泥沼の奇襲
コボルを倒し一先ずは平穏を取り戻した集落だったが、コボルの弟が『セイヴァー』を探しに集落を襲撃しに来た。
「待て!!」
「⋯⋯なんだ、やっぱりいるじゃねえか。確かに変わった格好だ。それに臭いを感じねえなぁ。お前、何者だ?」
大悟は『認識阻害』のスキルにより、ヒーロー状態と通常時で同一人物だと判断させ難くなっている為、変身状態だと嗅覚が鋭い獣人ですら臭いを感じなくなっている。
「まぁいい、結局殺すからな。【クレイガーデン】」
コボルの弟であるボルトはそう言うと自分の周囲の地面を液状化させる。
「!!」
「さあ、無様に沈んで死んでいくさまを俺様に見せてくれ。俺はこれで沈んでいき助けを乞う者を眺めながら殺すのが好きなんだ」
「⋯⋯悪趣味だな」
「その強がりがいつまで続くか楽しみだ」
ボルトは兄の部下の報告で『セイヴァー』に遠距離攻撃がない事を踏んでいた。
そして、武器を持たない事も当然知っている為、『セイヴァー』の間合いに入らなければ勝てると踏んでいる。
『これはまずいな。どうやって出る』
考えてる間にも大悟は泥沼の中に引き摺り込まれている。
大悟は必死に出ようとするが泥沼から抜け出せず、ますます泥沼にはまっていく。
『⋯⋯くっ!!出ようとすればするほど沈んで行く!!』
大悟は肩から下が泥沼に沈むと抵抗することの無意味さを知った。
「無様だな。特別にお前は深くまで沈めてやるよ」
ボルトは下卑た表情で『セイヴァー』を見下す。
『くそっ、マジか!!このまま死ぬのか!!』
『セイヴァー』はとうとう地面に埋まってしまったのである。
「⋯⋯兄貴を倒した奴だからどんな奴かと思ったが所詮はこの程度だったか。当然と言えば当然なんだがな。この俺様は強えんだ」
ボルトは『セイヴァー』を倒して満足したかと思いきやボルトは集落の住民を次々と埋めていくことをやめない。
「二度と逆らう気が起きねえようにしてやる」
ボルトは住民を肩から下を埋めると遅れてやって来た配下に「踏み潰せ」と命令を出すと埋まった住民を次々と踏んだり蹴ったりしている。
「さて、他に隠れている奴はいねえか」
ボルトは少数の部下を連れて建物の中に生き残りがいないか探している。
『セイヴァー』こと大悟は地面に埋まってしまったが、マスク内が空洞になっている為何とか呼吸ができていた。
しかし、それでも長くは保ちそうにはないのも事実である。
『まったく、あんなのどう避けろって言うんだ。近づかなければいいのかもしれないが、近づかないと倒すのは無理だぞ』
そんな事を考えてると大悟はとあるスキルを思い出す。
『そうか!!【遠投強化】があったじゃないか!!』
【遠投強化】投げる力が上がるスキルである。
『それ以上にどうやって地上に這い上がるかだな』
大悟はボルトにかなり深くまで埋められた為、土の重みで身動き一つ取るのにも一苦労である。
【身体強化】を積んでいても地面の中ではやっと動ける程度であるが、それはそれで凄い事なのである。
そしてまた思い出したかのように大悟は【闘気】のスキルを使い更に身体強化を行う。
地面を掘り進めるが、それでも地上に出れる気がしなかった。
呼吸の事もあるが変身解除の時間がある為、変身解除前に脱出出来なければ今度こそ確実な死が待っているのである。
大悟はこのペースで掘り進んで地上に出られる気がしなかった。
【身体強化】と【闘気】のスキルでさえ、地上へ上がる事には難しかった。
しかし、それでも大悟は進むのをやめなかった。
進むのをやめる事は生きる事を諦めると同義だからである。
だからこそ、必死であがく格好悪くても無様だと笑われようが、生きてさえいればそれでいいのだ。
格好いいだけがヒーローではない、格好悪くても泥臭く諦めない意志を持つ者こそヒーローなのである。
大悟が地中を掘り進めていると通知のアイコンでスキルが二つ解放された事を確認し、スキルを見ると【硬化練気】と【集気】のロックが解除されており、【硬化錬気】は闘気を練り闘気を硬化させると言うものである。
【集気】は闘気を肉体の一部に集め、その部分を強化するスキルである。
大悟はそのスキルを使い闘気を両手に集中させ硬化させる、掘り進めると掘る速度が格段と上がった。
ボルト達は外れの小屋を開けると隠れていたフレイを見つける。
「⋯⋯『セイヴァー』はどうしたの?」
フレイはボルト達が現れた事により顔が青ざめている。
フレイは『セイヴァー』が倒されたとは考えたくはなかった。
「『セイヴァー』?⋯⋯まさか、あの奇妙な奴か?残念ながら奴は死んだ。他の奴等同様埋めてやったぜ」
しかし、そこに突きつけられたのは『セイヴァー』が倒されたという事実だった。
「そんな⋯⋯嘘だよね。『セイヴァー』が⋯⋯」
フレイは『セイヴァー』が倒された事を認めたくなかった。
「安心しな。お前もそいつの元に送ってやるからよ」
ボルトが鉄爪を握りフレイに振り下ろそうとした時だった。
「!!」
フレイの周囲に炎が舞い上がったのである。
「⋯⋯まさか、こいつが兄貴が捕らえた怪物か!!」
ボルトは自慢げに兇獣王への献上品が出来たと話していたコボルの事を思い出した。
「確かにこれはやべえな。これは人間が持つ力じゃねえ。正に怪物か⋯⋯確かに兄貴が自慢するだけの事はあるな」
ボルトはフレイが放つ炎に近付けない。
フレイの潜んでいた小屋は全焼してもなお燃え続ける。
フレイの放つ炎は小屋の石材までも溶かしはじめており、ボルトはフレイに近付くことすら出来ないのであった。
しかし、しばらく燃え続けフレイが倒れると炎は一瞬で鎮火する。
「⋯⋯連れて行け」
ボルトはフレイを兇獣王に献上する為に連れ去る事にした。
この成果を認めて貰えればボルトの昇進は待った無しなのである。
そして、ボルト達は自分が支配している街に帰って行った。
そして、『セイヴァー』が地面から這い上がると全てが終わっていたのである。
大悟は急ぎフレイが隠れていた小屋に行くと小屋が全焼しており、フレイの姿がない事を確認すると大悟は唇を噛みしめ拳を握っていた。
『何でだろうな。後悔しないように無責任に守るなんて言えないと言っておきながら、俺は結局後悔している。⋯⋯これじゃ結局あの時と変わらない⋯⋯これが嫌だから弱いと何も守れないから誰よりも強くなる決意をしたんじゃないか!!⋯⋯俺は何をやっているんだ!!』
子供だからと言って引き離したりせず、フレイの意志も尊重するべきだったと今更気付く。
『責任があろうがなかろうが目の前の者を助けるそれだけで良かったんじゃないか!!』
大悟はただ単に自分のトラウマから逃げていた事を受け入れる。
とりあえず、生き残った村人を掘り上げるとフレイの所在を聞き込む。
「それは本当か!!」
「あ、あぁ、獣人に担がれて連れて行かれた少女を遠退いた意識の中で見た気がするんだ」
「そうか⋯⋯」
「何をする気か知らんがやめておけ、もうこれ以上ここの人達が死んでいくのを見たくはないんだ」
集落の住民にしてみればこれ以上、ボルトに関わって欲しくなかった。
「あんた達に迷惑はかけないようにする。世話になったな」
大悟は集落を後にすると大悟はボルトのいるフィルシタットに向かった。
その頃、ボルトはフレイの胸元にある紋章を見ていた。
「奴隷紋か⋯⋯どうやら効力を失っているようだな」
奴隷紋は奴隷を拘束する為の呪いで主人の命令に従わなければ苦痛を与え続けるという代物であり、主人が奴隷紋に触れて解放させるか主人が死ぬ事で効力を失う。
主人から解放された場合は紋章が身体に残る事はないが死んだ場合はその効力を失ってはいるが、主人が存在しない為機能していないだけなので上書きするだけで奴隷紋の効力は復活する。
しかし、ボルトは奴隷紋がどういうものかは知っているが、上書きの方法を理解していない。
「さて、フィルシタットに戻ったら、兇獣王様のいるアールズに向かわないとならないがまた抵抗されても面倒だ。奴隷紋の機能を復活させる方法でも調べるか」
フィルシタットの元々領主の家だった所には本がたくさんあったのである。
ボルト達がフィルシタットに到着するのに一週間もかからなかった。
それは獣人の足が速いからである。
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