国王排斥運動

プローシュに到着した大悟は宿で一旦フレイ達と別れ、安宿を探しているのだった。


大悟が宿を探しているとプラカードのようなものを持ち城の前を陣取り、何やら叫んでる集団がいる。


その光景は本格的なデモ隊であり、その全てが一般市民だった。


しかし、その数は千を軽く超えており、城の前はデモ隊に覆い尽くされており、謁見したい者すら近づけない雰囲気を出している。


この手のデモ隊は大悟も元の世界で見たことがあったので知っていた。


(世界が変わろうとああいう奴等はいるんだな。弱者の味方ではあるがああいう迷惑行為はいただけんな)


『セイヴァー』は弱者の味方ではあるが、迷惑行為や公序良俗に反する事は問題外であった。


騎士達が城門前でデモ隊に圧力をかけ城門に近付かせまいとしている。


「同士諸君、我々は異種族からの脅威に晒されている。それは何もあの悪魔や邪龍達の事だけではないのだ!!それ以上に危険なのは天族や聖龍達だ!!奴等は我々に力を貸してるようだが実は違う!!奴等は我が国をあの悪魔や邪龍達との戦いで疲弊させ、この国を取らんとしているのだ。⋯⋯そんな行為が許されていいのか!!」


デモ隊の中心で筋骨隆々な大男が声を大にして叫ぶ。


「許される訳がないのだ!!しかし、それをよしとする者がいる。それは一体誰なのか⋯⋯そうだ、この国の王、プローシュ十一世⋯⋯ダルタニア・プローシュだ!!奴は売国という我々国民に対し許されざる罪を犯したのだ!!だからこそ、その責任を取り大人しく辞めるべきなのである!!だが、現状はどうだ!!奴は売国という許されざる罪を犯したのに関わらず、更なる罪を重ねようとしている。これは最早我々が立ち上がり、愚かなる王を粛正しなければならないのだ!!」


男はかなり過激な発言をしているが、騎士達はそれを止める素振りを見せないのである。


その理由はここで騎士の権力を行使すると彼等に対し王の売国行為を認めるようなものであり、それを理由にし国王排斥運動を更に活発になる可能性が大きいからだ。


それを止める事が出来ない事を知ってるので男はこんな大胆な行為が出来るのだ。


「だが、奴には自分の身を守る騎士という暴力があるのだ。我々は声を大にして叫ぶ事しか出来ない。我々は売国奴が持つ権力と暴力の前になす術はないのだ。だからといって何もしなくていいのか!!否、断じて否!!祖国を愛する者だからこそあの売国奴の罪を許してはならないのである!!」


男が叫んでいると男に感化された者達が城に向かって大声で叫んでいる。


大悟は男の発せられた言葉により、先程以上にデモ隊の行動が目立つようになっている。


集団心理により、一人が城門の前に立つ騎士に石を投げると揃って他の者も石を投げだす。


先程の男はその様子を邪悪な笑みで眺めている。


「この!!黙って聞いてりゃつけ上がりやがって!!貴様等は誰のおかげで悪魔共の脅威から守られていると思っているんだ!!」


石をたくさん投げられ頭にきたのか騎士の一人が剣を抜き放ち怒りを露わにする。


「知るか!!王が売国奴ならお前らも売国奴じゃねえか!!」


「「そうだ!!そうだ!!」」


集団心理により勢い付いたのか、デモ隊は剣を抜いた騎士に怯みすらしない。


(この空気はよくないな)


大悟は騎士の仲間が剣を抜いた騎士を止めているが、それを好機と見たのかデモ隊の連中は「結局は脅す事しかできないのか?」や「王の権威がなければ暴力しか出来ない無法者だな!!」などと騎士達を罵倒している。


そして、その言葉に耐えきれなくなったのか騎士達の一部は抜剣しており、止める側の騎士も既に抜剣した騎士を止められる様子ではなかった。


「結局は気に入らなければ力で解決という訳か⋯⋯どうだ諸君、これが奴等の本性なのである。自分達の意に沿わない相手を暴力によって従わせる。国民を守る剣?笑わせてくれる。こいつらは王の犬という呼び方が一番お似合いだ」


男は騎士達を火に油を注ぐ勢いで更に煽る。


騎士達は今にも民衆率いるデモ隊に斬りかからんとしている。


「⋯⋯やれやれ、見ていられねえな」


大悟は物陰に隠れて『セイヴァー』に変身する。


「言わせておけば、好き放題いいおって!!」


「おい、やめろ!!」


「どけ!!」


「邪魔だ!!」


止めに入った騎士は怒りに我を忘れた仲間に押し退けられてしまった。


そしてその騎士が剣を振り下ろした瞬間だった。


「「!!」」


「ナニッ!!」


騎士の剣を摘むように止めている奇妙な格好をしたフルフェイスの者がデモ隊と騎士達の間に突然現れ、予想外の邪魔により騎士だけでなく、騎士達を煽りに煽った大男も驚くしかなかった。


「おいおい、やめとけよ。それこそ相手の思う壺だぜ。冷静になって考えろ。それをやって困るのは一体誰だ?」


大悟は剣を振り下ろした騎士達を説得する。


「くっ、かたじけない⋯⋯」


「分かってはいたが、我慢出来なくてな」


斬りかかろうとした騎士は剣を納めると後ろに下がる。


「お前⋯⋯一体何のつもりだ?」


この結果に面白くないのは当然、騎士達を煽りに煽った大男である。


「まったく、外は魔王の配下が攻めて来てるというのに平和だなと思ってな。人間同士で喧嘩してる余裕があるんだからな。かかって来いよ。⋯⋯喧嘩したいんだろ?」


『セイヴァー』はかかって来いと両手を使って挑発する。


「ふざけた格好しやがって!!この不動のバゼルアス様に喧嘩を売ってただで済むと思うな!!」


『セイヴァー』がバゼルアスに一歩近付くとバゼルアスは拳を大きく振りかぶり、『セイヴァー』目掛け殴りつけるが、『セイヴァー』は小指一本で止める。


「なっ!!」


「せっかく、先制を譲ったんだ。少しは本気出してくれよ。そんな大振りじゃ、止めて下さいと言ってるようなもんだぜ」


「!!」


『セイヴァー』の拳がバゼルアスの腹に迫るが、バゼルアスは防ぐ事ができず、命中と同時に吹き飛び壁に激突する。


(一応、加減したつもりだったんだがな)


『セイヴァー』自身、加減したのだがそれでも変身時の力は調整が難しかった。


「さて、こいつと同じように血の気に飢えた奴はいないか?相手になるぜ」


『セイヴァー』がデモ隊に視線を向けるとデモ隊とそれに便乗した市民達は蜘蛛の子を散らすように散らばっていった。


「⋯⋯あなたは一体」


騎士の一人が『セイヴァー』に恐る恐る訊ねる。


「名乗る程の者じゃないがただのお節介な物好きだと言っておこう」


『セイヴァー』はそう答えるとその場から去って行くのだった。


「ま、待て!!」


騎士は『セイヴァー』を止めようとしたが『セイヴァー』は既にそこにはいなかった。


「な、何だったんだ⋯⋯」


そして、騎士達の中でおかしな格好をした者の話しが伝わるのだった。


「⋯⋯加減の仕方を考えるのが今後の課題か⋯⋯あと、魔法への対策があったな」


『セイヴァー』は魔法への耐性が皆無の為、魔法を受けたら致命傷になりかねないのである。


「外が煩いと思って外に出てみれば早速問題を起こしてるわね」


大悟が変身を解除する為に一目を避けて民家の影から出て来たところをフュームに見つかった。


「⋯⋯何の事だ?」


「⋯⋯純白の謎の覆面と言ったらあなたしかいないじゃない!!国王排斥派に喧嘩を売ったって既に騒がれてるわよ」


素惚ける大悟にフュームは言い逃れ出来ない理由を言われる。


「随分と情報が流れるのが速いな。流石は主要都市と言ったところか?」


「何を呑気な事言ってるのよ。国王排斥派には黒い噂が絶えないんだから、関わって欲しくはなかったわ」


フューム自身、極力関わりたくない連中なのであり、裏で【人間至上主義団体サプレマシスツ】が援助しているという噂がある団体だ。


「まぁ、あんたの正体がバレなければ連中も手出し出来ないだろうけど油断してはいけないわよ」


フュームは大悟に【人間至上主義団体サプレマシスツ】に首を突っ込む事に釘を刺す。


「安心しろ。これっきりだ」


「それならいいのよ。あの子にあまり心配かけるんじゃないわよ」


フュームはフレイが心配するから無茶はするなと言っている。


「⋯⋯それなりに仲良くやってるみたいだな」


「勘違いしないで、あの子に元気がないと私としても張り合いがないのよ」


フュームは大悟の何気ない言葉に対して必死に否定している。


「それで、国王排斥派という連中はどうして国王を排斥させようとしてるんだ?」


大悟は魔王の配下による進行を食い止めている状況でこの状況は考えられなかった。


「⋯⋯単純な理由よ。この悪魔達との戦いは人間達だけの戦いじゃないの。私達、天族や聖龍達の存続を賭けた戦い。それなのに人間達の中には【人間至上主義団体サプレマシスツ】という人間以外の他種族を良しとしない連中がいるのよ。その連中がこの国王排斥派を裏で操ってるらしいわ」


「だから、他種族と結託した今の国王が気に入らないと⋯⋯」


大悟は空気の読めない連中に呆れつつフュームに確認する。


「大方そうなんだけどね。(この前の一件でこれこそが悪魔達の狙いなんじゃないかと思ってるのよ)」


フュームは【人間至上主義団体サプレマシスツ】が魔剣を所持していた事から【人間至上主義団体サプレマシスツ】が魔族もしくは悪魔と繋がってる可能性を考えていた。


「確かに今の状況だと内側にも敵が潜んでいるような状況だからな」


大悟はあの状況で騎士が手を出していたら、更に悲惨な状況になっていた気がした。


それはデモ隊と市民が国王の敵に回るという事である。


最悪、都市内部は混乱状態になり敵の攻めるきっかけになりかねないのであった。


「そんなことより。宿は見つけたの?」


フュームは大悟にこれ以上首を突っ込んで欲しくなかった為、話題を変える事にした。


「いや、まだだ」


「⋯⋯仕方ないわ。どうせまた余計な事に首を突っ込みかねないし、この辺の地理に詳しい人がついていた方がいいでしょ」


「い、いや、一人で⋯⋯」


フュームは大悟を睨み付け有無も言わせる気もなかった。


「おえええええ⋯⋯おっおっ」


腹部を殴られ壁に激突した男は路地裏で腹部を抱え胃袋の中身を全て吐き出していた。


「おろろろろろろろろ⋯⋯」


しかし、全て吐き切っても吐気が治まる事はなかった。


「⋯⋯ゆ、許ざねえ。あのふざけた野郎⋯⋯絶対にぶっ殺ッエ⋯⋯」


バゼルアスは既に満身創痍だが激しい怒りに呑まれていた。


「俺の計画を⋯⋯狂わせやがって⋯⋯それ以上に⋯⋯クソッ⋯⋯この俺に恥をかかせやがった⋯⋯」


バゼルアスは民衆の目の前で無様に敗北したこともや計画を失敗したこともあるが、それ以上に仲間達に醜態を晒した事が何よりも許せなかった。


「クソッ⋯⋯何としてでも⋯⋯」


バゼルアスは王と騎士を民衆の敵にする必要があるのである。


彼は元々孤児で、両親は獣人により惨殺されている為、人間以外の種族が許せないのである。


彼に【人間至上主義団体サプレマシスツ】から声がかかるのは当然と言えば当然である。


「⋯⋯このまま、終われるか」


バゼルアスが腹部の痛みが和らぎ、歩き出そうとした時だった。


「随分と手酷くやられたな」


バゼルアスの背後から声がかかる。


「⋯⋯ 【人間至上主義団体サプレマシスツ】か⋯⋯丁度いい⋯⋯を寄越せ」


バゼルアスは血走った目を向けて【人間至上主義団体サプレマシスツ】のメンバーにとあるものを渡すように命令する。


「やれやれ、間違っても俺達の足がつくような真似はするなよ」


バゼルアスは男から小さい袋を受け取ると懐のポケットにしまう。


「大丈夫だ。すぐ終わる」


バゼルアスは自身に満ち溢れており、負ける気など微塵も感じさせなかった。


バゼルアスが受け取ったものは魔剣同様にこの国で禁止されているものであり、それを『セイヴァー』に使おうとしていた。

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異世界HERO 酒粕小僧 @DISARONNO

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