助ける理由
フレイがボルトに連れ去られ、大悟がそれを追跡するが大悟はボルト達に未だに追いつく事が出来ずにいた。
「⋯⋯雨か」
大悟が歩いているとポツポツと雨が降って来る。
大悟は近くにあった崖の影になってる窪みに入ると一息つく。
『これは長く降るな』
大悟の予想通り雨は翌日の朝まで続いた。
ここまで歩いて四日は経つ、話では馬車でも五日はかかるという話である。
徒歩なら一週間以上かかるという話だが、獣人は足が速くスタミナもある為一週間もかからないらしい。
何かないかスクリーンを開き探してみると【俊敏+】というスキルと他二つのスキルが増えていた。
【俊敏+】を試すと走る速度がかなり上昇しており、あっという間に距離を稼いでしまった。
そして【俊敏+】を使いフェルタシット付近に到着するが、入口で獣人が警護しているのである。
獣人の量があの集落の比ではなかった。
「正面突破はキツそうだな」
大悟にとってキツイだけで出来ない訳ではないが、フレイの無事に確保する為には今目立つのは不味かった。
自棄になってフレイを人質に取られたら、今度こそやられる可能性が大きい。
「それなら上から潜入させてもらうか」
【俊敏+】と同時に手に入れたスキル【空歩】というスキルで空中を歩行できるスキルである。
大悟は見張りのいない外壁から【空歩】を使いフェルタシット内に潜入した。
獣人達もまさか外壁からの潜入を予想してなかったのか、上の見張りはかなり手薄だった。
『さて、だいたいこの手のボスがいるのは大きな屋敷と相場が決まってるからな』
大悟は遠くに見える小高い丘に立つ屋敷を見据える。
街の中は思ったより見張りの数が少ないが、屋敷周辺から見張りの数が多くなっている。
『数が多いな⋯⋯』
大悟は拳くらいの大きな石材の破片を拾い屋敷とは別方向の外壁を目掛け投擲すると【遠投強化】により威力が上がり、石材の破片がぶつかり外壁が崩れる音が聞こえる。
その音で混乱した屋敷周辺を警備している獣人達の半数以上が異常が起きた所へ向かう。
その隙をついて屋敷の敷地内に潜入するが、敷地内の見張りに見つかってしまう。
「ダレダ⋯⋯!!うぐっ!!」
しかし、見つかると同時に素早く背後に回り込みチョークスリーパーを使い獣人の一人を物陰に隠す。
その後三人程に見つかったが、【俊敏+】のスキルと【絞め技強化】のスキルにより素早く対処することができた。
そして、屋敷内に潜入すると妙に静かで見張りも一人もいないのである。
「屋敷の外にあれだけ見張りがいるのに屋敷内は手薄過ぎやしないか?」
しかし、それでも大悟は警戒を緩めなかった。
手薄とは言っても見張りがいない訳ではないからである。
「ナニッ!?街の外壁が何者かに破壊されただと!!」
調べ物の為に本を読んでいるボルトは、予想外の外敵の出現でそれどころでは無くなっていた。
「侵入者は?」
「ワカラナイ⋯⋯」
ボルトの部下は街の外壁が破壊されてすぐにその場に駆けつけたが、その際何者かが侵入したかは見ていないのだ。
「それなら、街の中をくまなく探せ!!俺様に逆らう馬鹿はすぐに処刑だ!!」
ボルトもまさか大悟が既に屋敷に侵入しているとは思っていない。
「⋯⋯一体、誰が⋯⋯」
ボルトもこんな事をする者が分からなかったがふと『セイヴァー』の姿が浮かんだ。
「⋯⋯いや、奴はかなり深くに沈めてやった。あれで生きてる訳がない!!」
ボルトは『セイヴァー』を地面に沈めただけであり、『セイヴァー』の死体を見た訳ではない。
ボルトは自分の力を過信し切っている為、『セイヴァー』が生きてる可能性など微塵も信じていないのだ。
「⋯⋯今はそんな事より⋯⋯あった」
ボルトはとうとう奴隷紋を再起動する方法を見つける。
ボルトはフレイを閉じ込めた地下の独房に向かう。
その時、大悟は屋敷内を探索してると上の階からボルトが降りて来る物音が聞こえた為、物陰に隠れやり過ごす。
『⋯⋯追ってみるか』
大悟はボルトの後を追い、地下への階段に入ると大悟は追跡をやめた。
この奥に隠れる場所がなければ、ボルトとの一騎打ちになるからである。
そして、フレイの安全を確保するまではボルトに見つかる訳にはいかないのだ。
ボルトは奥に進むと独房の中に一人フレイが閉じ込められている。
「お前の奴隷紋は見せてもらったぜ。それが残ってるという事はお前の主人は死んだか⋯⋯」
「!!」
フレイはボルトが何を考えてるのか一瞬で理解した。
奴隷紋の上書きによる再起動である。
「やめて!!」
フレイは必死に抵抗するが子供の力でどうにか出来る訳ではなかった。
ボルトは自分の指を噛み血を流すとフレイの奴隷紋をなぞるとフレイの奴隷紋が力を取り戻す。
「うわあああ!!」
フレイの叫び声が地下に響き渡る。
「上手く行ったようだな」
「ハァハァ⋯⋯」
フレイは奴隷紋による反動で呼吸が乱れている。
「さて、命令だ。一緒に来てもらうぞ」
「い、いや⋯⋯いやああああ!!」
フレイが命令を拒絶するとフレイの全身に激痛が走るこれが、奴隷紋の力である。
当然、悲鳴を聞きつけ大悟は『セイヴァー』に変身し地下にやって来る。
「⋯⋯お前、フレイに何をした?」
『セイヴァー』はマスクの奥でボルトを睨み付ける。
「セ、『セイヴァー』!!」
フレイは『セイヴァー』の存在を認識すると嬉しそうに名前を呼ぶ。
「⋯⋯何故、生きてる。お前はかなり深くまで沈めてやったはずだ!!」
ボルトは予想外の『セイヴァー』の登場に動揺を隠しきれなかった。
「あぁ、流石の俺ももう無理かと思ったがな。さて、あの時の続きをしようか」
ボルトが気付くと既に『セイヴァー』の拳が目前まで迫って来ており、ボルトは腕を交差させてそれを防ぐが後ろに激突する。
「ふぐぁ!!」
ボルトはふらつきながらも立ち上がるが『セイヴァー』の追撃の拳がボルトに迫っており、ボルトは再び腕を交差させて顔面を防ごうとする。
「腹がガラ空きだ!!」
顔面を目掛けた拳はフェイクで反対の拳がボルトの腹にめり込むとボルトは嗚咽を漏らす。
「ち、畜生!!め、命令だ!!こいつを止めろ!!」
すると『セイヴァー』の前にフレイが立ち塞がった為、『セイヴァー』は拳を引っ込めるしか出来なかった。
「フヒヒ、さ、流石は上位の奴隷紋だ」
「奴隷紋だと!!」
『セイヴァー』自身奴隷紋がどういうものかは知らないが、名前からして嫌な感じしかしなかった。
「これはな。奴隷紋の中でも上位の奴隷紋だ。奴隷紋に直接触れて命令する事で強制的に命令を実行させる。まさか、こんな奴隷紋をお目にかけられるとは俺様も思わなかったぜ」
上位の奴隷紋は直接触れることで強制的に命令を実行させる事が出来るが、複雑な事や本人の能力の限界を超えた命令は出来ないようになっている。
「こうなったら仕方ない。そいつを殺せ!!」
ボルトはフレイの手で大悟を殺す事でフレイに絶望を与えると同時に『セイヴァー』も始末しようとしていた。
「⋯⋯うぐっ」
ボルトは『セイヴァー』から受けた攻撃により立ってるのがやっとだった。
ボルトは肉体を回復する為、上の階に戻って行く。
「フレイ⋯⋯」
『セイヴァー』がフレイに呼びかけるがフレイは返事すらしない。
フレイは飛びかかっては来るが、それで『セイヴァー』を殺せるかといえば微妙な所ではある。
集落で起こした炎を発生させた場合はただでは済まないのである。
ボルトはそれが狙いでフレイに『セイヴァー』を殺せと命令しているが、フレイは飛びかかる事しかしない。
『セイヴァー』自身、フレイが自分の首を絞めようとしてるのが分かっている為、簡単に避けられるのだ。
そもそも、身長差がありすぎて届かないのである。
「そうか、それがお前を縛っているんだな」
服越しにフレイの胸に刻まれた奴隷紋が光っている事を理解した。
「痛いのか?苦しいのか?」
「⋯⋯」
フレイは無表情で『セイヴァー』の質問には答えないが、瞳から涙を流す。
「⋯⋯そうか、分かった。魔王を倒すまで俺がお前を守ってやる。だから、目を覚ませ、フレイ。【ヒーロー覚醒】」
【ヒーロー覚醒】、大悟自身いつロックが解除されたか不明のスキルで消費する
試しに自分に使おうとしたが使えなかったスキルで説明によればヒーローに覚醒させ、全ての縛りから解き放ち、限界を突破するという効果だった。
フレイに【ヒーロー覚醒】を使うと一気に七万の
全ての縛りに奴隷紋が含まれるかは分からなかったが、フレイを救うにはこれしかなかったのである。
本来はこんな使い方をするスキルではない気がしたが、残り二回を大切に使えばいい話である。
大悟にとっては七万も
その理由は今まで取得してもそこまでポイントを消費するスキルがなかったからである。
【ヒーロー覚醒】は大悟自身が思っているより強力なスキルなのだ。
大悟の予想通り、フレイの奴隷紋は完全に消滅した。
「⋯⋯また、助けられたね」
「ヒーローだからな」
『セイヴァー』はさも当然のように答える。
「無責任な事は出来ないんじゃなかったの?」
「そうだな。だが、気付いたんだ。責任があろうと無かろうと俺は後悔する事にな。それに助けて欲しい。その願いだけで助けるには充分だ」
「そういえば、身体の痛みが消えてるような⋯⋯」
フレイ自身、何が起きてるか理解していないが自分の服に顔を覗き込むと奴隷紋が消滅してる事に気付いた。
「⋯⋯奴隷紋が、消えてる!?」
「ああ、だがそう何回でも出来る訳じゃないからな」
何度もいうが【ヒーロー覚醒】はそういう目的のスキルではないのである。
「半ば賭けに近かったからな」
「それでも、私を助けてくれた。大悟、ううん『セイヴァー』はやっぱり救いのヒーローなんだね」
「そうだ、まずはここにいるボルトを倒す。まずはそれからだ」
ボルトは屋敷内にいる部下全員をその場から離れさせる。
ボルトの【クレイガーデン】の最大の欠点は仲間まで巻き込んでしまう事である。
その為、仲間と一緒に戦う事には不向きな力なのだ。
「まさか、こんな早く来るとはな。あのガキを殺したのか?いくら貴様が化物じみているとはいえアレは殺す以外はどうにもならないからな。どんな気持ちだ?助けようとした者を手にかける気持ちは⋯⋯」
ボルトは『セイヴァー』の感情を逆撫でするような事を言う。
「言いたい事はそれだけか?」
しかし、『セイヴァー』はボルトの挑発に付き合う気などなかった。
「地下では遅れを取ったが、ここは広いからな。今度は確実に殺してやるぜ!!【クレイガーデン】」
ボルトを中心に地面が液状化して辺りのものを引き摺り込んでいくが、『セイヴァー』が沈む事はなかった。
「なん⋯⋯だと⋯⋯!?」
「あの時はお前の力になす術が無かったが、今は対抗出来るからな」
【俊敏+】と【空歩】と一緒に出たスキル【水面歩行】である。
この【水面歩行】を取得した事で水を含む液体の上を沈まずに歩行出来るようになったのである。
このスキルの影響により、ボルトの自信の源である泥に引き摺り込む攻撃が効かないのである。
「どうした?まさか、沈まなかったのがそこまでショックだったのか?」
「まさか、俺様を本気にさせてしまったようだな」
ボルトは鉄爪を両手に握ると液状化した地面に潜り『セイヴァー』の足下から襲撃し、襲撃に失敗すると再び地面に潜る。
「地面からの奇襲か、確かに悪くない手ではあるが⋯⋯」
「!!ぐぇ!?」
背後から襲撃しようとしたボルトの顔面に『セイヴァー』の裏拳が命中する。
『セイヴァー』は【危険感知】のスキルにより殺気を感じ取る事が出来る為、ボルトの攻撃を察知出来た。
ボルトは地面に倒れずにそのまま沈んでいく。
『セイヴァー』も今ので倒したと思っていない。
その為にこれを用意したのだ。
膨張した黄色い缶詰、結局のところ嗅覚が効く獣人にはこれが一番効果的なのである。
『セイヴァー』は蓋を開け缶を地面に落とすと地面に沈んでいく。
「おえええええ!?」
余程臭いがきつかったのかボルトは地面から踠きながら這い出て来る。
「な、なんだ。今のは!?」
ボルトは自分の理解を超えた臭いに失神仕掛けたのだった。
「うげぇ!?」
身を屈んでいたボルトは『セイヴァー』に頭をかかと落としされると顔面が地面と激突する。
『セイヴァー』はボルトの頭を掴みその場に立たせる。
「ひ、ヒィ!!」
セイヴァーに頭を掴まれたボルトは怯えで声を上げる。
「ゆ、許し⋯⋯そ、そうだ、お前、俺様達の仲間にならないか?その強さなら人間でも兇獣王様が⋯⋯」
「言いたい事はそれだけか?」
ボルトは必死に命乞いをするが、当然『セイヴァー』は取り合う気もない。
「お前は、そう命乞いをした人間を何人殺して来た?お前にその順番が回って来ただけだ。こういうのを俺の世界では因果応報って言うんだ」
『セイヴァー』はボルトの頭から手を離すと両手に闘気を集中させ、ボルトの全身を滅多打ちにし殴り飛ばすとボルトは動かなくなった。
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