異世界HERO

酒粕小僧

セイヴァー登場

プロローグ

魔族領の果てにある魔王城、そこでは勇者一行と魔王の決戦をしていた。


「これが勇者⋯⋯つまらないですね」


魔王は椅子に腰掛けたまま足を組みつまらなそうに勇者達を見下している。


「クソッなんだこれは!!魔力が⋯⋯」

「⋯⋯無くなっていく!?」

「オルガ、ニュウ!!」


勇者以外が魔王の力により魔力が失われていっていた。


「⋯⋯ここまで弱いとトドメを刺す気すら起きないですね」


魔力が枯渇すると生命に関わる事を魔王はもとより勇者であるエレン・アインベルクは知っている。


「二人に何をした!!」


エレンは魔王に向かって叫ぶ。


「⋯⋯まさか、三代目魔王の能力すら知らないなんて無知な勇者もいたものです」


目の前の魔王は九代目魔王であり、魔王は代によって固有の能力を持っているのは魔王について調べてる勤勉な勇者なら当然の如く知っている事であった。


「⋯⋯三代目魔王の力⋯⋯まさか!!」


勇者一行の一人聖騎士のオルガことオルガストロが魔法の力の正体に気付く。


「近付いた聖なる加護を持つ者以外の魔力を奪い取る『自動吸魔』か!!」


「ほぅ、貴方はどうやらそこの出来損ないの勇者よりは出来るようですね」


魔王は関心した様子でオルガストロを見据えるが、魔力が吸われている状況が変わった訳ではない。


「俺達に構うな!!一気に畳み掛けろ!!」


「そうするしかなさそうね!!」


エレンは魔王に斬りかかるが、魔王は微動だにしない。


エレンの振り下ろした剣が頭上に振り下ろした時だった。


エレンの剣が魔王に命中するとエレンの方が吹き飛ばされていたのである。


「これってまさか!?」


勇者一行の賢者であるニュウは魔王の力の正体に気付く。


「初代魔王の力⋯⋯『物理反射』⋯⋯」


「そっ、この力は認識している全ての物理攻撃を返す初代魔王の力です」


魔王は欠伸をしながら、勇者一行を見下ろす。


「まさか、こいつの持つ魔王固有の力って⋯⋯」


「その可能性しかないだろ」


ニュウとオルガストロは今代の魔王の力がどういうものか理解した。


「その想像は半分正解で半分間違いです。僕は今までの代の魔王の持つ固有の能力を扱えると同時に僕自身にも固有の能力があります」


魔王は説明を終えると重い腰を上げ立ち上がる。


「だからこそ知ってるんです。⋯⋯」


魔王は指先に魔力を集中させる。


「さて、これでお別れです」


魔王は指先に溜めた魔力の塊を振りかざし、部屋は爆音と光に包まれるのであった。


場所は代わり、ここは地球にあるアメリカ合衆国、今や世界のトップヒーローのほとんどはアメリカ在住である。


この世界ではヒーロービジネスという産業があり、スーツや道具、武器等を扱ったりヒーロー向けの商材や、人気ヒーローのグッズ化等、今や世界はヒーローブームなのである。


その中で取り分け人気なのが『セイヴァー』と呼ばれるヒーローである。


銀の下地に赤の配色がされているシンプルなデザインのヒーロースーツとフルフェイスのヘルメットのようなマスクを着用しており目の部分にはミラー加工が施された強化ガラスによって作られているヒーロースーツを着用している。


このヒーローが人気の理由はとにかく強いからであるのとその正体が不明だという事であり、TVの特番で取り上げられた事がある程有名なヒーローなのだ。


しかし、そんなヒーローが引退するのではという噂が広まり始めていた。


その理由はヒーローとしての活動が少なくなって来たからである。


ヒーローの活動は主に人命救助である事が多く、ボランティアもあるがこれは無名のヒーローたち名前を広める為の手段として用いる事が多い為、有名なヒーローはわざわざ名を売るためにボランティア活動はしなのだ。


そして、そのヒーローの正体こと大悟・W・ヴァインは比較的安いマンションで一人で暮らしている。


寝巻きのままでソファーで横になってTVを見ながらトーストをかじる姿はファンにはとても見せられる姿ではない。


そして、そのTVでは『セイヴァー』の引退についての特番がやっている。


その『セイヴァー』の正体が不明な事もあり、様々な憶測が飛び交っており、実はロボットだった説とか宇宙人だった説とか本人にしてみれば欠伸の出る程酷い内容だった。


「⋯⋯くだらな」


大悟は見るに耐えなくなりTVの電源をオフにする。


一般のヒーローが事件の現場に向かうと犯人は幾らか抵抗するのに対して自分が行くと毎回犯人から自首をするのである。


それはそれでお互いに余計な血が流れないからいい事ではあるが、犯人にとって『セイヴァー』は恐怖の対象でしかないのである。


その理由は彼の身体能力と胴体視力が人の枠を外れており遠くから放たれたライフルの銃弾を避けて見せたり、銃弾を指で摘んで止めて見せたり、高電圧を受けても無事だったりとかなり人間離れした能力を有している。


その為、報道では人間扱いされない事の方が多いのだ。


彼のヒーローとしての活動が少なくなった理由が、ただ単にヒーロー活動をすることが嫌になったからであり、彼は老後の貯金を貯める為、ちょくちょくヒーローの活動をしながら転職先を探している所だったのである。


いつもなら、就職相談をしに行く所だが、この日は彼にとっては忘れてはいけない特別な日だった。


TVを消すと急いで着替えて外に出る。


バイクをしばらく走らせるとその場所が見えて来る。


彼にとって唯一の親友と呼べる存在、彼がヒーローになるきっかけとなった者が眠る墓である。


「⋯⋯今日も来た。お前が死んでからもう五年だ。あの頃は若かった。俺ももうすぐアラサーだ。そろそろヒーローをやめて身の振り方を考えないといけない年齢だ」


大悟は亡き親友に向けて独り言のように呟く。


「⋯⋯俺はお前が憧れてたヒーローに少しは近づけたか?」


彼の親友は彼以上にヒーローに憧れ、誰よりも努力していた事を彼は知っている。


お互い夢に向かい切磋琢磨した日々があるからこそ亡き親友に問いたかった。


しかし、返って来る返答は当然ありはしないのだ。


もし、いたらこんな自分を見たらどう思うかと考えてしまうのである。


「⋯⋯とりあえず、今回は墓参りついでに報告に来た。また来年だな」


大悟がその場所から去ろうとした時だった。


大悟は急に身体の身動きが取れなくなり、光に包まれたのだ。


「なんだ⋯⋯これは!?」


大悟が眩い光の中目を開けると目の前には宇宙のような空間が広がっていた。


「突然お呼び出しして申し訳ありません」


姿は見えないが、大悟の頭の中に声だけが入って来る。


「私はもう、この世界の超越者である貴方に頼るしかないのです」


大悟は声の主が言ってる意味を理解出来なかった。


「おい、御託はいいからさっさと戻せ、こんなくだらないドッキリに付き合ってる暇なんかないんだ」


大悟は大掛かりなおふざけとしか思っていない。


「⋯⋯言葉の意味を理解していませんか?」


「いいから戻せと言っている」


大悟は声の主と話す気は毛頭なかった。


「⋯⋯そこまで、嫌がるものですか?普通はこの状況は心躍るものだと他の神様からお聞きしていたのですが⋯⋯」


「頭湧いてんだろそいつ、この意味不明な状況の何処に心躍るものがあるんだ!!」


大悟はこの状況を悪趣味な悪戯だとしか思っていない。


「は、話だけでも⋯⋯話だけでも聞いて下さい」


心なしか声の主の声が泣きそうな声であった。


「面倒だ。他あたれ⋯⋯」


大悟はいい加減戻して欲しかった。


「そ、そんな訳にはいかないんです。私の⋯⋯私の世界を助けて下さい」



声の主はそれでも引き下がる気はないようだった。


「⋯⋯助けて⋯⋯か⋯⋯」


そして、大悟は久々に助けを求める声を聞いた気がする。


ヒーローが人を助けるのは義務のようなものがある。


助けを求めずとも助けるのがヒーローとしての常識となっている。


その為か、いつしか助けを求めるものがいなくなりそれが当たり前となっていったのだった。


「⋯⋯助けを求める声を拒んだらヒーローじゃないよな」


大悟は心の中にいる親友に語りかける。


「仕方ない、まずはこの状況を説明してくれないか?」


「は、はい!!」


この声の主の話しではこの場所は神域と呼ばれる場所で神が住む場所と言われており、各世界の創造神が世界の行く末を見守る場が今いる所なのだ。


「⋯⋯成る程、俺が住む世界以外にも世界があってそれを管理してるのが各々の創造神という訳なんだな」


「ですです。そして、今現在で私の管理してる世界が邪神の生み出した魔王によって滅ぼされる寸前なんです」


「邪神?」


声の主は、邪神とは世界に対して世界を害する存在又はその世界の法則を歪める存在を生み出す存在であると説明する。


簡単に言うところ邪神の役割はハッカーで、管理の甘い世界にウィルスを発生させ世界を崩壊させるというものである。


その邪神が生み出したウィルスこと魔王に八回世界を滅ぼされかけたらしい。


管理甘過ぎだろと大悟は思ったが口にはしない。


その邪神に対する対抗措置もあるにはあったらしいのだが、今回に限ってその対抗措置も破られてしまったという話しだ。


「管理してるのがお前なら何とかできるんじゃないのか?」


「基本的に邪神もなんですが、その世界に直接介入してはならない事になっています。基本的にその世界の事はその世界に生きる者が解決することが一番ベストなんです」


声の主の言ってる事は最もだと思った。


彼女が介入することで解決するかもしれない。


しかし、それで解決してしまったら誰もが努力することをやめ世界は衰退の一途を辿るだろう。


あくまでも、そこに住む者が解決する形であれば介入する事もできるらしく、その対抗措置というのもその一つである。


「話は分かったが俺はいいのか?」


それが大悟にとっての一番の疑問だった。


「君は例外と呼ばれる存在、超越者ですから」


「超越者?」


誕生した世界の法則から逸脱したイレギュラーな存在、それが『超越者』と呼ばれる存在で、その世界の枠では収まらなくなった者の事を指す。


「超越者はその世界を逸脱した存在故、更に上位の世界へ渡ることが許されているんです。この方法で世界を救った神もいるくらいですからね」


「要は俺がお前の世界に赴き、魔王という存在をどうにかすれば良い訳だな」


「理解が早くて助かります」


声の主は何処かしら嬉しそうだった。


「勘違いするなよ。俺は俺の正義を貫く為にお前に手を貸すんだ。世界の為でもお前の為でもない。俺が俺である為にお前を助けてやる」


「⋯⋯ありがとう。それと君に特殊な力を与えたから向こうに着いたら使ってみるといいですよ」


「特殊な力だと⋯⋯!?」


彼が質問をしようとすると視界が暗転する。


彼が目を覚ましたのは、見た事もない平原だった。

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