シャイニー
騎士達に扮した【
フュームが『TRANSFORM』の文字に触れた時だった大悟の目の前に「シャイニーが覚醒しました」という文字が出てくる。
「⋯⋯えっ?」
大悟は突然の事で理解が出来なかった。
「どうしたの?」
フレイは大悟の様子がおかしかったので気になっていた。
「い、いや、何でもない」
大悟は何となくこの説明が理解出来た為、フレイには話す訳にはいかなかった。
フレイはどういう訳かフュームに対抗心を持っているので、この事を話したら面倒な事になるからである。
シャイニーとはフュームのヒーロー名の事である事を大悟は察しているのだ。
つまり、フュームは【ヒーロー変身】で『シャイニー』に変身出来るようになったのである。
それをフレイに話したら面倒な事になるのは大悟には目に見えているのであえて教えない事にした。
「な、何が起きた!!」
【
「こ、これは一体⋯⋯」
「⋯⋯あの姿はまさか⋯⋯天族の中でも最も力があると呼ばれる、アークエンジェル⋯⋯」
アークエンジェルは天族の中で最も力があり、神に近い存在とされており天族が一対の翼に対し三対の翼を持つとされている。
「慌てるな!!どうせ、ハッタリだ!!」
騎士達はフュームの変化に動揺を隠せずにいたが、それはフュームも同じだった。
『な、何なのよこの姿は⋯⋯完全に痴女じゃない!!』
フュームは今の姿にかなり動揺している。
それもそのはずで動く度に下乳が見え隠れしているからである。
『⋯⋯確かに力が湧き出す感じはあるけど、この姿は⋯⋯ないわ⋯⋯』
フュームは溜息をこぼしながら、仕方ないと自分に言い聞かす。
「悪いわね。あなた達、ここからは私のただの八つ当たりだから⋯⋯【魔装弓】」
「がっ!!」
フュームは矢を放つと騎士の一人に直撃すると吹き飛び、その場に倒れる。
「へっ?」
「ナニッ!?」
騎士達はフュームには人を吹き飛ばせるほどの攻撃力はないと説明を受けていただけに思考が混乱していた。
それは、フュームも同じでこんな威力が出るとは思ってもいなかった。
「今なら出来るかも知れない。【破天の矢】」
フュームは【魔装弓】の修行をしたが会得出来なかった技を試す。
「うわあああああ!!」
フュームは天に矢を放つと騎士達に光が降り注ぐ。
騎士達はその場に倒れてはいたがまだ数人、直撃を免れ立ち上がれる者がいた。
「き、聞いてねえ。これは何かの間違いだ!!」
「⋯⋯それ誰から聞いたの?教えてくれるなら、投獄だけで勘弁してやらない事もないわ」
『シャイニー』ことフュームは彼等が自分を殺そうとした者が誰なのか尋ねる。
「ふ、ふふふ、ふざけるな!!」
「お前が生きてると知られた時点でボスに殺される」
騎士達の語るボスがフュームを殺すように命令した者だとフュームは察する。
「⋯⋯交渉決裂ね。だとしても大体察しはつくわ。あなた達を私につけたラーガンもグルね。いや、そのボスがラーガンなのかしら?」
フュームの質問に騎士達は答える気はないようだった。
「まぁ、いいわ。あなた達を倒してラーガンに直接聞けば分かる事だしね」
「そうはさせるか!!」
「【ウォーターホールド】」
【
【天翼の盾】と呼ばれるスキルで、翼一枚一枚が盾となるスキルである。
「くっ、狼狽るな!!堕天種ごとき倒さなくてどうする!!」
「こうなったら仕方ねえ⋯⋯使うぞ」
騎士達は禍々しいオーラを放つ短剣を取り出す。
「それは!!」
当然、フュームはそれが何なのか知っている。
「なんで、あなた達がそれを持ってるのかしら?それは王国では所持する事は禁止だったはずよ」
【
所持しただけで身体能力を向上させ、武器ごとに追加効果を持っている。
しかし、王国ではとある理由により使用を禁じているのだ。
「ああ、あの愚かな王が決めた決まりか、問題ない。どうして俺達があの他種族に媚び諂う愚かなる売国奴の決まりを守らなきゃいけないのだ?」
「俺達は人間の尊厳を脅かす貴様等を一匹残らず駆逐するために存在する。その為なら悪魔にだって魂を売る」
【
「何となくその武器の出所は察したわ。何が他種族に媚び諂う愚かなる売国奴よ。あなた達のやってる事の方がよっぽど売国なのにどうして気づかないのかしら。それが作れるのは魔族か悪魔くらいよ。それを扱うのは【
魔剣を含む魔具は、魔族や悪魔のみが作る事が可能で、人間には到底作れるものではないのである。
「まともに動けるのは半数以下になってしまったが関係ねえ!!こいつは凄えぞ!!」
騎士達は地面に沈み込む。
「!!」
フュームの背後から騎士の一人が飛びかかるが、翼によって防ぐと次々とフュームの死角から騎士が襲いかかって来る。
『い、一体何が⋯⋯』
フュームはギリギリで全てを捌いているが、フュームが攻撃を防ぐと同時に騎士達は地面に沈み込むのでフュームは攻撃すらできないのだ。
「クソッ、あの翼のせいで俺達の攻撃がまるで効いてねえ」
騎士達はフュームの【天翼の盾】による防御に攻めあぐねていた。
『えっと、何々⋯⋯』
その頃、大悟は追加された『シャイニー』の項目を確認している。
【真・魔装弓】、【破天の矢】、【天翼の盾】、【完全防御】、【破魔】、【聖域】、【フルカウンター】がヒーロー時専用スキルとして増えていた。
【完全防御】は相手の敵意や殺意に対して【天翼の盾】が自動的に攻撃を防ぐというものであり、【破魔】は魔族や悪魔に対して弱点となる力で、【聖域】は範囲内で魔族や悪魔といった邪なる存在の力を弱め、天族や勇者といった聖なる存在に力を与える力場を発生させる。
そして、【フルカウンター】は【天翼の盾】が蓄積させたあらゆるダメージを相手に返す『シャイニー』の持つ最強のスキルである。
『ヒーロー時限定とはいえ、中々強力な力だな』
大悟はこれがフレイだったらどうなるか考えたくなかった。
『シャイニー』が完全な防御特化なら『ソレイユ』は完全な攻撃特化の可能性が大きいからである。
それは、フレイ自体が攻撃特化で持つスキルが全てを物語っている。
「どうしたの?」
大悟が溜息をついているとフレイが心配し声をかける。
「いや、王都までの道のりは長いなと思って憂鬱になっていた」
大悟は誤魔化すようにフレイに答える。
「うん⋯⋯私も疲れた」
フレイも早く王都に到着してゆっくり休みたいのであった。
「ハァハァ⋯⋯おかしい⋯⋯何故奴は俺達の攻撃を防ぎ切れる⋯⋯俺達はお前の死角を狙っているというのに!!何故だ!!」
騎士はフュームが自分達の攻撃を全て防ぎ切っている事もおかしかったが、それ以上におかしい事に気付いた。
「それだけじゃねえ、どういう訳か魔剣の身体強化が弱体化している!!魔剣の身体強化はこんなもんじゃねえ!!」
その二つの現象はフュームの【完全防御】と【聖域】のスキルで起きている事はフューム自身も知らないのである。
「ふざけやがって!!ふざけやがって!!これもお前がやってるのか!!」
「あなた達が何を言ってるのか分からないわ」
騎士達はこの現象がフュームが起こしてるとしか思えなかったが、フューム自身何が起きてるか分かっていない為、否定するしかない。
「あくまでシラを切るつもりか!!舐めやがって!!お前ら、絶対に殺せ!!うぐぅ!?」
騎士達は突然苦しみ出す。
魔剣の身体強化はその者の限界を超える力を与えるが、魔族や悪魔以外の者が使った場合、その肉体を魔物化させる効果を持っている。
これが王国で魔剣の使用を禁じている理由なのであった。
「⋯⋯ご⋯⋯ろ⋯⋯ず⋯⋯」
騎士達は影に包まれると大きな黒い獣へと姿を変える。
その獣は咆哮を放つと周囲からたくさんの黒い獣を生み出し、フュームに飛びかかる。
「影の猟犬⋯⋯ヘルハウンド⋯⋯成る程ね。アイツらの攻撃の正体はこれか」
魔剣は魔物の力を封じ込める事で生み出されるが、魔族や悪魔以外の親和性のない者が扱うと力がその肉体を乗っ取るのである。
ヘルハウンドは影を操る魔族領に存在する数少ない魔物で、影に潜る力と影の群れと呼ばれる影で出来た獣の群れを率いる力を持つ強力な魔物の一種である。
一斉にフュームに襲いかかる影の獣をフュームが矢を三連同時に放ち消滅させる。
相手が影であるため、フュームの光は相性が良いのである。
しかし、それでも影の獣は攻撃をやめずにフュームに襲いかかるが【天翼の盾】によって全てを防ぎきり、隙を見て【破天の矢】をヘルハウンドに放つとヘルハウンドは影に潜り込み回避しようとする。
「無駄よ!!」
影に潜むヘルハウンドは【破天の矢】が放つ光により、影が消滅すると潜むべき影を失い【破天の矢】の直撃を受けるが、それでもまだ立ち上がる。
フュームの【破天の矢】はヘルハウンドを一撃で仕留めるほどの威力ではなかった。
ヘルハウンドの雄叫びに反応したのか、周囲から森の魔物が寄って来るとヘルハウンドはその魔物達を影の中に取り込み、自身を回復させている。
ヘルハウンドは影の獣を呼び出し再び、フュームに攻撃を仕掛けるが、次は不用意に突っ込まず、様子を伺うように立ち止まっている所をフュームは矢を放つと獣達はその矢を避けてしまう。
獣達はフュームの矢を掻い潜りフュームに到達するが【天翼の盾】に阻まれた所をフュームに狙い撃ちにされ消滅している。
その様子を見て我慢ができなくなったのだろう、ヘルハウンドは影の獣を影に戻し自身が突っ込んで来る。
「くぅっ、なんて力なの!!」
ヘルハウンドの攻撃は【天翼の盾】を六枚使いやっと防げるほどであり、それでも力により押されている。
ヘルハウンドは【天翼の盾】をこじ開けようと前足に力を込めているが、フュームは力を込めて抵抗していた。
必死の抵抗をしているとフュームの視界の端に【フルカウンター使用可能】という文字が出ると大悟の説明を思い出す。
これは新たな能力が使用可能になった事の証拠なのである。
「【フルカウンター】」
フュームは騎士や影の獣、ヘルハウンドの受けた攻撃の総量をヘルハウンドを三対の翼で攻撃すると目の前には生き絶えたヘルハウンドが倒れていた。
「まさか、倒せたの?」
ヘルハウンドはそもそも単身で勝てるような相手ではなく多くの者を率いてやっと勝てるような相手なのである。
ヘルハウンドは動く様子もなく完全に事切れているがフュームはそれでも変身を解除しなかった。
フューム自身やるべきことがあるという理由もあるが、今になって自分がアークエンジェルの姿になっていた事に動揺していたからだ。
アークエンジェルはそもそも穢れを背負った天族には存在しないからである。
とりあえず、フュームはこの力について知る必要が出てきたのと同時に国内に存在する【
その為には、ラーガンを問い詰める必要があるが、先ほどの連中を見ていれば素直に応じるとは思えないが、どちらにせよフュームにとってラーガンを無視する訳にはいかないのである。
しかし、この未知なる力に頼っていいものかという迷いもあった。
先程の姿になれば、ラーガンとも戦えるがその力にリスクはなかったのかと考えてしまう。
彼等が使った魔剣同様に大き過ぎる力には何かしらのリスクが付き纏うものだとフュームは知っている。
だからこそ、この力を与えた大悟に会う必要があるのだ。
「でも、その前にラーガンをとっちめないとね」
フュームは大悟に会う前にラーガンだけは一発以上ぶん殴らなければ気が済まないくらいに怒っていた。
その頃、ラーガンはフュームが生きてるとは思っておらず、【
「彼等は我々の中では精鋭ですからな。あんな小娘一人始末するのは容易い事⋯⋯だが、惜しいのはあの小娘が泣き叫びながら犯される姿を見れなかったことか⋯⋯」
「天族の連中は呪術の類が効かないので奴隷紋で奴隷にする事は出来ませんからね」
「うむ、せめて奴等のうち誰かに写し鏡を渡しておくのでしたな」
写し鏡とは二枚の鏡があり、片方で写ってるものをもう片方の鏡に写すものである。
「ラーガン様は女の泣き叫ぶ声で興奮する変態故、音の出ない写し鏡ごときあったところでない事と同じなのです」
それでも泣き叫ぶ声が聞こえないので、ラーガンとしては不満だから渡さなかったが、渡していれば、彼等の敗北も一早く知れてその場から逃げる事も出来ただろう。
「フフ、おぬしも中々言うですな⋯⋯気に入ったですぞ。ツィルク殿に頼んで⋯⋯!!」
彼等が気付いた頃には既に真上から光が迫って来ており、避ける事すら出来ず意識を奪うのには十分な威力だったであろう。
ラーガンを含め彼等は何が起きたか分からず、意識を戻した頃には牢の中だった。
「目は覚めたかしら?」
鉄格子の向こうには既に死んだと思われたフュームが立っていた。
「き、貴様は!!」
ラーガンは鉄格子を握りしめフュームに叫ぶ。
「どうして、こうなったかはあなたが一番よく知っているはず⋯⋯隊長である私を秘密裏に殺害しようとした事そして、魔剣の不法所持⋯⋯」
「な、何を言ってるのですかな?」
ラーガンはあくまでもシラを切るつもりであった。
「やれやれ、私もあなたが素直に話してくれるとは思ってないわよ。だけど、あの魔剣の出所だけは何としてでも突き止める必要が出てきたの」
「はて?魔剣?一体何の事を⋯⋯」
ラーガンは知らぬ存ぜぬを貫くつもりだが、知っている。
あの【
「知らないとは言わせないわ。あなたの懐にしまっていた短剣⋯⋯アレを押収させてもらったわ。鞘を聖なる力で加工する事で魔剣の邪気を中和させ私の目を掻い潜った事に気付いた時はとことん私の未熟さを思い知らされるなんてね」
「⋯⋯い、陰謀⋯⋯そう、これは私を陥れようとする者達の陰謀なのだ!!私は何も知らない!!」
「それを素直に信じろと?私はあなたが選抜した騎士に殺されかけたのだけれど、これは単なる偶然だと言っていいのかしら?」
「そ、そう、偶然なのだ。単なる偶然⋯⋯」
ラーガンは必死に自分の潔白を証明しているが、フュームはこの男が完全に黒だと言うのは知っていた。
「成る程、単なる偶然なら仕方ない⋯⋯」
「そうなのだ。分かってくれたのだな。早くここから出し⋯⋯」
「でも、おかしいわね。アイツらからはあなたの命令だと言っていたんだけどね。それっておかしくない?」
当然、あの【
フュームはラーガンにカマをかけているのだ。
「⋯⋯そそそ、それは、や、奴等が私を陥れようとしていた者達だったからだ!!」
「それなら、どうして私を直接狙いに来たのか⋯⋯あなたを陥れようとするなら、私じゃなくあなたを狙えばいいはずよね。だって、私を殺したらあなたを陥れようとするどころかあなたは隊長になれるじゃない。これのどこがあなたの言う陰謀なのかしら?」
フュームはラーガンの誤魔化しに飽き飽きしている。
「⋯⋯クソッ⋯⋯この堕天種のクソガキがああああああ!!」
ラーガンは今にもフュームに飛びかからんとしているが、鉄格子を力強く握りしめることしかできなかった。
「⋯⋯もう少し取り繕ってくれるとは思っていたけど、思ったより早く化けの皮を剥がすなんて⋯⋯本当、野蛮ね」
「クソックソッ⋯⋯お前ら!!ここを開けろ!!お前達はその堕天種に騙されているぞ!!お前達は人間である私よりもその堕天種を信じるのか!!」
ラーガンは近くにいる看守に声をかけるが当然動こうとしない。
「あのダイゴとかいう男の言葉が今なら分かる。種族とかそんなのは関係ない⋯⋯大切なのは人を信頼し、信頼されること⋯⋯私は私の信じる者、そして信じてくれる者を信じるわ。⋯⋯それが私の正義よ。あなたの行いは信ずるに値しない」
「言わせておけば良迷いごとを⋯⋯人間こそ絶対の正義であり、絶対正しいことなのだ!!その他の種族は悪なのである!!」
「私はそんな小さい事に興味はないわ。何が敵で何が味方か分けてる時点であなたの正義は程度が知れているわ」
フュームは大悟が言っていた事をラーガンに言い放つ。
「ふざけるな!!私のどこが程度が知れているというのだ!!」
「それに⋯⋯私にそれを教えてくれた人は、絶対正しいなんて言わなかった。それは傲慢以上の何ものでもないから、そして正義は人によって異なるから⋯⋯あの人は私にそれを伝えたかったんだと思うわ」
フュームはここに来て、大悟の言葉の意味を理解した。
「それで、私はどうなるのだ?貴様の手で処刑でもするのですかな?」
「⋯⋯私からは何もしない」
「ナニッ!!」
「お前を裁くのは私ではなく、人間の法だからよ。それに何故かしらね。あなたを殺したいくらい憎いはずなのに、あなたの情けない三文芝居を見てたらその気も失せたわ」
フュームはラーガンが誤魔化そうとする素振りがあまりにも情けなく見えた為、ラーガンに殺す価値を失ったのである。
「な、ななな⋯⋯三文芝居ですと!!貴様ああああ!!」
ラーガンはフュームの言葉でフュームが最初からラーガンが黒だと分かっていて芝居をうっていたことに気付き激昂する。
その激昂を聞きながら、フュームは牢屋を後にして大悟に会う為に王都を目指す事にしたのだった。
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