人喰いの森
木に擬態した植物の魔物を倒し、大悟とフレイは先に進む事に成功するのだった。
大悟とフレイが森に入って一週間がたとうとしている。
大悟は戻った時に気付けるように目印をつけながら森の中を進んでいく。
「あの擬態樹の木の実見た目はグロいが意外といけるな」
大悟は擬態樹の木の実を食べている。
見た目は眼球のような形をしており、かなりグロテスクだが、甘くて美味しいのだ。
そして、どういう訳か疲労感がなくなるのである。
「⋯⋯よく食べる気になるね」
フレイは見た目で完全にアウトだった。
「こういう状況だからな。とりあえず食えるかどうか確認しただけだ」
「⋯⋯もう少しまともなものを食べようよ。あの缶詰とか⋯⋯」
フレイはランダムレーションが気に入っており、特に焼き鳥缶や角煮缶といった肉系の缶詰が大好きである。
「アレは一応非常食なんだけどな」
「それは嘘、あんなに美味しい非常食があるはずないもん」
大悟の世界では昔と比べだいぶ非常食のクオリティが上がっており、ご飯のおかずや酒の肴としても差し支えないレベルなのだ。
「ほう、それならこれは食えるというのか?」
大悟はフレイに膨張した黄色い缶詰を差し出す。
「⋯⋯何これ?」
「魚の塩漬けを長期間保存したものだ」
「へぇ⋯⋯で、味は?」
フレイは缶の見た目と大悟の説明で嫌な予感しかしなかった。
「味と言われてもそもそも、あまり味わって食べた事がないんだよな」
そもそも、臭いのせいで殆ど味が分からないのである。
「⋯⋯いらない」
フレイは怪しいものは口にしない主義であった。
「フフ、ヒーローとは時に度胸も必要なんだ。これくらいでひよるようではヒーローになるなんて夢のまた夢だな」
大悟はここぞとばかりにフレイがヒーローになる事を諦めるように行動を起こす。
「ひよってないもん!!」
「いやいや、無理すんなって開けてからどうせ無理ってなるのがオチなんだから⋯⋯」
「無理じゃないもん!!しっかり食べてみせるもん!!」
フレイがそういうと黄色い缶を大悟からぶんどる。
「どうせ、こんなの大した事⋯⋯ゔっ!!」
缶を開けた瞬間、強烈な刺激臭により、フレイの顔は既に真っ青である。
「ほらほら、無理すんなって⋯⋯」
「む、無理してないもん!!」
フレイは再び缶に顔を近づけて缶の中を覗く。
「ゔっ⋯⋯こ、これ本当に魚の塩漬け?」
「長期間保管したと言ったろ。そもそも缶が膨張してる時点で気付かないか?」
ここでフレイは気付く、どうして缶が膨張していたのか、その理由は長期間保管し続けた事により魚からガスが発生した為、その圧力で膨張したのだ。
「諦めても誰も責めやしないから諦めてもいいんだ」
「誰も諦めるなんて言ってないよ!!」
フレイはかなりの負けず嫌いであった。
恐る恐る缶の中に指を入れ魚をつまみ口に放り込む。
『こいつやりやがった!!』
煽った本人の大悟もまさか口に入れるとは思わなかった。
「ん!!」
「おい、無理そうなら吐き出してもいいんだぞ。俺が悪かった、だから無理に飲み込む必要はない!!」
大悟はフレイに謝りながら吐き出すようお願いする。
「ゴクン⋯⋯」
フレイは飲み込むと缶にまた手を伸ばす。
「これ、臭いはキツいけど美味しいね」
そしてパクリと再び口に入れる。
ヒーローを目指すフレイに迷いなどなかったのであった。
大悟は大悟でフレイにヒーローを諦めさせるのは生半可な事ではないと改めて理解したと同時にフレイに対して罪悪感を感じていた。
「どう?これで私がひよってないという事が分かった?」
「お、おう、お前は立派だよ。まさか、そこまでの度胸があるとは思わなかった」
大悟はフレイが缶詰を完食する事は完全に予想外だった為、度肝を抜かれてしまったのである。
「⋯⋯そういえば、私がヒーローになったらどういう名前がいいと思う?」
フレイは自身のヒーロー名の案を聞いて来る。
「それはお前にはまだ、早い!!」
ヒーロー名を決めるのに遅いも早いもないが、ヒーロー名なんて考えたら諦めさせたい大悟としては更にやる気になってしまう可能性がある為、その返答には答えられないのである。
「それならどうすれば名乗れるの?」
「とりあえず、多くの人助けて認められてだな⋯⋯」
「⋯⋯つまり、魔王に支配された領地を取り返せばいい訳だね!!」
「そ、そうだな⋯⋯」
フレイの言ってる事があながち間違えではない為、大悟は反論出来なかった。
「⋯⋯フレイ来るぞ!!」
話をしてると突然、大型の蜂と蟷螂を融合させたような虫が押し寄せて来た。
「⋯⋯おしゃべりしていたせいで気付いていなかったがどうやら、俺達はあの虫の巣に近付きすぎたようだ」
大悟から十メートル離れた位置に巨大な巣がある。
本にものっていたこの森にいる虫の中で危険な虫の一つである。
巣には絶対に近付くなと本にも散々書かれていた事なのだ。
「フレイ、今回は魔法の使用を許可するが俺からあまり離れるなよ」
今回ばかりはフレイの力を借りざるを得ない状況だった。
「うん!!」
「こいつは苦労しそうだ⋯⋯」
大悟は『セイヴァー』に変身し、『斬刺蜂』に拳を叩き込む。
「甲殻が思ったより固え」
『セイヴァー』は両手に闘気を集中させ硬化させる。
「【ファイアシュート】×5」
フレイは遠くから『セイヴァー』が倒し損ねた斬刺蜂を【ファイアシュート】で爆砕させる。
「くっ!!」
『セイヴァー』の拳が斬刺蜂の鎌のような前足に弾かれる。
斬刺蜂が危険な虫系の魔物に選ばれてる理由の一つは甲殻より頑丈な鎌のような前足である。
斬刺蜂は『セイヴァー』の拳を弾くと尻の毒針を『セイヴァー』に刺そうとするが『セイヴァー』は間合いを取りその毒針を避ける。
斬刺蜂が危険な虫系の魔物に選ばれてる二つ目の理由はこの尻にある発達した産卵管の毒針である。
最悪の場合、相手を即死させる毒でもある為一番注意が必要なのだ。
「⋯⋯まったく、倒しても倒しても巣から這い出て来やがる。キリがねえな」
大悟達ら斬刺蜂を倒すが、次々と巣から這い出て来てキリがないのである。
そして、最初よりも量が増しているのであった。
「とりあえず、これ以上戦っても意味がない⋯⋯フレイ、とりあえずこいつらを倒す事は諦める。巣を迂回して奥に進む。強行突破するぞ!!」
大悟はフレイに指示を出してフレイは大悟の近くにやって来る。
「⋯⋯いい加減どきやがれ!!」
大悟達はいつの間にか斬刺蜂達に囲まれており、なかなか逃げ出せずにいた。
斬刺蜂は分かっているかのように逃走ルートを塞いでいるのである。
「【ファイアシュート】×8」
フレイも【ファイアシュート】で数を減らすが、それでも突破は厳しかった。
「【ファイアシュート】×10」
フレイは呼吸を乱しながらも【ファイアシュート】を乱射する。
「うっ!?」
その時だった、フレイは魔力の使い過ぎで目眩を起こす。
その隙を斬刺蜂は見逃さず、前足をフレイに振り下ろさんとするがそれを『セイヴァー』が横から殴り飛ばす。
「ハァハァ⋯⋯」
「大丈夫⋯⋯ではなさそうだな」
『セイヴァー』はフレイがもう限界だという事を察知する。
「ま、まだ、いけるもん⋯⋯【ファイアシュート】」
確かに撃ててはいるが威力が明らかに落ちてるのである。
「もういい!!無理するな!!」
大悟はフレイを抱き抱えて斬刺蜂の方へ突っ込んでいき、斬刺蜂の攻撃を掻い潜りながら邪魔な斬刺蜂を殴り飛ばしていく。
「もう少しだ。もう少しで突破出来る!!」
大悟達の目の前にいる蜂の数が少なくなり突破目前という時だった。
「!!」
大悟の変身が時間切れで強制解除されたのである。
闘気を扱えない変身していない状態で斬刺蜂を殴り飛ばす事は当然できないのであった。
それでも、大悟は斬刺蜂の攻撃を避け続けやっとの思いで突破した時だった。
「うぐっ!!」
背後から斬刺蜂の毒針が迫っており、避けようとしたが脇腹に刺さってしまった。
それでも、大悟は痛みを堪え森の中を走り抜ける。
そして、斬刺蜂が見えなくなるとフレイを押し倒しながらその場に倒れた。
「大悟!?⋯⋯酷い熱!!」
斬刺蜂の毒が大悟を今蝕んでいるのだった。
「大悟、大悟、しっかりして!!」
しかし、大悟は荒い呼吸をしてるだけで返事は出来なかった。
「⋯⋯一体どうすればいいの?」
こういう時、フレイはどうすればいいか分からなかった。
今までなら、困れば大悟が大抵何とかしてくれたからである。
「そうだ、万能薬!!」
フレイは大悟がポケットにシュドルからもらった万能薬を忍ばせていた事を思い出した。
フレイはうつ伏せの大悟を仰向けにひっくり返しズボンのポケットから万能薬を取り出す。
先端のガラスを折り飲ませようとするが大悟に飲ませようとしても口から出ていってしまい飲ませる事が出来なかった。
「⋯⋯飲ませられないよ」
その時、フレイは大悟の言葉を思い出す。
「フフ、ヒーローとは時に度胸も必要なんだ。これくらいでひよるようじゃヒーローになるなんて夢のまた夢だな」
という本来なら大悟がフレイを諦めさせようとした言葉だが、フレイは大悟の言葉の意味を心で理解する。
「大悟、絶対に助けるからね」
フレイは万能薬を口に含むと大悟に口移しで万能薬を飲ませる。
「⋯⋯これで良くなってくれるよね」
フレイは大悟の様子をしばらく見ていると熱はあるが、呼吸が安定してきた事を確認して一先ず安心した。
しかし、フレイはまだ気付いていなかった。
フレイ達は既に敵に囲まれていたのである。
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