第27話 深夜のパーティー

「イチ兄、何してたの?」


少しだけ困ったような顔でマキが俺に尋ねてくる。


「ん? 今後のための作戦会議だ。ヒメの件をどうしようかなーっと」


マキの微妙な表情を見ながら答え、彼の視線の先、ベッドの方向を見て、


「あ」


そこにぶちまけられた大人なグッズの数々を認識する。

うん、これセクハラじゃん!?


「あ、ち、違うんだ。使おうと思ってたわけじゃなくて、いやね、ヒメにね前にもらっておいてた箱に、ぶつかって、それで、うん、ぶちまけちゃったんだ……」


しどろもどろになりながら俺が言うと、マキはふっと笑って(笑うところもイケメン)ベッドのほうへと近づく。

この様子だとセクハラと訴えられることはなさそうだ。よかった。


「へー、イチ兄もこういうの使うんだ」


マキが一つ一つ取り上げながら観察して、それらをもともと入っていた箱にしまっていく。

それをやられている俺はというと、みんなの感覚で言えばさしずめ彼氏に自慰の道具を見つかってしまった彼女の気分。待って、恥ずか死するよ、俺。つらい……。


「ふーん、興味深いね」


もうやめて……。


「俺と一緒に使ってみる……?」


はい、マキの素の一人称である俺が出ました。撃沈!

もうね、下半身が別の形で大変なことになっておりますよ。もうお嫁にいけない。

いやマテマテ、俺はそもそも嫁には行かん。


俺の脳内が大変なことになっているのを知ってか知らずか、最後にマキが取り上げたのは、あろうことか小さくてぷるぷる震えるピンクローターというシロモノ。

待って、待って、もう頭がパンク状態!

それ使われるの俺! どうなっちゃうの?

ていうか、ヒメからもらった箱になんでそれがあるの!









「とまあ、冗談は置いといて」


マキはぽいっとローターを箱に放る。

置いとくんかい! そして冗談だったのか……。

俺はほっと胸をなでおろした。それと同時に不審に思う。そういうことしに来たんじゃなかったらどうしてこんな夜中に俺の部屋に?


「イチ兄、ダンス踊ったことなかったって言ってたでしょ? だから俺が教えに来たわけ。紳士たるものレディーに恥かかせちゃいけないからね」


「おお、助かるわ」


素直に感謝の言葉が出る。実はそれを考えるとさっきから胃が痛かったのだ。なんて気が利く同居人だ。


「でね、教えるにあたって一つ必要なことがあってね」


「あ、ああ」


なんとなく話の流れから予想がつき始める条件。

うん、したくはないんだが背に腹は代えられなかったりするし。

我慢、しなきゃかなー。













「イチ兄、女装して!」


きらきらお目目で俺に詰め寄ってくるマキ。

はい、来ました!

ぶれないな、マキは。逆に俺は安心してしまう。わかりやすくていいわ。


「ああ、うん」


「え、ほんと、マジでいいの!」


マキはとても嬉しそうに微笑む。どうやら断られると思っていたようだ。


「あれだからな、ダンスを教えてもらうために仕方なく、だからな」


「あー、うん。最初はみんなそう言うんだよねー」


大丈夫ほんとはしたいのにそう言ってること、わかっていますよ風に言うのはやめてくれ。

ほんとに仕方なくなんだからな!

俺が心の中の葛藤と戦っている一方で、マキはうきうきしながら背中に背負っていたリュックのようなものを下ろし、中身を取り出していた。

そこにはやさしく折りたたまれたドレス。


「ぎりセーフ。しわになってないっと」


ドレスをふわりと宙になびかせ、マキは状態を確認する。

ほんとねえ、そんな生地どこから仕入れてくるのこのご時世で。天然ものだよね。合成と色味が全然違うもん。


「さて、イチ兄、着替えてきてくれるかな?」


俺にそっとドレスを手渡してくるマキ。

俺は慎重にうやうやしくそれを受け取った。

破ったらいくらするんだろうな……。

受け取ってからドレスを見つめた俺は一つのことに気付く。


「えーっと、どこで着替えれば?」


マキは俺の言葉で周囲を見渡す。

この部屋にはベッドとソファと収納しかないため、遮るものが何もない。

この状態だと裸を見せずに着替えるのは難しい。


「あー、後ろ向いてるね!」


クルリと窓の外を向くマキ。


マジで?

俺、このまま着替えるの?



……夜はまだまだ始まったばかりだ。

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