雷光
エレインはウーヴォとの戦いに敗れたが、デレクによる物資の強奪は成功、獣人と人間どちらにせよ痛み分けとなる結果となった。
「⋯⋯クソッ⋯⋯まだ、あんな人間が残っているなんて⋯⋯俺の左腕と武器まで駄目にしやがった!!」
ウーヴォはエレインには勝ったが納得のいく結果ではなかった。
それが、ウーヴォがエレインとの戦闘してる間に物資を何者かに奪われていたからである。
「まさか、あんなのを囮りに使って来るとはな。いや、逆か奴くらいしか囮りがつとまる相手がいなかったのか⋯⋯どちらにせよ敵の切り札が倒された事に変わりはない」
ウーヴォはそれでも左腕を折られた事は痛手であった。
「ウ、ウーヴォサマ、シンニュウシャデス!!」
ウーヴォのいる部屋に獣人が慌てて入って来る。
「⋯⋯チッ、警備してる連中は何していやがる。物資は奪われるは侵入をゆるすは⋯⋯弛んでいやがる」
ウーヴォは部下達の不甲斐なさにイラついている。
「とりあえず、中に入った鼠を何がなんでも殺せ!!」
「ウーヴォサマハ⋯⋯」
「なんで、俺がお前達のミスの尻拭いをせにゃならんのだ?たかが人間だぞ?お前達に獣人の誇りはないのか?」
ウーヴォは報告に来た部下を睨みつける。
「リョ、リョウカイシマシタ!!」
報告に来た獣人はウーヴォの粛正が怖いので大人しく従う事にした。
デレクが斧を振り下ろし、現れる獣人を隠れながら始末する。
まともにやりあっても数の暴力でやられてしまう為、デレクは隠れながら敵を翻弄しながら倒していっている。
デレクは砦にある火薬庫を目指している。
そこにデレクの欲しいものがあるのだ。
そしてアッシュはデレクとは反対方向に進んでいる。
どちらも警備がいるがどちらかと言えばデレクの方が多いのであった。
それはデレクの向かう方向に食糧庫や武器庫があるからである。
そして、目的の火薬庫もその近くにあるのだ。
「クソッ⋯ドコダ⋯⋯ウゴ!!」
獣人はデレクの斧に叩き斬られ倒れる。
『やっぱり、遠いな。アッシュの奴上手くやってればいいが』
アッシュの向かってる枯れ井戸は地下牢から比較的近い位置にある為、デレクが反対側で見張りの気を引いている間に枯れ井戸から逃がす方法である。
「ドコダ!!」
「マダコノチカクニイル!!」
「ゼッタイニガスナ!!」
砦の外を見張っていた者達も加わり、砦の中は完全に警戒態勢であった。
『ウジャウジャ出て来やがって⋯⋯だが、固まってくれた方が俺もやりやすい』
デレクは爆弾のような物の導火線に火を点けて獣人達が固まっている場所に投げ込むと口を布で覆う。
「ナ、ナンダ!!」
獣人の一部が投げ込まれたものに気付いたが、既に遅くその爆弾のような物から毒の煙りを噴き出す。
「ク、クルシイ⋯⋯」
「⋯⋯ウ、ウーヴォ⋯⋯サマ⋯⋯」
煙りを吸った獣人達が次々と倒れていく、大量に吸わなければ死なないにしろ少しでも吸えば意識くらいは奪える代物であった。
「⋯⋯何だと、毒の煙りだと?」
その報告を受けたウーヴォは更に苛立ちを露わにする。
「この無能共、一ヶ所に固まって探す奴が何処にいる!!一人一人散らばって探さねえからそういう事になるんだよ。特に建物内で密集したら逃げられなくなるのが出るのは当然だ!!誰が外の見張り全員引入れろと言った!!一部でいいんだ。一部で!!」
ウーヴォは部下のあまりの無能っぷりに頭を抱えるしかなかった。
獣人の殆どは脳筋で考え自体もかなり偏っており、基本的にどう取り繕ったところで馬鹿なのである。
「ハァハァ⋯⋯もういい、もうお前達は俺の命令以外何もするな。俺が直接出向く敵の目的も大体理解したからな」
このウーヴォはキレてなければ将としてはまともなのだが、キレると王以外では手がつけられない上に考えなしの無能になるのである。
その頃、エレインとウーヴォが戦った場所で動く影がある。
「⋯⋯うぐっ、全く派手にやってくれたよ」
折れたたくさんの樹木からエレインは這い出て来た。
『どうやら、また生き残ってしまったみたいだね。神様って奴は相当僕に死んで欲しくないらしい⋯⋯』
エレインを仕留めたと思われたウーヴォの攻撃は偶々軌道がズレており直撃はしなかった。
その後、ウーヴォが投げた岩とその樹木の間に挟まりウーヴォの攻撃をやり過ごしたのであったのである。
理性が残っていればどうなるかは分からなかったが、それでも何とか生き残る事が出来た事は彼女にとっては奇跡だった。
それでも、彼女が何とか立ち上がる事が出来たのは【治癒力強化】の力があるからであった。
それのおかげで常人よりも遥かに治癒するのが早いのである。
『⋯⋯いや、それはないか。僕はもう神様に見放された存在なんだ。勝手に突っ走った挙句、ろくに仲間も増やさず、まともな修行もしないで結果は仲間達に逃してもらって⋯⋯こんな情けない僕じゃ見放されても当然なんだ』
エレインは木を背もたれにして腰掛け、木に捕まりながら立ち上がる。
『それでも死なせてくれないなんて⋯⋯本当嫌になりそうだよ』
エレインは神という存在に嫌気がさしていた。
デレクは砦内の見張りを倒しながら火薬庫の場所へ向かうが、見張りの数が少なくなって来ている事に違和感を感じた。
『こっちの見張りの数が少なくなって来ているのは気のせいか?』
デレクは嫌な予感を感じている。
捕虜の数は、三十人程ではあるがアッシュの動き次第では全員を井戸の底まで誘導するのは難しいのである。
デレクの嫌な予感は的中しており、見張りはアッシュの方に向かっており、アッシュは交戦中であった。
残り十人が井戸まで降りきればいいが、どちらにせよここで食い止めなければ、井戸の中で追い詰められるのである。
「この!!」
アッシュはメイスで襲い掛かる見張りを斬り伏せるが、奥から続々とやって来る。
『こっちの作戦がバレてるのか!!あと少しだというのに』
アッシュはどうして作戦がバレたのか分からなかったが、今は考えるより見張り達を退けるしかなかったのであった。
「これが正念場という奴か⋯⋯」
アッシュは一人たりとも先に進める気はなかった。
【ファイアシュート】
アッシュは炎の球を放つと命中した複数の獣人が燃え上がる。
一直線の通路の為、この魔法が使いやすいのであった。
ちなみにこれが本来の【ファイアシュート】であり、フレイのように爆発はしないが、獣人のように毛に覆われたりしてると引火して燃え上がるのである。
通路内に獣人達の叫び声が響き渡ると獣人達はアッシュから距離を置いて様子を伺う。
獣人とは本来魔法が使えない種族の為、魔法との相性が悪いのである。
その為、魔力切れを狙う戦法を取り避けて無駄撃ちさせて魔力切れを狙うという戦法を取るが、場所が直接の通路な上味方の数が多いので避け切れないのであった。
そして、アッシュと獣人達の間に沈黙が続いた後、獣人達は驚くべき行動を取ったのである。
「【ファイアシュート】」
獣人達はそのまま突っ込むが、やはり獣人達は燃え上がりそのまま倒れる。
「無駄だよ」
それでも獣人は突っ込んでは燃え上がるを繰り返す。
『こいつら一体何を考えてるんだ』
アッシュからしてみれば獣人達の行動はただの無駄死にでしかなく、何を考えているのか分からなかった。
そして、アッシュが驚いたのはここからだった。
アッシュが【ファイアシュート】を撃つと獣人達は既に焼け死んだ獣人の死体を盾にしながら進んで来たのだ。
この光景は完全に正気の沙汰ではなかった。
「【フレイムスロア】」
アッシュは目の前に火炎放射を放つと獣人を盾にした後ろの獣人ごと焼き尽くすのであった。
「⋯⋯うぐっ」
アッシュは軽い目眩を起こし魔力切れを起こした事を察する。
中級魔法である【フレイムスロア】は一回放つだけでアッシュには精一杯なのだ。
『まさか、あんな風に突っ込んで来るなんて動揺して使っちゃったよ』
アッシュは魔力切れの影響で貧血を起こしたように少しふらつくと獣人達はアッシュの魔力切れを察したのか獣人達がアッシュのいる方向へ突っ込んで来るのである。
「⋯⋯ここまでか」
アッシュが自身の死を覚悟した時だった。
ズガンッとバチバチという音が混ざったような爆発音が獣人達の奥から聞こえたのだ。
その音に反応した獣人達も当然その動きを止める。
獣人達も何が起きているのか分からないのだ。
獣人達が静まり返った次の瞬間、稲光と共にアッシュの目の前の獣人達が蹂躙される。
「な、何が!?」
アッシュ自身何が起きてるか分からなかったが、その人物が獣人達の死体を踏み越えやって来る事に気付いたが不思議と敵ではない予感がした。
「⋯⋯遅れてしまい申し訳ない」
奥からやって来た人物は背中に大剣を背負い左右に剣を二本携え、甲冑はヒビ割れボロボロではあるがアッシュのよく知るエレインだった。
「えっ!?エレイン!?生きてたんですか?」
アッシュはデレクの報告を受けて死んだものとばかり思っていた。
「僕も死んだと思ったけど、まだ死ぬのには早いようだ。デレクさんは?」
「デレクさんは⋯⋯僕達を逃す囮役に⋯⋯多分、火薬庫に向かってると思います」
アッシュはデレクがウーヴォを倒す方法は火薬庫にある圧縮爆弾しか無いと考えており、自爆覚悟でウーヴォを倒すつもりなのである。
「⋯⋯アッシュは引き続き、捕虜の案内を任せるよ。僕はデレクさんの所に行って来る」
「ちょっと待って下さい!!エレイン!!何ですか今の魔法は?」
アッシュはエレインが使った魔法のようなものが普通の魔法じゃない事に気付き疑問をぶつける。
「⋯⋯それはデレクさんを助けてから話すよ。それに今はそれどころじゃないだろう」
「⋯⋯分かりました。デレクさんのこと任せます」
アッシュはエレインの魔法が気になったがここは作戦を優先する事にした。
「まさか、人間がのこのこと俺達の砦に入り込むなんてな。どうやって侵入したかなんて野暮な事は聞かねえ。よくよく考えれば分かる事だ。捕虜が部下共に見つからねえように逃亡したようにその逃亡ルートを使って侵入したんだろ?もしかして、隠し通路とかいう奴か人間はそういう姑息な事が大好きだからな」
『狂牛ウーヴォ、話しに聞いただけだったがこいつ他の獣人達と違う。頭がよく回る⋯⋯』
デレクはこの捕虜を解放させる以前に生き残った騎士からある程度獣人達の幹部達の情報は仕入れていたが、ウーヴォがここまで頭が回る獣人だとは知らなかったのである。
「それに、お前の本命もな。気付いてるとは思うが、俺の部下を向かわせた。すぐ終わるだろうな」
「なっ!!」
「バレないと思ったか?単純に考えれば分かる事だ。外に逃げた捕虜を探す為に見張りを置いてるのに見つからないこと、そして物資の強奪のこと、それは実際まだ砦の近くもしくは隠し通路内に潜んでる事の証明に他ならねえんだよ。そして、今回のこれで確信した。お前のいる反対方向が本命だってな!!昨日のような囮を使って来るような奴だ。また、囮を使って来ると踏んでいたぞ。さて、昨日の小娘とお前どっちが俺を楽しませてくれる?」
ウーヴォはエレインと戦った時と違い鋸のような大剣を持っている。
「昨日の戦いで左腕は使い物にならねえ。人間程度には丁度いいハンデだろ」
『さっきより一回りデカくなりやがった。火薬庫は目の前だってのに』
デレクが目指す火薬庫はウーヴォの背後にあり距離にして五十メートル程である。
そこに辿り着けるかどうかがウーヴォに勝てるかの鍵であった。
「フン!!」
ウーヴォはデレクに容赦無く大剣を叩き込む。
「そんな大振りで避けられない訳ないだろ!!」
デレクはウーヴォの攻撃を掻い潜りウーヴォの懐に飛び込むが、ウーヴォの蹴りによる追撃によりデレクは吹き飛ぶ。
「その程度か?」
ウーヴォは大剣を振り下ろす。
「うおっ!!」
デレクはウーヴォの斬撃を斧で受け止めるが受け止めきれず吹き飛ぶ。
「⋯⋯ハァハァ」
デレクは壁に叩きつけられ意識が飛びそうになりながらも立ち上がる。
「これなら、昨日の小娘の方が強かったな」
ウーヴォは立ち上がるデレクを前に大剣を振りかぶる。
「もう少し足掻いてくれよ」
ウーヴォはデレクに大剣を振り下ろすとデレクはその剣をギリギリで交わしながら火薬庫の方へはしる。
ウーヴォは蹴りで反撃しようとしたが懐に飛び込んで来なかった為出来なかったのであった。
「クソッ!!アイツまさか!!」
ウーヴォはデレクの狙いが何となく分かった。
この先にあるのは火薬庫と武器庫だからである。
「【パワースロー】」
ウーヴォはデレクを追い掛けるとデレクは斧をウーヴォの頭部を目掛け投げる。
「何処を狙っていやがる?」
しかし、ウーヴォは後ろに下がり避けられてしまう。
「いや、それでいい」
「!!」
デレクの斧は砦の天井に当たり天井を崩すと通路が半分くらい埋まる。
「そこでじっとしてろ」
「クソがああああ!!」
デレクはウーヴォがこっちに来る前に火薬庫から圧縮爆弾を回収する必要があった。
圧縮爆弾とは通常の爆弾と見た目は変わらないが、爆弾三個分の威力が有ると言われる爆弾である。
「⋯⋯あった」
圧縮爆弾には普通の爆弾と区別する為に表面に『×マーク』が書いてあるのである。
「三個か⋯⋯まぁこんなもんだろうな」
圧縮爆弾は稀少な爆弾な為、三個もあれば充分である。
そもそも、この状況で三個もあったのは運が良い以外の何物でもなかった。
「⋯⋯クソが、手間取らせやがって」
デレクが火薬庫から出るとウーヴォが瓦礫をかき分け目の前に仁王立ちしている。
「爆弾で俺が倒せると思ってるのか?」
デレクも普通の爆弾では倒せないと思ったから圧縮爆弾を用意したのである。
「倒せるとか倒せないとかじゃない。俺がやるべきことは散っていった嬢ちゃんの為にもお前に一死報いる事だからな」
デレクは指先に小さな火を出し、圧縮爆弾に火を点ける。
デレクもこの程度ではあるが魔法を扱えるが、魔導師から見ると魔法とは言えないのだ。
「人間を舐めるな」
デレクは圧縮爆弾をウーヴォに投げる。
「!!」
ウーヴォの足元で圧縮爆弾が爆発するとウーヴォのいる場所を丸ごと瓦礫で埋め尽くす。
デレクも爆風で背後の壁に叩きつけられたが、さっき受けた攻撃程ではなかった。
ウーヴォは既に瓦礫に埋め尽くされ、どうなったかは分からないが、今のを受けて無事で済む訳がないのである。
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