第18話 出会い、始まる
「あたしの名前はシィです。そのお洋服、母か姉に会ったんですね」
「ええ。シズさんにはよくしてもらったの。わたしはリト・リリーシエ。ごめんね、こんなにいいお洋服を勝手に……」
詫びいるリトにシィはかぶりを振ってこたえた。
「気にしないでください。あたしったら、買って満足しちゃうので。それにリトさん、すごく似合っています。きれいな人に着てもらって服も喜んでいますよ、きっと」
「ありがとう、シィちゃん。でもね、可愛らしいあなたにも着て欲しいのではないかしら」
容姿を
「シィ? また仕事の合間にこのお店を見に来ていたのかい?」
ヒウノは軽い口調で声をかけた。すると──。
「ヒュー
お気に入りに飛びつく猫のごとく、彼女は勢いよく少年に抱きついた。手に持ったふたつの紙製の容器を落とすまいと
「ねえ、聞いて。あたしのお洋服を着た、すっごくきれいな人がいてね。リトさんって言うの。来て。ヒュー兄ちゃんもきっと好きになるから」
興奮ぎみに少年の腕を引いて歩くシィ。
「おまたせ」
「ううん。待っている間に素敵な出会いがあったわ。ね?」
「──ひょっとして、ふたりは知り合いだったんですか?」
ヒウノとリトを交互に見やり、シィは目を丸くする。やがて三人は晴れやかに笑い合うのだった。
*
「美味しい……。はじめはすっぱさがあるけれど、あとに広がるこの甘みは、たぶん
少年から飲み物を受け取ったリトは、ひと口味わって感嘆の声をもらした。気分の悪さが嘘のように消えてゆく。
「わかります? 季節によって使われる果実が変わるんですよ。今は桃が食べごろで、そこにはちみつをまぜたらもう疲れなんて吹き飛んで……って、これ、ヒュー兄ちゃんのぶんじゃ……」
こくりこくりと喉を鳴らし半分ほど飲んだところで、少女はヒウノの手が
「それで、リトさんたちはこれからどうするんですか?」
「僕は寄りたい場所があって──そうだ、シィ。街を見回りがてら、彼女を案内してもらえるかな?」
「いいけれど、一緒じゃ駄目なの?」
「ふたりで楽しんでおいで。十五時の鐘が鳴るころ、自然公園で落ち合おう」
片手をあげて別れを告げた少年は、混み合う通りをするりと抜けてゆく。彼が路地裏へと姿を消すまで、ふたりの少女は手を振りながら見送った。
*
ひとりになったヒウノは警察署を目指していた。治安維持を職業にする知人──シズとシィの父親を頼り、リトの保護を求めるためである。表通りを行ったほうが近いのだが、観光地ともなれば人の波で思うようには進めない。人影もまばらな裏道をゆくのが、結果として目的地にはやく着くのだ。
(彼女について、どう話せばいいだろう)
道すがら伝える内容と順番を考えていると、ふと何者かの視線を感じた。足を止め、注意深く周囲を見渡す。しかし、少年を見ている者はどこにもいなかった。
気のせいか、と再び歩み始めるヒウノを、出し抜けに吹いた風が襲う。反射的に閉じた目をゆっくり開けると、少し先に老人の背が見えた。腰が曲がり、杖をつく小柄な老婦人。
「──しつけのなってない小僧だね」
しわがれた声がヒウノを
「その力、どこで手に入れたんだい? まさか、あの娘から何か受け取ったんじゃないだろうね?」
不気味な笑み。超常の力を使う彼女を前に、少年は直観で『あの娘』がリトを指していると確信するのだった。
第18話 終
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