和解

王都プローシュの近くに到着した大悟とフレイだったが検問をしている騎士から門前払いをくらい中に入れずにいた。


エレインとフュームは大悟に会う為に、王都を目指すと門前払いをくらった大悟と合流するのだった。


「ダイゴと言ったかしら⋯⋯あの姿は一体何なの?」


「⋯⋯俺もアレに関しての全容は把握し切れていないが、お前のそれは俺の『セイヴァー』と同じものだ。時間制限とクールタイムがある事は俺と同じだとは思う」


大悟自身も【ヒーロー覚醒】の全容を理解していない為、はっきりした事は言えないが変身については解答する。


「そういえば、貴方はあの姿の時は『セイヴァー』だけど、私の奴には名前はあるのかしら?」


「一応、『シャイニー』というヒーロー名があるが、それを使うかはお前の自由だ」


大悟としてはヒーロー名を名乗るかは本人に任せる事にした。


「流石にあの姿で自分の名前を名乗る勇気はないわ」


フュームはヒーローに変身した事で【認識阻害】を獲得しており、フュームと『シャイニー』が同一人物だという認識を阻害するスキルである。


「⋯⋯『セイヴァー』と同じってどういう事?」


フレイは大悟とフュームの会話に割って入る。


その表情は酷く不機嫌である。


「もしかして、あなたアレを知らないの?」


「アレと言われても分からないの」


「あなた、話してないの?」


フュームは既にフレイも出来るものもしくは知っているものだと考えていた為、大悟がフレイに教えていないとは思わなかったのである。


「俺はフレイにそれを使わせようなんて考えていないからな」


大悟は当然フレイに変身の力を使わせる気など毛頭ないのである。


「この親バカは⋯⋯」


「一体何のことかいい加減教えて欲しいの」


「そうね、この分からずやな親バカはどう考えても教えてくれそうにないわね。ちょっと来なさい」


「そんな見えすいた罠に引っかかる程子供じゃないの」


フレイはフュームはフレイを騙そうとしてると思っている。


「あなたが私をどう思ってるかは大体想像出来るけど、知りたくないなら別に教える必要もないからいいんだけどね」


「知りたくないなんて言ってないの!!分かったの。もし嘘だったら容赦しないの」


フレイはフュームの話しを聞くためにフュームについて行く。


「ちょっと待て!!」


当然、大悟はフレイを止めようとする。


「私はこの子と話しをしてるから、その子の話しをしてくれない。なんか、あなたに用があるみたいよ」


フュームは起き上がるエレインを指差して大悟に言う。


「俺に?」


「そう、だから任せたわ」


フュームはそう言い残すとエレインを大悟に押し付けフレイを抱え一緒に飛んで行ってしまった。


「⋯⋯俺に押し付けて行きやがった。それで、お前とは初対面のはずだが?」


大悟は起き上がるエレインに声をかける。


「確かにそうですが、君が兇獣王を倒した勇者を追っているという話しを聞いてね。その勇者は一体どういう方だったのか話しを聞きたくなった訳さ?」


「つまり、兇獣王を倒した奴の正体を知りたいと言いたいのか?」


「どちらかというと勇者の事を含め、君達が勇者を追ってる理由を詳しく聞きたいね」


エレインは大悟を見逃す気はないようだった。


『長くなりそうだな』


「自己紹介がまだだったな。俺は大悟・W・ヴァインだ」


「⋯⋯エレイン・アインズって言うよ」


「さて、どこから話すべきか⋯」


二人が自己紹介を終えると大悟はどうやってエレインを言いくるめるか考えていた。


フュームとフレイは一目のないところまで移動していた。


「⋯⋯こんなところまで連れて来て何をするつもりなの?」


フレイは疑いの眼差しをフュームに向けている。


「これに関しては見てもらった方が早いからよ。それに恥ずかしいのよ」


「⋯⋯そんな短いズボンをはいてよくそんな事を言えたの」


フレイはフュームのショートパンツを見ながら半ば呆れながら話す。


「うるさいわね。あなたこそ胸をこれ見よがしに見せつけてるじゃない!!」


「それは子供扱いする大悟が悪いの」


「そ、それは悪い事を聞いてしまったわね」


フュームはフレイが大悟に子供扱いされてる事を気にしてる事を何となく察した。


「そんな事より、教えるの!!」


フレイはフュームの変身を急かす。


「そんな、急かさなくてもやってやるわよ」


フュームはそう言い放つと同時に光に包まれ『シャイニー』に姿を変える。


「⋯⋯この変身のことよ」


「⋯⋯私に胸を見せつけてると言いながら、フュームも見せつけてるの」


「動くとヒラヒラ動くんだから仕方なくない!!」


フュームは動く度に下乳が見え隠れしている事をフレイに指摘されると真っ先に弁明する。


「⋯⋯だから、人がいないところまで連れて来たの?」


「⋯⋯そうよ。確かにこの姿の時は能力が格段と上がってるけど、この姿どう見ても痴女じゃない!!」


フュームはフレイに向かって叫ぶとその場で落ち込む。


「でも、本来の天族はもっと際どいの。ほとんど布と変わらないの。それよりはよっぽどマシなの」


フレイは落ち込むフュームを必死にフォローする。


「そもそも、本来の天族には恥じらいとかそういう感情がないからね。確かに丸出しと変わらないアレに比べればだいぶマシね」


フュームはフレイがフォローをするとは思ってもいなかった。


「あなたがフォローしてくれるとは思ってもいなかったわ」


「別に⋯⋯フュームに元気がないと調子が狂うの。それだけなの」


フレイとしては落ち込んでるフュームを責めても張り合いが無く面白くない為、フォローしただけだったのである。


「まったく、本当に可愛くないわね」


「それよりもどうすれば、ソレを出来るようになるの?」


フレイとしては『セイヴァー』や『シャイニー』のように変身したかったのである。


「私に聞かれてもね。突然、不思議な文字が出て来てそれに触れたら出来るようになったわ。私も分からない事だらけよ。だから、これについてダイゴに聞きに来た訳よ」


フュームはフレイにここに来た目的を話す。


「私も知りたいの」


「そうね⋯⋯私ばっかり強くても張り合いがないからね」


フュームは【天翼の盾】と【フルカウンター】がある為、変身が出来ないフレイなど敵ではないのである。


「それにしても前と違って噛み付いて来ないじゃない」


「大悟に仲良くしろと言われてるの。大悟の心遣いに感謝するの」


「ダイゴの場合、面倒事を避けるために言った可能性が大きいけど、確かにアレは私が悪かったわ。ごめんなさい。確かに貴方は人間と魔族の血を引いてるけど、それが悪いわけじゃない事に気付かされたわ。だから、あなたを信じてみることにしたわ。虫のいい話しだというのは分かってるつもりよ。でも、言っておきたかったのよ。これが私の出した答えだから⋯⋯」


互いを信じる心、それがフュームの出した正義の答えだった。


「⋯⋯そこまで畏まられたら、何も言えないの。私も言い過ぎたところもあるからおあいこなの⋯⋯そんな素直に謝られると調子狂うからやめて欲しいの。言いたい事があれば言えばいいの。それが、私の知ってるフュームなの」


「⋯⋯まったく、私の謝罪を素直に受け取らないなんて、本当に可愛くないわね」


「褒め言葉と受け取っておくの」


そして、仲の悪い二人は和解したのだった。


その頃、大悟はエレインにここに来た経緯を説明していた。


「それでは、質問だけど君達はどうやってその勇者と鉢合わせたんだい?たくさんの見張りがいたと思うんだけど⋯⋯その中にどうやって入り込んだんだい?いや、そもそもどうしてそんな危険な所に入り混んでいたんだい?」


大悟はエレインに質問攻めされている。


「成る程、確かにお前の言いたい事は分かる。俺はアールズの様子を調べに行っただけなんだがな」


「そんな戯言を信じろと?」


エレインは大悟の言ってることが信じられなかった。


「俺はただお前の質問に答えただけだ。信じるか信じないかはお前しだいだ」


大悟は別に信じてもらおうと思っていない。


「⋯⋯まぁ、この際そういう事にしておくよ。それで、その勇者は本物だったのかい?」


「兇獣王を倒したんだ紛う事なき勇者だろ。それ以外に理由がいるか?」


「⋯⋯それなら、どうしてアールズの者達を解放したのがその勇者じゃなくて君達なんだい?」


エレインにとっては兇獣王を誰が倒したのかこの際どうでも良かった。


「⋯⋯別に助けるだけなら勇者がやっても俺達がやっても同じだからじゃないか?」


「それはおかしな話しだ。どうして自分の手柄を他人に譲るような真似が出来る」


エレインは大悟の言っている事がとても信じられなかった。


というより、自分の手柄を他人に譲るような行為が信じられなかったのだ。


「⋯⋯何が言いたい」


「⋯⋯これは僕の勘だけど、兇獣王デュラン・ディランを倒したのは君じゃないかと思ってる。僕の知る限り、この世界の勇者はそこまでの善人ではないからだ」


エレインは兇獣王を倒したのは大悟だと考えているが、その根拠がない。


「ほぅ、その勇者が善人ではないとよく分かるな」


「考えなくても分かるだろ。この状況を見ればさ⋯⋯あっという間だった。世界が魔王の配下に蹂躙されていくのは⋯⋯それを見て見ぬフリをしているんだ。そんな勇者を君は善人と言えるのかい?」


エレインは自身のことを話す事に躊躇いはなかった。


「まるで、その勇者を知ってるかのように言うんだな」


「そりゃあね⋯⋯もう嫌と言うほどにね」


エレインはうんざりするように答える。


「それで、どうなんだい?君があの兇獣王を倒したんだろ?」


「⋯⋯まったくもって、その通りだ」


「どうして、君はそれを勇者の手柄にしたんだい?」


エレインからしたら、大悟が兇獣王を倒した手柄を勇者にした理由がどうしても知りたかった。


「⋯⋯簡単だ。勇者とやらに会うためだ。勇者がやったという事にしておけば、身に憶えのない手柄が気になってこちらを探し出す事を利用して会おうと思ったからだ」


「⋯⋯なっ!!」


大悟の答えにエレインは唖然とする。


それは大悟の策にまんまと釣られてしまったからである。


「まぁ、生きてればの話しなんだがな」


大悟は勇者が生きているかは半信半疑である。


「そ、そうなんだ。それでどうして勇者に会いたいんだい?」


「⋯⋯理由は俺の目的を手伝ってもらう為だが、強要する気は毛頭ない⋯⋯強要する事に意味はないからな」


「一体、勇者に何を手伝ってもらうつもりなんだい?」


エレインは何となく嫌な予感がしていた。


「⋯⋯それはお前には関係ない事だ。教える訳にはいかない」


大悟は相手に余計な期待をさせてしまうので、なるべく部外者には話したくなかったのである。


大悟の目的は神を自称する者から与えられた使命を行う事なのだ。


その使命とは魔王の打倒であり、世界中の人々の悲願でもある。


だからこそ、軽々しく魔王を倒すなんて言えないのだ。


「そうか、それなら僕がその勇者だと言ったら?」


「⋯⋯」


「⋯⋯」


エレインの言葉にしばしの沈黙が続いた。


「⋯⋯あまり、大人を揶揄うものではない。勇者は女性と聞いてるお前はどう見ても女性からほど遠い」


大悟が言い切った時だった。


エレインから何かが切れるような音がした。


「フフ、フフフ、これでも僕、十八の女の子なんだけどな。でも、女性からほど遠いと言われたのは生まれて初めてだよ」


エレインは笑ってはいるが目が笑っていない。


エレインは女性扱いされない事をかなり気にしているのであった。


「いや、そもそもその体型とその髪型で誰が女性だと認識できる?」


エレインは女性にしては筋肉質であり、髪型もショートで右側をツーブロックにしている。


そして、声が中性的なのもエレインが女性だと思われない要因の一つになっている。


元いた世界なら、イケメンアイドルにいても不思議ではない、体型と顔をしているのであった。


「そうか!!脱げばいいんだね!!」


「違う、そうじゃない!!」


服を脱ごうと自棄になったエレインを大悟は必死に止める。


「分かった。分かった。俺が悪かった。美男子ではなく美少女だという事だな。よく分かったからやめるんだ!!」


「嫌だ!!僕の性別をあそこまで否定したんだ。その目にしっかり焼き付かせてあげるよ!!」


大悟が必死に服を脱ぎ出そうとしているエレインを止めてる時に、フレイとフュームが近付いて来ている事に大悟はまだ気付いていなかった。

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