*17話 ゴーレム*

「真人様。申し上げにくいのですが、エレクトラは勇者様と一緒にいるようなのです」

 真人は驚くとともにホッとする。

 森を抜けて、どこかの町まで辿り着けたのだと安心したからだ。

「仮に、真人様に現場まで行っていただくとしても、勇者様との接触をさけるため離れたところから見ていただく形になります。ですから、エレクトラとお話をする機会はないわけですが、ご自身が派遣したモンスターに攻撃される姿を見るのは辛いことかと思います。それでも行かれるのですか?」

 真人は迷わず自分の目で確かめると言い、これを聞いたハルモニアは承知し次来るまでに準備をしておくようにと告げると立ち去るのであった。


 横で、二人の話を聞いていたミントが真人に問う。

「エレクトラと戦うの? 本当に?」

「直接戦うわけじゃないから心配しなくていいよ」

「真人がそこまでする必要があるのかな?」

 真人は、何で依頼を受けたのかを考え直す。

 報酬は、給料だよな。あと、リクエストは転移を受け入れた特典だから終わらせなくても返さなくていいのかな?

 いや、待てよ。リクエストって、黒髪ロングだったよな。

 真人は、ミントを見る。

 あれ? エレクトラじゃないの? リクエストに対する答えってミントだったの?

「なに? 真人」

「い、いや。ミントは何で、戦うのかなって」

 ミントは聞かれ、不思議そうにする。

「わかんない。でも、」

「でも?」

「真人のスキルのせいじゃないと思う」

 自分が造形で作られたことや、調整で思考が補正されていることも知っている。何より、そうされる他のモンスターたちを見てきた。

 しかしミントは、強制されているとは考えていなかった。

「たぶん、生きていた時の記憶が戻ってきてる。それで思うに、私は死にたかったわけではない。だから、いまいることは真人の意思だけじゃない」

「そっか。でも俺は、ミントが戦わなくてもいてほしいよ。バラしたりなんかしないよ。だから」

 ミントは、真人の言葉を遮る。

「私も一緒に行く。必要ならば戦う……真人は弱いから」

「ええ、ひどいな」

 二人は顔を合わせると笑ってしまった。


             ******


 真人とミントは、ハルモニアが作り出したゲートを使って現場に到着していた。

 モンスターはすでに設置済みで操作をする必要もなく、二人はただ崖の上から鉱山跡を眺めていた。


「勇者様、あそこです」

 トムが小声で鉱山跡を指差す。

「鉱山の中ではないんですね?」

「はい、周りにある作業小屋などを根城にしています」

「わかりました。作戦を伝えますね。まず、僕が正面に出て敵を釣ります。そしてその隙に、トムさんはエレクトラさんを連れて鉱山の入り口に行ってください」

「一人で大丈夫ですか?」

「ええ、チートですんで」

 翔の言葉にトムが首を捻ると、知佳が説明する。

「私が後ろで回復するから平気ってことです」

「はぁ」

「そしたら、エレクトラさんは大量の木材などを召喚して鉱山の入り口をしっかり塞いでください」

「私にできるかしら?」

「召喚中に襲われないよう、俺がしっかり護衛しますよ」

 まあ、トムさんがこの調子なら平気だろうと、翔は説明を続ける。

「ええと、兵士のみなさんはこちらに来るモンスターたちが抜けて行かないように、僕を中心にして左右に広がってください。足止めで結構ですので」

 兵士たちは、それでいいのかと顔を見合わせるも渋々承知する。

「では、行きましょう」


 この作戦は全く問題なく成功する。

 翔の挑発に乗り出てきた熊や鹿の化け物は、圧倒的に強い翔に動揺を示す。

「こらー、翔。真面目にやれ」

 知佳が回復しながら翔を叱っていると、回り込んだ二人が召喚術を使った。

 モンスターたちは、後方で発生した鉱山を塞ぐための轟音に驚く。そして、それから逃げようと反対側になる村の方へ行こうとするも、兵士たちがいるので右往左往するのだ。

「おりゃ! どりゃ!」

 そんなモンスターたちに、翔の無双が炸裂した。

「終わったようですね」

 戻ってきたトムが翔に話す。

「ええ。とりあえず、この辺にはもういないようです」

 作戦に疑問を感じていた兵士たちも、翔の腕前に納得している。

「では一度、村に戻りますか」


 あれから、数日経つもすっかり目撃情報はなくなっていた。

「我々は、一度城に帰り報告いたします」

 この様子なら、勇者たちがいれば問題ないだろうと兵士たちは帰還することになる。

「では、村長が戻ってくるまで僕たちは待機かな」

 アーロンの要請を受け、不測の事態に備え翔たちはもう少し逗留することになった。


             ******


 勇者たちの戦いを覗いていた真人とミントはログハウスに帰ってきていた。

「真人、どう思った?」

 テーブルを挟んで腰掛けると、ミントの方から話を始めた。

「強いな、あの勇者。普通に倒せないと思うけど、回復使いまでついているんだから倒してしまう心配はないだろうね」

「うん、私でも苦戦すると思う。回復と一緒のうちは勝てない」

「まあミント。戦うのは俺たちじゃない。倒す方法を考えるより、とにかく戦ってくれるモンスターを確保しないとってことだよね」

「そうだけど、二人で熊や鹿以上を捕まえられるかな? それに、私だけじゃ数を相手にすることは無理」

「時間をかけて探すしかないかな」

「探す?」

「本当に冒険に出るってことさ。数が無理なら強い奴を捕まえるしかない」

「そうだね。でも、居場所がわからないから探しに行くってことだね」

「ああ。じゃあまず、町へ行って装備を整えよう」

「だけど真人、町だとお金がいるよ?」

 多くない給料はいくらも貯まっておらず、ミントが言うように十分な買い物ができる状況ではない。

「うん、そこから準備だね」


「まずはリュックだな」

「私のは大きくても平気だから、薬の本を入れられる部分も作って」

 真人は、麻生地と革を持ってきて想像する。

 本を入れられるポケット……。

 そういえばミントの服、俺の想像力のせいでセーラー服ばっかりになっちゃったよな……。

「はぁ、危ない!」

「どうしたの真人?」

「いや、何でもない」

 真人は危うく、ミントのリュックを煙突型にしそうになる。

「危なかった……」

「何が危なかったの?」

「何でもないよ」

 ミントは首を捻る。

「あとはそうだな。加工で何か作るか」

 真人は運ぶ方法を確保すると、町で売れそうなものを作ることにした。

 召喚で用意した薪や最初からログハウスに置いてあった物まで、家を離れるからと商品に変えていく。

 薪は器や杖などに、生地は服や鞄にとである。


 翌朝。

 真人とミントは、町へ出発する前の食事をとっていた。

「真人、もうここへは帰ってこないの?」

「そんなことはないと思うけど、当分は帰ってこれないかな。折角、ミントの部屋もできそうだったのに出て行かないといけないのは残念だけど」

 そして食事の終わった二人は、リュック一杯の荷物を持つとドアを出て二歩三歩と歩きだす。

「ミント、忘れ物はない?」

「うん」

 返事をしたミントは振り返る。

「ゴーレムさんはどうするの?」

「ゴーレムには、このまま家を見張ってもらおう。夜盗とかの住みかになっても困るしね」

 真人は、ゴーレムを見ながら思う。

 お前の仲間はどこにいるんだろうな。

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