第16話 新キャラ登場、仲良くしたい

「イチロー様、大丈夫ですか?」


「う、ううう」


口からうめき声が漏れる。どうやら寝てしまっているようだ。

おっと危ないキッチンの床によだれを垂らすところだった。

俺がよだれをポケットから取り出したハンカチで拭きながらまだ重い瞼を必死に開けると、正面に俺をのぞく何かの物体が見えた。


「料理用ロボ……?」


「はい! わたくし、ここの厨房を担当させていただいている”クル”と申します。以後お見知りおきを」


どうやら、マキかヒメが料理用ロボットの命令を俺の停止から上書きしたらしい。

目の前で丸っこくてかわいらしいロボットがくるりと回る。

回るエモーションがあるから、クルなのか?


「ああ、そうなんだ。すまんな、さっきは誤解で停止用コードなんか打ち込んで」


「いえいえ。わたくしが誤解させるような行動をとったのが悪いと、マキ様も申しておりましたので」


マキの名前が出たということは、ロボットを再起動させたのは彼なのだろう。

俺を心配してくれたのかもしれない。


にしても、本当に襲ってこないんだな、と俺はクルと名乗ったロボットのまじまじと見つめる。

留学先で出会った寮の料理用ロボットはかなり手強かった。最初攻撃されたために何度も停止コードを打ち込んだら、俺をブラック認定してきて、フライパンやらバーナーやらを振り回してきてたからな。ロボット三原則はいずこへ、だ。


「イチロー様。そんなに見つめられると量産型でノーマルなボディのロボットとは言え恥ずかしいですよ」


俺が見つめすぎたせいか、目の前で照れたように頭部分をふるクル。いや、なんだかかわいいなコイツ。

今の会話からしてどうやら、ただの料理用ロボットと見せかけて、接客用ロボット並みのAIを積んでいるらしい。

ふむ、俺が料理することを察してコイツをこの性能にしておくとは、さすが会長と社長だ。


「ああ、すまない。こうやって料理用ロボと和やかに会話できるなんてなんだか嬉しくてな」


「まあ、わたくしのお仲間は衛生や料理の質について厳しくプログラミングされていますから、人間がキッチンに入るのを好ましく思っておりませんからね。でも、わたくしは大丈夫ですよ! そのために掃除機能・食品安全性判断カメラまで搭載していただきましたから」


安全・衛生疑っているのはほかのロボットと同じなのね、と俺は苦笑いする。

まあ、かわいい奴だから、許そう。


「で、イチロー様。何をおつくりになるんですか?」


「えーと、そうだな……」


俺はあれこれと、ロボットに作ろうとしているものを説明する。


「なるほど、ふむふむ。料理安全上、そのレシピは問題なさそうです。ただし、粉塵爆発にはお気を付けを!」


「そんな粉まき散らさないって!」


ジョークなのか本物の注意なのかわからないロボットの発言を聞きながら、俺は自分の心が落ち着いていっているのを感じる。

ファーストキスなんてなんだ。ただの粘膜の接触だ、大丈夫だ。

俺は、何も変わっちゃいない。


「さてと、じゃあ、料理開始と行きますか」


俺がそう言いながら立ち上がると、ロボットが近くによって今度は見上げてくる。クルは俺よりも背が低い。


「私もお手伝いしましょうか?」


「いや、今日は俺の手作りを二人に食べてもらいたいんだ」


俺がそういうとクルは嫌な顔一つせずにくるりと回って回答する。


「わかりました! では安全のみ監視するモードに入ります。なにかあればお声がけくださいね」


クルはそう言って、キッチンの端っこにあるロボットの充電スペースへと入っていく。目を形作っていた明かりが消え、目の部分の液晶には安全監視中、の文字が。

見守ってくれてはいるのね、それは安心。


俺は、料理を開始する。


「まずはそうだな……粉を振るうか。粉塵爆発に気を付けながら!」


さてと、この料理で少しは二人と距離が縮まればいいんだか。

あれあんな恐ろしい双子と距離が縮まっていいんだっけ?

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