第22話 長い長い食事
一日なんてあっという間に過ぎる。
特に、このはちゃめちゃな双子を相手にしていればあっという間だ。
そう俺は沈んでいく太陽を見ながら思っている。
どうして片方ずつ過ごすはずの双子を両方相手にしなければならなかったかって?
約束を破ったのか。
いいや、違うね。
マキはちゃんと約束を守ってた。
食べてる間だけ一緒にいるってね。
「マキ、まだ食べ終わらないのですか? 早くリビングから出ていってほしいのですけど」
とっくに自分の朝食は食べ終えて、暇そうにテーブルに肘をつき、その手で顔を支えているヒメ。彼女の目の前には紅茶。
うーん、優雅だけれどちょっとお行儀悪いね。
でもね、しょうがないんだ。
もう俺とヒメが食事を終えてから2時間たっているのだから。
「明らかに時間引きのばそうとしてますよね、マキ」
ヒメが飽きれ口調で言うと、マキはぶんぶんと頭を振る。
「そんなことないって。だってこれ、生の食材を使ってるんだよ。味わって、あとよく噛んで食べないと。イチ兄だってそう思うでしょ?」
「まあ、言ってることは一理あるんだがな」
急に話を振られた俺はしぶしぶ答える。
確かにマキの言う通り、今日の朝食はロボット用のパック詰めされた食材を成型したものではなく、生の野菜や果物、生のベーコンなどをふんだんに使った朝食だった。これを作ったからクルは料理人魂が芽生えたのだろうか、などと俺は懐かしい生の食材の感触を味わいながら料理に舌鼓を打った。
生の食材を使った料理を食べるのは、マキもヒメも初めてのようだったので、二人も最初は興奮しながら食べていた。で、サラダの味のムラに二人とも顔をしかめていた。
「なんで、こっちの葉っぱとこっちの葉っぱの味が違うの! 工業製品として欠陥じゃない?」
「ヒメ。それが本当の野菜というものだ」
「違う食事に切り替えられていったのも納得するね」
あーだこーだと文句やら称賛やらを言いながら楽しみ完食したのだ、クルの作った朝食を。
俺とヒメはな。
だけど明らかにゆっくりペースで食べるマキは、いつまでたっても食べ終わらない。そんなに俺たちと一緒にいたいのか?
ヒメを俺に惚れさせる作戦なら、一緒にご飯は食べたとしてもさっさと二人っきりにしてくれてもいいはずじゃないか。別に俺自身は困ってないけど、いや、待つのはだるいけど。マキの真意がわからない。
俺が悶々と悩んでいると、ついに堪忍袋の緒が切れたのか、ヒメが立ち上がって叫んだ。
「もー、待ってられない! お兄様リビング行きましょ!」
お前は、マキと一緒にいなくていいの——
「ごちそうさまでした」
そしてお前はこのタイミングで食べ終わるんかーい!
内心ツッコミの忙しい俺だったが、二人が立ち上がって移動しようとしているので俺も仕方なく立ち上がる。
「じゃあ、マキ。昼食の時にまたな」
「うん、また次食べるときにね!」
マキはそう言って、リビングとは反対方向にいく。
ふー、これでやっと相手が一人になった。
別にマキが嫌いとかヒメが嫌いとかないけど、二人と話すのは結構疲れる。なにせ、なかなか特徴的な二人なもんで。
「じゃ、リビング行きましょうか」
ヒメが俺に言う。
ふむ、今日はヒメの日だ。従うしかあるまい。
俺とヒメは、リビングに行き、ソファにぽすんと座る。
俺は座ってぼーっとしていたが、ヒメはなんだか隣で少しもじもじしていた。なんだ、あの史上最大の告白をしてまだなにか言うことがあるのか?
俺はいつ言ってくるんだろうと静かにしていたが、一向に彼女が話しかけてこないので彼女のほうを向いて問いかける。
「なにか話すことあるか?」
ヒメが首を振る。
うーん、ないのかぁ。
じゃあ、お昼ご飯までどうしようか。
「なにかするか?」
ヒメはこの問いにも首を振る。
おいおい、これにも何もないってどういうことだよ。
「僕、オセロしたいな!」
部屋に響き渡るは一人の少年の声。
彼は口に棒付きのアイスを咥え、にっと笑っていた。
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