人間至上主義者

フュームと別れた大悟とフレイは再び王都を目指す。


そしてフュームは、エレインという偽名を使う勇者と出会い、大悟の行く先をエレインに説明するのだった。


「さて、お前達に集まってもらったのは他でもない」


ここにいるのは、第四、第五、第七の元部隊長と部隊長だった。


「この場には第三部隊副隊長であり我々の代表ラーガンはいないが、前もってこの話は代理であるこの俺がすることをラーガンは知っている」


この話の中心にいる偉そうな男はツィルク・ミネルヴァ、第四部隊隊長である。


「さて、本題だがお前達に集まってもらったのは他でもない。お前らは、堕天種に不満を持った連中だ。俺達の目的はただ一つ⋯⋯堕天種を街から追放し、悪魔共に差し出す事だ」


ツィルクは天族を堕天種と呼び蔑みながら話す。


「何でも、奴等は悪魔と同類だという話しじゃないか!!という事はだ⋯⋯いつ背中を刺されるか分かったもんじゃねえんだ。そんな奴らを信用できるか?」


ツィルクは天族と悪魔は同類だという話しをし周囲に不安を煽る。


「うむ、一理あるな。奴らは確かに我々に比べれば力はあるかもしれん。だが、あまりにも傲慢だ。我々の意見など全く聞こうともしない⋯⋯ふざけおって!!」


第七部隊の副隊長であるウェイン・シーヴェンも隊長である天族に不満を漏らす。


「確かにふざけてますね。そもそも僕らは今までの実績を認められて隊長という役職を得たのです。しかし、奴らはそんな事をせずに隊長です。そんなの納得できるはずがありません」


第五部隊の副隊長であるマルク・ファルケンは苦労して隊長という役職についた事だけあってその不満は確かなものだった。


「だからこそ、俺達に力を貸してくれる連中が現れた。そう【人間至上主義団体サプレマシスツ】だ!!」


「誠か!!」


「本当に!?」


ツィルクの言葉に元部隊長は驚く。


人間至上主義団体サプレマシスツ】とは、その名の通り人間こそ最上級の種族だと考える連中で、今回の天族からの協力に徹底的に反対したが、状況が状況だけに誰も相手にしなかったのである。


しかし、一部の天族の人間に対する態度は余りにも傲慢で人間の中でそれに不満を持つ者が現れたのである。


それを払拭する為に奇数の部隊隊長を天族に任せる事で友好関係を築こうとしたが、第一部隊隊長以外は不満しかなかったのである。


そこに漬け込もうと考えたのが、人間至上主義者であるツィルクだった。


そして、ラーガンも人間至上主義者であった為、ツィルクとはすぐに意気投合したのである。


ラーガンは表向きは親和派を謳っているが、それは国民に信頼を得る為であり、実際の顔は人間至上主義者である。


そして、ツィルクは【人間至上主義団体サプレマシスツ】の中でも過激派のリーダー的存在でなのだ。


表向きはラーガンの顔を立てているが、実際は裏で手を引いているのがツィルクであった。


「まず、手始めに第三部隊隊長⋯⋯フューム・ライナーを殺す⋯⋯既に【人間至上主義団体サプレマシスツ】の連中を紛れ込ませている。奴等の事だたっぷりと楽しんでから殺すのが目に浮かぶ」


ツィルクは不気味な笑みを浮かべながら語る。


「そんな簡単に行きますかね。彼女は天族の中でも実力者だと聞いていますが?」


「うむ、【人間至上主義団体サプレマシスツ】がどのような連中かは知らんが訓練も受けてない人間が太刀打ちできるような相手ではないかもしれんぞ」


ウェインとマルクはいきなりフュームを狙うのは命取りだと思っていた。


「そう言って来るのは分かり切っていた。だが、奴には致命的な弱点がある。奴は攻撃魔法が苦手なんだ。それさえ分かれば十分手が打てるというものだ」


ツィルクはラーガンからフュームは攻撃魔法が苦手だという情報を得ていた為、問題はなかったが、万全を期す為、アールズへの遠征を第三部隊にやってもらったのである。


そして、第三部隊より一足先に【人間至上主義団体サプレマシスツ】を秘密裏にアールズへ送り込んだのである。


「まったく、お主はやはり恐ろしい程頭が回る」


「それでも、やっぱり無理ではないですか?彼女の力を侮り過ぎですよ。当然、対抗策があるはずです。そうでもなければ、第三部隊に選ばれてはいないはずです」


ウェインは一先ず納得するがマルクはそれでも納得しようとしない。


「お前の心配には及ばない、もしもの時の為にとっておきの場を用意したからな」


「言ったところで教えてはくれないんですよね。そこまで用意周到なら心配するだけ無駄そうですね」


マルクはツィルクの説明に渋々納得する。


「そして、もう一つ⋯⋯勇者なる存在が現れた。それをどうするかだ」


ツィルクにとっては勇者も無視出来ない存在であった。


勇者は人間ではあるが、【人間至上主義団体サプレマシスツ】の幹部の一人として無視出来ない存在なのである。


勇者と敵対する者は人間の中でもごく少数派ではあるが、それが【人間至上主義団体サプレマシスツ】なのだ。


この団体は今の勇者が魔王に負ける前から存在していたが現在程、規模は大きくなかったのであるが、勇者が負けた事により民衆の不安を煽りその規模を拡大していったのである。


そういう事がある為、勇者の存在は彼等にとっては目障りなのであった。


「それが事実なら国を挙げて歓迎しないとならんな。我等の力では八凶星の力ですら対抗出来ないからな」


「そうですね。きっと魔王を倒す為に誰にも知られないように鍛えていたに違いありません」


勇者に関してはウェインもマルクも歓迎ムードである為、ツィルクは温度差を感じずにはいられなかった。


「俺としては何を今更という感じはするが、お前らが歓迎したいと言うなら反対する気はない」


ツィルクは当然思ってもいない事を口にしている。


本心では今すぐにでも抹殺したい相手なのだが、相手が隠れている事もあるのと噂程度の話しを一々まに受けてそれが事実でなかった場合、恥をかくのは分かりきっている為動かないのであった。


「まぁ、本心では納得できない者もいるだろうが、この状況をひっくり返す事が出来るのは勇者しかいない⋯⋯これが現実だ。結局、我等は勇者に頼るしかないんだ」


ウェインはツィルクの意見も当然理解しているが、勇者に頼らざるを得ない事も理解している為、こちらから勇者に頼る事に否定的な態度を取るわけにはいかないのだ。


「というか、国民の過半数以上はツィルクさんと同意見だと思いますよ」


マルクもツィルクの意見に納得している。


「さて、お二人の貴重な意見を聞けたという事で俺はそろそろお開きにするか。あまり戻るのが遅いとお前らの隊長に怪しまれるからな」


ツィルクは別に二人がどうなろうと知った事ではなかったが、それが自分の事に関わってくるなら知らんぷりというわけにはいかないのであった。


「そうだな。私も訓練があるのでな」


「僕はそろそろ巡回の時間ですよ」


そして三人はそれぞれ散るように別れた。


その時、ツィルクは口に不適な笑みを溢していた。


その翌日、フュームは街の防衛の為に街の外周を警邏していた。


「いやはや、性が出ますな隊長殿⋯⋯ちょっと小耳に挟んだのだがよろしいですかな?」


目の前の小太りした男が三番隊副隊長のラーガンである。


「⋯⋯いいけど、面倒ごとはごめんよ」


「ちょっと小耳に挟んだが、その先の森に兇獣王の配下と思われる残党が潜んでいるという話しを伺ったのだが⋯⋯」


ラーガンは森に兇獣王の残党がいることを仄めかす。


「何ですって!!今すぐに討伐隊を編成するべきよ!!」


そのラーガンの言葉に即座にフュームは反応する。


「そういうと思い既に編成しています」


「じゅ、準備がいいわね」


フュームはそのあまりの準備の早さに呆気に取られる。


「フューム殿は魔王の配下となると放ってはおけない性分である事は知っているでありますからな」


「わ、分かってるじゃない」


フュームはラーガンの用意した騎士を引き連れ森の中へ入って行く。


そのラーガンが用意した騎士達こそ、街に潜ませていた【人間至上主義団体サプレマシスツ】だった。


その事を知らず、フュームは森の中を進んで行く、フュームの入った森は霧の森、又の名を人喰いの森である。


「⋯⋯まったく、人間ならともかく私がそんな偽装に騙されると思ってるの?」


フュームはフレイを人間と魔族のハーフだと見破ったように木に偽装した魔物を見破り倒しているが、仲間の騎士達はあまり前に進もうとしない。


「あなた達もあなた達よ。付いてくるならそれなりの働きをしなさい!!まったく、一体どういう人選をしたのかしら」


フュームはラーガンの人選に呆れつつ先に進もうとすると背後から迫る殺気に気付くと瞬時に出した【武装盾】で背後に迫る剣を防ぐ。


「あ、あなた達⋯⋯何のつもり!?」


フュームは目の前にいる騎士が自分に刃を向けてる理由が分からなかった。


「ヒヒッ、惜しかったなぁ。そのまま、振り向かなければ楽に死ねたのによ。どうやら、生きたまま俺達の玩具になりたいようだぜ」


「死ぬまで⋯⋯いや、死んでも俺達が満足するまで面倒みてもらうぜ」


騎士達はフュームに下卑た嫌らしいねっとりとした視線を向けるとフュームは悪寒を感じるとこの騎士達が自分に何をしようとしてるか理解した。


「ふざけないで!!あなた達、こんな事して許される事だと思ってるの!!」


フュームは殺意のこもった視線を騎士達に向ける。


「へへっ、抵抗してくれた方が俺達も燃える」


「この数に女一人で敵うと思ってるのか?」


十人の騎士達はフュームを取り囲む。


「この卑怯者め!!数に頼らないと何も出来ない臆病者が、私に触れるな!!【魔装弓】【光の雨】」


フュームは【魔装弓】で必死に抵抗を試みるが、騎士達には効いてすらいない。


「ナニッ!?」


当然、フュームは何が起きたのか理解出来なかった。


「兄貴の言った通りだ。こいつの攻撃まるで威力がねぇ⋯⋯光耐性中級を付与した鎧で十分防げるぞ!!」


「なっ!!」


その騎士の言葉にフュームは愕然とする。


この騎士達はフュームが攻撃魔法が苦手だという事をどういう訳か知っていたのだ。


「俺達はとある方からお前を殺すように依頼されたんだ。その依頼主が教えてくれたぜ。お前の弱点をな」


「まさか、こんな美人を抱けるなんてな。依頼主様様だ」


フュームの唯一の攻撃方法である【魔装弓】が効かない以上、フュームに勝機はなかった。


フュームに出来る事は騎士達の攻撃を防ぎきる事しか出来ないのだ。


そして、フュームには新たな力がある。


「【魔装大盾】【盾分解】」


フュームは光の大盾を出現させるとフュームは大盾を二つに分けて左右に持つ。


「なんだそりゃ⋯⋯二枚盾で俺達の攻撃を防ぎきろうってか面白え!!」


騎士達はフュームに波状攻撃を繰り出すがその全てをフュームは防ぎきる。


「なんだ、随分と頑張るじゃねえか!!いい加減、防ぐだけでは無駄だと知れ!!【ウォーターカット】」


騎士の一人は水圧の斬撃を発生させる魔法をフュームに放つとフュームは当然の如く防ぐ。


「⋯⋯!!なん⋯⋯だと⋯⋯!?」


水圧の斬撃を防いだフュームは防ぎ切ると魔法を放った者と近くにいた者が切断されていたのである。


【魔法反射・光】の効果で盾で防いだ魔法を光属性に変換し跳ね返すスキルであった。


「き、聞いてないぞ!!な、なんなんだ今のは!!」


騎士達は聞いていたヒュームの情報になかったことに戸惑いを隠しきれなかった。


「どうしたの?さっきまでの余裕が消えたわね」


「うるせえ!!」


二人の騎士が負傷したが、残りの騎士達はフュームに再び攻撃を仕掛ける。


「偶然だ!!そうでも、なけりゃその二人がやられる訳がねぇ!!」


「そうだ、結局防ぐ事しか出来ない能無しに負ける訳がねぇ」


騎士達は再び士気を高めるために声を挙げている。


「⋯⋯そうね。防ぐだけじゃ守れないものだってあるわね」


フュームは左右の盾で騎士達の攻撃を受け流し、騎士同士を激突させ蹴り倒す。


「な⋯⋯なんだと⋯⋯」


「そうね⋯⋯あの子の言う通り私は負けたんだわ。ただ防ぐだけじゃ守れないものがあるのね」


フュームはフレイとの喧嘩に負けていた事をここに来て理解する。


「でも、次は負けない!!」


フュームはフレイを自分の好敵手として認識する。


「あなた達程度に苦戦なんかしてたら一生かかってもフレイには勝てないわ。私は魔族を倒すだけが正義だと思ってた。でも、フレイと会いあなた達を見て気付いたわ。本当に倒すべき相手が何なのか⋯⋯正にあなた達のような外道ね。人の痛みを何とも思わない奴等をこの世界から減らす事が私にとっての正義よ!!」


その時、フュームの目の前に『TRANSFORM』という文字が浮かび上がる。


その意味はフュームは理解出来なかったが、それが、大悟の言った事だと気付き拳を前に突き出しその文字に触れるとフュームは光に包まれらのだった。

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