宿敵

フレイを執拗に狙う天族であるフューム・ライナーはフレイに返り討ちにされたが、会話には応じるが全く話にならない。


大悟がフュームとの会話を試みるがそれでも全く話にならないがヒーローが何かを何となく理解してはくれたが、フレイがうっかり『セイヴァー』の正体を話してしまう。


そして、その説明をフュームにしているのだ。


フレイと出会った経緯や霧の森を突破しアールズを支配していた兇獣王ことデュラン・ディランを倒したことである。


「⋯⋯信じがたいことだと思っていたけど兇獣王が倒されたというのは本当だったのね」


先程とは違い素直に信じるが、それは説明の際に一々突っ掛かって来るので、『セイヴァー』に変身して、フュームの【光の雨】を全て回避して見せたことで無理矢理納得させた。


「⋯⋯だからこそ、その混血を連れている事が納得出来ないわ。そいつらは獣人だったみたいだけどその混血にはそいつらと似たような血が混じってるのよ」


「そいつらはそいつら、フレイはフレイだ。霧の森で不覚にも毒を受けて動けなくなった時、必死で助けてくれた。その恩を仇で返すような不義なこと俺には出来ねえよ。それに俺はこいつの保護者だしな」


大悟としては保護者の部分を強調する。


「その混血⋯⋯」


「そう呼ぶのやめて!!私には、フレイ・オルケストって名前があるの!!」


フレイは混血と呼ばれるのをかなり嫌がっている。


「だって、混血なのは事実じゃない」


「堕天種⋯⋯」


「!!⋯⋯言ってはいけない事を言ったわね」


「だって本当の事じゃない!!」


「私だって好きで堕天種になった訳じゃないのよ!!」


「私だって好きで混血になった訳じゃないの!!」


二人の喧嘩を大悟は呆れながら見ている。


「ところで堕天種ってなんだ?」


「地に堕ちた天族なの。純粋な天族は地上には降りて来ないの。天族は地に一度堕ちると地上の穢れで堕天して本来持つべき翼を失うの。その代用としてあの光の翼を出す事ができるの」


「だ、黙りなさい!!」


フュームはフュームで堕天種の事を気にしている。


「純血を気取りたいのは分かるけどもう遅いの。純粋な天族は人間を含む他種族に絶対肩入れしないし、世界が滅亡しようが知った事じゃないの。ここにいる天族は全員、堕天種だと認めた方がいいの」


「あーー、あーー、聞こえない聞こえない」


フュームは耳を塞ぎ聞かないフリをする。


「お前は何処でそれを知った?」


「アールズにあった『悪魔大典』って本に書いてあったよ。本質的には悪魔と天族って一緒なんだって」


フレイはフレイで大悟の役に立つために勉強していた。


「成る程、そういうことか」


大悟はフュームを含む天族が純粋な天族に拘る理由は本質的に悪魔と変わらないから他ならないのだ。


「魔王に寝返った天族を悪魔というって書いてあったよ」


「そこまで聞くとこいつが魔族に恨みを抱く気持ちも分からなくはないな」


「⋯⋯奴は無限の魂と引き換えに四代目魔王へ寝返ったのよ。味方の半数を生贄と称して虐殺し、奴の配下は全員悪魔となったわ。奴は例え殺しても魂までは再び悪魔へと転生する。それが悪魔皇ヰード・ヘルシタッド、奴を魂ごと消滅させるのが、私達の悲願よ。奴等は生きてる事さえ許されない。殺して殺して殺し尽くす。それで死ねるなら本望よ」


「お前が魔族を目の敵にする理由もその悪魔皇とやらが許せない気持ちは分かった。だからといって、何もしていない魔族にまで手をかけるのはどうかと思うがな。それに軽々しく死ねるなら本望だと言うな」


「それなら、あんたはどうしろと言うのよ!!」


「⋯⋯そうだな。絶対に生き残る覚悟をしろ」


大悟は数々のヒーローが死んでいったのを見ている。


ヒーローを引退する大多数は死の恐怖であった。


ヒーローはいつ何時死ぬか分からない、実際大悟の親友も人質を取った犯人に嵌められて殺された。


その記憶は大悟自身鮮明に憶えている。


何故なら、その犯人を捕らえたのは表向きは大悟であり、本当ならば命を張り人質を助けた親友であるのだ。


あの時、本来なら死んでいたのは大悟だった。


親友が大悟を庇いナイフに貫かれながら殴り倒したのだ。


「ほら、僕も⋯⋯上手くやれた⋯⋯だろ?」


「馬鹿野郎!!これ以上話すな!!とりあえず止血と救急車だ!!」


大悟は親友の止血をしながら救急車を呼んだ。


「⋯⋯ねぇ、大悟⋯⋯僕が⋯⋯こんな無茶な事をしなければ⋯⋯」


「だから、喋るなと言ってるだろ!!クソッ、血が止まらねえ。絶対助けてやる!!絶対だ!!」


「⋯⋯もし、僕が⋯⋯死んだら⋯⋯」


「柄にもねえこと言ってんじゃねえよ!!俺は助けると言ったら絶対助けるんだ!!分かってるだろ!!だから、死ぬなんて軽々しく言うんじゃねえ!!」


大悟は必死に親友の応急手当てをしている。


「⋯⋯ハハッ、大悟らしいや。流石は僕が一番⋯⋯尊敬する⋯⋯最高のヒーローだ」


「だから、柄にもない事言ってんじゃねえよ!!それはお前の事だろうが!!」


「⋯⋯大悟、僕は君がくれた『ジャスティス』になれたかな?」


「⋯⋯ああ、正義馬鹿だからな。お前は⋯⋯」


「⋯⋯それは君といい勝負だと思うんだけどな。僕が死んでも⋯⋯ヒーローを続けて欲しい⋯⋯それが⋯⋯僕の⋯⋯⋯⋯」


そして、親友は息を引き取った。


大悟はこの時、『セイヴァー』の名に恥じぬヒーローになろうと誓ったのである。


「⋯⋯無様でも、カッコ悪くても、這いつくばってでも生きる。その先にしか見えない景色があるんだ。お前に見せてやるよ。その景色をそして、軽々しく死ぬなんて言えなくしてやる」


大悟は【ヒーロー覚醒】の項目を目の前に出す。


冷静に考えれば、軽率な行動だと分かるが大悟はこの少女に賭けたくなったのもあったが命を粗末にするのが我慢ならなかった理由の方が大きい。


「な、何をする気よ!!」


フュームはかなり動揺している。


「お前の正義が本物か確かめてやる。もし、お前の正義が本物なら、今の限界を超えた力が手に入るだろう。それが上辺だけの正義ならお前はそこに到達できない。どうした、怖気付いたか?」


「私の正義を試そうって訳ね!!それなら、受けて立つわ!!」


「その覚悟やよし。いくぞ!!」


「いつでも来なさい」


すると大悟は【ヒーロー覚醒】をフュームに使うとHPヒーローポイントを五万消費する。


『フレイの時より少ない!?』


フレイの時は七万だったのに対し、今回は五万である。


それでも、多い方だがフレイの七万に比べれば少ない方だった。


フュームの身体から光が収まると、交換一覧に『セイントチョーカー』という首輪が追加されていた。


「⋯⋯特に何も起こらないんだけど」


「そりゃそうだ⋯⋯お前の正義が本物ならと言ったはずだが?」


「そんな事ないわ!!私の正義は本物よ!!だ、騙したわね!!私をその気にさせて嘲笑う気だったのね!!」


フュームは自分の正義に自信があった為、何も変化がなかった事を認められなかった。


「ズルい!!私もやりたい!!」


フュームに対抗し、フレイもやりたがっているが、フレイには既に使ってしまっているのだ。


「いや、お前には既にやってしまってるから無理だ」


大悟は下手に誤魔化さなかった。


後で気付いても今気付いても同じであるからだ。


「そうなの?」


「本来なら魔法なしでこいつに殴りかかれるはずはなかったからな」


大悟がフレイの得た【ヒーロー覚醒】はかなり強力なのだという認識があった。。


「まさか!!私が負けたのはこいつの正義が本物だったからってこと!!更に納得出来なくなったわ!!」


フュームは当然、フレイに出来て自分に出来ない事が納得出来なかった。


『だからと言って、【ヒーロー変身】があるのに関わらず、変身出来ないんだけどな』


大悟は【ヒーロー変身】が出現しているのに関わらず変身出来ないのは何かしらの条件があるからだと思っている。


「何かしら変化がないか試してみたらどうだ?やってみないと分からないだろ」


「それもそうね。【魔装弓】」


フュームは光の矢を放つがほとんど変化した様子はない。


「ほら、みなさい!!やっぱり、駄目じゃない」


「他に変化があるかもしれないだろう?あの盾をフレイの攻撃で試してみればいい」


「任せて♪」


フレイはサムズアップで答えかなりやる気満々である。


「【コメットキック】!!」


フレイは【爆破推進】による跳び蹴りをフュームに繰り出す。


それを見て大悟はとある特撮の跳び蹴りに似たような必殺技があった気がした。


「いきなり!?【魔装盾】」


「うぐぐ⋯⋯やっぱり頑丈なの」


フレイの跳び蹴りは【魔装盾】にヒビを入れてはいるが、そのヒビが徐々に修復されていく。


「合図もなしにいきなり仕掛けてくるなんて⋯⋯やっぱり野蛮ね」


「戦いとは常にいきなりなの。それも分からないなんて甘ちゃんなの」


フレイは霧の森またの名を人喰いの森を経験してるので、戦いとは常に非常で待ってくれないものなのだという事を理解している。


フュームの言ってる事は魔王の配下と戦っている者とは思えなかった。


「⋯⋯【ファイアシュート】」


【メテオシュート】で割れないと判断するとフレイはバックステップで距離を離し【ファイアシュート】を放つ。


「ちょっ!?フレイ!!それはやり過ぎ⋯⋯」


大悟はフレイがここまで本気になるとは思わなかった。


「へぇ、確かに貴方の言った事は本当みたいね。ここまで、攻撃を受けてびくともしないなんて。いや、壊れた瞬間に修復されてるから壊れないようね。変化したのが盾の方なのは気に入らないけどよしとするわ」


「私の【ファイアシュート】を防いだの!!」


フレイもまさか防がれるとは思っていなかった。


「今のが【ファイアシュート】って、何処まで馬鹿げてるのよ!!あんな下級にも満たない魔法にあんな威力が出る訳ないじゃない!!」


フュームはフレイの【ファイアシュート】が本当に【ファイアシュート】か疑わしかった。


「分かるのか?」


そのフュームの反応でフレイの【ファイアシュート】が本来は【フレアシュート】だと知っている大悟がフュームを黙って手招きする。


「こ、今度は一体何よ!!」


それに気づいたフュームは大悟に近寄る。


「やっぱり、フレイのアレはおかしいのか?」


大悟はフレイに聞こえないような声量でフュームに話しかける。


「おかしいってもんじゃないわ。完全に【ファイアシュート】とは別物よ。【ファイアシュート】は引火させはできるけど爆発なんて起こさないわ。そもそも、爆発を起こそうとしたら風魔法もある程度使えないといけないのよ。それに風魔法が使えたとしてもアレ程の威力を出せるかも怪しいくらいね」


「どうして、怪しいんだ?」


「どんな魔法にも言える事なんだけど、適正魔法以外の魔法っていくら努力しても適正魔法の七割くらいの力しか引き出せないのよ。あの混け⋯⋯フレイといったかしら、彼女の魔法はどう見ても炎と風を九割使いこなせてやっと出せる威力なの。いくら数少ない天才の中の天才と言われた勇者一行だったニュウでも出来るか分からないのよ」


「そうだったのか⋯⋯」


フレイの使ってる魔法が当たり前過ぎてアレが魔法の普通の威力だと思っていた。


「それに気付かない貴方も貴方だけどね」


「いや、何となくアレが【ファイアシュート】ではない気はしていた」


「それなら、なんで言わないのよ」


「だって、【ファイアシュート】だと思って使ってたのが実は別の魔法だったと言われてすぐに納得できるか?まして、俺は魔法すら満足に扱えないんだぞ」


「⋯⋯それは分かる気がするわ」


フュームも同じ立場ならすぐに納得できるはずがないと思った。


「本来は【フレアシュート】っていうらしい」


「ちょっ!?それって炎の【古代魔法ロストマジック】『恒星魔法』⋯⋯星の起源にして始まりの炎と呼ばれてる幻の魔法じゃない!⋯⋯魔族がそれを生み出そうと色々したみたいだけど『恒星魔法』だけは生み出せなかったと聞いてるわ。『恒星魔法』の使い手だとしれたら魔族としてみたら喉から手が出る程欲しいはずよ」


「だからと言って始末するなんて言うなよ」


「言わないわよ!!『恒星魔法』の使い手なら話しは別よ。『恒星魔法』を使える者は天族の伝承では救世をもたらす存在なのよ。世界が混沌に飲まれた時に誕生し、救世をもたらす存在だと言われてる。天族の長達は勇者が機能しなかった時の保険だと話していたけど、この状況を考えれば現れてもおかしくなかったかもしれないわね。それが混血だと言うのが一番気に食わないけど!!」


フュームにとっては保護対象ではあるが、人間と魔族のハーフというのが気に食わなかった。


そもそも、ハーフとか以前に性格的に合わないのだろうと大悟は察した。


「あまり、こう言う事言いたくないんだけど、その混け⋯その子は当時の勇者といい勝負かもしれないわ」


「勇者について知っているのか!!」


大悟にとっては勇者の情報はかなり欲しかった。


「エレン・アインベルク、それが勇者の名前よ。歴代の中で唯一の女勇者でね。身長を超える大剣を使っていたわ。本来なら私も同行するはずだったんだけど、【魔装弓】の修行で山に篭っていたから、合流できなかったのよ」


「⋯⋯合流できなかったんじゃなくて置いて行かれたの」


「!!」


フレイの横槍にフュームは驚く。


「だ、誰が置いていかれたというのよ!!」


そのフュームの反論に対してフレイは黙ってフュームに指をさす。


「わ、私はちょっと【魔装弓】の取得に手間取っていただけで、取得した後に山から降りたら既に勇者一行が王都を後にしていたのよ!!半日早ければ合流できてたの!!」


「⋯⋯やっぱり置いて行かれているの」


「置いて行かれてない!!あの勇者も勇者よ!!もう少し待ってくれても良くない」


フュームは勇者一行に同行出来なかった事をかなり気にしている。


「私がついていれば絶対にこんな事にはならなかったわ」


「結果論なの。あなたがいてもいなくても結局、何も変わらないの。勇者は負けた。これが現実なの」


フレイは子供の割に達観しており、子供らしくして欲しい事を望む大悟にとっては悩みの種である。


「本当に腹が立つ子ね!!あんたとは仲良くできそうもないわ。どうしてあんたみたいなのが『恒星魔法』の使い手なのよ!!」


「それは私もなの!!突然現れて喧嘩を売って来て何様のつもりなの!!」


この二人はすぐにでも臨戦態勢に入りそうであり、この二人を止めるのは流石の大悟でも骨が折れそうであった。


「落ち着けフレイ!!フューム、お前もだ!!子供相手に大人気ない事をするな!!」


「あんたは黙ってなさい!!」


「大悟は黙ってるの!!」


「⋯⋯は、はい」


大悟は二人に気圧されてしまい、止める事を断念し、二人の喧嘩が収まるまで静観を決め込んだ。


ちなみにこの喧嘩によりこの一体の地形が若干変化した事は言うまでもなく、後にこれが問題になるとは大悟達はまだ知らなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る