王都プローシュへ

フレイとフュームは和解を済ませ、エレインは大悟の目的を聞こうとし、大悟がエレインにとっての地雷を踏み抜き暴走するエレインを大悟が必死に止めるのだった。


その頃、城の中で第四部隊隊長のツィルク・ミネルヴァは城内部に潜む【人間至上主義団体サプレマシスツ】の第四部隊室で報告を受けていた。


「⋯⋯ラーガンが⋯⋯失敗だと?」


ツィルクはラーガンが捕らえられた事が信じられなかった。


ラーガンに貸し与えた【人間至上主義団体サプレマシスツ】達はどれも精鋭揃いで、多数で囲めばフューム一人始末するのは容易だったはずのである。


「⋯⋯最悪、アレを使えば確実に仕留められると思っていた俺が甘かった!!見つけ次第殺せ!!アレの存在を知られる訳にはいかねえんだ」


ツィルクはフュームが生きているという真実が信じられなかったのと魔剣という国内で禁止されてるものが存在している事を自分達以外の者に知られる訳にはいかなかった事もあり、それを知る可能性を持つフュームをなんとしても始末したかったのであった。


「⋯⋯堕天種ごときがああああああ」


ツィルクは八つ当たりをするように机を殴りつける。


「やぁ、随分と荒れてるね。何か上手くいかない事でもあったのかい?」


気がつくとツィルクの目の前に白髪の男が立っている。


「フェデル卿⋯⋯俺の失敗を笑いに来たのか?」


フェデルと呼ばれるこの男は、国の大臣の一人であり、【人間至上主義団体サプレマシスツ】の一人である。


「いや、私も成功する事は間違いないと思っていたからね。あの堕天種は防ぐ事と回復しか取り柄のない堕天種だから」


フェデルもフュームの抹殺が出来なかった事は予想外であった。


「一つ考えられるのは、本来の実力を隠していたということじゃないかね」


「⋯⋯俺達を守るのに本気を出す必要はないってか⋯⋯舐めやがって!!」


フェデルもツィルクもまさか、フュームが【ヒーロー覚醒】で強化されてるとは考えてもいない。


「さて、ここからが本題なのだが⋯⋯我々の崇高な目的の邪魔な愚かなる王の抹殺計画を考えている⋯⋯」


「おい、俺達がやるのは堕天種や蜥蜴共のこの戦争における排斥だ。国を混乱に陥れる気か?」


ツィルクは【人間至上主義団体サプレマシスツ】ではあるが、この戦争における天族と聖龍の排斥を目的としており、国の存続を危ぶまれる行為は目的としていない。


そもそも、王あっての騎士なのはツィルクも当然、理解している。


この国の【人間至上主義団体サプレマシスツ】には他種族排斥派と国王排斥派が存在し、同じ【人間至上主義団体サプレマシスツ】でも一筋縄ではない。


他種族排斥派の代表がツィルクなのに対し国王排斥派の代表がフェデルなのだ。


「何を異なことを⋯⋯混乱なら既に起きてるではないか⋯⋯戦争を理由に他種族をこの国に招き入れるだけではなく、君達の立場も悪くした。奴は人間という種の誇りを失った売国奴だ。奴が王である限り我々の尊厳を他種族に踏みにじられ続けるのだぞ」


「それこそ、悪魔や火蜥蜴共に攻める口実を与えるようなものだ。王がいてこその国ならば、王が死ねば当然国は混乱する。それを好機と奴等に攻めて来られたら我々は多くの犠牲を払う事になるだろう。分かるだろ」


ツィルクはこの国に他種族をのさばらせる事も容認できないが他種族に攻め入られる理由を作る事もまた容認できない事なのである。


「⋯⋯そうか、それは残念だ。それでは取り引きをしないか?」


「取り引きだと?」


「君達はあの堕天種達が騎士にのさばっているのが気にいらない。そうだろ?」


フェデルはツィルクが天族と聖龍達を排斥しようとしてるのを知っていてあえて尋ねる。


「それは確認するまでもないことだろ」


「いやいや、失敬。あえて確認を取っただけだよ」


「それで、取り引きって何だ?」


「君に特別に『鵺』を数名貸そう」


「『鵺』だと!!」


『鵺』とはどの国にも所属していない集団で、主に殺しと盗みを専門にしている者達である。


「⋯⋯その代わり事が終わったら今の件に手を貸して欲しい」


「⋯⋯いいだろう。その話乗った。だが、この戦が終わったらという条件付きだがな」


「良かろう。我等の真の目的は我等の主を王にすることだ。その目的さえ遂げられればどちらでも構わん⋯⋯いや、むしろ⋯⋯」


フェデルは少し考えるとニヤリと笑う。


「どうした?」


「いや、我々としてもこの戦が終わってくれた方が動きやすいという事だ」


「そいつは良かった。それじゃあ手始めに⋯⋯」


ツィルクはフェデルが何を考えようとどうでもよく、早速ツィルクはフェデルにターゲットのリストを手渡す。


そして、大悟一行はというと、大悟は服を脱ぎ性別を証明しようとしているエレインを止めている時に間が悪く、フレイとフュームが戻って来た。


「⋯⋯あなた達、一体何をしているのかしら?」


フュームは大悟に冷たい視線を向けている。


「誤解だ!!」


「丁度良かった!!フューム⋯⋯この分からず屋に僕が女性だということを教えてやってよ」


「⋯⋯なる程、そういう事⋯⋯あなたが女性扱いされない所はそういう所じゃないかしら、女性に見られたいならそれらしい振る舞いをしなさいよ」


フュームはエレインの言葉により大まかな何があったのかを察する。


「それなら、どうやって証明するのさ!!」


「⋯⋯そうね。それが出来たら苦労はしないわね。だとしても脱ぐのは問題外よ」


フュームはエレインに呆れつつも返答する。


「⋯⋯大悟、どうやったらフュームみたいに変身できるようになるの?」


大悟はフレイに一番聞かれたくない事を聞かれて頭を抱えていた。


(まったく余計な事をしてくれたな)


大悟はフレイには【ヒーロー変身】を使わせる気などない。


その為、フュームの行動は大悟にとって余計な事であった。


「⋯⋯はぁ、仕方ない。この際だから言うがお前も本来なら出来るはずなんだがな」


大悟はフレイにも【ヒーロー変身】が発現している事を知っているがこのスキルが何を基準として発動しているかは大悟でもはっきりしていないのである。


「お前が子供でまだ心身共に未熟だから使えないのか、お前の正義感に問題があるかのどちらかだろうな」


大悟はフレイが子供である理由が一つにあったがそれは考え難かった。


もしこれが子供に使えないのなら、そもそも【ヒーロー覚醒】のスキルを使えない事である。


この【ヒーロー覚醒】は自称神を名乗る者が魔王に対抗する為に与えた力と考えると力を使えない者に与える事を可能にする訳がないのだ。


「そんな事ないの!!私は立派な大人だし、私の正義感は『セイヴァー』を元にしてるから問題ないの!!」


「⋯⋯あのな、大人というのは無理があるぞ」


大悟にとってフレイは子供なのである。


「そんな事ないの!!胸ならフュームにだって負けてないの!!」


フレイは大悟に胸を強調する。


「そんな事で証明されてもな⋯⋯」


しかし、大悟の態度は素っ気ないものだった。


そして、フレイの発言にフュームは無視できずにいた。


「フレイ、いい度胸ね。死にたいのかしら?」


「事実を言ったまでなの。そんなムキになるフュームの方が子供なの」


「本当、心底腹が立つ奴ね」


フレイとフュームの間にバチバチと電撃が走っているようだった。


「⋯⋯仲良いなお前ら」


「よくないの!!」

「よくないから!!」


同時に言う辺りが仲が良い証拠であった。


「⋯⋯もしかして、その子ハーフかい?」


エレインはフレイの正体を見破った。


「そうだけど何か問題でもあるのか?」


大悟はフュームの前例があるので、エレインを警戒する。


「いや、僕の知り合いにも魔族と人間のハーフがいてね。彼女は魔族と人間の架け橋となるべく僕と共に戦ってくれたかけがえのない友人だったんだよ」


「⋯⋯お前は魔族の血が混じってるからと差別しないんだな」


大悟はハーフに対する扱いがフュームみたいなものばかりだと思っていたので意外だった。


「確かに未だにそう考える人は多いよ。でも、それがどうしたというんだい?彼女達は僕達と変わらないよ。嬉しければ笑うし悲しければ泣く⋯⋯彼女はそんな人の考え方を変える為に必死だった」


エレインは遠い目をしながら語る。


「巷では天才魔術師と言われていたけど本人はその呼ばれ方を一番嫌っていたよ。彼女の実力は才能に裏打ちされた努力の結晶だから、才能しか認められない事が許せないと言っていたよ」


エレインはかつての仲間を思い出している。


「⋯⋯ちょっと、離しなさい!!」


フュームはフレイと取っ組み合いの喧嘩をしていたが、フュームはエレインの言葉が無視できなかった。


「天才魔術師ってまさか神童ニュウのこと?」


「その呼ばれ方も本人は嫌がっていたけどね」


エレインが話し相手がフュームに変わった事を知らずに答えてしまった。


「⋯⋯少し聞いていたけど、そこまであの賢者の事を理解しているあなた一体何者なの?」


フュームは天才魔術師と聞いて勇者一行の一人、神童ニュウしか考えつかなかったので試しに聞いてみただけだったのである。


「そういえば、勇者だとか言っていたな」


大悟はエレインが自分で勇者だと暴露した事をフュームに話す。


大悟自身はエレインが勇者だとは信じていないが、フュームは別である。


「⋯⋯本当なの?」


フュームはエレインに確認するとエレインはゆっくりと黙って頷く。


「そう⋯⋯ここでは場所が悪いわ。街の宿で話しましょう。ダイゴ、フレイ⋯⋯あなた達にも来てもらうわ」


「それはいいけど許可証がないと入れないの」


フレイは王都に入るには許可証が必要だと言うことを知っている。


「あのね、私を何だと思ってるの?」


「⋯⋯そういえば隊長なの」


フレイはフュームが騎士団の隊長を務めている事を思い出した。


「感謝しなさい。私のおかげで王都に入れるのだからね」


大悟が出した提案をフレイが嫌だった理由がこれであった。


「⋯⋯今すぐ、【ファイアショット】をお見舞いしてやりたいの」


「やめとけよ」


フレイはフュームのドヤ顔が我慢ならなかったが大悟に止められ渋々我慢する。


フュームが見張りに騎士のバッチを見せるとあっさりと王都に入れた。


「流石、王都と言ったところか⋯⋯人が多いな」


「あまりキョロキョロするんじゃないわよ。何処の田舎者だと思われるわよ」


「そうなの。恥ずかしいからやめてほしいの」


大悟は辺りを見渡しているとフュームとフレイに注意される。


「お前ら普段は仲悪い癖にどうしてそういうとこは気が合うんだ?本当は仲良いだろ」


「悪い冗談言わないで欲しいの」


「まったく、センスのない冗談はやめてくれないかしら」


フレイもフュームは互いに仲良し呼ばわりされるのは嫌がっている。


「久々に来たけど、以前に比べて活気がないね。まぁ、分かってはいたけど⋯⋯」


エレインは、自身の犯した誤ちでこうなっている事を知っているので、あまり主要部の都市には近付かないようにしていたのである。


(僕が逃げなければこの結末は変わっていたのか⋯⋯)


そんな事を考えるが、どう考えてもあの魔王に勝てるヴィジョンが浮かばない。


歴代全ての魔王の力を持ち、その上新世代の魔王としての能力がある。


その力の正体は謎に包まれており、エレイン含む勇者一行である、オルガストロとニュウですら見破る事すら敵わなかった。


それ以前にあの魔王の目はまるで自分達を見ていないようであった。


まるで路傍の石を見るような目であり、正に相手にされていないと言えるような目をしているのだ。


(⋯⋯いや変わらない。奴の力の前では僕は無力だ。ただ勇者だという運命に煽てられもてはやされ流されただけだ。それに気付かされたのは奴の言葉だった)


「哀れなる神の傀儡よ。何故、運命に抗わなかったのですか?それが、この結果です。あなたはただ、勇者という綺麗な言葉に煽てられもてはやされたに過ぎませんよ。あなたには同情します。力さえなければ、世界にとっての傀儡になる事はなかったのだから⋯⋯」


あの魔王は、自分を殺しに来た相手に同情を見せたが、その目は相変わらず自分を見ていなかった。


「どうしたの?顔色悪いけどどうしたの?」


フレイはエレインの顔を覗き込みながら話しかける。


「いや、ちょっと嫌な事を思い出しただけだから」


「ふーん」


(ちょっとどころじゃない気がするけどね)


エレインは慌てて返答するとフレイは納得したがフュームはエレインの様子がただ事ではない事を察した。


「そこの宿よ。久々にふかふかのベッドで休めるわ」


「マジか!!」


フュームの言葉にいち早く反応したのは大悟だった。


しばらく固い地面の上でしか寝てなかったので大悟としてはとても嬉しい事だった。


「それに王都だからお風呂は各部屋に完備されてるわ」


「おお!!でも高いんだろ!!」


「まぁ、それなりにはね。でも、この騎士団のバッチがあれば一部屋金貨二枚のところを銀貨一枚で借りられるわ!!」


「な、なんだってーー!!」


フュームと大悟は怪しい通販番組のような会話を繰り広げているが、フュームとエレインは距離を置いて二人の寸劇を傍観している。


「⋯⋯恥ずかしいからアレと同伴だとは思われたくはないの」


「ハハハ⋯⋯」


フレイの手厳しいツッコミにエレインは苦笑を浮かべるしかなかった。


「でも、彼の事は嫌いではないんだろう?」


「うん!!私にとっての憧れなの!!」


フレイは満面の笑みで答える。


「⋯⋯そうか、その憧れの彼が彼女に取られたから不機嫌なのかな?」


「そ、そそそ、そんな事ないの!!誰の相手をするかは大悟の自由なの!!あれくらいで機嫌を悪くする程私は子供じゃないの」


「そうかい。どうやら、僕の勘違いだったようだね」


かなり動揺しているフレイだったが、エレインは無粋なツッコミはしなかった。


「⋯⋯そ、そうなの。勘違いなの!!」


フレイはかなり慌てている為、エレインのフォローは意味を為してないが、掴みとしては完璧だった。


「あの二人いつの間にか仲良くなってるわね」


「まぁ、いい事じゃないか」


大悟にとってはフレイが積極的に人に関わっていく事には特に反対していない。


「いいの?あの感じだとフレイを取られるわよ」


「⋯⋯お前は一体俺を何だと思っている?」


大悟はフュームからあらぬ誤解を受けているのではと勘繰ってしまった。


「フレイに過保護な親バカね」


「そこまで過保護にしてるつもりはないんだがな」


大悟にしてみれば当然の事をしているだけで過保護にしてるつもりはないのである。


「はぁ⋯⋯(自覚がないからたち悪いわ)」


フュームは大悟のフレイに対する過保護は直る事はないだろうと落胆する。


大悟は宿に入ろうとするとフュームに大悟を止める。


「言い忘れていたけど三人部屋で、あなたを泊めてやれるお金はないから自分でなんとかしなさい」


この宿は三人部屋でフュームが借りれるのは一部屋のみなので当然、男性である大悟が除外される。


「それは仕方ないな。フレイ、二人に迷惑かけるなよ」


大悟もフュームの言いたいことは理解していた。


「大悟が泊まらないなら私も⋯⋯」


フレイは大悟と一緒が良かったのである。


「ダメよ。あなたはこっちよ」


大悟とフレイでは体格差もあり追い付くのも一苦労である。


大悟の疲労よりも確実にフレイの疲労の方が大きい事をフュームは理解してあるため、宿屋の柔らかいベッドで休息をとって欲しかったのである。


それは当然、大悟も一緒であり、ふかふかのベッドとお風呂完備と聞いて大悟が喜んでいた理由がフレイの事があったからなのだ。


「フレイ、今日はフューム達とゆっくり休め、同性同士でしか話せない事もあるだろ」


それでも、フレイに対して疲れてんだからゆっくり休めと誰もが言わないのは、それがフレイにとって一番効果がない言葉だと誰もが思っているからである。


それを言い出してしまったら、見張りで殆ど一睡もしていない大悟の方が疲れてるなどとフレイが言い出すからである。


そうなってしまうとフレイは一切首を縦に振らなくなる事を理解しているので誰も疲労に関しては言わないのだ。


「分かったの。大悟もゆっくり休んで欲しいの」


「⋯⋯貸しよ」


フュームは大悟に金貨一枚渡す。


「いいのか?」


「そこまで言うなら、今度美味しいお菓子をいただこうかしら」


フュームはこれくらいしないとフレイは納得しない事を理解している為、大悟に【ランダムスイーツ】で出るお菓子を交換条件に金貨を差し出した。


フューム自身、このご時世の甘味は貴重なので金貨のもとなど簡単に取れると考えている。


「分かった。今度と言わず今出してやる」


大悟はHPヒーローポイントを支払いお菓子を数個出現させる。


「マシュマロ!!」


真っ先に反応したのはマシュマロが大好きなフレイだった。


「⋯⋯やっていいか」


一応、フュームの為に出したのでフレイにあげていいか訊ねる。


「一つくらいいいわ」


「だとよ。フュームに感謝しろよ」


「あ、ありがとう」


フレイはフュームにお礼をするがその表情は引きつっている。


「エレイン⋯⋯そいつらが喧嘩しないように目を光らせてくれ。隙あらば喧嘩するような奴等だからな」


「「なっ!!」」


「私はそこまで野蛮じゃないの!!」

「私を野蛮人扱いは失礼じゃない!!」


「この通りだ。大変だと思うがよろしく頼む」


大悟は二人の言葉に聞く耳を持っていなかった。


「やれるだけのことはやるさ」


エレインも不安で仕方ないという感じだった。


フレイとフュームという面倒事をエレインに押し付けると大悟は王都の中を見て回る事にした。

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