*16話 スキル*
「特に何もない村ですし、少し離れたモンスターがよく出る場所を見ていただこうと思うのですが」
どう見ても年上のトムに丁寧な喋り方をされ、翔と知佳は困惑する。
「そんなに気を使わなくても結構ですよ。それよりトムさんは、弓矢を使うんですか?」
出発時、トムは弓矢を装備していた。
「ええ、村では弓使いとして皆にも教えています。基本狩りの仕方ですけど、戦闘のやり方も必要なら教えます。あとこれ、矢の改良なんかもしてますね」
火矢や毒矢なども作り使い分けると聞いて、体の割に器用なんだなと翔は関心する。
「トムさんだけでも戦えそうですね」
「いえいえ、とても勇者様には及びません。しかし、共に戦わせていただきます」
トムが気合の入った返事をしたとき、向こうからフラフラと歩いてくる者がいた。
「ねえ翔。あれ、人じゃない?」
「ほんとだ! トムさん、行きましょう」
「はい!」
三人が駆け寄ると、安心したのかその女性は崩れるように倒れそうになる。
「おっと、危ない」
トムが、大きな体で抱きかかえる。
「どうした、魔物にでも襲われたのか?」
そのまま体を揺すり尋ねるが、女性は意識をなくしているようである。
「ちょっといいかな?」
知佳が、回復魔法をかけた。
「うーん、起きないね。怪我も見当たらないし、疲労?」
「ええ? 知佳の魔法って、疲労は回復しないの?」
「いや翔、いままで散々あなたのこと回復してきたよね」
「うん。でも、意識失ったことないし」
「まあそうだけどさ」
「勇者様、いかがいたしましょう?」
「そうだね。仕方がないから宿に行こうか。彼女もそこに連れて行って様子を見てみよう」
「わかりました。ご案内いたします」
三人は下見を中止し、先に宿へ向かうことにするのであった。
翔と知佳が部屋で休んでいると、トムが慌ててやってくる。
「女性が意識を取り戻しました。お会いになりますか?」
別の部屋で寝かせていた女性が起きたと聞き、二人は話をしてみることにした。
女性はベッドの上で体を起こし、足にはシーツをかけている。
「そこの方から聞いています。助けていただいたそうで、ありがとうございます」
ベッドの女性が、ついてきたトムに目をやってから翔にお礼を言う。
「いや、トムさんが運んでくれたんですよ。僕は何もしていません。それに勇者として当然といいますか」
「まあ、勇者様なんですね」
女性が体の前で手を合わせ喜ぶので、おだてられた翔はニヤっとする。
うん?
知佳は、眉間にシワを寄せる。
そんなことに気づきもしない翔は、優しく女性に問いかけた。
「あんなところを一人で歩いてるなんて、何があったの?」
「えっと、よく覚えてなくて……」
「あの辺り、モンスターが出るって聞いたから襲われたんじゃないかと思って心配したよ」
「勇者様は、本当にお優しいのですね」
翔のニヤニヤが進行する中、知佳が質問をする。
「モンスターもそうだけど、あなたのような美人が一人で歩いていて何もないとは思えないんだけど」
「知佳! そんな言い方したらダメだよ」
翔が止めようとするが、知佳は構わないで続ける。
「あなた、戦う方法を持っているでしょ」
「えっと……」
女性は外に目をやってから、翔たちの方へ向き直すと言った。
「召喚術が使えるんです。あ、でも、荷物とかを転送できるだけで、人の移動とかはできません」
「そう」
知佳は冷たく相槌を打つと、トムに喉が渇いたからみんなの分の水を用意してほしいとお願いする。すると承知したトムは、準備のために部屋から出て行った。
「さて、人払いも終わったところで単刀直入に。あなた転移者ね?」
少し目を大きくして驚いた女性は、なるほどと気づき名乗ることにした。
「ええ、私はエレクトラ。召喚術と捕縛というスキルを使うわ」
翔が横で、なんでわかったのとキョロキョロしている。
「失敗したわ。そっか、勇者なんて聞いてすぐ信じる人はまだそんなにいないのね」
「ええ。そして召喚術と聞いた時に、それがスキルだと確信したわ」
「どこまで知ってるの?」
「女神は、私のスキルを攻撃魔法と回復魔法、翔のスキルを剣技と盾技と説明して消えたわ」
「やはり、あなたたちもスキルは二つなのね」
「あなたたちも?」
「私が会ってきたスキル持ちは、皆、二種類持っていたから」
「僕はチート能力があるから二つでも困らないけどね」
話の腰を折る翔を無視し、知佳は本題に入る。
「それでエレクトラさんは何で私たちに近づいてきたのかしら?」
「何でって、転移者ならそれしかやることがないでしょ? 勇者がいるって聞いたから、仲間にしてもらおうと思って探していたのよ」
エレクトラは、正体がバレてからというもの不愛想だ。
「それなら普通に頼めばいいじゃない?」
「別に、芝居で倒れそうになっていたわけじゃないわよ。近くにいると聞いて探していたらそうなっただけなんだから」
「まあまあまあ」
翔が割って入る。
「いいじゃない。召喚術を使えるならエレクトラさんも一緒に行動するってことで」
「でも、」
知佳は賛成ではないようだ。
「ほら、宇野さんも、仲間は多い方がいいって言ってたじゃん」
「いや、宇野さんも、いまじゃ信用できないけどね」
ここでトムが、お盆にコップを五個載せ戻ってくる。
「ありがとうトムさん」
「いえいえ。それで知佳さん、何か聞けましたか?」
「ええ。彼女、エレクトラさんは、召喚術が使えるって言ってたでしょ。だから私たちと戦ってくれるって」
「本当ですか! いやー、助かります。エレクトラさん」
トムは、エレクトラの手を握り激しく振った。
「召喚術と言っても、アイテムの移動などサポートぐらいしかできませんが、こちらこそよろしくお願いします」
愛想がよくなるエレクトラに、知佳はイラっとするのであった。
後日、アーロンに呼ばれ、翔と知佳、そしてエレクトラの三人は村長の家に出向いていた。
「勇者様、城からの応援が到着いたしました。合流してモンスターの討伐の方をお願いします」
「アーロンさん、村長さんは?」
「そのことですが、兵が少ないので城でまだ増援要請をしているようです。ですが、良いお話もあります」
「いい話ですか?」
「はい。トムが調査をしていたのですが、拠点らしき場所を見つけたのです」
「では」
「ええ、一気に片づけましょう! トムが案内いたします」
翔たちは村長の家を出て外で待機していた兵士たちと挨拶を交わすが、兵は四人しかいなかった。
「なるほど、村長が帰ってこられない気持ちもわかるわね」
エレクトラが言葉を溢す。
「大丈夫ですよエレクトラさん。あなたのことは俺が守ります」
トムの調子のよさに知佳は呆れる。
「やる気があるのはいいけど。ところでトムさん、モンスターの巣を見つけたの?」
「ええ、昔の鉱山の入り口付近にたまっているのを発見しました。これもエレクトラさんのおかげです」
「ちょっとトムさん。なんでエレクトラさんの名前が出てくるのよ?」
「いやー、応援が来るまでのあいだ周辺の探索をしていると言ったら、毎日お弁当を作ってくれたんですよ。おかげで調査がはかどりました」
「うれしいです。私、料理は自信があるんですよね」
エレクトラはモジモジしている。
「それじゃあ、しゅっぱーつ!」
トムの先導で、イライラする知佳を含む八人はモンスター討伐へ出発するのであった。
******
「真人様、準備はよろしいでしょうか? 今回の勇者様は、城からの応援を受けるようですのでモンスターは多めに必要となるのですが」
ログハウスを訪ねたハルモニアは、容赦なく真人にモンスターを要求した。
「ええ。今回は、事前に用意してあるモンスターを使います。熊や鹿などはストックがありますので」
「そうですか」
「それよりハルモニアさん。お願いがあるのですが」
「なんでしょう?」
「直接、俺たちで現場までモンスターを持って行って、勇者と戦うところを見たいのです。勇者の試練にどんなモンスターが必要なのかを考えるためには、勇者のことを知っておく必要があります」
ハルモニアが考えるので、真人は自分と勇者が会うことを彼女が恐れているのではと思うがそれは違った。
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