第3話 独りではない者 5
ダンは椅子から立ち上がり、私の前に立ちふさがるが私は何も言わないままダンを避けて扉を開ける。 そして私は扉の先へと行くのだった。
外に出ると私の心に反して一段と青く晴れていた。 私はそんな空に苛立ちを感じながらカツカツと固い地面に足音を鳴らしながら歩いて行く。
向かうところは決まっていた。
行き先が決まっているのなら真っ直ぐ歩くだけだった。
閉じた大きな門の前に立ち門番に門を開けて欲しいことを言う。 門番は私の身体を見た後快く引き受けて、重たい音がギイイとたてながら門は開いた。
その先に広がる高原は以前にも来たことがある場所だ。 私は門を潜ると深く深呼吸をした。
以前来た時と同じでポツリポツリと魔物がいるものの他は何もない。 何もないのが今の私にとってありがたかった。 私は早速腰に携えてある石のナイフで手の平を切った。 そこから流れる血は地面に落ちることはない。
「私の赤よ。 硬化せよ。 我が武器、槍となりてその力を発揮せよ」
自分の流れる血を見ても怖く思うことは無かった。 すると恐怖を感じてしまうのは炎だけなのか。 血を硬化させ槍を作り右手で握る。
そう、私がしたいことは魔物狩りだ。
しかも今回は食糧を得るための狩りではない。 ただの殺戮。
私は地面を蹴り暢気に浮遊している一体の魔物に目がけて地面を蹴って走り出す。
丸い球体に大きな口がある、その魔物は見た目通り噛む力が強い。 動きも俊敏で故郷ではコイツによって死んだ仲間も複数いる。 目がないので何を狙っているのか、どこへ動こうとしているのかが予測しづらいのだ。
しかしコイツは殺すのが簡単である。 皮膚は硬いものの刃を深く突き立てれば、あっさり萎んで死んでしまう。 気をつけるのは敵を視認していない時だ。 それと複数いる時。
今回は一体しかいないので私は迷いなく飛び上がりその球体に槍を突き立てる。
すると魔物は呆気なく萎みボトンと地面に落ちた。
この一体だけでは全然足らず私は直ぐに次の魔物へと的を移す。
すると少し離れた所にいた、同じ形をした魔物たちが仲間が殺されたことに気づいたのか三体ほど寄ってきた。 三体で連携して私を噛みつこうとしてくるが躱して球体に槍を突き立てていく。 残り一体になると、そいつは逃げだそうと背中を見せるが、私はそのまま背中に槍を突き立てる。 ボシュンと音を立てて萎み地面へと落ちた。
次に蛇に似た魔物。 体には手足がないが沢山の針で覆われている。 その針は毒があるので刺さらないよう気をつけねばならない。 体は大きく2mはあるだろう。 体を地面に這わしていて頭が狙いやすいうちに、こめかみを狙って槍を投げる。 そして見事刺さった槍に魔物は汚い叫び声を上げて、体の針を揺らしながら私の元へ這ってくる。 私は頭を蹴り上げ、刺さった槍の石突の部分を蹴り着地する。 そして蹴ったことで飛んだ槍を掴む。 槍を掴む手に力を入れてもう一度魔物のこめかみを狙って刺すと矛先は貫通した。 貫通すると魔物はひどい声をあげて地面へと倒れる。 体は針で狙えないものの、この魔物はこめかみを狙えば良いので比較的難しくはない。
次の魔物は獣のような形をしている。 しかし足は八本あり形は人間の足だ。 この魔物は足以外は毛がフサフサと生えていて、私の着る服にも使われていた。 人間の形を持った魔物の弱点は大体心の臓。 コイツだってそれは変わりない。 しかし心の臓を狙うのは大抵簡単ではなくそれなりの長期戦となる。 長期戦で魔物が体力が尽き弱った瞬間に狙うのがコツなのだ。
しかし私、プルーフ族も長期戦は得意ではない。
血を硬化させてつくる武器は長期戦や強化が必要になると新たに血が必要であるし、私たち人間は血は失いすぎると死んでしまう。 だから長期戦は向いていないのだ。
けれどだからと言って戦わずして生き残れないので、乗り越えてきたわけだが。
今回は戦わないという手段もある。 戦う理由だって自分の感情のためで生きるためではない。 しかし戦いたいのだ。 どんな魔物も殺し尽くしたい。 そう、魔物狩り一番槍担当ランシェ・プルーフがそうであったように。 殺して、殺して、殺すだけでよかった人生のように。
魔物は私に気付くと大きな雄叫びを上げて走り迫ってくる。 そして魔物と私が接触する間際で高く飛び上がり魔物の背に乗った。 私が視界から消えたことに魔物が疑問も持っているうちに体を槍で突き刺す。 すると魔物は痛みと共に私を振り払おうと暴れ回り私は飛ばされる。 空中で一回転をし地面に手をついて着地をすると魔物が足を上げて私をなぎ払おうとするのが見える。 私はその足を横一線に切り裂いて足を地面に落とした。 すると魔物の血が舞い、怒り狂ったように叫び声が地面まで響き渡る。 すると魔物は体を回転させ尾で私を攻撃しようとする。 私はとっさに槍で防御するがそれだけでは足りず体は飛ばされ地面に叩きつけられた。 私は口角を上げながら立ち上がり、槍の矛先で自分の手の平を更に傷付ける。
「私の赤よ。 浸みれ、浸みれ、浸みれ、力となれ」
槍を握り自分の血を吸わせ、槍を強化する。
――ああ、なんて楽なんだろう。 戦うことしか考えなくていいだなんて。
強化された槍が赤黒く灯り魔力を帯びる。
私は突進してくる魔物に一歩片足を下げ槍を持ち振り上げる。 ギリギリで攻撃するのに必要なものは恐怖でも力でもない。 勇気と覚悟だ。
そして目の前まで迫った時、私は魔物の頭を貫いた。
魔物は足をガクリと落とし、叫ぶことはなかった。
私は頭を貫通した槍を抜き、倒れた魔物の心臓部を狙いとどめを刺す。
魔物は既に弱っていたので暴れ回ることなく、心臓を貫かれるとピクリと足を震わせ、死んだ。
手の平の血はまだ止まっておらず地面をポタリポタリと赤く濡らす。 私は返り血で濡れた顔を拭い、何もない景色を眺める。 戦う前より随分と気分はさっぱりとしていた。 ダンに何も言わず出てきてしまったのは悪かった、かもしれない。
――これが、最後だ。
この戦いを終えたら私は生きてみよう。
生きているから生きるのではなく、生き残ってしまった者として生きようとする。
生きて、いつかまた故郷の地を踏もう。
そこに何も、誰もいないのだとしても。
私はそこに何があったのか知っているのだから。
でもそれは、少し寂しい気持ちだった。
もう生きているから生きることはないのだ、死んでないからなんとなく生きることは出来ないのだと。
過去の自分とさよならする、というのは随分怖くて、そして寂しいものだった。
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