第2話 帰る場所を探し旅をする者 7

 

 そしていよいよ書き終わり、私は腕を上げ伸びをする。

 血が乾くまでは開いていないとくっついてしまうのでプルーヴを閉じることは出来ない。

 私は親指についた乾いた血を舐め、大地の男へと話しかけた。


「なあ」

「なんだ」


 それは別に今でもなくていいか、と先延ばしにしていたことだった。

 本来であれば最初にするべきなのに。


「自己紹介をしないか、私はまだお前に名前を名乗っていない」


 お互い既に名前は知っていた。 しかしそれはお互いのために教えた訳ではないものである。

 それ故男の名前を呼ぶことは無かった。 大地の男も私の名前を呼ぶことはなかった。

 それ故、お互い名前を呼べるために自己紹介は必要である。 いつまでも名前が呼べない状態であると不便だ。


「構わない」


 男はそう答えると剣を鞘にしまい、目線を私へと向けた。 私もしっかりと男の目を見る。


「それでは」


 コホン、と咳払いをして声の調子を整えた後、私は名前を名乗るため口を開く。


「私はランシェ。 ランシェ・プルーフ。 名前は槍の扱いが上手いことから名付けられた。 よろしく頼む」


 そう言って私は右手を差し出した。


「俺はダン。 冒険者で旅をしている」


 そう言う男は相変わらず無表情で大きな手で私の右手を握った。

 これで、ようやく私たちはお互いの名を呼べるのであった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る