アールズへ
エレンはウーヴォの討伐に成功し、デレクとアッシュを助けたが勇者という正体がバレてしまった。
アッシュに魔王から逃げた事を咎められるが、デレクはアッシュを説得し、エレンのした事を許すのだった。
そして、ヒーローである大悟と保護対象であるフレイは漸く森を抜け出したのである。
森を抜けるとそこは小高い丘になっていた。
「やった、やっと出れたよ。私達、前人未踏の森を踏破したよ!!」
「まぁ、確かにかなり迷って大変だったが、しっかり準備して炎属性の魔法使いを多めに連れて行けば俺達じゃなくとも踏破出来ると思ったがな。そもそも、そう考えると前人未踏というのも怪しくなってくるが⋯⋯」
喜ぶフレイに対して大悟は冷静だった。
しかし、大悟は知らなかった。
炎の魔法使い以前に全ての魔法使いが人間にとって貴重な戦力だという事なのだ。
その為、優秀な魔法使いは賢者の園、それ以外は各国にある魔法学校で保護されるのである。
魔法使いは国又は賢者の園で登録されており、許可なく魔法を使用してはいけない等の厳しいルールがある。
しかし、中にはアッシュのような無法者が使ってる場合があり、それが見つかった場合即刻、対魔法使いの部隊が編成され捕縛される。
当然、魔法使いの登録をしていない為、罰則を与えられ、魔法を使えない身体にされてしまった後、短くても十年は牢から出られない。
この世界の魔法使いの管理はかなり厳しかったのである。
「そういえば、ずっと気になってたんだけど、あの缶詰って奴は何処から出してるの?」
フレイのこの質問は大悟も何となくそろそろ来るなと思っていた。
「まぁ、いつかは聞いて来るだろうなとは思ってた」
「もしかして、聞いちゃまずかった?」
「いや、特に問題はないな」
大悟にとっては別に誤魔化す事ではないので構わなかった。
一番まずいのはフレイのスキル情報が見れてしまってる事なのである。
「簡単に説明すると俺の持つ能力の一つだな。どんな缶詰が出るかは分からないが、缶詰を出す能力だ」
大悟はあえて
言った所で分からないからである。
そして、今気付いたが
大悟本人はどうして増えているのか理解していないが、一つだけ理解している事があった。
それは、一日に一回だけ一〜百ポイント入るのだ。
滅多に十ポイント以上出る事は無いが、向こうのシステムと同じなら、これで増えているのだが、それ以外の法則が分からないのであった。
一応、ポイントの内訳や利用履歴を見ることは出来たが、現段階では利用履歴しか見る事が出来なかった。
『今のところポイントにはまだまだ余裕はあるが、何処で大量のポイントを消費するか分からないから、増やし方は憶えておいた方が後々いいかもな』
大悟はフレイに【ヒーロー覚醒】を使った時に七万のポイントを消費した為、それくらい消費するスキルが他にあってもおかしくないと思っていた。
「へぇ、固有能力みたいなものかな」
「そう思ってくれればいい」
大悟はフレイが納得さえしてくれれば良かった。
「しかし、あの街がアールズか」
「まさか、森を抜けてすぐに着くとは聞いてたけどここまで近いとは思わなかったよ」
丘を下りるとすぐにでもアールズの街に入れそうではあったが、関門の前に獣人の見張りがいる為簡単には侵入できそうになかった。
「⋯⋯ここはフェルシタットより警備が厳重だな。まさか、外壁の上にまで見張りを置いてるなんて⋯⋯」
「どうやって入るの?」
「あそこまで、厳重となると難しいかもな中で捕虜達がクーデターでも起こさない限り、あの警備網を突破するのは至難の技だぞ」
大悟は今のままアールズに侵入するのはとても困難であった。
「⋯⋯ここはあえて捕まるか」
「本気!?」
フレイからしてみれば大悟の考えは正気の沙汰ではなかった。
「逆に考えるんだ。おそらく、『セイヴァー』の事は既に奴らに知れ渡ってると思う。だが、奴らは正体までは知らない。俺は丸腰でも戦えるし、いざとなれば変身出来る。これほど俺に適任な侵入方法はない⋯⋯と言いたいところだが、そうなると困るのはフレイだ。何度も捕まって怖い思いをしてるお前を一緒に連れて行く訳にはいかないからな」
フレイは何度か捕まり怖い思いをしてる為、大悟はフレイを付き合わせる訳にはいかなかったのである。
「⋯⋯私は一向に構わないよ」
「⋯⋯本気か?」
「うん、だって今度は大悟が一緒だもん」
フレイのその表情には恐怖はなかった。
「やれやれ、逞しくなりやがって」
「これくらいで怖気付いてちゃヒーローになれないもん」
大悟は何となくフレイが付いて行くといった理由に納得がいった。
『俺としては危ない目に合わせたくないからヒーローになって欲しくないんだがな』
大悟はフレイがヒーローになる事を大いに反対しているが、それがフレイの意志なら仕方ないとも思っており、諦めてくれるのが一番だと思っているのであえてあまり口を出さないのである。
『そうか、今になって分かった。どうして、親や親戚が俺がヒーローになるのを反対したのか⋯⋯』
「あのな、フレイ⋯⋯危なくなったら影に隠れててもいいんだからな」
「大悟はどうしたら、私がヒーローになる事を認めてくれるの?」
フレイは不満そうな表情をするが、大悟はそれに答える気はなかった。
何故なら、ヒーローとは他のヒーローが認めてなるものでは無いからである。
その為、ヒーローには紹介状はおろかコネでなる事は出来ないのだ。
人助けにより多くの人に認めてもらう事により、気付いた時にはヒーローと呼ばれてるのだ。
「⋯⋯その様子じゃ、当分無理そうだな」
大悟はフレイがヒーローになる日は、まだまだ遠いと感じていた。
「私の何がいけないの!?」
「さてな、俺から言うのは簡単だ。だが、それは己で考えなければいけない事だからな」
「大悟そればっかりでろくに教えてくれないの!!」
「自分の意志を貫くと言う事は他人の意見に左右されないと言う事だ。フレイが思ってる程優しい事じゃない。他人に答えを簡単に求めるようじゃ、ヒーローになるのはまだ遠いな」
大悟はフレイがヒーローに変身出来ない理由がなんとなく分かって来ていた。
精神的に未成熟だと言うこともあるが、ヒーローになる覚悟、意志の力が足りないからであると推測している。
「いいもん。絶対なってやるもん」
「まぁ、やるだけやってみな」
大悟は、やらせておけばいつかは諦めると考えている為、あえてやめろとは言わない。
「さて、捕まってやるか」
「捕まるだけで済めばいいと思うけどね」
「もし、殺されそうになったら反撃するから大丈夫だ」
大悟も何度も獣人に殺されそうになっている為、その場で殺されそうになったら反撃に転じて、別の手を考える必要があった。
そして、大悟とフレイは獣人達の前に現れる。
「ニ、ニンゲン!!」
「イッタイドコカラ!!」
獣人達は突然現れた大悟とフレイに驚いている。
大悟とフレイは両手を上げて無抵抗の意を見せる。
「ド、ドウスル?」
「トラエレバイイノカ?」
獣人達は全く抵抗する気の無い大悟とフレイに戸惑っている。
「オトナシクシテイロ!!」
大悟とフレイは大人しく両手を後ろに回され縄で拘束される。
大悟はこの程度なら、外す事は容易いと思ったが、捕まって街の中に入る事が目的なのでこの場で外す訳にはいかないのであった。
そして、大悟の目論見通り街の中に侵入する事に成功する。
ここが、フェルシタットだったらすぐさま殺されていた事だろうが、アールズならすぐには殺されない事をシュドルから事前に聞いていたのであった。
『しかし、酷い光景だ』
街の中では人間が首輪をつけられており、手を地面に付けてハイハイで移動しているのだ。
そして、手綱を握るのは当然獣人で人間はかなりリアルな豚な鳴き声をしていた。
中には、豚の鳴き声が出来ず鞭で叩かれている人間もいた。
この世界には既に人権などないと言う事を改めて知ったのだった。
そして、街の中で一番大きな屋敷の一室に閉じ込められる。
「フツカゴニ、オマエタチノショブンガキマル⋯ニゲヨウナンテカンガエルナヨ」
「ココノニンゲンノキマリダ⋯⋯ヨンデオケ⋯⋯」
獣人が本のようなものを投げて部屋から出ると鍵が閉まる音が聞こえる。
「⋯⋯」
フレイは街の様子を見て意気消沈している。
『無理もないな。この世の地獄を見たんだ。取り乱さなかっただけお前は立派だよ』
大悟はフレイがあんな光景を目の当たりにしたらすぐにでも取り乱すと思っていた。
「まったく、こんな状態でどうやって読めってんだよ」
大悟は手を後ろで縛られている為本を開く事が出来ないのだった。
「やれやれ⋯⋯」
大悟は力を入れて縄を引きちぎるとフレイの縄も解く。
「なになに⋯⋯人間は醜い獣である為、豚の鳴き声でしか話してはいけない。人間は二足歩行で歩いてはいけない。人間は自分の排泄物は自分で咀嚼して処理しなければならない⋯⋯狂っていやがるな」
大悟はその本に軽く目を通したが、目を疑うような事しか書いていなかったのである。
中で一番目を疑ったのは、獣人から人間に直接手を下してはいけないという内容だった。
一見すればまともな決まり事に見えるが、これが最後に書いてある事でその意味は百八十度変化する。
死を選ぶのは人間の意志であると書いているようなものなのだ。
苦しめるだけ苦しめ、直接には手を下さない死を人間の自由意志に任せるというものだ。
どちらも吐き気をもよおす邪悪だが、フェルシタットのコボルト兄弟の方がまだマシだと思ってしまった。
ここに来て、大悟は兇獣王が人間を殺さないか理由が分かったのである。
『野郎、人間が苦しむ姿を楽しんでやがる』
大悟は怒りで我を忘れそうになっていた。
ここまで命を冒涜し汚す事をしている兇獣王が許せなかったのである。
「大悟、唇から血が出てるよ」
大悟はフレイの言葉でハッと正気を取り戻す。
「悪い、取り乱してしまったようだ」
大悟はここまで怒りが込み上げたのは、久々であった。
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