炎の弾丸

斬刺蜂から辛うじて逃げ出した大悟達だったが、大悟は斬刺蜂に刺されてしまい毒により体温が上がり、呼吸が乱れていたが、フレイが万能薬を飲ませた事により、峠を越える事には成功したが、フレイは今敵に囲まれていた。


「何かいるの!!」


フレイは物音で敵の接近を察知する。


その物音が徐々に近くなっていき現れたのはワイルドウルフという獣系の魔物である。


「えっ!?ここって獣系の魔物はいないはずじゃ⋯⋯」


そんなことを言っていると別の方向からワイルドウルフが次々と同時に現れる。


ここは蟲系と植物系の魔物の縄張りの為、獣系の魔物はいないはずなのであった。


しかし、そのワイルドウルフをよく見ると何か様子がおかしいのである。


身体のあちこちからキノコが生えているのだ。


「まさか、アレって大悟が話してた寄生茸じゃ⋯⋯」


寄生茸とは生物に寄生し意のままに操るキノコであり、その危険性は斬刺蜂と同等クラスである。


その理由は、胞子が傷口から侵入して宿主を徐々に蝕んでいき、数日程でキノコの苗床となってしまうのである。


これは人間にも寄生する事もあり、この森では斬刺蜂と一二を争う程の危険性を持っているのだが、免疫力が強ければそうそう寄生される事はない。


この森で弱り切った者程このキノコに寄生されるのである。


ここにいるワイルドウルフは全て寄生茸に寄生されている為、この森に出現しているのである。


「こ、来ないで⋯⋯【ファイアシュート】」


ワイルドウルフは【ファイアシュート】を避けるが着弾時の爆風で吹き飛ぶ。


フレイはワイルドウルフ達を大悟に近付ける訳にはいかなかった。


【ファイアシュート】をフレイは何度も放ちワイルドウルフを牽制するが、まだ三匹くらいしか倒せていない。


不規則なステップでフレイを翻弄し、【ファイアシュート】を当て難くさせられているのだ。


【ファイアシュート】はスピードがない為、なかなかワイルドウルフに当てる事が出来ないのである。


「ハァハァ⋯⋯」


少し休めたとはいえ、斬刺蜂の時の疲労がまだ残っている。


『【ファイアシュート】じゃ、速さが足りない、それを補う方法を考えないと⋯⋯』


フレイは【ファイアシュート】ではワイルドウルフとの相性が悪い事に気付く。


『でも、【ファイアシュート】以外の魔法は知らないし⋯⋯』


フレイは初歩の魔法である【ファイアシュート】しか知らないのである。


しかし、フレイは思い出す。


魔法はイメージだとそれが魔法のベースとなるのだ。


『【ファイアシュート】の速度を上げればいいだけ。でも、どうやれば【ファイアシュート】の速度を上げられるの?』


魔法はイメージだというがそう単純ではない、速度を上げるにはその方法を工程に組み込まなければならない。


『⋯⋯そういえば、着弾時に爆発してるけど、その爆発を利用できないかな』


フレイは爆発の力を利用して【ファイアシュート】の速度を上げようと考える。


「【ファイアシュート】!!」


しかし、目の前で爆発しただけであった。


当然、爆風でフレイは吹き飛ぶ。


『違う、そういう事じゃない⋯⋯もっと爆発の威力を抑えないと⋯⋯』


新しい魔法の開発で難しいのはイメージは出来ていても魔力のコントロールによりイメージ通りにいかない所である。


『爆発の方向を調整⋯⋯球のサイズを調整⋯⋯』


フレイは爆発の方向と球のサイズを調整する事で爆発の力を調整する。


『【ファイアシュート改】⋯⋯ううん、炎の弾丸【ファイアバレル】これが新しい私の力!!』


フレイはステッキを持つ反対の手を人差し指と親指を突き立て銃のような形にする。


「【ファイアバレル】」


フレイの指先から炎の弾丸が放たれる。


そのスピードはワイルドウルフの胴体を確実に捉える。


爆発の力を推進力に変える事によってこの魔法は成立する。


その為、普通の炎を扱う魔法使いはやろうとしても出来ないのである。


爆発はフレイの持つ恒星魔法の特性の一つだから出来る事なのであった。


フレイ以外が使うとするならば炎だけではなく風も使えなくてはならない。


それだとしても、フレイと同等の威力は出せないのである。


そして、フレイに自覚はないがスキルが二つ目覚めた事により弾速が更に上がったのである。


それの一つが【弾速強化】で、弾速が速くなる効果でもう一つが【反動軽減】である。


【反動軽減】により【ファイアバレル】の爆発による反動を抑える事が出来ているのだ。


これが【ヒーロー覚醒】の力の一部であった。


大悟とは違い、HPヒーローポイントは消費しないが困難や試練を克服した時にスキルが開花するようになったのだ。


「【ファイアバレル】」


フレイは次々と炎の弾丸でワイルドウルフを撃ち抜いていくとようやくワイルドウルフの姿が見えなくなる。


「⋯⋯やっと終わった」


フレイはワイルドウルフの姿が見えなくなると安堵と疲労でその場に座り込み眠ってしまった。


『⋯⋯まったく、安心しきった顔で寝やがって⋯⋯俺が動けない間、頑張ったんだな』


大悟はまだまともに動けないが意識だけは何とか取り戻した。


『まだ、身体に少し痺れがあるな。まともに動けるようになるまでまだかかりそうだな』


とりあえず大悟はやる事がないのでスクリーンを開くと【強毒耐性】というスキルのロックがはずれていた。


効果は致死性のある毒の効力を弱め、それ以外の毒を無効化するというスキルだった。


斬刺蜂の毒を克服した事でロックが解除された可能性が大きかった。


『とりあえず取っておくか』


大悟が【強毒耐性】を取ると身体の痺れが取れる。


【強毒耐性】が毒の効力を弱めたのである。


『ん?』


大悟がスクリーンを見ていると見た事のない項目が増えている。


自分のヒーロー名である『セイヴァー』とは別に『ソレイユ』という名前がスキルの項目に増えているのだ。


『『ソレイユ』⋯⋯フランス語で太陽だったか?まさか、これがフレイのヒーロー名なのか?』


大悟は恐る恐る『ソレイユ』の項目を開くとそこには所持してるスキルが羅列されていた。


『【古代魔法ロストマジック】、【火耐性++】、【呪術無効】、【ヒーロー変身】、【フレアシュート】、【フレアバレル】、【弾速強化】、【反動軽減】⋯⋯成る程、これはフレイのスキルという訳か⋯⋯あれ?あいつの使える魔法って【ファイアシュート】じゃなかったのか?』


ここで大悟はフレイの【ファイアシュート】が全くの別物だと気付く。


『もしかして、【古代魔法ロストマジック】って奴の影響か?⋯⋯てか、やっぱり変身できるようだな』


フレイのスキルに【ヒーロー変身】があったので大悟は溜息を漏らす。


『⋯⋯説明文はやっぱり俺のと同じか⋯⋯ん?』


その問題の【ヒーロー変身】の説明文は大悟のものと同じだったが、その後の文は大悟の説明文にはないものだった。


『強力な水属性を受けると強制解除される⋯⋯こいつの変身には弱点があるのか⋯⋯どちらにせよ変身させる気などないがな』


しかし、大悟としては変身などさせる気がないからどうでもよかった。


『⋯⋯とりあえず、こいつが起きたら先に進もう』


大悟はフレイが起きるのを待つ事にした。


その頃、森の中では斬刺蜂と嬉々として戦う者がいた。


兇獣王の命令によってここに来る事になったヴェスカである。


「フフ⋯⋯フフフ⋯⋯ここまで殺気丸出しだと僕ちん興奮しちゃうじゃないか」


ヴェスカは斬刺蜂に斬られ刺されているが倒れもしない。


ただ不適に笑いながらその爪で斬刺蜂を切り裂いていく。


その攻撃は斬刺蜂の攻撃を受けて止まるものではなかった。


ヴェスカは痛覚が麻痺している為、痛みや恐怖で怯む事などないのである。


「やる気あるのかい?」


そして、ヴェスカの毒爪は斬刺蜂の甲殻を腐食させ死に至らしめる。


「ヒヒッ、残念⋯⋯」


ヴェスカの猛攻は止まらず、斬刺蜂の巣まで到達する。


ヴェスカの背後は斬刺蜂の死骸の山が出来上がっていた。


多くの斬刺蜂がやられた事に自身の危機を悟ったのか巣から女王が顔を出す。


「やっと出てきた⋯⋯死ね」


ヴェスカは、斬刺蜂の女王を爪で切り裂こうとするが斬刺蜂の女王の甲殻に弾かれる。


「ヒヒッ!!」


爪が弾かれるとヴェスカは斬刺蜂の女王の前足の鎌に肩から先を切り飛ばされ斬刺蜂にヴェスカの噴き出た血がかかる。


しかし、それでもヴェスカは攻撃をやめない。


「アハッ⋯⋯僕たんの腕を奪って勝ったつもりかなーーー?」


痛覚が存在しないヴェスカにとって腕を落とされるのは歓喜でしかなかった。


「ヒヒッ、おや?おやおやおや?もう終わりなのかなー?」


斬刺蜂の女王は外傷こそ少ないものの徐々に甲殻が溶けだし弱り始めている。


その原因は斬刺蜂の女王はヴェスカの腕を切り落とした時にヴェスカの血を浴びた事である。


ヴェスカは爪に毒を定着させる事に成功させただけではなく自身の血液までもを毒にすることも成功させたのだ。


ヴェスカはあえて、腕を切り飛ばしたのである。


爪で弾かれるなら血液の毒で甲殻を脆くしようと考えたのだ。


「所詮は羽虫⋯⋯って所か⋯⋯戦う知恵がないねー」


ヴェスカは残った腕で斬刺蜂の女王の胴体を貫き、最後の抵抗で女王は前足でヴェスカの首を狙って来たが、寸前の所で息耐える。


「ヒヒッ⋯⋯凄いねぇ⋯⋯ここまで殺しがいがある相手なんて久々だ⋯⋯」


ヴェスカはその場に倒れる。


ヴェスカがいくら痛覚が麻痺していて痛みを感じないと言っても疲労がない訳ではないのであり、大量の血を失えば当然貧血を起こすのである。


痛みがない分、自分がどれほどの攻撃を受けてるのか分からなくなっているのだ。


そして、ヴェスカが目を覚ますのは翌日だった。


「⋯⋯な⋯⋯んだ、身体に⋯⋯力が⋯⋯」


ヴェスカは身体を動かそうとするが身体がまったく動かないのである。


動くは動くのであるが、自分の意思とは違う動きをするのだ。


「⋯⋯ふ、ふざける⋯⋯な。これは⋯⋯僕ちんの⋯⋯身体だ⋯⋯」


身体の自由を奪われ、更に意思までもを奪われようとしていた。


「⋯⋯ハァハァ、ゔっ!!」


ヴェスカは身体の自由を取り戻したが激しい目眩と吐気に襲われる。


ヴェスカはこれが寄生茸によるものだという事を理解していなかった。


寄生茸は弱りきった肉体を侵食するのだ。


痛みを感じない肉体の為、自身が体力的に弱ってきていることに気付きにくいのである。


ヴェスカは既に斬刺蜂と戦う前から寄生茸に侵食されており、刻一刻と寄生茸の苗床になる時が迫ってきているのであった。

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