第3話 独りではない者 14



 翌日、私は大きな門の前で冒険者ギルドの人々とネリネを見送っていた。

 ネリネに世話になった者は多いらしく子どもから年寄りまでが集まった。

 ネリネは隣りに巨漢な男を携え、いつものようにニコニコと笑っている。

 巨漢の男はネリネが金で契約した冒険者らしく、旅の道で自分の身を守ってくれるのだそうだ。

 数々の者が、これが最後とネリネに話しかけるため、未だに私はネリネと別れの挨拶を出来ていなかった。 隙を見て、自分も、と思うが中々うまく行かない。


「ラーンシェさん!」


 するとネリネの方から話しかけてきた、というか抱きついてきた。


「ネリネ」


 彼女は別れ際だとしても悲しい表情はしなかった。 それどころか晴れやかな顔をしている。


「今日でお別れですね」


 ネリネは私の手を包んで言う。 ネリネの手は暖かく柔らかい。


「ああ、元気でな」


 この様な時なんて言葉をかければいいのか、私にはわからなかった。

 さよなら、なのか、また会おう、なのか。

 それよりも正しい言葉があるのだろうか?


「ランシェさんもダンさんも、お元気で。 また会う時がありましたら、たくさんお話ししましょう」


 それだけ言うとネリネは踵を返し、巨漢の男と、とうとう歩き出した。 ネリネは後ろを向きながら大きく私たちに手を振るので、こちらもいっぱいに手を振ってみせる。

 そしてとうとう姿が見えなくなるほどに小さくなった頃、門は閉じ、彼女の姿は見えなくなった。

 故郷を出て、出会った彼女は瞬く間に別れてしまった。 けれどネリネにとってそれが当たり前で彼女は何回もの出会いと別れを繰り返してきたのだろう。

 そして私のそうなのだろう。

 きっと、これからも出会いがあり、別れがある。

 それはなんとも、寂しい気持ちだった。


「行くぞ」


 閉じた門をボウと見つめているとダンは焦れたのか私に言う。 私は頷いてダンと共に冒険者ギルドへと帰るのだった。




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