ヒーローの流儀
大悟は集落を縄張りとしていた獣人を追っ払い住民を解放したが、その集落にコボルが派遣した救援部隊が向かっているのだった。
大悟はこの世界の状況を集落の代表から聞き出し思った以上に厄介な事になっている事を知る。
まず、この集落はアルンド皇国のフィルシタット領で、獣人の王を名乗る兇獣王の配下であるコボルト兄弟の弟であるボルトが占拠しており、フィルシタットは既に獣人の巣窟と化している。
そして、フレイのことだが助けた住民に聞いたところここの住民ではなく他のところから連れ去られたようであった。
「アンロックされてるスキルがあるな」
【ヒーロー変身】のスキルを解放して沢山のスキルが出たはいいがその殆どにロックがかかっており取得できていなかった。
【闘気】、【闘魂】が解除されており、大悟は未だに有り余るヒーローポイントを惜しまず使う。
二つのスキル効果は【闘気】を身に纏い全ての身体能力、戦闘能力を向上させるスキル【闘気】と【闘気】によって物理耐性を得る【闘魂】のスキルだった。
「⋯⋯通常状態で使えないという事は変身状態で使えるスキルか」
スキルには通常状態でも使えるものと変身状態限定でしか使えないものがある。
変身状態は最大三十分まで持続するが次の変身する為のクールタイムが存在し、最大まで使わなければ使った時間の二倍がクールタイムになるが最大まで使うと六倍となるのである。
いざという時に変身出来ないという事態を防ぐためにヘタに変身は出来ないのである。
「⋯⋯魔王を倒すか⋯⋯思った以上に過酷なヒーロー活動になりそうだ。⋯⋯引退前最後のヒーロー活動にはもってこいか⋯⋯」
大悟は今年で二十八であり、ヒーロー活動ばかりで彼女などいた試しがない。
そろそろいい年齢なので結婚も視野に入れないと考えるといつまでもヒーロー活動などやってる訳にはいかないのだ。
ヒーローの中には当然のトラブルにより殉職していったヒーロー達も当然いる。
明日は我が身なのだ。
いくら、最強と言っても死ぬ時は死ぬ。
結婚を視野に考えた場合、自分だけの事ではなくなるからである。
魔王を倒して異世界から帰れるかは分からないが、今はとにかく打倒魔王を目指すしかないのだ。
「さて、今後この子をどうするかだな」
大悟は隣でぐっすり寝てるフレイに視線を向ける。
『親でもない俺がこんな小学五、六年生くらいの子を連れていたら向こうの世界じゃ確実に逮捕されてるな』
大悟の世界ではフレイくらいの歳の子が親でも親戚でもない知らないオッサンが一緒にいるだけで通報されかねない事案なのである。
『親については話したがらないし、何処から来たのか聞いても分からない。だからといって、打倒魔王の旅に連れて行く訳にはいかない。俺の元にいるより安全な場所にいた方がいい』
大悟は今回の事で打倒魔王には常に危険が付き纏う事を理解した。
大悟自身、そんな危険な旅に子供を同行させる訳にはいかなかったのである。
「た、大変だ!!」
突然集落で男が声をあげる。
「落ち着けどうしたんだ?」
慌てている男をなだめ大悟は何かあったか聞く。
「そ、それが、ボボボ、ボルトが⋯⋯フィルシタットを陥落させた獣人が⋯⋯」
「ボルト?」
「ここを支配してたコボルの弟だ。フィルシタットの兵がなす術なく敗れた相手で地面に引きずり込む力を持つという話だ」
「そいつがどうしたんだ」
「おそらく、万が一を考えて救援を送っていたんだろう。助けてもらったのはいいが、これじゃ意味がないじゃないか!!助けるなら最後まで助けろってんだ!!」
男は苛立ったように話す。
住民を助けたのは『セイヴァー』に変身した大悟だが、住民達を助けた際に自分が来た時には変身を解除し既に終わっていたと伝えた。
正体を隠す必要性などなかったが、魔王を倒す事が目的なので当然、魔王側にしろ人間側にしろ目立つのである。
大悟自身、あまり目立つ事に慣れていないのでなるべく正体は隠したかった。
「うぅ⋯⋯なんか納得いかない」
フレイは『セイヴァー』の正体を知っている為、男の言葉に対して不満を抱いている。
そして、どうして大悟が自分の手柄を秘密にしているのかフレイには分からなかった。
しかし、面倒な事はごめんだから言わないで欲しいと豚の角煮缶を渡されたので黙るしか無かった。
「その人も偶々いあわせて偶々倒しただけで、助けた後の事は考えてなかったんじゃないか?」
フレイが不機嫌な様子なので大悟は一応擁護しておく。
「どうだかな。噂じゃ魔王を討伐に向かった勇者一行は敗北したが勇者だけは逃げ延びたという話だ!!何が勇者だ!!結局は死ぬのが怖くなって逃げたんだ!!無責任にも程がある!!」
「⋯⋯どちらが無責任なんだかな」
そのあまりにも人任せで無責任な台詞に大悟は腹が立った。
なのでつい口走ってしまったのである。
「なんだと?」
「いや、なんでもない」
大悟はどうしてもこの男の言った事が我慢できなかったのである。
ヒーローがヒーロー活動をして失敗するとメディアやネットでとことん叩かれる。
それで潰されたヒーローを見てきたからこそ分かる。
ヒーローだって人間だ。
逃げたい時や失敗する時だって当然ある。
それをまるでヒーローなら出来て当然という風潮まである。
そんな人間を誰が助けたいと思うのだろうか、だからこそ『セイヴァー』は助ける価値がない者は助ける必要はないと思っており、実際に危機が実際に迫っていてもその結果が自業自得だと判断すると助けない事も多々あった。
『セイヴァー』のスタンスは立場的に弱者の味方なのである。
その為『セイヴァー』は一部の権力者にとっては面白くない存在である事も事実なのである。
大悟自身、権力者に媚び諂う事はヒーローとしての主義に反するのだ。
ヒーローとは弱者の希望でならなければならない、これが大悟のヒーロー感なのである。
「なぁ、フレイに聞きたいんだが、勇者ってどんな存在なんだ?」
大悟は勇者という意味は理解しており、これが自称神が話していたこの世界の魔王に対する措置だと考えているが、実際どういう存在かは分からなかった。
「私もあまり知らない⋯⋯」
フレイ自身も勇者がどういう者なのか理解していない。
「さて、そろそろここを離れるが⋯⋯」
「助けないの?」
フレイは大悟が住民を助けるものばかりだと思っていた。
「悪いがお前とはここでお別れだ。俺の近くにいては命がいくつあっても足りなくなるからな」
大悟はフレイを同行させたくなかった。
子供を連れて行くのには危険過ぎる旅となるからである。
「⋯⋯や」
フレイは大悟の上着の裾を握りしめ引き止める。
「俺にはやらないといけない事があるんだ。俺みたいなアラサー間近のオッサンヒーローは未来ある子供に夢と希望を与えるのが仕事なんだよ」
「ヒーロー?」
フレイは大悟のいうヒーローという意味が分からなかった。
「自分の意志で以って人を救う者の事をヒーローっていうんだ」
大悟は子供には難しい話しだとは理解しつつフレイに説明する。
「それなら、私もヒーローになる!!それなら連れて行ってくれるでしょ?」
フレイは何としてでも大悟について行きたいようだった。
「あのな。なると言っても簡単な事じゃないんだぞ」
大悟自身、ヒーローになるという事は簡単だが、実際に大変なのだ。
多くの下積みを積んでやっと名前を憶えてもらえてやっとヒーローとして認めて貰えるのである。
これでヒーローとしてスタート地点なのであり、当然有名になる為には人並み以上の努力が必要なのである。
その頂点が『セイヴァー』である為、大悟は簡単な事ではない事を重々理解している。
「俺はお前を連れて行けない。今回のように毎回助けられる訳じゃないからな。無責任に守ってやるって言えないんだ」
「ヒーローなのに?」
「ヒーローだからだ」
大悟はヒーローだからこそ無責任な事は言えなかった。
絶対に守ってやると言って守れなかった時の後悔は大悟にとって絶対に忘れられないトラウマなのである。
「どうしても連れて行ってくれないの?」
「そもそもどうして付いて行きたいんだ?」
大悟はフレイがここまで頑なに付いて行きたがってるのか知りたかった。
「⋯⋯」
フレイは黙りながら長い黒髪を上げて耳を見せるとそれは人間と違い先がやや尖っている。
「⋯⋯これが理由、これのせいできみ悪がられるの」
人間と魔族のハーフ、それが彼女の正体である。
昔から魔族は人間にとっての敵であり、人間は魔族にとっての敵である。
その為、人間と魔族のハーフはどちらの種族からも虐げられる存在なのだ。
「⋯⋯事情は分かった。だが、それとこれは話は別だ」
大悟はフレイの事情を知ってなお首を縦に振らない。
「いいもん、勝手に付いて行くから」
「まったく、困ったもんだ」
フレイの我儘に大悟が困り果てた時だった。
集落の民家や住民が地面に沈んでいくのだった。
集落に叫び声が響き渡るとコボルとよく似た獣人が現れる。
「おい!!ここにいた銀色のおかしな格好をした奴を出せ!!」
その獣人は見せしめに住民を民家事沈めていく。
「知らん!!知らない!!助けられた時には既にいなかったんだ!!」
住民の一人は必死に説明する。
「俺様はそういう事を聞きたいんじゃねぇんだよ。どうせ匿ってんだろ?嘘付くな」
「う、嘘じゃない!!」
「本当なんだ!!」
住民達は必死に沈み込む身体を這い出そうと必死になるがもがけばもがく程地面に沈み込んで行く。
その光景を遠目で確認し大悟はフレイの安全を考える。
「お前はそこの外れの小屋に隠れてろ」
「う、うん」
フレイは大悟の指示に素直に従った。
「さて、やるか」
大悟は『セイヴァー』に変身する。
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