第3話 独りではない者
第3話 独りではない者 1
翌日、朝目が覚めるとダンに連れられ朝市というものに来ていた。 ガヤガヤを沢山の人たちで賑わっている。
買い物の仕方を知らない私にダンが学ばせようと連れてきたのだ。
「おおー……」
道には至る所に店というものが並び様々なものを置いている。
食べ物の思われる物から武器まで。
朝市を目的に来た者も多くガヤガヤと賑わっている。
「何を買うんだ?」
私はキョロキョロと色々な店を見ながらダンに聞く。
「朝飯」
するとダンは迷いなく一つの店に吸い込まれ、私も付いていく。
とても良い匂いのする店で昨日教えてもらったパンがいくつも並べられていた。
するとダンは私に銀色で丸く薄っぺらい形をした石みたいなのを二枚私に渡す。
これが、お金というやつで物の交換に必要らしい。 要は物々交換である。
ダンがパンを同じ物を二つ選ぶと私に店主へお金を渡すよう促し、体が皺だらけの人間にお金を渡した。
「ありがとうね」
背も小さく腰は曲がっていて、初めて見る生き物で少し怖かったが、店主はそうお礼を言ってニッコリ笑うので、少しばかり恐怖感は薄れた。
「あのシワがたくさんある生き物も人間なのか?」
私とダンは店を出るとさっそく尋ねた。
「……年寄りを見るのも初めてなのか?」
ダンは少し驚いたように言う。
私は驚く要素が分からないまま、そのまま頷く。
しかし、年寄りの意味は分かる。 私の故郷でも使われていた言葉だ。
歳を重ね、高齢になった者に使う言葉。
「年寄りでもあんな見た目はしていなかったぞ」
「お前あれか? 実は見た目は若いが高齢だったりするのか……?」
「言っている意味がわからない。 私はもう十五だ」
「じゃあ、歳をとればシワが出てくるもんだろ」
「? 出てこない」
なるほど。 ではあの方は高齢者であったということだ。 どういう風になっているのかはしらないが、歳をとればシワが出来る仕組みになっているらしい。 謎な生き物である。
私は先ほど買ったパンを食べたいと思ったが、ダンはまだ食べる時ではないと紙袋に仕舞ってしまった。 私の腹は当に空いていて、早くこの空腹をどうにかしたいと思うのに。
「腹が減ったぞ」
私はダンを見上げながら腹をさすった。
「もう少し待て」
そう言ってダンは今度は肉屋に入っていく。
魔物の肉は臭いがするものだが、ここで食べる肉はそこまでらしい。 ダンは再び払う分だけのお金を私に渡し店主に渡すように言う。
こうやって世話をされているとまるで幼子みたいだな、と少し恥ずかしくなりながらも、従い私はお金を渡す。
そしてまた次の店へ。
次に訪れた店は何屋か分からなかった。 食べ物の店であることは分かるのだが、初めて見るものだ。 空の雲の色や太陽の色をした四角かったり丸かったり、よく分からない物が置いてある。
「これはなんだ?」
「チーズ」
「チーズ」
言われた言葉を私も繰り返し言葉にしてみる。
「お嬢ちゃんチーズは初めてかい? チーズはミルクを加工したものだよ。 おいしいよ」
そう言って髪のない店主は細い木に刺したチーズの欠片を渡してくる。
「食べて良いのか?」
「どうぞ」
「ありがとう」
ダンを見上げ確認すると頷いたので私はチーズの欠片を受け取り口の中に入れた。
「それは牛の乳から作ったチーズだよ」
これは、なんと表現すればいいのか。 甘くはない、どちらかといえば塩っぱい。
不思議な風味で濃厚な食べ物だった。 しかしまずくはない。 初めて食べる味だが嫌いではない。 あと香りが独特だ。
「おもしろい味だ」
そしてダンからお金を渡され、店主へと渡す。 このお金を渡し、物を得るという買い物も少しは慣れてきた。
そして店主がダンに切り分けたチーズを渡し、ダンは紙袋に仕舞う。
「まだ何か買うのか?」
腹ももうそろそろ限界である。 朝飯を食べなければ動く源がない。 店を出て、また次の店へと歩くのかと思うと気分が落ち込む。
「まあ、少し待て」
私の様子を見てダンはそう言うと再び歩き出す。 それならば私はついて行くしかなく、頭の中で昨日食べた晩飯を思い出しながら付いていくのだ。
そしてしばらく歩くとダンは円形の石に中心が水が湧いている、初めて見る設置物の前で立ち止まると、石の縁に座った。
私は石から水が湧いているのが不思議でジッと見つめた後、手を入れてみる。 冷たい。
「飲み水じゃないぞ、観賞用だ」
私の様子を見てダンが言った。 私は「ふうん」と相づちして水から手を出した。 ダンが紙袋から食べ物を出しているためである。 濡れた手は服で拭うとダンは嫌そうな顔をした。
ダンの隣りに座り取り出される食べ物を見ていると、ダンはナイフでパンを切れ目を入れた。
そしてその切れ目に買った肉とチーズを挟み込んで私に手渡した。 なるほど、パンだけでは物足りないから具を挟むという訳だ。
私は具が挟まれたペンを受け取りさっそく食べ始める。
具が挟まれたパンは分厚く、がんばって口を大きく開いて食べるのだ。
もぐもぐ
うん、美味い。 色々な味がする、けれど喧嘩していないし、この組み合わせは良いと思わせる。 わざわざ、この様にしてくれたダンには感謝しないといけない。
隣を見るとダンも同じようにして具が挟まったパンを食べていた。 顔は真っ直ぐどこかを見ていて、その視線を辿るが何もない。 きっと食べるのに集中しているのだろう。
十分に噛み終えたものを飲み込んで二口目といく。
食事というものがこんなに楽しいものだとは思いもしなかった。
食べ物の味は美味しいと感じさせるし、様々なものがある。 私は食事の時間が楽しみになっていた。
パンを食べ終えると私とダンは街の中をフラフラと歩いた。
「帰る場所っていうのはどんな風に探してるんだ?」
私は銀色で固いもので覆われた男から観光案内という紙をもらい、さっそく開いてみた。
幸運にも私の使う文字と同じ文字が使われていて読むことが出来た。 色々な場所が書かれているが、ダンの意見も聞きたかった。
「適当に……」
この観光案内の紙もダンの指示でもらった物だった。 この世界について何も知らない私にダンが参考になるかもしれないと言ったのだ。
「それじゃあ分からない」
先ほどパンを食べた場所にあった水のわき出る石についても書いてあった。 噴水と言うらしい。 ペラリと次のページをめくると食べ物についての情報だった。 まだ食べたことのないものばかり載っていて食べたくなってしまう。 しかし金を払うのはダンなので申し訳ない気持ちもある。
「歩いて回る、それだけだ」
なんともいい加減な答えに何も参考になることはなかった。 それに私がこの紙を見て気になるのは食べ物だ。 言葉にするには少し悩む。
「それにな、わざわざなんでお前も俺と同じ捜しものを……」
ダンが不満ありげに言う。 しかし、と私は遮った。
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