スキル

フュームに【ヒーロー覚醒】を使った大悟だったが、大悟はその【ヒーロー覚醒】した者同士の喧嘩に巻き込まれていた。


大悟はフュームとの喧嘩で一切容赦しないフレイの猛攻を見て冷や冷やしていたが、その猛攻の全てにフュームは対応している。


「【魔装盾】」


「【ファイアバレル】×10」


フュームはフレイの炎弾の雨を【魔装盾】で防ぎきる。


「その盾さっきから鬱陶しいの!!」


「あんたこそなんて火力よ。強化された【魔装盾】じゃなきゃ防ぎきれないって出鱈目よ!!それにそんな魔法見た事ないわよ。完全にオリジナルじゃない!!」


フュームは防ぐ事しかしていないがフレイの攻撃に焦りを覚えていた。


フュームの【魔装弓】はフレイの【ファイアバレル】より速度は出るが威力が段違いだからである。


下手に【魔装盾】を解除し、【魔装弓】に切り替えるとその隙に【ファイアバレル】を撃たれたら【魔装弓】では対抗できないからである。


フュームは元々攻撃魔法は得意ではなかったのだ。


その事もあり【魔装弓】の取得も時間がかかってしまったのである。


あくまで彼女が得意としてるのは仲間の補助や回復である。


その為、【魔装盾】も本来なら扱えないはずだったのだ。


「あんたには絶対に負けない!!」


「それは私もなの!!」


【ヒーロー覚醒】は困難に立ち向かう度に強くなる効果がある。


その困難が大きければ大きい程にその得られる力は大きくなる。


「【ファイアシュート】」


「【魔装盾】」


フュームがフレイの魔法を防いだ時だった。


フュームの盾が光線を放ったのだ。


「うわっ!?」


その光線を受けフレイは吹き飛ぶ。


「いたた、何が起きたの?」


フレイは何が起きたか分からなかった。


「えっ!?」


フューム自身も何が起きたか分かっていない。


これはフュームが【魔法反射・光】を取得したから起きた現象だった。


攻撃魔法を防いだ時に光属性で跳ね返すスキルである。


「⋯⋯本当に鬱陶しい盾なの」


反撃を受けたフレイは盾の効果を何となく察した。


その為には盾を回避しつつ攻撃を当てる必要があるのだ。


「よく分からないけどチャンスね。【魔装弓】」


フレイの魔法を跳ね返したフュームはフレイに【魔装弓】を構える。


「【光の雨】」


フュームはフレイの真上に光の矢を放つが、フレイは冷静であった。


「【ファイアショット】」


フレイは親指、人差し指、中指を広げて真上に手を掲げて炎の散弾を放つとフュームが放った降り注ぐ【光の雨】を消し飛ばす。


「なっ!?」


フュームはフレイが【光の雨】をこんな方法で防ぎきるとは思わなかった。


「私だって、ヒーローになる意地があるの」


大悟も今の魔法は知らなかったのであった。


「ヒーロー、ヒーローって鬱陶しい!!」


「鬱陶しくないもん!!【ファイアバレル】」


「【魔装盾】」


フュームの【魔装盾】はフレイの【ファイアバレル】を光の弾丸で跳ね返す。


「【ファイアショット】」


フレイは跳ね返された【ファイアバレル】を【ファイアショット】で防ぐ。


「いい加減にするの!!その盾の方が鬱陶しいの!!盾なんか捨ててかかって来るの!!」



フレイはフュームの盾を何とかしたかった。


「そんな安い挑発に乗ると思ってるの?いい加減負けを認めなさい!!」


「絶対に認めないの!!」


フレイもフュームも互いに譲る気などない。


フレイは【推進爆破】を使いフュームを翻弄する。


「無駄なことを⋯⋯」


フュームはフレイの動きを目で追うのがやっとだった。


「【ファイアバレル】×10」


フレイは【推進爆破】で移動しながらフュームに【ファイアバレル】を撃ち込む。


「くっ⋯⋯ちょこまかと⋯⋯【魔装盾】」


「その盾はもう見飽きたの!!」


「!!」


フュームの【魔装盾】は盾の正面しか防げない為、多方向からのフレイの【ファイアバレル】を全て防ぎきれずギリギリで避ける。


「い、今のは流石に焦ったわ」


「今のは惜しかったの」


フレイは再び【推進爆破】でフュームを翻弄する。


フレイの【推進爆破】は周囲の木々を蹴り薙ぎ倒しながら跳躍しながら上昇する。


「【メテオダイブ】」


フレイはフュームの真上から急降下して来る。


「【魔法盾】」


フュームはフレイの【メテオダイブ】を受け止める。


「くっ⋯⋯なんて⋯⋯力なのよ⋯⋯」


フレイの【メテオダイブ】はフュームの【魔装盾】を押し込みながらも進んでいる。


「⋯⋯まったく、冗談きついわ」


フュームは【光の翼】を出して飛び上がる力を利用し持ち堪える。


フレイの【メテオダイブ】の勢いが弱まって来るとフュームはフレイを弾き飛ばす。


「⋯⋯ハァハァ、流石に限界ね」


フュームはその場に倒れた。


フレイも【メテオダイブ】で出し切ってしまったのか、起き上がる事が出来なくなっていた。


フレイが【メテオダイブ】を放った場所には大きなクレーターが出来ており、地形が少し変わってしまっていた。


「気がすんだか?お前ら」


大悟は立ち上がれない二人に声をかける。


「ハァハァ⋯⋯そうね。この子の攻撃を最後まで防ぎきった私の勝ちね」


「ハァハァ⋯⋯馬鹿なこと言うななの。私の攻撃を防ぎきった程度で勝った気でいるなんて片腹いたいの。防ぐ事しか出来ない能無しに私が負けるわけないの」


「な、なん⋯⋯ですって!!」


「絶対に私は負けてないの!!むしろ、ろくに攻撃が出来なかった時点で私の勝ちなの!!」


この二人は決して自分が負けたと認めようとしない。


フレイが極度な攻撃特化に対してフュームは極度な防御特化なのである。


そもそも、フュームが【魔装弓】取得で時間がかかったのは本来は攻撃魔法を扱う才能がなかったからであった。


「あのな、そんなどっちが勝ったとか負けたとかどうでもいいだろ。俺達は早く王都に辿り着かないとならないだろ」


大悟はフレイに本来の目的を思い出させる。


「そ、そういえば、そうだったの!!こんなのに構ってる暇なんてなかったの!!」


「こ、こんなのって言ってくれるわね!!」


「ハァ⋯⋯」


大悟は溜息をつきながら、飽きもせず続ける二人の口喧嘩を止めるのを諦めつつ野宿の準備をする。


「⋯⋯あんた、いつもこんな美味しいもの食べてたの?」


フュームは鯖の水煮を食べている。


「フレイにも言ってるが一応非常食なんだけどな」


「こんな美味しい非常食食べた事ないわよ!!」


フュームは鯖の水煮を完食するとおかわりを催促して来る。


「⋯⋯でも、中にはとんでもないのがあるの」


フレイはシュールストレミングとサルミアッキ、ドリアンの事を言っている。


「言ってるそばから出たがな」


大悟は黄色い膨張してる缶詰を取り出す。


「これはフュームが食べるの!!その為に出たの」


「どうして私になるのよ!!あんたが食べなさい!!」


フュームはとんでもないものと聞いてしまったので食べたくなかった。


「仕方ないの。臆病者のチキンちゃんには荷が重かったの。こんなのが王国の騎士を語るなんて王国の人材不足も深刻なの。臆病者は部屋の隅でガタガタ震えてればいいの」


「聞き捨てならないわ!!私が臆病者ですって!!分かったわ!!食べればいいんでしょ食べれば!!」


フュームはフレイが大悟から受け取ったシュールストレミングの缶詰をぶんどる。


「あまり無理しない方がいいの」


「大丈夫よ。問題ないわ!!」


フュームは缶詰を開けた瞬間だった。


「うぐっ!!」


フュームは顔を真っ青にしている。


「ほら、だから言ったの」


「無理無理無理無理⋯⋯これ本当に食べられるの?完全に腐ってるじゃない!!」


フュームは缶詰から離れ拒絶反応を起こす。


「まぁ、一応発酵食品だったな」


「これだから、口だけのチキンは嫌なの」


フレイはシュールストレミングを普通に食べている。


「確かに臭いはキツいけど慣れれば美味しいの」


フレイは既にシュールストレミングを克服しており、アールズでもらったパサパサのパンに乗せて食べている。


「よく食べれるわ。嗅覚と味覚が麻痺してるんじゃないかしら」


「何か言ったの?よく聞こえなかったの?」


フレイはフュームを睨みつけている。


「食事中まで喧嘩するな。朝飯抜きにするぞ」


「そ、それだけは勘弁して欲しいの」


フレイはフュームを睨みつけるのをやめて大悟の膝に腰掛ける。


「お前ら、泥だらけだからこれ食い終わったらこれを使って水浴びでもして来い。」


大悟が渡したのは石鹸とスポンジだった。


「ちょっ!!これって石鹸じゃない!!」


石鹸を見てフュームは驚いている。


「珍しいものなのか」


「普通は貴族や王族くらいしか持ち得ない高級品よ」


この世界では平民は水浴びのみで石鹸の類で身体は洗わないのである。


風呂ですら、貴族や王族くらいしか持たず。


風呂のある宿屋は貴族御用達の最高級のものくらいであった。


「食べ物もそうだったけど、普通は平民では手が出ないものばかりで、あんた一体何者なの?」


「何者と言われても普通のヒーローしてる人間なんだがな」


大悟としてはそうとしか答えられなかった。


神と自称する者に別の世界から連れて来られたと言って信じてくれるかも怪しいからである。


「その子が憧れてるヒーローってあんたなのよね。でも、その子があんたより弱いとは到底思えないけど?」


「確かにお前の言う事は間違ってはいない。だけど、ヒーローはただ力だけ強けりゃいいってもんでもない。ただ力を誇示するのはヒーローではないからだ。その力を以って己の意志を貫き果ては人々の願いを一身に背負う者、それがヒーローだ」


「正しく勇者みたいなものね」


フュームにとっては勇者の方が馴染み深かった。


「一緒にしないで欲しいの!!」


フレイはフュームの意見に反対する。


「⋯⋯そうね。勇者は自分の意志とは関係なしに選ばれる。その反面、ヒーローは自分の意志により正義を貫く者⋯⋯そういう意味では違うのかもしれないわね」


フュームは珍しくフレイに反発しなかった。


「そういえば、ちょくちょく私の視界の右上に何か文字が出るんだけど⋯⋯知ってる?」


「あ、私もそれ凄く気になってたの」


どうやら、フュームだけじゃなくフレイにも起きてる現象らしい。


「どういう文字だ?」


大悟には何となく心当たりがあった。


「最後に見たのは【魔装大盾】獲得、【盾分解】獲得、【盾合体】獲得って出ていたわね」


それは獲得したスキルの通知である。


「それはたぶんお前らが得た新しい能力だ【ヒーロー覚醒】の力の一部だ」


「それってつまりその子との喧嘩で新しい能力を得たってこと?」


「あ、本当だ」


フレイは【纏焔】というスキルを試すと右腕に炎を纏わせている。


「纏衣系の能力って、あんた魔法職よね」


「何か問題あるの?」


「その能力は本来、戦士職や剣士職等の近接系の職種が使う能力で魔法職には使えない能力なのよ」


纏衣系の能力とはデュラン・ディランが使っていた【纏岩】もその纏衣系と呼ばれる能力でそれぞれの属性を体や武器に纏わせる能力の事である。


そして、この能力を使えるのは接近職でもほんの僅かなのだ。


「でも、使えてるの」


フレイは【纏焔】を解除する。


「なんか、釈然としないわ」


フュームはフレイが近接系の職種の能力を有している事が不思議で仕方なかった。


「【魔装大盾】」


フュームも新たな力を試すとフュームの前に両手待ちの巨大な光の盾が出現する。


「これ確かに凄いけど一々解除しないと動けそうもないわね」


【魔装大盾】は移動しづらい為、移動する度に解除しないとならないのが面倒だった。


「何の為の【盾分解】なの?」


フレイはフュームの出たスキルを聞いており、その能力の内容をフュームの盾を見た瞬間何となく理解していた。


「あ、あんたに言われなくても分かってるわよ!!【盾分解】」


フュームの盾は二枚に分かれ左右の片手に一枚ずつ盾を手にしている。


「成る程ね。二枚の【魔装盾】に分かれるのね。⋯⋯って二枚も盾いらなくない!!」


フュームは二枚も盾を装備する意味が分からなかった。


「文句言い過ぎなの」


「あんたはいいわね!!使い勝手のいい奴ばかりで!!」


実際にフュームは他のスキルを試したがどれも扱いにくいスキルばかりだったのである。


その一つが【アンチダーク】と呼ばれる闇属性を無効化する結界を張る魔法である。


これは闇属性しか防げない為、闇属性以外には効果がないのであった。


これは元々フュームが持っていた能力だが、フレイとの喧嘩により【アンチファイア】が追加されているが、フュームにとっては使いにくいのである。


その理由は【アンチダーク】と【アンチファイア】は同時に発動させられないからである。


フレイが攻撃に特化したスキルなのに対し、フュームは防御系や補助系といったものばかりである為、フュームは不満で仕方ないのであった。


「いいから、お前らはさっさと汚れを落として来い」


大悟はフレイとフュームにさっさと水浴びして欲しかった。



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