救済者

フレイはなんとか大悟に万能薬を飲ませる事に成功し、峠を越えたがそこに現れたのは寄生茸に寄生されたワイルドウルフだった。


【ファイアシュート】では対処できない相手にフレイのオリジナル【ファイアバレル】を使いワイルドウルフに対抗し、大悟を守る事に成功するのだった。


そして、フレイのスキルを閲覧できるようになった大悟は益々頭を抱える事になったのである。


大悟は栄養ドリンクをポイントで交換して飲んでいる。


『相変わらず、不味いなこれは⋯⋯』


大悟は栄養ドリンクを美味しいものだとは思っていないが、眠気と戦う為に飲むしかなかった。


「⋯⋯んっ?」


「起きたか?」


フレイが目を覚ますと大悟は立ち上がる。


「昨日は無理をし過ぎたな。もう少し休んでろ」


「どっか行くの?」


「⋯⋯ちょっとお花摘みにな」


「あぁ⋯⋯行ってらっしゃい」


大悟は一度、フレイに小便行って来ると言ってしまい微妙な表情をされたのでそれ以降はお花摘みと言っている。


最初はフレイもその意味を分かっていなかったが、最近は理解しているようだった。


「やれやれ、まさかこんなところに兇獣王の刺客がいるなんてな」


大悟の目の前には兇獣王が万が一の時の為に放っていた刺客であるヴェスカが頭を抱えながら唸っている。


「⋯⋯出て行け⋯⋯この肉体は僕ちんの⋯⋯」


ヴェスカの身体から茸が生えてきており、寄生茸に寄生されているのが分かるが、そのような状態になっても自我を保っていられるのは普通ではなかった。


「ハァハァ、これは僕ちんの?⋯⋯僕たんの真似をするなあああ⋯⋯ふじゃけりゅなーーー」


ヴェスカは寄生茸の見せてる何かと戦っており、大悟の存在に気付いていない。


自分の身体から生えた寄生茸をむしり取っているが、ヴェスカは既に手遅れであった。


「⋯⋯ハァハァ⋯⋯ぼぼぼ、僕ちん⋯⋯この身体は⋯⋯ゔっ!!おえええええ!!」


ヴェスカは口から体液を吐き出している。


「ハァハァ⋯⋯勝った。危なかったけど今回も僕の勝ちだ。ん?」


ヴェスカはそこでようやく大悟の存在に気付く。


「人間ん?⋯⋯そうか、デュランはこいつがここを通る事を分かってたんだな。ヒヒッ、相変わらず用心深いねぇ⋯⋯どうして、人間如きにビクビク怯えるのか理解できないよ!!」


「デュラン?」


「ヒヒッ、兇獣王デュラン・ディラン、実際奴は人間共の報復を恐れて人間共を皆殺しにしない臆病者だ。兇獣王とは名ばかりの臆病者それが王だと宣うものだから笑えて来るだろう?それに従う奴らも奴らだ。そんな奴死んだ方がマシだろ?何かに怯えながら生きるなんて死んでる事と一緒だよ。それなら殺した方がよっぽどの救いだと思わないかい?」


「⋯⋯確かに何かに怯えながら生きるなんて死んでる事と同義なのかもしれないな」


「ヒヒッ、人間にしては分かってるじゃないか⋯⋯僕たんは何かに怯えるなんてとても我慢できないんだ。だから、あとはウーヴォが死んでさえくれれば王の首は目の前だ。奴さえ殺せば僕ちんは満足という訳さ⋯⋯まぁ、どっち道、君は殺すけど⋯⋯理解者がいてくれて嬉しいよ」


「いや、いつ俺がお前の理解者だと言った?

俺は確かに何かに怯えながら生きるなんて死んでると同義だと言ったが、殺しが救いだとは思わない。救いとは手を差し伸べる事であり突き放す事じゃない。だからこそ、ヒーローという救い手がいるんだ!!」


大悟のヒーロー名は大悟の親友が付けた名前であり、その意味は救済者である。


だからこそ、その名に恥じない生き方をして来たつもりである。


『セイヴァー』は権力者に媚びない弱者の味方であるというところもここから来ている。


「お前だけは俺が倒す。これが俺の正義だ!!」


大悟は『セイヴァー』に変身する。


「⋯⋯ヒヒッ、殺し甲斐がありそうだ」


ヴェスカはそのまま『セイヴァー』に突っ込んで来るが大悟はそれをいなし、ヴェスカの腹に拳をめり込ませるが、痛覚の存在しないヴェスカはそのまま反撃して来る。


「⋯⋯くっ!!」


『セイヴァー』はヴェスカの爪に斬られるがスーツが破ける事はなかった。


このスーツは向こうの世界の最先端の技術で作られた防刃、防弾、耐熱、耐腐食その他諸々の性能を兼ねた明らかにオーバーテクノロジーの塊なのだ。


それで、何故『セイヴァー』の正体がバレなかった理由はこれが一般的に売られているヒーロースーツで、そのスーツに自作のステッカーを貼り作り変えたのが今の『セイヴァー』なのだ。


その為、真似しようとすれば誰でも真似出来たのだが、そんな事をする者はほんの僅かしかいなかった。


一部の『セイヴァー』のファンが『セイヴァー』は正体不明だからこそその神聖さが保たれその名を汚す者には容赦はしないという過激派がいた為、真似する者はいなくなったが、大悟自身やりすぎだと思った事もあるが、彼らにとっては『セイヴァー』とは人知を超えた存在なのである。


だからこそ、余計に正体を知られる訳にはいかなくなったのだ。


「固いねぇ⋯⋯でも、僕ちんは止まらないよ」


ヴェスカの猛攻は止まる事を知らず、『セイヴァー』の攻撃は痛覚がないので効いているのかいないのか分からないのであった。


「⋯⋯一体どうなってんだい?その服は?固いし僕ちんの毒で腐食すらしないし⋯⋯興味深い⋯⋯これは益々殺して持ち帰りたいね」


ヴェスカはスーツに自身の爪と毒が効いていない事を知り『セイヴァー』のスーツに興味を示す。


「お前の戯言に興味もないし死ぬ気もない。それにお前だけは何が何でも俺が倒す必要がありそうだからな」


「僕ちんを倒す?無理無理そんなのできっこないって」


「確かにこの攻撃じゃ無理そうだが、これは一度使うと身体に多大な負荷をかけるから向こうの世界で使ったのは一度きりだ」


大悟はヒーロースーツのポケットに利き腕である左手を入れる。


「ヒヒッ、無駄無駄ぁ⋯⋯僕たんは痛みを感じないんだよ!!」


「そうか、だから他人の痛みを知らずに平気に殺せるんだな。【百舌】」


ヴェスカが『セイヴァー』の間合いに入った瞬間その場から崩れ落ちるように倒れる。


「フシューフシュー!?⋯⋯」


ヴェスカは呼吸困難に陥っているその理由は『セイヴァー』が気管を潰したからである。


しかし、ヴェスカは『セイヴァー』が何をしたか見えていなかった。


『セイヴァー』の使った【百舌】という技はポケットに突っ込んだ拳を抜き放ち音速まで加速させ貫手を放つという向こうの人間ではできない人知を超えた技で、ポケットに手を突っ込んでいるのと速度が合わさり手が読みにくいという利点も備えた『セイヴァー』の持ち技である。


それをさらに【闘気】の一点集中と硬化によって強化したのである。


「フシューフシュー⋯⋯」


ヴェスカは呼吸が出来ず顔が既に青ざめており、それでも立ち上がり『セイヴァー』に向かって来るが、その力は徐々になくなりその場に倒れる。


「さて、フレイの所に戻るか⋯⋯」


大悟は変身を解くとフレイの場所まで戻るが、大悟は気付いていなかった。


ヴェスカは倒れさえしたが死んではいなかったのである。


それどころか、潰された気管の役割を寄生茸が代行し、ヴェスカは呼吸を取り戻すがそこにヴェスカの意思は存在しなかった。


今度こそ完全に寄生茸に意識諸共乗っ取られたのである。


そして、ゆっくりと立ち上がるとヴェスカは森の奥地へと進んで行くのだった。


「⋯⋯随分と遅いお花摘みだったね」


流石のフレイも遅かったので心配したのか少し不機嫌である。


「少し面倒な相手に絡まれてな。悪かったって⋯⋯」


「人には無理するなという癖に⋯⋯」


「それはお前が子供だからだ。子供を保護することは大人の義務だ。それなら、多少は無理はするさ。無理は大人の特権なんだよ」


「大人ってずるい⋯⋯」


「そうかもな。だが、子供の頃にしか出来ない事も多いぞ、それを取り戻す為に戦ってるようなものだからな」


魔王を倒し平和な世界を取り戻す事が今の大悟の目標であった。


「それでも私は早く大人になりたいの!!」


「フフ、俺くらいの歳になると子供の頃が良かったと何度思ったことか⋯⋯これが若さか⋯」


大悟はフレイの悪意ない言葉に挫けそうになる。


魔王を倒すのが遅くなれば遅くなる程、婚期を逃すかもしれないのである。


「⋯⋯ねぇ、大悟顔が笑ってないよ」


フレイも流石に大悟が何かを気にしている事を察してはいるが何を気にしているかは分かっていない。


その頃、ハリー砦の隠し部屋の食糧が底をつき始めていた。


「そろそろ、食糧が尽きそうだ⋯⋯調達するにしてもこれが最後になるだろう」


このハリー砦の隠し部屋はハリー砦の外に繋がってはいるが、この場所はハリー砦の裏手側の近くに出る為、バレるのも時間の問題だった。


更に何度か食糧を強奪してる事もあり、向こう側も薄々こっちの存在に気付いている可能性があるのだ。


「⋯⋯今回は僕が行く」


フードを被った女性剣士であるエレインが立ち上がる。


「それでもいいが、今回は俺も同行していいか?」


エレインが立ち上がると同時にパーティの最年長者であるデレクがエレインに同行していいか尋ねる。


「何故?」


「そろそろ攻め込もうと思ってな。奴等も食糧が尽きて来ているから物資の運搬にかなり気を配っていたら、護衛を大量に連れているかもしれない。そうなると一人だと危険だと考えだからだ」


デレクはこの食糧の争奪戦に全てがかかっていると思っており、この争奪戦は負ける訳にはいかないのである。


元々デレクとアッシュは盗賊または野盗と呼ばれる褒められるような者達ではなかったが、彼等は平民は狙わず必ず貴族のみを狙っていた特に平民の生活を苦しめ至福を肥やす貴族が彼等のターゲットで奪った品を裏ルートでその貴族が治めている村に戻していたのだ。


やり方は褒められたものではないが、彼等には彼等なりの正義があったのだ。


そして、約一年前に世界は魔王に支配されあらゆる権力を持っていた貴族達は次々と消えていった。


当然、そういう理由があり彼等は目的を失ったのである。


そして、その失った目的を再び見つけ出すきっかけを与えたのがエレインなのだ。


「それにな嬢ちゃん、後は死ぬしかないと思っていた俺達に生きるきっかけをくれたのは間違いなく嬢ちゃんだ」


「いや、行き場を失った身寄りの知らない僕を拾ってくれたことに比べればどうって事はないから」


「いや、それでも俺は嬢ちゃんの言った言葉は忘れねえ。立場や状況が変わってもあなたの正義は変わるものなのかと言われ気付いたんだよ。俺は権力にすがる貴族共が気に入らないからやっていたと思っていたが、実はいつの間にか財産を取り戻した者達の顔を見て嬉しかったんだとな。俺は弱い立場の人間を守る人間になりたかったんだ。こんな形ではあるがな」


「僕自身、どうするか迷っている癖に偉そうな事を言ったと思っているよ」


エレインは恥ずかしそうに答える。


「だから、アッシュの奴はともかく危険だと分かってて嬢ちゃん一人を行かせられるか。恩を仇で返す事は義賊のやる事じゃねえからな」


「そりゃあ、あんまりですよ」


アッシュは自身とエレインの扱いの差に冗談半分で反論する。

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