霧の森

大悟とフレイは霧の森を通りアールズを目指す。


そして、兇獣王はハリー砦と霧の森に刺客を送り込むのだった。


「薄暗くて幽霊とか出そうな雰囲気だな」


「ゴースト系は出ないって聞いてるけど?」


「そういう雰囲気だと言っただけなんだがな」


ゴースト系は物理攻撃が一切効かない為、物理攻撃しかない大悟にとっては勘弁して欲しい相手だった。


「それにしてもさっきから真っ直ぐ進んでるが、アールズの方向は間違えてないよな」


大悟は地図を持っていない為、現在地の場所すら分からないのである。


この国の地図をシュドルに見せてもらったが、分かってる事は霧の森を南東に抜けた先にアールズがあるという事だが、この霧の森がどうなっているかは地図上を見ただけでは分からないのであった。


そもそも、ここに入る人間は自殺志願者くらいのものである。


「⋯⋯フレイ、来るぞ!!」


大悟のスキル【危険感知+】が発動する。


このスキルはわずかな殺気や自分の身に起きる危険を察知するスキルである。


「えっ?何が?」


大悟がフレイを抱き抱えると上から粘液が降ってくるのを避ける。


「洋灰蜘蛛だったか?」


大悟は一応ここについて調べていた時に見た魔物だった。


徘徊型の蜘蛛で粘液は時間が経つと石のように固まる性質があり、その鋏角には肉を溶かす毒腺を持ち獲物を喰らう巨大蜘蛛である。


「⋯⋯俺、実は昔から虫が嫌いなんだ。虫唾が走る」


「虫だけに?」


「別に上手い事を言ったつもりはないんだがな」


大悟は降り注ぐ粘液を回避しながら【空歩】で木の上にいる洋灰蜘蛛に近付く。


「近くで見ると益々キモいな」


大悟は洋灰蜘蛛を木の上から蹴り落とし地面に叩きつける。


地面に叩きつけられた洋灰蜘蛛は辛うじて立ち上がろうとするが落下の勢いで大悟は洋灰蜘蛛を踏み潰す。


「こんな気持ち悪いのばかりだと思うと気が滅入るな」


洋灰蜘蛛に悪態をつくのも束の間、再び上からの襲撃がやって来る。


今度は一匹ではなくざっと数えても五匹以上はいた。


「⋯⋯いい加減にしろよ。この節足動物が!!」


「【ファイアシュート】【ファイアシュート】【ファイアシュート】【ファイアシュート】【ファイアシュート】⋯⋯」


大悟が木の上にいる洋灰蜘蛛を蹴り落とそうと踏み込んだ瞬間、フレイは洋灰蜘蛛目掛け【ファイアシュート】を連発すると洋灰蜘蛛が爆発四散する。


「⋯⋯気持ち悪いから速くこんな所出たい」


どうやら、フレイも虫は嫌いなようだった。


「⋯⋯そうだな。だが、あまり無理するなよ」


大悟としてはフレイが無茶をする方が心配なのである。


いくら強力な魔法を扱えると言ってもフレイはまだ子供なのだ。


大悟はヒーロー以前に大人として子供を保護しなければいけない立場なのでフレイにはあまり前に出て欲しくないのである。


「大丈夫、問題ないよ」


「そういう台詞が一番不安になるんだ」


しかし、ここの虫に関してはフレイに任せた方が楽なのは確かでもあった。


ここの魔物は炎に弱い魔物しかいない為、フレイの強力な炎の魔法が有ればイージーモードなのである。


何せこの森で特に硬い甲殻を持つ洋灰蜘蛛を一撃で仕留められるのである為、それ以下の虫も一撃で仕留められるという事だ。


「⋯⋯でも、もっと魔法の上手い使い方がある気がした」


「そういうのは、もっと安全な所に出てから考えような」


大悟としてもこんな虫だらけの気持ち悪い森を速く出たかったのである。


大悟とフレイは虫の魔物に何回か襲われたが、危なげなく森を進んでいるが大悟はある違和感を感じる。


「なぁ、これは気のせいじゃないよな」


「どこが?」


「どうして、ここに洋灰蜘蛛の死骸が転がっているんだ?」


大悟は洋灰蜘蛛の死骸を指差す。


「他の魔物と戦ったのかな?」


「いや、違う。それは俺が仕留めた洋灰蜘蛛だ」


その洋灰蜘蛛は、頭が潰されていた。


大悟がダイブした時に頭が潰れたのである。


「この死体があるという事は戻って来てるな。何処で道を間違えた?」


大悟としては真っ直ぐではないにしろ道なりに進んだつもりであった。


そして、次は道に注意しながら先に進むがしばらく進むと同じ場所に到達する。


「⋯⋯そういえば、この森は虫と植物の魔物が共生した独自の生態系を築いていると書いてあったな」


「それがどうしたの?」


「いや、虫の魔物は既に何回か見ているが植物の魔物っていうのを見ていないなと思ってな」


大悟は虫の魔物は嫌という程見かけたが、植物の方はまだ見ていなかった。


「可能性としては木に擬態して俺達を迷わせてるか⋯⋯成る程、『人喰いの森』とはよく言ったものだ。ここの魔物はかなり狡猾に人間を喰いに来てるな」


大悟達は洋灰蜘蛛の他に吸血蝶や肉食蝿などの空中を飛び回る虫や人地獄と呼ばれる蟻地獄のような地面から襲って来る虫の魔物がいた。


一匹一匹は大した事ないが、数で来られると厄介で大悟はその虫の魔物から何回か攻撃を受けている。


吸血蝶は羽が刃のように鋭いので大悟の拳は傷だらけである。


そして、吸血蝶は血の臭いに寄って来るので大悟は倒す際に何度か吸血されていたのだった。


肉食蝿は噛む力が強く噛まれるとかなりの激痛を伴うが、大悟は既に何回か噛まれている。


数が少なかったからよかったが、群れで襲って来たら骨まで喰われていただろう。


人地獄は蟻地獄を人間サイズにしたような虫で洋灰蜘蛛より気持ち悪く、フレイに一瞬で爆砕された。


ここは人をあっという間に殺す魔物の巣窟なのである。


森に入ったものを迷わせ、弱り切った人間を次々と殺していくのだ。


死んだ人間は虫達の餌となり植物の養分となる。


正に『人喰いの森』と言われてる理由はそこにあるのであるのだ。


「木に擬態しているなら俺達に区別は出来ないが、流石に生命が脅かされる状況になれば、静止を決め込む訳にはいかなくなる。あまり、気が進まないが森林伐採をするか⋯⋯」


大悟は『セイヴァー』に変身し、拳に闘気を一点集中させ硬化させると近くの木に対して手刀を放つとその木はそのまま折れるように倒れる。


「流石に一点集中すると威力が凄じいな」


「でも、それは普通の木だね」


大悟が倒した木はそれといって変わった所がない普通の木であった。


「でも、それはいい考えだね【ファイアシュート】」


「ちょっ!!」


大悟が止めようとする前にフレイは既に【ファイアシュート】を放っていた。


フレイが【ファイアシュート】を放つと一気に二、三本の木が爆散するとその中から悲鳴のようなものが聞こえた。


「あのな、フレイこの森が火事になって一番困るのは俺達なんだぞ、この規模の森が火事になったら助かるかすら⋯⋯」


大悟がフレイの魔法が有効だと分かっていても極力使いたく無かった理由が森が火事になった時に無事に脱出出来る気がしなかったからである。


そう言うリスクを考えた場合、フレイの安全面を考慮すれば極力使わないに越した事があるからだ。


「⋯⋯お願いだから大人しくしててくれ」


大悟はフレイに大人しくするように頼む。


「うん、考えとくね」


大悟はフレイを子供だと思って侮っていたのだ。


フレイは大悟が思っているよりとても聡い子であった。


大悟はこの言葉は常套句だと言うことを理解したからこそ釘を刺しておく。


「あんまり我儘が過ぎるとアールズに置いていくからな」


「いや、置いていかないで⋯⋯」


「なら、大人しくできるな」


「う、うん」


「で・き・る・な?」


歯切れが悪いフレイの返事に対して大悟は念を押す。


「うん、だから置いてったら嫌だよ」


「それが嫌なら大人しくしといてくれ」


大悟は実際そう言うが置いて行く気は全くないのである。


欲しい玩具があってその場から離れようとしない我儘過ぎる子供にこのまま置いてくぞという感じであった。


「使うなとは言わない。俺でも手に負えない奴が出て来るかもしれない。その時は使ってくれて構わない」


「うん、分かった」


フレイ自身、そんな時が来るとはあまり想像していなかったのである。


「そういえば、悲鳴のようなものが聞こえた気がしたが⋯⋯」


大悟がフレイが爆砕した木の所に向かうと奥へ続く道が続いていた。


「本当に擬態して道を隠していたんだな」


「これで奥に進めるね」


「さて、せっかく燃やせる木もあることだ。今日はこの辺で休憩しよう」


大悟はとりあえず、スクリーンでランダムレーションをHPヒーローポイントと交換するのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る