
「私が商工会との窓口になって真人さんを支援いたします。もちろん全て非公式な話です」
「でしょうね」
「その陰ながらの支援の対価として、町を襲わないでいただきたいのです」
シビルの町はこれまでの村とは規模が違い、今のモンスターの数では占領ができない。それに、地域産業の拠点になっているので壊してしまうと経済が混乱し奪う物資がなくなってしまう可能性がある。
どのぐらいの支援が得られるかはわからなかったが、真人にはこの取引に応じる道しか残されていなかった。
「わかりました。その話、受けましょう」
「ありがとうございます。では、私は商工会へ報告に戻りますので」
アルバートは部屋を出て行った。
「と、言うことで、今日は真人さんお泊りですね」
「ああ。そうだグレイス。もう一人連れがいるんだ。別に一部屋用意してくれ」
「もう一人ですか? 女性ですね!」
「どうしてわかる?」
「だって、真人さんが男性をパーティーに入れるわけないじゃないですか!」
「そうなの?!」
グレイスの見解にミントが驚く。
「違うよミント。たまたま女性だったの。あと、宿代も商工会が払ってくれるよね?」
「さー。まあ、払ってくれるんじゃないですか? それじゃあ一部屋押さえておきますね」
勘のよいグレイスは受付へ戻って行った。
「真人、桜子が女の子だから誘ったの?」
「違うよ。それより南門まで桜子を迎えに行こ」
今夜三人は、宿屋でゆっくり寝られるのであった。
真人たちは、港町ガレンへ向けて移動を開始していた。
「今回は缶詰作りがなかったから、真人もゆっくり休めたでしょ?」
「うん。街道を進んで真っすぐだし、物資が貰えたからガレンまでなら十分だよ。まあ、ほとんど消費してなかったこともあるけどね」
ミントと真人の会話を聞いて、桜子が疑問に思う。
「でしたら真人さん。何故、缶詰なんて面倒なもの作られたんですか?」
「本当は、モンスターを探してもっと人里離れたところへ行くつもりだったんだよ。だけど、リザードマンたちを抱えて食料不足に」
「そんなこと、事前にわかりそうですけど……」
「それがさ、俺も気になってるんだけど、ハルモニアがモンスターを取りに来ないんだよね」
「ひょっとして、勇者が死んでモンスターがいらなくなったとか?」
「桜子、それはないよ。勇者の戦うところを見に行ったことがあるんだけど、チート級の強さで熊や鹿を倒していたから」
「後ろに、回復もついてた」
「そそ、ミントの言う通り」
「へぇ。なら真人さん、他にもモンスターを作れる人がいて、クビになったんじゃないんですか?」
異世界に来ても職を解かれるのかよ。
これじゃあ、チートじゃなくて異世界でもニートでしただよな。と、真人はオヤジギャグを言いたくなる。
「真人さん、どうしました? そんなに深刻そうな顔をして」
「いや、異世界に転移しても不幸なままってあるのかなと思って」
「ああ、それは価値観の違いってやつじゃないですか?」
真人が桜子に、二十三で転移してくるお前の価値観は何なんだと聞こうとしたときであった。
「クァクァ、海が近いよ。でもトンビがいるよ」
偵察のカモメが騒ぐ。
「と、いうわけで、桜子頼むわ」
「もう、人使いが荒いですね。ええ、わかりましたよ。町を偵察してこればいいんですね」
桜子を先行させた真人とミントは、モンスターたちと街道を逸れ隠れることにした。
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