天族
大悟とフレイは王都プローシュに向かって歩いていると数人の甲冑を来た者達が大悟達の前に現れる。
「そこの者達、止まりなさい」
甲冑を着た者の中にいた法衣姿の背の低い女性が大悟達を呼び止める。
「⋯⋯貴方達、アールズの方角から来たみたいだけど⋯⋯あそこは獣人達が縄張りにしてたはずよ」
背の低い少女は、アールズの方角からやって来た大悟達を怪しんでいる。
『さて、どう答えるか⋯⋯フレイ、そんな心配そうな顔をするな⋯⋯お前らだってその方向に向かって何しようとしてんだ?』
大悟はとりあえず、この少女達の目的を探ってみる事にした。
「⋯⋯それを知っていて、お前達は何しに行くんだ?」
「質問を質問で返さないでくれないかしら、貴方の国では疑問文には疑問文で答えなさいとでも言われてるの?」
どうやら、この少女は質問に答える気はないようであった。
「やれやれ、血の気の多いお嬢さんだ。お前らのいう獣人の長とやらが倒された。それだけだ」
その大悟の言葉でその部隊が騒めきだす。
「⋯⋯静かにして⋯⋯そう、それを確認する為に派遣されたけど、そういう事ならわざわざ行く必要はないかもしれないわね」
その少女は何かに納得している。
「分かったら、そこをどけ⋯⋯」
「そうね、いいわよ。悪かったわね。呼び止めて⋯⋯」
少女はそう話すが全くその場から移動しようとしない。
「⋯⋯とでも、言うと思ったの?他の者の目はごまかせても、私の目はごまかせないわよ」
そして、その少女の視線の先にはフレイがいた。
「⋯⋯その子、魔が混じってるわ。汚らわしい魔族の血が⋯⋯」
フレイはその言葉に反応し、大悟の腕に掴まる。
「それで、お前はどうする気だ?」
「⋯⋯どうする気だって?決まっているじゃない、魔族は私達の敵よ。その子にはその血が入ってる。いつ魔族に寝返るか分からない奴を野放しなんて出来る訳ないじゃない。早くその子を渡しなさい!!」
大悟はフレイが以前言っていた事を思い出した。
魔族と人間の混血はどちらの種族からも疎まれる存在だという事である。
「⋯⋯いいから、そこどけよ」
「その子を渡したらどけてあげるわ」
「それで、お前らにフレイを渡したとしてフレイはどうなる」
大悟はこの少女の態度と周りの雰囲気からしてろくでもない事にしかならないと判断する。
「それを知って、どうするつもり?逆に聞きたいわ。貴方はどうしてその汚らわしい混血を連れているのかしら?」
「お前の国の人間は質問を質問で返すよう教わるのか?」
「わ、私はいいのよ!!」
その少女は先ほど自分が言った台詞を返されて一瞬動揺する。
「⋯⋯話しにならねえな。お前がどれくらい偉いのか知らないし、興味もねえよ。だが、大人が子供を保護するのは当然の事だろ。いきなり出てきた上に渡せだ?ふざけんな!!それを決めるのは俺でもお前でもねぇよ。どっちに行きたいかはフレイが決める事だ」
その言葉を聞くとフレイはより強く大悟の腕を握る。
「⋯⋯貴方はその子に騙されているのよ!!魔族の中には催眠をかけて意のままに操る奴がいるわ。それに気付いてないだけ、いい加減目を覚ましなさい!!」
「⋯⋯フレイ、悪いな」
「えっ!?きゃっ!!」
大悟はフレイを抱き上げる所謂、お姫様抱っこである。
「⋯⋯なっ!?」
大悟は既に少女を含む部隊の裏に回っていた。
「い、いつの間に⋯⋯じゃなかった。ま、待ちなさい!!」
「誰が従うかよ」
大悟は少女達を抜き去ると一気に走り抜けた。
「⋯⋯ここまで、逃げればいいかな」
「大悟、ごめんね。私のせいで⋯⋯」
「お前は何も悪くねぇよ。だから、胸を張ればいいんだ」
「⋯⋯うん」
しかし、そのフレイの返事は元気がなかった。
「⋯⋯悔しいのか?あれだけ言われて何も言えなかった自分が⋯⋯」
「⋯⋯私の事なのに私何も出来なかった」
「それでいいんだ。大人が子供を守るのは当然だからな。今度はお前が大人になった時に同じように子供の未来を守ってやればいいんだ」
大悟はフレイの頭を撫でながら落ち込むフレイを励ます。
「⋯⋯それより大悟は良かったの?アレたぶん王都からの使者だよ。王都で鉢合わせたらまずいんじゃない?」
「俺はお前が、無事なら問題ない。守ってやるって言ったからな。俺は俺の正義を貫いた。それだけだ。フレイが気にする必要はない」
大悟は自分の損得感情よりも自分の正義を貫く事を優先する。
これなら、騙されていると思われても仕方ないかもとフレイは考えてしまったが、これが大悟の良さだというのをフレイは知っている。
「さて、余計な邪魔が入ったが⋯⋯来てるな」
「うん、来てるね」
大悟とフレイはそれぞれのスキルで背後に迫る先程の女性の姿を捉える。
「⋯⋯やれやれ、どうしてもフレイの事を連れて帰りたいようだ」
「どうするの?」
「⋯⋯一人のようだし待つか」
先程の少女はたくさんいた取り巻きを引き連れておらず単身で大悟の方に真っ直ぐ向かって来ている。
「⋯⋯ハァハァ、隠れもせず待ち伏せなんて随分と余裕じゃない!!」
「お前こそ、取り巻き共はどうした?」
「愚問ね。私くらいになれば、そんな子供一人連れ帰るなんて余裕なのよ」
「⋯⋯だとよ。偶には試してみてもいいんじゃないか、まだ魔王の配下じゃ不安が残るが人間なら練習相手としてちょうどいい」
大悟の目からして、目の前の少女はそれなりには実力がありそうだが、見たところ戦士ではないのである。
「私はフューム⋯⋯フューム・ライナー、王国騎士第三部隊を任せられてる身として混血を逃す訳にはいかないわ!!」
「いいか、魔法は使うなよ」
大悟は一応念を押すとフレイはどこで覚えたのかサムズアップで答える。
当然、大悟の影響もあるのだが、よく【ファイアバレル】を撃ち終えると人差し指の先に息を吹きかけたりと何処のガンマンだとつくづく思う。
「あら、さっきは怯えて何も出来なかったのにもしかして、大人しく捕まる気になったのかしら?」
「ふざけるななの」
フレイは驚くべき事にフュームに向かって親指を下向きに立てている。
所謂、サムズダウンである。
大悟の世界では使ったなら殴られるのを下手したら殺されるのを覚悟しなくてはならないサインである。
『そういえば、あまりにも気持ち悪い魔物がでた時に思わずやっちまってたな』
道中で気持ち悪い魔物に向かってこれをした記憶を大悟は思い出す。
その意味を知ってか知らずかフレイは使っている。
『サムズアップはともかくアレはやめさせよう。そして、俺も気をつけよう』
大悟はフレイの教育的に良くないのでやめさせる事にしたと同時に大悟も軽率な行動には気をつける事にした。
「それは残念ね。一瞬で終わらせてあげる。【魔装弓】」
フュームは光の弓を生み出すと光の矢をフレイ目掛け放つ。
「きゃあっ!?」
フレイはその矢を避けきれず直撃するが、驚いたくらいだった。
「アレ?あまり痛くない?」
光属性は速度が最も速い魔法を出せるが、その分攻撃力がかなり低いのだ。
魔法使いは基本的に魔法に対する耐性を持ち、強い魔法使い程その耐性も強いのだ。
だからこそ、フレイは撃たれながらフュームに特攻する。
「私の【魔装弓】が効いていない!?」
フュームは【魔装弓】から別の魔法を使おうとしたが、フレイは既に目の前に迫っていた。
「えいっ!!」
「うぐぅ!!」
フレイの【身体活性】で強化された正拳がフュームの鳩尾に偶々めり込むと鳩尾を抱え後退る。
「⋯⋯ハァハァ」
フュームは痛みを堪えているようだった。
その隙を見逃さなかったフレイはフュームに跳び蹴りを繰り出す。
「【魔装盾】」
「きゃん!!」
しかし、その跳び蹴りはフュームが生み出した光の盾に防がれる。
「【キュア】」
そして、フュームは自身を回復させる。
『い、今のは危なかったわ。何なのこの子⋯⋯混血なら魔法くらいは普通に使って来るものだけど⋯⋯使わないで殴りかかって来るなんて⋯⋯でも、この力は魔法使いの力ではないわ』
フュームは回復した事で冷静さを取り戻すが、魔法を使って来ないフレイに違和感を感じていた。
「【魔装弓】」
フュームは【魔装弓】を引き絞りながら魔力を溜める。
その矢は徐々に光を増しており、フレイが動くと同時に放たれた。
「何処狙ってるの?」
フレイはフュームの光の矢を易々と避ける。
「くっ、ちょこまかと⋯⋯」
フュームは溜めて何回も撃つがその全てをフレイに避けられる。
光魔法は魔力を収束させて放つ事で威力を上げる事が可能なのだが、フュームの【魔装弓】で放たれる光の矢は直線なので、放つ瞬間が分かれば簡単に避けられてしまうのだ。
「【光の雨】」
フュームは魔力を溜めた矢を天に放つ。
「!!」
フュームの放った矢は広範囲に光の矢の雨を降らせる。
「う、うぅ⋯⋯」
威力が低いとはいえ何度も連続で被弾すれば、それが効いて来るのだ。
「まさか、これを使う事になるなんて⋯⋯子供だからと手を抜くのは良くなかったわ」
フレイが動けない姿を確認し、フュームは第二射を発射する。
「うわああああ!!」
フレイはフュームの光の雨を避けきれずに何度も受けるが、それでも立ち向かう。
それを見てる大悟は黙って様子を見ていた。
『あのフュームとかいう奴、口先だけじゃなかったようだな。さて、フレイはこの危機をどう突破するか⋯⋯フレイには怒られるだろうが危なくなったら助けよう』
大悟はフレイが気の済むようにやらせたかった。
「フフ、これで大人しく投降する気になったかしら」
「お断りなの」
フレイは立ち上がりながらサムズダウンをする。
「大悟についていけば、ヒーローになれるんだもん!!だから、絶対にお断りなの」
「ヒーロー?意味が分からないわ」
ヒュームは再び【魔装弓】を構える。
「『セイヴァー』のようにカッコいいヒーローになるんだもん!!」
「えっ!?」
その時、ヒュームは一瞬フレイを見失う。
「消えっ⋯⋯ふぐぅっ!?」
その一瞬でフレイはヒュームとの間合いを詰めると既にフレイの拳がヒュームの顔面を捉えていた。
その瞬間、大悟はフレイのスキルを確認する。
『【推進爆破】⋯⋯爆発の力で瞬間的に移動する⋯⋯』
その一撃でフュームは吹き飛び、ダウンしてしまった。
「う、うぐっ⋯⋯こ、この私がこんな混血の子供に⋯⋯」
フュームはふらつきながら立ち上がり、【キュア】で自身を回復させる。
「これで一方的に攻撃してやるわ!!」
フュームは背中に光の翼を生み出すと天高く跳び上がる。
「飛んだ!!」
「これが話に聞いてた天族って奴か!!」
大悟はフュームが光の翼を出した事で話しに聞いていた天族だと知る。
「飛んでも関係ないの!!」
フレイはフュームに向かってサムズダウンのサインを送る。
「「えっ!?」」
大悟とフュームはフレイの予想外の言葉に呆気に取られる。
フレイは【推進爆破】で一瞬でヒュームの高度を超える。
「叩き落とせばいいだけなの」
「嘘っ!?」
フュームはフレイが既に目の前に迫っている事に気づいた時には、フレイのかかと落としが頭上に迫っており、叩き落とされ今度こそ気を失う。
フレイは着地と同時にサムズアップを大悟に向ける。
「⋯⋯気にいったのかそれ」
大悟の言ったそれとは、指でのサインである。
「うん♪」
「でも、親指を下に向けるのは良くないからやめような」
大悟は保護者としてフレイを注意する。
「でも、大悟はやってたの」
「アレは悪い大人の見本だから真似しなくていい」
「ふーん、嫌な気持ちになった時に使うものかと思ったけど違うの?」
フレイは大悟にサムズダウンの意味を聞く。
意味としては間違ってはいないかもしれないが、どちらかというと相手を嫌な気持ちにさせるサインである。
相手によっては殺されかねないのだ。
「相手を嫌な気持ちにするサインだからな。魔物相手ならともかく、人相手の場合はやめておけ」
「分かった」
フレイはサムズアップをして答える。
相当、気に入ってるようだがサムズアップも国によっては悪い意味になるのであるが、大悟はこれだけは目を瞑ろうと考えた。
「⋯⋯さて、フレイ⋯⋯こいつをどうする?」
大悟は気絶したフュームを指差してフレイにどうするか決めさせる。
「⋯⋯とりあえず、起き上がるまで待つの」
「お前がそれでいいなら反対する気はないが⋯⋯こいつ、魔族を目の敵にしてるようだから話しにならないぞ」
大悟はフュームが目を覚まして大人しくしているとは思わないのだ。
「だからなの。ヒーローは言葉じゃなくて行動で正義を示す者だと大悟に教わったの。だから、私も行動で示すの!!他の魔族なんて関係ない、私は私なんだって!!」
『やれやれ、一丁前な事言いやがって、その心意気だけは一端のヒーローだよ。お前は⋯⋯』
「そうか、それなら休憩といこうか」
大悟はランダムスイーツでグミを出すとフレイは微妙な表情をする。
フレイはグミが嫌いなのだ。
食感が受け付けないらしく、あの弾力が嫌いである。
「分かったから、そういう顔をするな。俺だって何が出るか分からないんだ」
大悟が再びランダムスイーツをするとマシュマロが出る。
「やった、マシュマロが出たの」
フレイはスイーツではマシュマロが好きなのだ。
特に焼いてトロトロになったマシュマロが好きである。
しかし、フレイの魔法でマシュマロを熱しようとするとマシュマロが爆発を起こし溶けたマシュマロまみれになったフレイに大悟はあまり視線を合わせなかった。
その為、焚火の火で焼くしかないのである。
「グミは駄目なのにマシュマロは大丈夫なんだな」
グミもマシュマロも原材料的には殆ど変わらない為、フレイがグミが嫌いなのは納得でかなかった。
「だって、あのお菓子ゴム噛んでるみたいで気持ち悪いんだもん。マシュマロはフワフワで、焼くとフワトロの二通りの楽しみ方ができるんだよ」
フレイにとってグミとマシュマロは別物なのである。
大悟とフレイが休憩をしているとフュームがむくりと起き上がる。
「わ、私は一体⋯⋯そうだ!!」
フュームはフレイに返り討ちにあった事を思い出した。
「起きたか?あの高さから叩き落とされたのにその程度の怪我で済むとは天族って頑丈なんだな」
大悟はフュームの事を気にかけるが、フュームは大悟を素通りしフレイの前にやって来る。
「敵のくせに私にトドメを刺さないなんて、私に情けをかけたつもり?それとも、トドメを刺すまでもない相手だと思ってる?」
「思ってもいないし、情けをかけたつもりもないよ。私がそうしたいと思ったからやっただけ⋯⋯それが私の目指すヒーローだと思うから」
「⋯⋯意味が分からないわ。そもそも、ヒーローって何よ」
当然、フュームはフレイの言ってる事を何一つ理解できていない。
そもそも、理解しようとすら思っておらず敵意剥き出しである。
「己の正義を貫き通す者⋯⋯だったかな?」
フレイは不安そうに大悟を見つめる。
強ち間違ってはいないので、大悟は黙っている。
「⋯⋯だったかなってどうして疑問形なのよ!!」
「だって、私の知ってるヒーローって『セイヴァー』くらいなんだもん!!」
「聞いたことないわ。それに本当に正義の味方ならあなたみたいな混血を野放しにするはずないもの。そいつの正義も所詮は紛い物なのよ」
「そんなことないもん!!『セイヴァー』は、最強のヒーローだもん!!」
憧れのヒーローである『セイヴァー』を馬鹿にされフレイはかなりムキになっている。
「最強って随分とデカくでたわね。でも、所詮は紛い物だから、口だけなんでしょ」
「アナタ達と一緒にして欲しくないの!!『セイヴァー』は口だけじゃないの!!
ヒーローとは口ではなく行動で正義を示す者なの!!私はそんなヒーローになりたいの!!」
「混血が正義を語るんじゃないわ!!魔族は私達の敵なのよ!!倒すのは当たり前じゃない!!」
フュームは【魔装弓】を生み出し構える。
「やれやれ、話にならねえとは思ってはいたが、ここまでとはなフレイもう相手にするな。相手にするだけ無駄だと言うことが分かっただろ」
大悟はフレイでは話にならないので割って入る。
「⋯⋯私からしたら、混血の肩を持つ貴方も十分異常よ」
「それがどうした?じゃあ、逆に聞くがこいつがお前らに一体何をした?お前が魔族とやらが嫌いなのは構わない。だがな、何もしてない奴を罰するのは間違っている」
「混血ってだけで罪なのよ!!貴方はそれが分かっていないからそういう事が言えるのよ」
フュームは頑なに大悟の意見を聞こうとしない。
「くだらないな。まるで答えになっていない。それなら、生まれてくること自体が罪みたいだな」
「だから、そう言ってるのよ!!」
「生まれてくる命に何の罪もない。お前はただ魔族が嫌いだから、そういう言い訳をしてるだけだ」
「言い訳じゃないわ!!実際に多くの仲間達が魔族に殺された!!それで魔族は悪くないと言えるの!!」
「だからと言って、こいつは関係ないだろ!!それにお前らだって多くの魔族を殺したんだろ。やってる事はそいつらと変わらねえじゃねえか!!」
「き、聞き捨てならないわ!!私達とあんな野蛮な奴らが一緒?取り消しなさいよ今の言葉!!」
大悟の言葉にフュームは我慢ならなかった。
「何処に取り消す理由がある。どんな綺麗事を並べようとお前達とそいつらは変わらねえよ。争いとはそういうものだ。いつもその割をくうのは戦う事のできない弱者なんだ。そこにお前達とそいつらに違いはあるのか!!」
「貴方は人間の癖にこっちの味方じゃないのね!!」
「⋯⋯味方?お前はいつから俺がお前達側だと錯覚していた?」
「なん⋯⋯だと⋯⋯」
「俺はそんな小せえ事に興味はねえよ。何が敵で何が味方か分けてる時点でお前の正義は程度が知れている。実際に正義と悪には境なんてないんだ」
「それなら、貴方の言う正義ってなんなのよ」
フュームは大悟の正義というものを知りたくなった。
「俺だって、自分のやってる事が絶対に正しいなんて思ってもいない。ただ、俺は弱い立場の者達が強い連中から理不尽な扱いを受けるのが許せないだけだ」
『セイヴァー』こと大悟は、絶対に正しい正義はただの傲慢だと思っている為、自分自身が絶対に正しいとは思っていない。
大悟はただ自分の信念を貫いてるだけなのだ。
「俺にとっての正義は何が正しいか間違ってるかじゃない。ただ、己の信念を貫くことだ」
「わ、私の正義は信念がないといいたいようね!!」
「さあな、ただ魔族だから殺すというのは考える事をやめたようにしか俺には見えねえよ。それなら、何もしてない弱い立場の魔族を殺す事も許されるのか?そんなの魔王の配下達のやってる事と変わらないだろ」
「貴方の言ってる事こそ綺麗事じゃない!!今にも苦しんでる人達がいるのに敵である相手に配慮するってそれで死んでいった人達は納得すると思ってるの」
大悟の意見にフュームは納得するはずがなかった。
「貴方の言ってる事はまるで現実的じゃない。ただの夢物語なのよ!!やらなきゃやられるそれが現実なのよ!!」
「それもそうだな」
「フフ、初めて意見が合ったわね。それじゃあ、その子を⋯⋯」
「何言ってんだお前?」
「今、私の話しに納得してたじゃない!!」
フュームは大悟が自分の話しを納得していたように見えていた。
「いや、確かにお前の言ってる事は正しい。でもな、そんな現実に救いはあるのか?」
「何を言いたい訳?」
「確かに俺の言ってる事は綺麗事だし夢物語なのかもしれない。だが、その夢物語を現実にするのがヒーローなんだ」
「なっ⋯⋯」
流石のフュームも開き直られては何も言い返せなかった。
「救いがないなら作ればいい。希望がないなら希望そのものになればいい。人々に夢と希望を与える。それが『
「!!」
「やっぱり、『セイヴァー』は凄いヒーローなんだね」
フレイは大悟の言葉でヒーローに益々憧れてしまう。
それに対してフュームは呆気に取られている。
「⋯⋯まるで、勇者ね。いや、勇者そのものね。既に魔王に倒されたと思っていたけど⋯⋯正体を隠す為、『セイヴァー』なんて偽名を使うなんて⋯⋯今回は本気で魔王を倒す気ね」
フュームはヒーローを勇者と勘違いしているが強ち間違ってはいないのだ。
何故ならこの世界にとってのヒーローが勇者なのだからである。
「魔王に負けた勇者と『セイヴァー』を一緒にして欲しくないの!!」
しかし、フレイにとってのヒーローは『セイヴァー』なのだ。
「な、さっきからなんなの?まるで、その『セイヴァー』って奴をよく知ってるみたいじゃない」
「当たり前なの。大悟がその『セイヴァー』なんだもん!!」
「ちょっ!!」
「⋯⋯⋯あ!!」
フレイは勢いで『セイヴァー』の正体を話してしまい、大悟は慌てだす。
「⋯⋯」
「⋯⋯」
しばしの沈黙とフュームの冷ややかな視線が大悟に向いている。
「⋯⋯どういうこと?」
「⋯⋯フレイ、明日はおやつ抜きな」
「うぅ、ごめんなさい」
フレイの失態により大悟はフュームに説明しなくてはならなくなってしまった。
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