炎の魔法
ボルトを倒し、フェルシタット領に平和を取り戻したのも束の間、アーガス領で不穏な動きをするウーヴォの姿があった。
そんな事を気にせず、フレイはヒーローになる為に魔法を憶えるのだった。
「この水晶は魔法の資質を見極めるもので賢者の園に入る為には必ずこれを最低限のランクで突破しないとなりません」
シュドルは魔水晶と呼ばれる水晶を取り出すとフレイの前に置く。
「⋯⋯そうですね。魔水晶に触れながら魔力を魔水晶に触れる手に集中させて下さい」
「うん?」
フレイが魔水晶に触れながら魔力を込めると水晶が一瞬で溶ける。
「へ?」
シュドルも一瞬の出来事でつい間抜けな声を出してしまった。
シュドル自身、魔水晶が溶けたという話は聞いた事がなかったが、かつて勇者一行にいたミュウと呼ばれた賢者が魔水晶を破壊したと聞いた事があるが、溶けた事はなかった。
ミュウの時に魔水晶が破壊されたのはミュウの持つ魔法資質が非常に高い為魔水晶が耐え切れなかったからである。
本来なら魔水晶が魔力の資質に応じて輝くのだ。
「⋯⋯この場合、どうなるんだ」
見ていた大悟はよく分からなかった。
「もしかすると、魔力の資質よりも魔力特性によって起きた可能性がありますね。適正魔法の装置を持って来ます」
これは単純に魔力の資質を見る為の試験であり、適正魔法を決める方法が別にあるがこれは魔力適正がないとそもそも出来ない方法なのだ。
「適正魔法ってなんだ?」
「魔法というのは使い手によって得意な属性が決まっています。それが適正魔法です」
大悟にとっては魔法は分からない事だらけだった。
「これは適正魔法を調べる装置なんですが、あいにく、光と闇はありませんでした。それ以外なら適正魔法を見る事が出来ます」
光と闇を調べる装置はあまり出回っていない為、ここにはなかった。
シュドルは朱色、水色、緑色、茶色の四種類の羊皮紙を持って来る。
「要領は先程と変わりません。羊皮紙を持って魔力を込めて下さい」
シュドルは最初に朱色の羊皮紙を渡す。
「⋯⋯これでいいの?」
フレイが羊皮紙に魔力を込めると羊皮紙が一瞬で灰になった。
羊皮紙は燃えてすらおらず、魔力を込めると同時に灰と化した。
その後、他の色を試すと緑と茶は炭化したが水色は何も反応しなかった。
「⋯⋯おそらく、その子の適正魔法は炎です。それも恐ろしく強力な。対の魔法である水はともかく、風と地の羊皮紙を容易く炭化させる程となると余程です。むしろ、炎しか使えませんね」
「炎なら、むしろ野宿の時助かるな」
大悟としては野宿の度に使っていたライターのオイルが切れそうなので助かったりする。
「やったー」
フレイとしては大悟の役に立てるので嬉しがっているが、後に大悟はフレイの魔法の火力がライターなど比較にならない事を知ることとなる。
「とりあえず、この魔導書に初歩の初歩である魔法がのっているのでお譲りします」
シュドルは魔導書を大悟に渡す。
「いいのか?」
「私としては有効活用してくれる人がいるならそれに越した事はありません。それに未来を担うヒーローに投資したと思えば安いものです」
シュドルはフレイを見ながら話す。
「いや、だからヒーローの件は⋯⋯」
大悟はフレイに次はどんな嫌がらせを受けるか分からなかったのでそれ以上は言えなかった。
一方、アーガスではウーヴォが苛立っていた。
その理由はウーヴォの出撃の許可が下りなかった為である。
納得のいかないウーヴォは兇獣王に訊ねると
「無駄死にするつもりか?それこそ、コボルとボルトの死を無駄にする行為だと知れ!!今は耐え敵に対する備えと敵についての情報を集めよ!!」
というのである。
兇獣王の言ってる事は最もな事ではあるが、理屈と感情は別である。
「⋯⋯クソが」
今にでも出撃したい気持ちを抑えつける為に地面に何度も頭を打ち付けているのだ。
「ハァハァ⋯⋯下等種がぁぁぁ⋯⋯⋯」
ウーヴォは頭を地面に打ち付ける事で興奮を抑えているのである。
「ああああああああああ!!」
王の命令を無視して出撃すればいいが、ウーヴォは王に逆らう真似はしない。
逆らえばどうなるかくらいは分かってるからである。
だからこそ、自分の頭を地面に打ち付け落ち着こうとしているだ。
フレイはシュドルからもらった魔導書を読んでおり、魔法の練習をしている。
「【ファイアシュート】だったか?」
大悟はフレイが練習している魔法を聴きながら、岩を担ぎながらスクワットをしている。
大悟はこの世界の文字を読めない為、フレイの練習してる魔法が分からないのである。
「うん、火の球を飛ばす初歩的な炎魔法だよ」
魔法はイメージ力が大切で、イメージが崩れると魔法も安定して使えないらしい。
そして、一つ一つ工程を作っていかないといけない。
【ファイアシュート】の場合、炎の球体を作る事と球を撃ち出す事で二つの工程が必要ある。
複雑なもの程その工程が多くなるのだ。
しかし、フレイは炎を球体にしようとしているがなかなか上手くいかないのである。
当然、炎を球体にする魔力のコントロールする技量も必要なのである。
この魔法が初歩と言われる理由が最もイメージしやすい上一つ一つの工程が少ないが魔力のコントロールを上手くできないと成功しない魔法だからである。
魔法の杖があればコントロールの精度が上がるらしいが、当然そんなものはない。
息抜きに交換で増えたランダムフルーツと呼ばれるランダムに果物の缶詰をヒーローポイントと交換する機能が増えた為、試しに使ってみようとした時だった。
交換の所にスターステッキと呼ばれる先端に電池を入れたら光り出しそうな星のようなものが付いてる棒状の玩具にしか見えないものが増えていた。
よくアニメとかで魔法少女系が持ってるアレによく似ている。
大悟はこの機能を何となく理解してきた。
特定の段階、特定の条件を達成する事で交換できるものやスキルが解放されるのだ。
おそらくこれは明らかにフレイが魔法が使える事が分かった事で現れた可能性が高かった。
大悟はとりあえずスターステッキとランダムフルーツ二つと交換した。
「少し休憩だ」
大悟はフレイにスターステッキとランダムフルーツで出た桃缶を渡す。
「可愛い!!これどうしたの?」
スターステッキはどうやらフレイに好評だったようで大悟としては複雑な心境である。
不覚にも似合ってしまっているからであった。
「いや、単なる気紛れだ」
大悟は必死に誤魔化しながらフレイに渡すと照れ隠しにランダムフルーツで出た無花果を食べる。
そして、フルーツを食べ終わりしばらく休憩すると大悟は筋トレを再開し、フレイも魔法の練習を再開する。
「【ファイアシュート】」
フレイがステッキを振るうとステッキの先端の星が輝き振った方向に炎の球が発射され、着弾すると爆発する。
「出来た!!出来たよ!!大悟!!」
「ほぅ、今のが魔法というものか⋯⋯」
大悟はフレイが【ファイアシュート】を成功させた所を見ていた。
初歩の割には五メートルくらいの巨大な岩をも吹き飛ばす威力だったので、大悟からしてみれば何処が初歩だと思った。
しかし、この二人はこの魔法が本来の【ファイアシュート】ではない事を知らなかったのである。
本来の【ファイアシュート】は着弾後、引火するにしても爆発はしないのだ。
そもそも、賢者でもここまでの威力は出せないのである。
二人は魔法初心者の為気付かないのであった。
フレイが扱う魔法は
しかし、ごく稀に隔世遺伝によりこの才能に目覚める者が存在する。
『これが魔法か⋯⋯『セイヴァー』でくらってもただでは済まないな』
大悟はフレイの魔法を見て魔法の恐ろしさを知った。
「そういえば、どうして『セイヴァー』って名前なの?」
フレイは『セイヴァー』の名前の由来が気になっていた。
「アレはヒーロー名と言ってな。ヒーローを名乗る者にとっては必要な二つ名的なものだ。『セイヴァー』というのは俺の友人が考えたんだ」
大悟は今は亡き友を思い出す。
「俺はアイツに『ジャスティス』という名前をやった。本当、お互い分かりやすい名前だと笑いあったもんだ」
「その人もヒーローなの?」
「ああ、俺の知る中で最も凄いヒーローだ」
「『セイヴァー』よりも強いの?」
『セイヴァー』である大悟が言うのだからこそ、そのヒーローも強いとフレイは想像する。
「いや、そういう意味じゃないな。単に強いだけならヒーローは評価されない。本当に大切なのは自分の意志だ。そういう意味で奴は俺なんかよりヒーローだったよ」
その友人は確かに凄いヒーローで行動力はあったが実力が伴わない為、いつも大悟が救援に行っていた。
「ヒーローは強いだけじゃ駄目なの?」
「さてな、そいつはお前自身が見つける事だ。そこにお前が目指すものがあるかもしれないな」
大悟は正確に答えない、それはヒーローの数だけ、そのヒーローが持つ正義があるからである。
「ヒーローって難しい⋯⋯」
『このまま諦めてくれればいいんだけどな』
大悟としてみればこのまま諦めて欲しかったのである。
そもそも、フレイがここまでヒーローになる事に拘る理由が分からなかった。
既に一緒に来る事を許可しているので、別にそこまでヒーローになる事に拘る必要はないのだ。
「そもそも、なんでそこまでヒーローになりたいんだ?」
「えっ!?だだだ、だって、カッコイイから⋯⋯」
フレイの答えは単純だったが子供らしくもあり、ある意味安心した。
ヒーローに憧れてヒーローを目指す者も俺の世界にもいた。
大悟の友人もその一人である。
「夢と希望を与えるのがヒーローなら、その夢と希望を叶えるのが子供か⋯⋯」
大悟は亡き親友とヒーローを目指した事を思い出しながら呟く。
「どうしたの?」
「いや、随分と昔を思い出してな。俺もそういや親や親戚に反対されたと言う事を今思い出した」
大悟自身も親や親戚に反対された記憶があったが、今ヒーローをやっている。
そんな者が、フレイを説得しようとしても説得力に欠けるのである。
「俺としてはそんな危険な真似は反対なんだがな」
大悟としてはフレイをヒーローにしたくはないのであるが、それを決めるのは大悟ではない事を重々理解している。
完全に娘に対して過保護で面倒な父親のようである。
「それでもなりたいの!!」
フレイの意志はそれでも固かった。
「分かった分かった。だが無理はするなよ。それが俺との約束だ」
「うん」
とりあえずはフレイは納得したが、これは諦めてくれるのを待つしかないと大悟は半ば諦めるのだった。
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