異世界と幼女

自称神を名乗る者から、助けを求められて異世界を魔王の手から救う事になった大悟は平原に身を投げ出されていた。


「⋯⋯いたた、あの自称神もっと丁寧に送れなかったのか?」


地面に投げ出された事に対して大悟は悪態をつく。


「そういえば、特殊な力を与えたと言っていたな」


大悟が念じると目の前に半透明なスクリーンが映し出される。


そこには自分の名前と『HPヒーローポイント』なるものが表示されている。


「おいおい、まさかこんなのが引き継がれるなんて聞いてないぞ」


HPヒーローポイント』とは大悟のいた世界でヒーローが貰えるポイントである。


主に活動による貢献や人気度によって貰えるポイントが違うのだ。


このポイントはヒーローにとってのアイテムや日用品や食料品、嗜好品までも交換できるポイントである。


基本的に大悟はこのポイントは使ってはいなかった。


このポイントはかなり便利ではあるが、情報化社会である元の世界ではちょっとした事でヒーローの正体がバレる可能性を秘めているからであった。


このポイントを使っていなかった事も合わさり、『セイヴァー』の正体を誰も掴む事が出来なかったのである。


彼がそこまで正体を隠したかったのは単にマンションの住人に迷惑をかけるのが嫌だったからであった。


有名なヒーローになるとマンションの玄関で出待ちしているファンが押し寄せて問題になっている。


その為、有名なヒーローはセキュリティの高い高級マンションに住みがちで、住んでる所がバレたら他の所に引っ越さないとならなくなる状況が多々あるのだ。


そんな面倒な事をするのが嫌だった事もあり、大悟は正体を隠し通したのである。


「まるでゲームのスキル選択だな」


大悟はスクリーンを見ながらスキルはポイントで得たり強化したりする事に気付く。


大悟はとりあえず【物理強化】と【対物強化】、【俊敏】、【危険感知】、【遠投強化】、【認識阻害】を取得する。


ポイントが百万くらい溜まっている為、現在表示されてるスキルを取得する事は容易であった。


すると更に【ヒーロー変身】という項目が増えてるのに気付くと思わず吹き出しそうになる。


大悟はとりあえず説明を読むと『セイヴァー』に五分間変身出来ると書いてあるのみだった。


とりあえず、大悟は何も考えずに『ヒーロー変身』を解放すると一気にスキルの項目が増えたのである。


「これ一つ一つ説明読んでたんじゃ時間がかかりそうだな」


ここで分かったことはこの増えた項目の九割近くが【ヒーロー変身】に関わる内容である事である。


大悟がスクリーンをあらかた見終わった頃、大悟は殺気を感じ取った。


大悟は斧を持った二足歩行の狼に囲まれていた。


「⋯⋯ニンゲンダ」


「コロスカ?」


「ニンゲン⋯⋯ハエサ⋯⋯コロシテモッテイク」


片言ではあるが言葉を話せるようであった。


三匹の人狼は、大悟に襲い掛かるが大悟は簡単に避ける。


そのうちの一匹を掴み向かって来る人狼めがけ投げつける。


背後から来た人狼の攻撃を交わし、背後に周りチョークスリーパーを仕掛ける。


力を込めながら締めていくとボキリと何かが折れる音が聞こえ、その人狼は崩れるように倒れたのである。


「コイツ⋯⋯ツヨイ⋯⋯」


「イッタンヒク⋯⋯」


そう話すと人狼達はその場から去って行った。


「やれやれ、あんなのがいるなんて聞いてねえよ。アレが魔王の配下って奴か?」


大悟はスクリーンを開きながらスキルを見つめる。


【絞め技強化】と【投げ技強化】、【武器未装備強化】というスキルが解放されていた。


【絞め技強化】と【投げ技強化】は見て分かったが【武器未装備強化】というスキルがよく分からない為、説明を見ると武器を装備してない状態だと腕力と脚力が強化されるスキルのようだったので大悟はこの三つをとりあえず取得した。


そして、【ヒーロー変身】によって得られたスキルのうち【時間延長】と【クールタイム短縮】というスキルを取得する。


【時間延長】は変身時間を長くするスキルで、【クールタイム短縮】は再度変身出来る時間を短くするスキルである。


しかし、重要な変身する方法が分からないのである。


【ヒーロー変身】の項目には『セイヴァー』に変身出来るという説明しかなく変身方法は記載されていない。


とりあえず大悟は、先に進む事にした。


平原を半日ほど歩くと集落らしきものが見えて来ていた。


しかし、その集落はすでに先程の人狼のような獣人に占拠されていた。


「まさか、人類は既に滅びましたというオチはないよな」


大悟は思わず嫌な想像をしてしまった。


とりあえず、集落に近付く事をやめ近くの雑木林で隠れながら野宿する事にしたが、流石の大悟も空腹で仕方なかったのである。


スクリーンを見ていくと食品の所にランダムレーションというものがあった。


「⋯⋯こんなものまであるのか」


HPヒーローポイント』を百消費して購入出来るようだった。


二つ程購入するとレーションの缶が二つ出て来る。


一つ缶を開けて食すと一応食べられるが美味しいものではないというのが大悟の感想であった。


そして、問題はもう一つの缶だった。


金属で出来てる黄色い缶がパンパンに膨れ上がり、今にも破裂するのではないかと思わざるを得ないのだ。


シュールストレミング、世界一臭いと呼ばれる発酵食品である。


缶がパンパンに膨れ上がっているのは発酵によるガスによって膨張してる為である。


過去に一度だけ食べた事があるが大悟にはトラウマでしかなかった。


ランダムレーションはランダムで保存食が出て来るという認識だが、これは大ハズレだった。


「⋯⋯もう一度やろう」


大悟はもう一度ランダムレーションを購入する。


しかし、再びシュールストレミングが出たのだった。


「はぁ、仕方ない食えないわけじゃない。背に腹は変えられないからな⋯⋯!!」


大悟がシュールストレミングの缶を開けた瞬間だった。


背後から殺気を感じ振り向くと先程の獣人が失神を起こしている。


どうやら、シュールストレミングの臭いが効いたようだった。


人間でさえ耐えきれない強烈な臭いを人間の数倍以上の嗅覚を持つ動物に嗅がせたらどうなるかこの結果がこれである。


「⋯⋯獣肉ってクセがあるっていうよな」


大悟はその獣人が持っていた斧を失神している獣人に振り下ろす。


大悟は牛肉や豚肉の解体のバイトをしていた事もあり、不思議と罪悪感など全く起きなかった。


これが人間だったら少しは抵抗はしただろうが大悟にとっては所詮獣でしかなかった。


「やはりというか、まずはあの集落を占拠してる奴らをどうにかしないといけない訳か」


しかし、いくら大悟でもあの集落にいる数を相手に出来ない事は理解している。


【ヒーロー変身】という未知の可能性があるが、発動条件が分からない以上あてになどできなかった。


どうやって、あの集落を攻めるか考えている時だった。


ガサガサという音が集落の方向の雑木林から聞こえた。


「誰だ!!」


大悟は思わず叫ぶとガリガリに痩せ細ったボロい布切れを纏う幼女が出て来る。


「⋯⋯助け⋯⋯て」


そう言うと幼女はその場に倒れ気を失う。


「おい!!」


大悟は倒れた幼女に駆け寄り、呼吸と脈拍を確認し生きてる事を確認する。


「だいぶ弱ってるようだが、生きてはいるな」


大悟はここの人間が全滅していない事をこの幼女を見て確認する。


その頃、集落では部下の一部が戻って来ない事ととある子供が逃げた通告を集落を管轄している獣人のリーダーが叫ぶ。


「報告は受けたが人間如きに返り討ちにあったとかはないだろうな。それよりも、アレはボスに献上する奴隷だ!!逃したと知られた日にゃ俺様の首が飛ぶ、いいかてめえら死に物狂いで探せ!!まだ、遠くまでは行ってないはずだ!!例の人間も見つけ次第殺せ!!」


獣人のリーダーは脂汗を滲ませながら集落の部下達に命令する。

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