兇獣王デュラン・ディラン

大悟とフレイは獣人達にワザと捕まり、街の中へ侵入に成功するが、そこで見たものは人の尊厳を踏みにじるような生き地獄だった。


兇獣王が人間を生かしている理由を理解した大悟は怒りを隠せずにいた。


兇獣王は、ウーヴォが戦死した報告を受けていた。


「まさか、ウーヴォがやられるとはな。相手は報告にあった銀色の怪しい姿をした人間か?」


「いえいえ、もっと凄い相手よ」


兇獣王の前に立っていたのは、肌の血色が悪い厚化粧の人間の男だった。


「ほぅ⋯⋯」


兇獣王は男の話に興味を示す。


「魔王様に殺されたと思われていた勇者よ。どうやら、あの噂デマではなかったみたいよ」


「⋯⋯それは捨て置けんな」


兇獣王は勇者の存在を放っておく訳にはいかなかった。


「フフフ、そう言うと思ったわ。もしもの時の為に私の兵を貸してもいいわよ」


「⋯⋯それは冗談で言っておるのか?我が領地の問題だ。部外者が勝手な事をするなら捻り潰すぞ!!」


兇獣王は男に激しい殺気を放つ。


「あらやだ、怖い怖い。冗談よ。冗談⋯⋯」


「それで、何の用だ。ワザワザ、勇者の件を伝えに来た訳ではあるまい」


兇獣王は男がワザワザ、ウーヴォの戦死の報告だけをしにここに来るとは思わなかった。


「私達の主君が王都と戦ってるんだけど、なかなか落とせないから苛立ってるのよ。だから、一番近いデュラン様に手を貸して欲しいと頼みに来たわけよ」


「これが手を貸せる状況に見えてるなら、貴様の目は節穴だな」


兇獣王はウーヴォを始め優秀な部下を多く失ったのだ。


他の所に手を貸す余裕などないのである。


「だからと言って、手を貸すなんて言うなよ。ここは我が領地の問題、獣人族の誇りの問題なのだ。余計な真似をしたら幾ら貴様等でも容赦はせん」


「おお、怖い怖い⋯⋯分かったわ。とりあえず今回は帰らせていただくわ」


男は兇獣王に死相のようなものが見えていたが、あえて何も言わなかった。


それは死相が見えるのは男が仕える王と魔王以外全ての王に言えるからである。


それでも、兇獣王の死相はかなり強かったので近いうちに死ぬ事を予見していた。


その後、兇獣王は街にいる部下達に勇者の捜索を命令するのだった。


この時、兇獣王は自身の喉元に迫る刃が迫りつつある事を知らない。


大悟は既に侵入に成功したので残りは兇獣王を倒す事だった。


「さて、出るか⋯⋯」


大悟は扉を蹴飛ばし鍵の掛かった扉を吹き飛ばすと扉の前にいた獣人ごと吹き飛ばしていた。


「ねぇ、ここでバレたら侵入した意味がないよ」


フレイは見張りが集まって来ないか心配している。


「気付いてなかったのか、外の見張りは確かに厳重だったが街の中は杜撰そのものだったぞ。さて、兇獣王の居場所を吐かせるか」


「そんな素直に教えてくれるの?」


フレイは敵である獣人が自らの王の居場所を素直に言うとは思っていないが、その方法を大悟は知っている。


「大丈夫だ。それに関しては抜かりない」


大悟は足に闘気を集中させ硬化させる。


大悟は扉ごと吹き飛んだ獣人の金的を蹴飛ばすと声にならない叫び声があげて白目を剥きピクピク動いている。


「トドメ刺してどうするの!?話しがしたかったんじゃなかったの?」


フレイは大悟が何を考えているか分からなかった。


「起きろ!!」


大悟は獣人の頬を何回も叩くと獣人は目を覚ます。


「兇獣王は何処にいる?」


大悟はとりあえず質問する。


「⋯⋯ココヲマッスグイッテツキアタリをヒダリニシバラクススンダ。エイヘイノツメショダッタバショニイマス」


「⋯⋯そうか、それでこれからどうするんだ?」


「ソウデスネ⋯⋯タビデモシヨウカトオモイマス⋯⋯」


獣人はそう言うと何処かへ行ってしまった。


「⋯⋯まるで、さっさと別人みたいになってたけどどうしてああなったの?」


「まぁ、なんだ⋯⋯言わなきゃ駄目か?」


大悟は自分がやった事をフレイに教えるのは躊躇われた。


「もしかして、聞いちゃ駄目だった?」


フレイは賢いので空気を読んで聞いたらまずい事だと察する。


「そうだな。出来れば聞かないで欲しい」


これを説明するのはフレイの情操教育上よくないので大悟には出来なかった。


「さて、兇獣王の所へ向かうが⋯⋯今まで通りとはいかないかもしれない。それでも、ついて来るか?」


フレイの保護者としては連れていかないというのが正解であると大悟自身は分かっている。


それでも、フレイに確認するのは大悟が相手の意志を尊重するからである。


「うん⋯⋯『セイヴァー』は負けないもん」


「⋯⋯『セイヴァー』は無敵という訳ではないんだけどな。だが、目の前に苦しみに耐え、涙を堪え、恐怖に怯える人々を目の当たりにして逃げ出したら、俺は俺を許せなくなる」


大悟はここの人間の扱いを見て己の正義に火がついたのである。


向こうの世界では消えかけていた火が今更に燃え上がろうとしているのだ。


大悟の世界で『セイヴァー』は正義と程遠いヒーローだとTVなどのメディアではよく言われている。


その理由は彼等のいう正義というのは権力者にとっての正義だからである。


彼の正義はただ一つ『弱者を守る正義』である。


「さて、この地獄を終わらせに行こう!!」


大悟は屋敷から出て兇獣王デュラン・ディランのいる衛兵の詰所へ道中の獣人を倒しながら向かった。


「⋯⋯昨日よりも獣人が少ない気がする」


「好機だな。一気に兇獣王を倒してしまおう」


街の中にいた見張りの八割は勇者捜索に駆り出されたのだが、大悟は当然そんな事を知らない。


大悟は兇獣王のいる場所に到着すると中に入ると建物の中は静まり返っていた。


奥まで進むとそこには獅子のようなタテガミを持つ獣人が足を組み座っている。


「ほう、人間とは珍しい客だ」


兇獣王は大悟とフレイを見据える。


「お前が兇獣王か?」


「如何にも我が兇獣王デュラン・ディラン、獣人達の王也!!」


そうデュランが答えると同時に大悟は踏み出してデュランに殴りかかる。


「うおっ!?」


「大悟!!」


しかし、大悟の拳がデュランに当たる直前で大悟は後ろに吹き飛ぶ。


「愚かなる人間よ。我にはそんな脆弱な攻撃はきかん!!」


大悟は立ち上がると殴った方の手が力なく垂れ下がっている。


肩が脱臼したのであった。


大悟は無理矢理外れた骨を力尽くで戻す。


大悟の拳での攻撃が大悟自身に返って来たのである。


大悟は反対の拳でデュランを殴りに行くが、同じように当たる直前で後ろに吹き飛ばされる。


「我には効かぬ事が分からんのか!!」


「『物理反射』だったか?それが一体どうした」


大悟はデュランに二回殴り掛かったが効いていない事を全く気にしていない。


むしろ、確認の為に殴ったような感じである。


「畏怖せよ人間⋯⋯貴様等と我等獣人では格が違うのだ」


「黙れよ。猫科動物が⋯⋯殴られるのが怖い臆病者が吠えてんじゃねえよ」


大悟はデュランに殴りかかる。


「何度やっても無⋯⋯ぐふぅ!?」


「えっ!?」


大悟はデュランを殴り付けたが殴り付けられたデュラン本人は何が起きたか理解出来なかったのである。


当然、それを見てるフレイも何が起きてるのか分かっていない。


「立てよ⋯⋯」


「うがっ!?」


大悟はデュランを蹴飛ばし床を転がる。


「な、何故だ!?何故、『物理反射』が効かなくなった」


「さあな、自分で考えろよ。俺はそこまで教えてやるほど優しくはねえ」


デュランは大悟がどうやって『物理反射』を無効化してるか理解していない。


理屈が分かれば簡単でデュランに拳や足が直撃する寸前に引き戻しているのだ。


その引き戻す動作が反射されデュランに直撃しているのである。


しかし、理屈が分れば出来るようなものではなく高い格闘センスが要求される。


大悟が最初に二回『物理反射』を受けたのは『反射』される有効範囲を調べる為であり、一回目は脱臼しているが、二回目は脱臼していない。


腕を折られる覚悟がなければ、実行することが出来ない荒技である。


「まさか、人間にここまでコケにされるとは⋯⋯耐え難い⋯⋯耐え難いぞ!!」


「獣風情に人間があんな事をされてる方が俺としては耐え難いがな」


デュランはゆっくり立ち上がると大悟を憎々しげに睨み付ける。


「調子に乗るな!!人間が!!」


「遅い!!」


「っーーーーーー!!」


デュランは大悟の背後に回り込み爪で大悟を切り裂こうとするが大悟に避けられ、反撃で股間を蹴飛ばされて声にならない絶叫を漏らしている。


「き、貴様ああああ!!」


大悟のその一撃はデュランを激怒させるが、股間を抑えながらなので、情けなさしかなかった。


「⋯⋯貴様だけは我が直々に殺してやる」


そういうとデュランは二回り程大きくなる。


「『物理反射』だけが我の力ではないわ!!【纏岩】」


デュランはそこから更に周囲の瓦礫を鎧のように纏うと更に二回り大きな姿になるがどう見ても外が見えてるとは思えない量の岩を纏っている。


「これで心置きなく、変身出来るというものだ。俺はお前のような人の尊厳を踏み躙る奴が許せないんだ。ここからは一切容赦はしない。弱者の為の正義こそ俺の正義なんだ!!それは俺が俺である事なんだ。行くぞ!!『セイヴァー』!!」


大悟は光に包まれセイヴァーに変身する。


「⋯⋯な、ま、まさか、貴様が!!」


ここでデュランはとんでもないミスに気付くのだった。


勇者ばかりに気を取られていた事をここで思い知ったのである。


しかし、時すでに遅く今更、引き戻そうとしても不可能だったのだ。

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